第2話「不良センターバック、参戦」
北野高校女子サッカー部には、深刻な問題があった。
部員が10人しかいない。公式戦は十一人制――このままでは練習試合すらままならない。
「後1人は最低でも増やさんといかん」
昼休み、部室で竜司が腕を組む。
「監督、うち女子サッカー部ですよ? そんなに簡単に人は……」と、マネージャーの美香が苦笑する。
「甘ぇな。こういうのは“人情”と“圧”でどうにかするもんだ」
竜司の目がギラリと光った。
その放課後、竜司は北野町の商店街に現れた。
そこにいたのは、噂の不良少女――村瀬梨花。髪を金に染め、シャツははだけ、足元はローファーを踏んでいる。
中学時代は喧嘩無敗、地元の不良たちの顔役とも言われていた。
「おい、お嬢」
「……誰?」
振り返った梨花が、竜司のスーツ姿と鋭い目つきを見て、眉をひそめる。
「北野高校女子サッカー部の監督だ。お前をスカウトに来た」
「は? サッカー? ダセェ。走り回るとか無理だし」
「フィールドは戦場だ。お前のフィジカルと根性、捨てとくのは惜しい」
梨花は鼻で笑った。
「やるわけねーじゃん。第一群れてやるスポーツとかめんどくせーし」
「ほぉ……じゃあこうしよう。オレと勝負だ」
「勝負?」
「腕相撲だ。負けたら入部しろ」
商店街の八百屋の台を借り、二人は向かい合った。
周りの客と店主が「なんだなんだ?」と集まってくる。
「……へっ、年寄りが喧嘩無敗の私に勝てるわけ……っ!?」
梨花の額に汗がにじむ。竜司の腕は微動だにしない。
次の瞬間、ドンッと彼女の手が台に押し付けられた。
「な……!」
「約束だ。明日から部活に来い」
梨花はしばらく唇を噛んでいたが、やがて「……チッ」と舌打ちし、背を向けた。
翌日。
グラウンドに梨花が現れた。ジャージの裾をまくり、やる気のなさそうな顔だ。
「よろしく、って言う気はねぇけどな」
竜司はニヤリと笑った。
「上等だ。じゃあポジションはセンターバックだ。後ろから全部潰せ」
ミニゲームが始まると、梨花の本領がすぐに発揮された。
相手フォワードに体をぶつけ、ボールごと吹き飛ばす。接触のたびに相手は悲鳴を上げた。
「ちょ、反則だって!」
「サッカーって体当たりするスポーツだろ?」と本気で返す梨花。
その豪快さに、紗季は眉をひそめる。
「監督、あんな荒いプレーじゃカードもらいますよ」
「いいんだ。シマを守るためなら、ギリギリまでやれ」
「……ギリギリってレッドカードじゃないですか」
練習後、紗季はついに梨花に詰め寄った。
「あなた、部活を荒らしに来たの? 真面目にやる気ある?」
「はぁ? 真面目って何? 勝ちゃいいんだろ?」
険悪な空気が漂う。
竜司が間に割って入った。
「やめろ。仲間割れはシマ崩壊の第一歩だ」
「でも――」
「戦場で一番怖ぇのは、内側から崩れることだ。外の敵は一緒に潰せばいい。中で揉めるな」
紗季と梨花は、しぶしぶ視線を逸らした。
その日以来、二人は口数こそ少ないが、練習では妙に息の合ったプレーを見せるようになった。
梨花のフィジカル、紗季の決定力――北野高校女子サッカー部に、初めて「鉄壁」の兆しが生まれた瞬間だった。