第32話「仁義の読み合い ― 筋の裏切り」
――後半開始。会場の空気はどこか落ち着いていた。
「北野、任侠投げも封じられたしな」
「修学院のデータ通りに終わるだろ」
観客席には、そんな諦めにも似た声が飛び交う。
ピッチに立つ北野の選手たちも、前半のダメージが残っていた。だが、その中で一人だけ、竜司だけは薄く笑っていた。
「いいかテメェら」竜司が煙を吐きながら言う。「読み合いっちゅうのはな、ウソついてナンボだ。筋のためなら騙しも任侠だ! 修学院のデータなんざ、こっちのハッタリでブッ壊してこい!」
選手たちの目に、再び火が灯る。
◇
最初のチャンスは梨花だった。
「今度こそ通す!」と助走を取る。五歩。観客も、そして修学院のDFも「さっきと同じだ」と身構えた。
しかし――梨花は突然、ボールを小さく放り出す。ショートスロー。
虚を突かれた修学院DFは一瞬遅れる。その隙に紗季が抜け出し、クロスを供給。惜しくもゴールにはならなかったが、スタンドがどよめいた。
「データと違う!」修学院ベンチから叫び声が上がる。
乾監督の手が止まった。タブレットに表示された「確率予測」の数値が、現実と乖離していく。
◇
続くプレー。舞はプレスに行くと見せかけ、わざと一歩遅れて下がった。
「抜ける!」と油断した修学院MFがボールを前に出した瞬間、舞が奪い取る。
「よっしゃあ!」舞は即座にカウンターを仕掛け、心愛にスルーパス。
惜しくもシュートは枠を外れたが、確実に修学院のリズムが狂い始めていた。
「動きが……読めない……!」修学院の選手が焦りを口にする。
乾は唇を噛む。「確率……崩れた? 馬鹿げている……だが止められんのか……?」
◇
さらに紗季も仕掛ける。普段なら裏へ飛び出すタイミングで、あえて逆に下がった。
「また抜けるだろ!」とDFが裏を警戒した瞬間、空いたスペースに心愛が走り込む。
「いけー!シマ荒らしてこい!」竜司の叫びが飛ぶ。
心愛がエリア内に突進、強烈なシュート! ゴールキーパーがかろうじて弾く。
観客席は熱狂の渦に包まれていた。
「北野が息を吹き返した!」
「修学院が翻弄されてるぞ!」
◇
そして迎えた終盤。
梨花が再びスローインの体勢を取る。今度は全力助走――かと思いきや、途中でブレーキをかけ、そのまま舞へショートスロー。
舞が一瞬タメを作り、ドリブル開始。修学院のDFは予測不能の動きに対応できない。
「道化になりゃ、筋は通る!」竜司が吠える。
舞が切れ込み、中央へパス。そこに飛び込んだのは心愛だった。
「任侠フィニッシュッ!」
右足一閃。強烈なシュートがゴール右隅に突き刺さる!
ネットが揺れる――同点ゴール!
スコアは1-1。会場が割れんばかりの歓声に包まれる。
「うそ……確率にない動きで……点を取られた……?」修学院の選手たちが愕然とする。
乾は立ち尽くし、タブレットを握りしめたまま呟いた。
「馬鹿げている……筋だの任侠だの……理論の外に……」
◇
同点弾に沸く北野ベンチ。
竜司はタバコを咥え直し、笑みを浮かべる。
「読み合いはウソの張り合いだ、筋を通すためなら、裏切りも任侠。乾……オマエのデータは、こっちのハッタリに勝てん」
舞、梨花、紗季、心愛――全員が拳を握り、さらに闘志を燃やす。
試合は残り時間わずか。
――次の一手で、決着がつく。




