17話 新川と2年生最後①
2月7日金曜日の朝、私は考えた。
新川にあげるチョコを━━━。
やはり既存の商品をあげるよりも手作りをつくって
あげる方が想いが伝わりやすいのだろうか。
あれ⋯⋯?
そもそも新川ラインやってないけど、どうやってあげることを伝えようか⋯⋯。
私の学校では食品の持ち込みは禁止なため学校で渡すことはできない。
新川になんて話しかければいいのか、わからなかった。
とりあえず、ネットで簡単に作れるチョコのお菓子を調べた。
━━━━っこれいいな⋯⋯
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この日の帰り、駅に着くと新川がいた。
彼が振り返ると私の鼓動が速まった。
私は知りたい、彼のことを━━━━。
「新川、好きなタイプって何?」
新川が答えを考える時間は2秒もなかっただろう。
「ドラゴンタイプ」
私は突然の出来事に一瞬固まった。
だが、すぐにこのことを理解した。
「ポケモンじゃなくて女子の好きなタイプ笑」
もう後戻りは出来ない。
私は彼のことを見つめてはすぐに目を逸らした。
「んー、難しいこと聞くねぇ〜笑性格が良い子かな」
彼はさっきの回答よりも少し時間をかけて答えた。
「顔じゃないんだ」
私はなぜこの発言をしたのかわからない。
「そもそも顔が良くないと性格見ないから」
彼の発言に私の性格が見られているのか不安になった。
顔は良くない。
だからといって性格が際立って良いわけでは無い。
「新川って好きな子いる?」
この言葉の意味が伝わっていればいいなと思う気持ちと伝わらなければいいのにと思う気持ちが交差する。
「いるよ」
私は今まで落ち着いていた雰囲気を取り乱して聞いた。
「え、誰?」
「妹」
新川は何も辱めもなく自信を持って答えた。
私は笑っていいのかわからず笑顔で聞いた。
「妹って何歳なの?」
「10歳」
「そうなんだ!」
いつも楽しんでいる間に最寄り駅に到着する電車。
このままずっと居たいと何度願っただろうか。
"じゃあね"
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そういえば、新川にバレンタインのことを聞いていなかった。
完全に会話を楽しんだだけであった。
そして、この日は塾があった。
終わりはいつもより遅くなり、辺りは一面街灯や店や家の光だけであった。
それらの光を頼りにコンビニに行って板チョコを買った。
ブラックチョコ×3
ホワイトチョコ×1
値段は地味に高かったが普段買い物をすることはなかったので躊躇はしなかった。
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土曜日の朝5時に起きて1人で作り始めた。
作るレシピは餡子とチョコのブラウニーだ。
私はこの時料理の過酷さを知らなかった。
だから、見出しの"初心者でも簡単に作れる"という根拠も何も無い言葉に引っかかってしまったのだ。
家にはちょうど餡子がたくさんあった。
特にそれを使う予定はなかった。
早速手順通りに容器に材料を混ぜていった。
そして、電子レンジのオーブン機能で20分焼いた。
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20分後、電子レンジの蓋を開いた。
※
キラキラ輝く真っ黄色の卵、餡子、チョコが分離し、濁った透明のプラスチックが少し溶け、色も濃くなっていた。
一応味見をした。
美味しくはない。
これは新川にあげられなあ。
今考えると、これを食べるなんてとても危険な行為だ。
残りは親にバレないように捨てた。
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次の日の朝、私はクッキーを作ろうとした。
昨日よりは簡単なレシピだったはずだった。
━━━だが、成功とは言えない出来栄えだった。
私は本当に料理のセンスがない。
というより、この世界の人間自体を舐めていた。
んー。やはり地味だな⋯⋯。
私は新川がポケモン好きなことを思い出した。
だが、よく見てみると何かがおかしい。
こんなんじゃだめだ⋯⋯
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月曜日になった。
そもそも、新川が何のお菓子が好きなのか、そもそもバレンタインで何か欲しいと思っているのか本人に聞いてみようと思った。
だが、教室で聞けない。
周りには私が新川のことを好いてると知っている人が沢山いるし、知られてなかったら尚更聞きづらい。
授業が始まる朝読書の時間、私は家から持ってきたミステリー小説を読んでいた。
すると、突然齋藤先生の眉間に皺が入った。
「学級文庫に国語辞典3つあったのになくなってるんだけど誰か持ってない?結構前から1冊ずつ消えていったんだけど。」
新川は微動だにせず本を読み続けた。
齋藤先生は新川の席までいき、机の中を覗き、中にあるプリントを取り出した。
すると、プリントに紛れて国語辞典が出てきた。
「ここにあるじゃない」
齋藤先生が国語辞典を持ち上げると、新川は慌てた様子で話した。
「あ━━━、ちょっと俺のだからやめてよ〜〜」
「あなたのじゃないわよほらここに2-3って書いてあるでしょ?」
学級文庫の全ての本に貼ってあるシールにはクラスが書かれている。
「嫌だ嫌だ、勝手に取らないでよ〜」
新川が暴れていると、彼のバックからまたもや国語辞典が飛び出ているのを見つけた。
「ここにもあるじゃない。一体何冊持ってったの?」
新川の行動を怪しんだ齋藤先生は彼のプリント塗れのロッカーも確認した。
やはり国語辞典が入っていた。
私は思い出した。
新川が理科の授業中、よく先生の目を気にせず堂々と国語辞典をずっと使っていること。
新川が朝読書で読むものが無くなった時、国語辞典を読んでいると齋藤先生に取り上げられること。
新川が英語の作文を書く時、国語辞典を机の上に出していること。
彼がどうして国語辞典をそこまで持つのか理解できない未熟者だが、私はこの事を好きで、彼のことをもっと知りたい。
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1時間目の理科が終わり、2時間目の国語の準備をしていた。
すると、突然後ろから
ガタッ
という物音が聞こえた。
後ろを振り向くと花俊の席に星沢と丈稀がいた。
2人の背中で何をしているのかわからなかったので私は少し横にズレた。
そこで私が見たものは2人が机の上で沢山のペンの本体とキャップをバラバラにし、違うもの同士を組み合わせているところだった。
時にそれらを花俊のバックに押し込んでいた。
きっとこれらは花俊の物だろう。
花俊は怯えており、その場から走って去っていった。
私は花俊の席に近づいた。
「なんでそんなことすんの?」
私は星沢と丈稀に声を上げ、バラバラになったものを直していった。
「いや、そんなことする必要ないよ」
丈稀が私の手を振りほどいて言った。
「ククク、ちょっと花俊呼んでくる。これ見せつけてやる」
星沢は頬を吊り上げながら言い、2人は廊下に出て手分けして花俊を探したらしい。
私はその隙に1分もかからず元通りにした。
何故私以外に誰も花俊を助けなかったのか。
私は2年になったばかりのことを思い出した。
この時、ちょうどこの時間だけ花俊はその場に居なかった。
すると、齋藤先生が言った。
「名取花俊さんは学校内にあるすみれという校内の4階の場所で週に1回、出来ないことへのチャレンジをしています。花俊さんは他の人と比べて物事の色々なことに対して向き合うことが苦手です。そして、皆さんは彼にこの時間どういうことをしているのか聞くのは辞めてください。この学校内にいる先生はそのことを知ってますがたまに知らない先生もいるので出席確認の時に聞かれた場合は教えてあげてください。」
私はたまに、花俊がすみれのファイルとプリントを持っているところを見かける。
私もすみれとは名前が違うがスマイルという似たようなのに小学校1年から5年まで週に1回通っていた。
後に親にどうしてそこに通っていたか聞いてみると、精神科の医者に"成長するとグレるから"と言われたらしい。
私の小学校では他のところと比べてみんなおっとりした性格だった。
だが、中学校に入ると周りの雰囲気に呑み込まれ、優しかった人達の心が暗闇にさまよい始めた。
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昼休みの時、佳奈ちゃんにひっそりバレンタインのことを相談した。
「新川、お菓子を食べるイメージないな⋯⋯」
私も給食の時、いつもは牛乳を5本、多い時は10本、ご飯もおかずも何倍もおかわりしている新川でさえ、果物を除いたお菓子をおかわりしているところを見たことがない。
また、佳奈ちゃんは誰にもチョコを渡さないらしい。
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5時間目の美術では木の塊を絵の具やノコギリ、ヤスリなどで好きなように工夫をし、自分の感情を表現するというものだった。
今回の授業がこの作品を制作する最後の授業であった。
私は絵の具で最後の仕上げをすると、美術の先生である野澤先生が声を上げた。
先生は身長が187cmもあり布袋寅泰と身長は同じで迫力がある。
「ちょっとみんな手を止めて席に着いて」
先生が初めて深刻そうに言った。
私はすぐに手を止め、周りも戸惑いながらも静かに自分の席に座った。
「今、たまたまゴミ箱を見たら花俊の筆箱が入っていた」
花俊は何も話さずただ座っていただけだ。
「花俊が自分の筆箱を捨てるはずがない。この中で花俊の筆箱捨てた奴がいるんだよな。
━━━━っ、名乗り出ろよさっさと」
辺りの空気は固まった。
誰も何も話せない空気だ。
「絶対いるだろ?見た人も名乗り出ろ。今すぐここで。ねえ、さっさと名乗り出ないと制作時間どんどんなくなっていくんだけど。」
きっと見た人がいても誰も名乗り出れない。
そんな状況だった。
「もういい。この授業中までに名乗り出ろ。はい、制作続き開始して⋯⋯」
この声を聞いてから1分は誰も立ち上がりも声を発しもしなかった。
その後は1人が立ち上がるとまた1人、そして1人と立ち上がった。
私は筆を水道で洗うため、立ち上がり、たまたま廊下の方を見た。
すると、先生と丈稀が話している姿を見た。
私は筆を洗い、数分で席に戻るとまだ2人が話しているところを見た。
廊下とはいえここからはよく見える位置だった。
先生の顔は険しく怒鳴っている様子だった。
どういうことを示しているか私はこの時にやっと理解した。
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授業が終わり、独りで廊下を歩いているとレアちゃんと真央ちゃんの会話が聞こえた。
「真央、真央、筆箱の犯人ってじょーきっしょ?」
「そうだね。廊下で話してるの見えたし」
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学校が終わり、独りで帰り、電車に乗ると新川と他クラスの男子が乗ってきた。
「もうすぐでバレンタインだな」
知らない男子①がバレンタインのことを話し始めた。
私はバレンタインのことを思い出した。
私は勇気をだして新川の肩を叩いて話しかけた━━━━━。
2年3組編ラスト1話!!
※ 実際の画像をあげようかと思いましたが、これが原因で体調を崩してしまう人もいると思ったのでイラストにしました。ですが、このイラストも不快に感じた場合はメッセージでお知らせ下さい。




