16話 瞬間の彼方
新川と帰ったことが昨日のように感じる。
だが、あれからもう1ヶ月もの月日が経っていた。
そして、あと3日で鎌倉だ。
朝、学校に着いた頃新川は自分の席に居た。
だが、様子がおかしい。
すると、齋藤先生が新川の方へ向かってきた。
「熱あるんじゃないの?」
すると、新川は周囲の耳が張り裂けるような大きな声で言った。
「違う!熱なんかない!」
すぐさま、新川は齋藤先生に職員室前まで連れていかれ、体温を計ったらしい。
ちなみに38℃台らしい。
そして、新川は1時間目が始まる前に早退をした。
仮に彼が今流行のインフルエンザだった場合、鎌倉には行けない。
とは言っても私達は違う班。
鎌倉で出会うことなんてそうそう無い。
この日は誰か友達と帰ろうと思ったが、真央ちゃとレアちゃんと酒井と学蒼と丈稀で帰るところを見た。
私はこれだけ大人数で帰るなら独りで帰った方がマシだ。
人の波に飲まれるたび、息苦しさが増していく。
狭くて、うるさくて、言葉もうまく出てこない。
押し寄せる喧騒に圧倒され、胸の奥がざわつく。
ただひたすらに、この場から逃げ出したくなる。
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家に着き、夜ご飯まで勉強をした。
そして、夜ご飯を食べる数分前にスマホを見る。
これが私の日課となっている。
そして、レアちゃんからラインが来ていた。
ねね
私と涼太の関係めっちゃ広まってるらしいw
榎本
あのねー
伊東、那須、は絶対言わないって約束してくれたんだよねー
でもあの◯ソ榎本がいいフラしてるっぽくてぇ
部活の人とか涼太と仲良い人とか
だからモテないんだよー知れば知るほど
キモさを感じますね
私は返信した。
うわだ、榎本
昔から変わんねえなテメェは
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結局、新川はインフルエンザで鎌倉には行けなかった。
そういえば、2年の最初の頃にあった宿泊も新川は休んでいたな、と密かに思い出した。
こうして、迎えた鎌倉校外学習。
クラスでは不登校を除いて7人休んでいたが、私の班は誰1人として休んでいなかった。
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東京駅に集合し、班ごとに分かれて電車に乗る。
窓の外を眺めながら、ふと「もし新川が来ていたら」と考えてしまった。
そもそも、別の班だから会うことはほとんどなかっただろうが、遠くで見かけるくらいはあったかもしれない。
電車の揺れに身を任せながら、班員としりとりをして時間を潰した。
そんなことをしているうちに鎌倉に到着した。
最初の目的地は東大寺の大仏だった。
私も班員も特に興味はなかったため、盛り上がらなかった。
次のところも特に盛り上がることなく、昼食の時間になり予定通りカレー屋に行った。
観光地らしく店内は賑わっていたが、思ったよりもスムーズに座れた。
スパイスの香りが漂い、食欲をそそる。
私は今まで食べたことない豆カレーを選び、食べた。
一口食べた瞬間、ピリッとした辛さが舌を刺激したがとても美味しかった。
完食をし、次の目的地へと向かう。
その後、神社に着いた。
砂利道を歩きながら、木々の間から差し込む光に目を細める。
鎌倉らしい静かで落ち着いた雰囲気が心地よかった。
しかし、その穏やかな時間は長くは続かなかった。
「――っ!」
階段を降りる途中、私は足を滑らせた。
瞬間的に手すりに掴まったが、足首を強くひねる感覚があった。
痛みがじわじわと広がり、思わず顔をしかめた。
「大丈夫!?」
蒼ちゃんが最初に気づき、班のメンバーが駆け寄ってくる。
とりあえず立ち上がろうとするも、足に力を入れると鋭い痛みが走った。
これは無理だ。
先生が呼ばれ、結局、私は班の活動から離れ、先生と共に駅へ向かうことになった。
鎌倉の街並みをゆっくりと歩く。
観光客が行き交い、楽しげな声が響いていた。
せっかくの校外学習なのに、こんな形で終わってしまうのかと思うと、なんとも言えない気持ちになった。
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私は特に何もなかった日のことは覚えていない。
次に覚えていることはバレンタインでの出来事だ。
月日がそよ風のようにゆっくりと印象的に流れる日よりも強風のように覚えていないほど速く流れる日の方が多い。
いつの間にかこんなにも日が経っていたのか⋯⋯。
私はそう思いながら今日も学校に通っている。




