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10話 新川と約束

いつもよりもほんの少しだけ、窓から差し込む光が多い朝。

教室中の皆がさらに睡魔に襲われるほどの暖かなエネルギー。

担任の齋藤先生が影のように静かに教室に入り、誰も気づかないうちにその場に現れていた。


「今日の5、6時間目に職場体験先への手紙を書きます。まずは練習用の紙にシャーペンで良いので原稿を書いて本番の手紙はボールペンで一発書きをしてください。書き終わったら先生のところに持ってきてくださいね?字が汚かったり、間違えたりしたら最初から書き直しをしないといけないので。あと、本番の手紙は限りがあるのでなるべく間違えないようにしてくださいね?」


私は職場体験のことを思い出した。

舞台に上がれたこと や新川のこととか新川のこととか⋯⋯

私は新川のことが好きすぎると改めて思った。

小さな心の中でしか世界を味わえなかったあの頃とは違う。

1人の大人になった気分の私がヤンチャに走り舞う少年を追う。

これほど心が震える瞬間は、一度もなかった。



---



昼休みになり、レアちゃんが話しかけてきた。

「杏ちゃん、杏ちゃん、今日、新川を一緒に帰ろうって声をかけたら?」


私は思わず言葉を失い、一瞬時間が止まったかのように教室全体が静寂に包まれた気がする。

そして、私はどう返事をしていいのか分からず、頭の中が真っ白になる。


「いや⋯さすがにそんな勇気はないかな⋯⋯⋯⋯」


すると、レアちゃんがなにかを企んでいるような奇妙な笑顔で言った。


「じゃあ、私が杏ちゃんが新川と帰りたいって言ってたって言うね!」


私は微笑した。


そして、私は教室内を見渡し、新川を探し始めた。

視線だけで足を動かさずに。


あっ⋯⋯


新川を見つけた。

彼は天宮と赤木と伊東、那須の5人と話しており、そこら一体だけが笑い声が絶え間なく響いていた。

そして、レアちゃんは私の視線を見て新川を見た。

彼女はすぐに新川の方へ駆け寄った。

私は不吉な予感がしたので彼女の後ろをこっそりついていった。

すると、レアちゃんが新川に声をかけた。


「新川、杏ちゃんが今日新川と一緒に帰りたいって言ってたから待ってたあげな!」


私はその瞬間、全身に迷いが広がった。


「え?それってデートじゃん」


近くにいた伊東が皮肉混じりに、冷ややかな笑みを浮かべた。

そうして、すぐに新川はその場を逃げるかのように去っていった。



---



5時間目になり、職場体験先への手紙は書き始めた。

が、6時間目の終わりになっても書き終えることはできなかった。

私は自分の感情や思っていることを言葉で表現することが苦手だ。


ところで、居残りのメンバーは、私と佳奈ちゃん、レアちゃん、新川、あとは誰が居たか覚えていないが大体10人は居た。

どんどん人が抜けてくる中、佳奈ちゃんが私の耳で静かに話しかけてきた。


「新川は今、3分の1くらい書き終わってるよ。半分超えたら教えるからゆっくり書きな!」


私も今、3分の1書き終わっている。


新川と一緒に帰る時、何を話そう⋯⋯。

告白をするべきか⋯⋯。

せっかく2人きりで帰れるのだから告白をすべきだ。

なんと伝えればいいのか。


私の心が掻き乱されている。

心に突っかかるモノがある。

告白をして、振られた後に失われる思い出。

もう新川と話せない哀しみ。


そんなことを考えながら私はゆっくりとペンを動かした。


それから間もなく、佳奈ちゃんが軽く私の肩に手を置き、にっこりと微笑みながら指でグッドサインを示した。


今までゆっくりとしたペンの軌跡が、次第に加速し、何かに急かされるよう紙の上を滑り始めた。


新川に先に帰られては困る。

そんなことは絶対に許されない。

脳裏にその思いを焼き付け、全神経を集中させた。


私は書き終わり、先生に見てもらった。

すると、新川も書き終わり、私の後ろに並んだ。

私は問題なく、提出できた。

教室で新川のチェックが終わるまで待つと不審がられると思ったので、1階の玄関で待つことにした。

私は期待と不安が交差する中、階段を1段ずつ降りていった。

私達2年3組の教室は3階。

いつもは一瞬のように感じる道のりが今日は長く、1つひとつの足音が重く響いた。


私は玄関に着き、ゆっくりと靴を履いた。

現在の時刻は15時57分。

いつもなら、もう家に着いている時間だろうか⋯⋯。

新川の下駄箱を確認した。

もちろん、外履きが入っており今も尚先生にチェックされている。あるいは、こちらに向かっているであろう。

だが、16時2分。

未だに新川が来ない。

誰か先生に見つかると理由を問い詰められそうで怖かった。

そして、私は玄関を出て、ゆっくり歩き、駅まで向かうことにした。

そうすれば、新川と会えるだろう。

そう思っていた。


いつもは6、7分で着く駅を15分もかけて歩いたのにも関わらず、新川は現れなかった。

私は、そのまま独りで電車に乗り、最寄り駅で降りた。



---



16時45分、家に到着。


「遅いじゃない?」


母親に玄関で尋ねられた。


「職場体験先の手紙の居残りだった」


それだけ伝え、私は自分の部屋に入り、テスト勉強をした。

部屋はいつもよりもひんやりと沈黙に包まれ、薄暗い空気が漂い、光が控えめに入っていた。


そろそろ夜ご飯の時間だったのでスマホを開いた。

すると、レアちゃんと佳奈ちゃんからラインが来ていた。

私はレアちゃんの方を先に開いた。



おぃぃぃぃぃ!

気長に待っときゃ新川来たのに!

新川が終わったーって言った後全然終わってなくてずっとやってたよ

それで杏ちゃん下で待ってるはずだからと思って新川が終わってないこと伝えに行こうとしたら杏 ちゃんいないんだもんT^T

どこで待ってた?

玄関だよね……?

え、いなかったよ……?

ちなみに私は16時15分頃に終わったけどその時もまだ新川終わってなかったよ。



私はスッキリしたような新たな心の詰まりが発生したような感じがした。

レアちゃんには



5分くらい玄関で待ってたけど全然来なかったから先にゆっくり帰っちゃった⋯⋯



と伝え、次は佳奈ちゃんのラインを見た。



新川全然終わらなくて一緒に帰れなかったよね⋯⋯

明日新川が杏ちゃんに謝らなかったら私に言って!

次こそは新川と一緒に帰れるように作戦を練ろう(✧д✧)



私は良い友達を持ったと思い、涙ぐんでいた。



ありがと笑



そう伝え、私は静かにスマートフォンの画面を暗くし、手のひらでそっと閉じた。

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