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14話 地味な転校生

レアちゃんからラインが来てから彼女は1週間ほど学校に来ていない。

朝早いが太陽の光はいつもより眩しい。

こういう憂鬱な日は曇りや雨の方が良い。

真央ちゃん曰くインフルエンザで休んでいるらしいが私は彼女のことが心配だ。

清水は彼女の家庭状況を知っているのだろうか。

きっと、

清水には迷惑をかけたくないから言わない

と思っていそう。



---



教室の扉が激しく開き、少しずつ、1人またひとりと現れた。

すると、新川が教室に1つ机と椅子が増えていることに気がついた。


「転校生じゃね??!」


さらに教室が賑やかになった。



---



齋藤先生がいつも通り、教室に入ってきた。

いつも通りの足の動き、いつも通りの喋り方だ。


「はい今日から転校生が来ます。入ってきてください。」


教室の扉が静かに開いた。

大人しく背の小さな男の子が入ってきた。


森若学蒼もりわかがくあです。よろしくお願いします⋯⋯」


齋藤先生は、まるで周囲の空気を一変させるかのように、彼の雰囲気よりもはるかに大きな声で、圧力を感じさせる調子で言葉を発した。

その声が教室の隅々まで届き、誰もがその威圧感に気圧されるような気がした。


「これで3組は37人となりました。

森若さんの席はここです。

⋯⋯今日はインフルエンザで休んでいる人が多いので窓を10cmほど開けて換気をしましょう」


彼の自己紹介が呆気なく終わった。



---



家に帰り、レアちゃんに転校生の男子のこと、休んでいる理由のことをラインで聞いた。

だが、この日中には返信が来なかった。

空は灰色に染まり、静かな雨の気配が漂っていた。

カーテンの隙間からは時折、薄明かりが漏れ出してはすぐに消えた。

空気はひんやりとして、秋を感じた。



---



次の日、目を覚ましてカーテンを開けると昨日のような空模様だった。

午後から雨が降るそうだ。

学校に行く時、傘を蹴りながら1歩ずつゆっくりと歩いた。


電車ではいつもより人が多く、息苦しかった。



---



教室に着くと、珍しく館林しか来てなかった。


次に教室にきたのは、花俊。

5分後だ。


最終的に時間までに学校に来たのは13人。

新川は来ていた。


齋藤先生が教室に入ってくると、今休んでいる人のほとんどがインフルエンザの場合、2年3組は学級閉鎖になると伝えた。

今日は水曜日だ。

学級閉鎖になると、来週の月曜日まで学校に来ては行けない。

つまり、その期間は唯一の生きがいである新川に会えないということである。


ここしばらく、新川とは同じ空間にいながらも、言葉を交わす機会がないままだった。

だが、私は新川のことをじっと見つめていた。

見ているだけで幸せ。

たった1人、新川という特別な存在がいるだけで、私の世界は鮮やかに色づいていく。



---



3時間目の終わりが近づくころ、不意に教室の扉が開き、齋藤先生が静かに足を踏み入れた。


「3組の皆さん、学級閉鎖です。給食食べ終わったら速やかに下校。」


喜んでいる人もいれば、まるで興味がないように無表情のままの人もいた。



---



下校時、新川は何故か学年主任の内田先生に連れてかれていたので一緒に帰ろうと誘うことも何もできなかった。


このまま何もできないまま終わるのか⋯⋯



---



私は新川のことを思い出した。

職場体験の前の週に新川に恋に落ちたこと。

職場体験の1日目に一緒に電車で帰っている時、知らないおじさんに会い、麻雀の話をしたこと。


私は少し、麻雀のことを学ぼうと思った。


リーチとは、麻雀であと1枚そろえば上がれる状態のこと。

手元の14枚の牌を決まった形にそろえること。

その形とは、同じ絵柄の牌を3枚

そろえたセット〇〇〇

数字が並んだ3枚のセット①②③

この2種類のセットを4組つくり、さらに同じ牌を2枚そろえたものを1組つくる。


覚えたばかりの知識を試すように、ネット対戦の世界へと足を踏み入れた。


この日は1時間ほど麻雀をした。

思っていた以上に楽しかった。

新川と麻雀をしたい。

よりそう思えるようになった。



---



次の週の帰り、夕焼けに染まる道を歩く。

風が頬を撫で、遠くから聞こえる男子達の笑い声が聞こえる。

遠くでは大きな木に隠れて見えなかったが、歩みを進めるうちに、信号待ちをする新川の姿がふと目に飛び込んできた。


「新川っ!」


「ん?」


新川は振り向いた。

彼は野球部でもないのに素振りをしていた。


「私、学級閉鎖の時麻雀のリーチは覚えたんだよね!笑」


新川は驚きと笑みが交差したような表情を浮かべていた。


「やっぱり麻雀って面白いよなぁ笑」


駅に着くまで、私たちの会話は途切れることなく続いた。

麻雀の戦術やアニメの話で笑い合い、時間があっという間に過ぎていった。

私はまるで世界が二人だけのものになったような気がした。

もっと一緒に話していたい。

一緒にいたい。

くっつきたい。

新川への愛情がどんどん膨らんでゆく。



---



翌日、レアちゃんが久しぶりに登校すると、教室は一気に明るくなった。

クラスメイトたちは次々と声をかけ、歓迎するような温かい言葉が彼女のもとへと飛び交っていた。

もちろん、皆は彼女の家庭状況を知らない。


そして、レアちゃんは私に互いに2人きりの時は名前呼びになったこと、そして今日はそれが周りに気づかれないよう、真央ちゃんと清水を交えた三人で一緒に帰るつもりということを小声でひっそり教えてくれた。


私は、新川に「一緒に帰ろう」と伝えることを、静かに心に決めた。


「新川、今日一緒に帰ろ?」


すると、新川はこちらを見つめた。


「すまん、今日は赤城と帰る約束してるから」


「わかった!」


私は小さく頷きながら言った。



---



この日、私は独りで帰った。

家に着き、しばらく勉強をした後、スマホを開いた。

すると、レアちゃんからラインの通知が16件来ていることに気がついた。


私は焦る指で画面をなぞり、急いでラインを開いた。



今日さ

真央と涼太と帰ってるとこ見られたの

よりによって榎本と伊東達に

ちょうどその時涼が私の肩に手置いてたの

だから言い逃れできないような状態で

真央がそいつらに気付いて逃げたんだけどね、

榎本が足速すぎて無理やった

それで三角関係!?!?って聞かれて

涼太が話した全部?

伊東と他クラスの男子(名前知らんけど悪い人ではなさそう)はお互い秘密を言い合って口封じしたんだってけど榎本がそのまま俺帰る!

って帰っちゃって

誰に話そっかな〜

とか言ってて

⋯⋯おわた

இ௰இ`。



私はレアちゃんに返信を送った。

じっくり考えたうえで選んだ言葉だった。



うわあああ

⋯⋯榎本かぁ

あの人はキツイなぁ



一瞬で既読がつき、返信が来た。



榎本のやばさ知ってんの?

まあ同じクラスだけど



小学校同じだから笑

しかも1、2、6年の時同じクラスだった



思ったより多いな笑笑



まあこの人達にバレたことですこーーーーーーーーーーしは真央ちゃんレアちゃん清水で帰るメンタルてきなものがついたと思うし、仮に色んな人にもバレたらみんなの前でも堂々と話せるし

メリットもデメリットもあるね



静かな部屋に、一人きり。

スマホの画面を見つめながら、小さく息を吐く。

学校では誰の目があるかわからない。

気を抜けば、些細な仕草や言葉から広まってしまうかもしれない——そんな思いが、じわりと胸を締めつけた。

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