十 あなた誰ですか?
ムンレスの夢を見るようになってからなのか、最近、僕は就寝中に中途覚醒することが多くなっていた。
いや、本当はこれまでも深夜に目覚めること自体、多かったのかもしれないが、ムンレスの夢を見るようになってから、妙な癖が付いてしまったのだと思う。夢から目覚める時、現実かムンレス世界のどちらで起きるのかが分かんなくて、どうしても確認の為に瞼を開けて周囲を確認せざるを得なくなってしまった。だから微睡みの中で部屋の中にいることを確認して、再入眠するということが多くなった。目を開けるのが面倒な時は顔を触る。それで自分の鼻に触れて、人間の鼻であれば僕だと分かった。
ただその確認の仕方があまりよくなかったのかもしれない。今回も中途覚醒して、目を瞑ったまま鼻を触ると、ちゃんと人間の鼻だったんだ。
それなのに、鼻を触ってから、布団の上に手を戻した時に草の感触がした。
部屋じゃなかった。
洞窟でもない。
ただ壊された女神像だけがあるから、ムンレスの中だ。だけど、なんか前よりも現実味が増している気がする。なぜだ。
身体を動かしてすぐ自分の手が、自分の手のままであることに気付いた。
つまりケルベロスの青いフサフサの毛ではなく、人間の手のままだった。ケルベロスの姿でないことがとても無防備に感じられてならない。だからこうも現実感が増している気がするんだ。
でもどうして人の姿に? 前回の影響だろうか。いや、入眠前からハッパの謎を暴こうとする意識が強かったせいかもしれない。無地の麻シャツに茶系ズボンという格好で、既に村人っぽい服装だった。
僕はもうケルベロスにはなれないのだろうか。ねぇ、君たちに会いたいよ、コペルニクス。どうして僕は人間なんだろう。
周囲には見慣れた白い家屋があるので、村だということは分かった。
そうか、前回は村で女神像を壊した。それで今回は村からの登場ということで、やはり女神像を壊すことがゲーム同様、夢の中でもセーブとして機能しているのは確かなようだ。
周囲にはケルベロスも誰もいないので、状況を確かめようと起き上がって適当に散策を試みる。もちろん家々に火はついていないので、既に村が襲われているということはない。
姉ちゃんの言う通り本当に村が襲われるのなら、まだ間に合うということだ。
近くの家の脇から顔を覗かせると、五歳くらいの子どもたちが追いかけっこをしているのが目に入る。その奥で立ち話をしているおばさんたちもいる。僕が目に入っても、特に不審がる様子はなかった。たぶん村人の一員になっているはずだ。
と、その時、大きな怒鳴り声がした。
「壊れてるじゃないか! 誰だ、こんな罰当たりなことをする奴は」
「お、おれじゃねぇよ!」
そう否定するのはオニクだった。髭もじゃの小太りながら体格のいいおじさんが壊れた女神像の前に立っていた。おそらくオニクとミロの父親だろう。
「まだお前が壊したとは言ってない。プラスター持ってくるから、お前が直せ」
「何でおれなんだよ」
「昨晩おそくまでほっつき歩いてた罰だ。まったく、いつまでも母さんを困らせやがって」
オニクのせいにされているのは申し訳ないけど、僕は名乗りでなかった。仕方ないよね、オニクは前に僕に切り掛かってきたんだし、これでおあいこということで。ごめんだけど。
「おれだけじゃねぇだろ」
「づべこべ言うな、お前がミロを連れって行ったんだろ。逃げんなよ。今から持って来るから」
「わーったよ」
そう答えるとオニクはキョロキョロとしだした。ミロ達を探しているんだろう。僕を見て、訝しげに目を細めたが、すぐに離れて行く。
と、すれ違うように今度はハッパとミロが反対から来た。
……ハッパだ。この子に確かめないといけない。こいつが黒か白かを確かめなければ。
二人はさっきの怒声が聞こえたようだった。
「今来ちゃだめだ。手伝わされるよ」と二人に教える。
「どうしたの?」とミロが僕に尋ねる。平然と尋ねてくるのは、皆の中で僕が村人となっているのだろう。
「村の女神像が破壊されたみたい。それで修理するんだって」
「じゃあ、手伝うよ」と横切ろうとするハッパの腕を掴む。
「あ、ハッパちょっといいかな、聞きたいことがあるんだ」
「……あなた誰ですか?」
と怪訝な表情で言う。
あれ? 村の一員になってないのか。でも、話しかけたし、ここは勢いで押すしかない。
「まぁ、いいから。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
ハッパをどこかへ連れて行こうとする僕をミロも不安気に見つめていた。
「大丈夫、僕は遠い親戚筋なんだ。み、皆大きくなったね。僕が見た時は、こーんな、膝丈くらいだったのに。それよりミロ君、あっちでお兄さんが呼んでたよ」
「兄ちゃんが?」
僕は陽キャ風を装い、慣れない笑顔で出来るだけ明るく言った。たぶん笑顔で子どもに話しかけたのは初めてだったけど、何か目的があると余計なことを考えないからか、割と気安く声をかけやすかった。少しつっかえたけど。
ミロは元気に駆けて行った。
僕はハッパの背中を押しながら、今見たばかりのミロの後ろ姿を脳裏に思い出し、再度、振り返って二度見した。
そういえば、あの像の奥は、ミロたちが隠れる場所だ。
兄の言っていた村が襲われるシーンはこの後なんじゃないのか。
でも、まだ鐘は慣らされていない。鐘の近くの小屋では、おばさんが洗濯物を干していて、外に出した椅子に座ったおじさんがパイプを燻らせながら、おばさんに何か話しかけて笑っていた。あの、おじさんとおばさんのどちらかが、今から狂ったように鐘が鳴らすのかもしれない。
ハッパがどちらの味方なのかは分からない。
もし本当に村が襲われるのなら、その前に何かの対応策を打つべきだ。これから一体どうやって村が襲われるのか。
ハッパは相変わらず、全体的に汚れた格好だった。近くで見るからか、今回は一段と汚い気がする。髪はボサボサだったし、服の首元は伸び切ってよれている。
「ちょっと話せる?」
ひと気のない方へうながすも、ハッパはその場から動かない。僕が何者なのか、どうすべきかを考えているようだった。
「ちょっとでいいんだ。あ、でも君の話が聞きたいだけだから、どれくらいで終わるかは君次第だと思う。君からの話を聞きたいだけだから」
明らかに怪しむ視線を向けられているのだが、怪しまれても仕方なかった。
「……君の秘密を知っている」
あえて僕がそう言うとハッパの顔色がさっと変わるのが分かった。一瞬口を大きく開きかけたまま固まっていたが、彼はすぐに気を取り直して、
「あなた、誰?」と少しつっけんどんな口調で尋ねてきた。気おじしないぞという意思の現れなのか、鼻の下を乱暴に袖で拭ったが、裾が汚れていたらしく、なぜか鼻の下じゃなくて、頬に墨のような汚れが付いていた。
「……こっちに来て」
躊躇いながらもハッパの方から先に歩き出した。やはり思い当たる節はあるのだ。
崖沿いにある稲藁や薪の積まれた納屋の影辺りで話を聞くつもりだったがハッパはそこを通り過ぎて、すぐ隣に後から増設されたトイレのような木戸を開けた。
「ここは誰も出入りしません」
中をのぞくと、トイレでも何でもなく単にこちらが納屋に繋がった本命のドアだったようだった。納屋に見えたスペースは狭い造りなのかもしれない。砂埃で汚れてはいるが窓もしっかりあった。窓の側には梯子が立てかけてあって、丸めた筵が床の端に置いてあるだけだ。その他には家具も何もない六畳ほどの空き小屋だった。物置か何かに使われていたのだろう。
窓から入る光しかないが暗すぎるということもない。少し空気が湿気っているだけだ。
僕が入ると、ハッパは入口のドアを開けたまま、ドア枠に背を預けて腕を組んだ。
「それで……どういうことですか?」
ハッパはやや俯き加減で訝しんだような目をして言った。敬語にはなっていたが、強気な姿勢でむしろ何を聞かれても誤魔化そうと身構えているようにも見える。
おそらく村が襲われるには、ハッパが関係している。もし魔物が来るのなら、それまでにどれくらい猶予があるのかも分からないので、早々に話を切り出した。
「以前、君はオニクとミロの三人で洞窟まで結雪の剣を取りに行ったね」
ハッパは答えない。彼は片足を外に出していて、今にも逃げだす恐れがあった。いや、逃げ出すんじゃなくて、どこかから魔物を呼んで来るのかもしれない。でも僕は距離を詰めなかった。狭い小屋で何者か分からない人間が一方的に迫れば身を固くさせるだけだ。出来るだけハッパの警戒を解くために壁際に寄った。
「……何で、あなたがそんなこと知ってるの?」
冷静を装いながらも動揺が隠しきれていない。僕はさりげなく窓の外に誰もいないかを確認した。
「そもそも何で取りに行ったんだ」
「何でって、魔物に奪われたからだよ。あの剣は祭祀儀礼の神器で、今年は僕が巫子でしょ。だから一番に気付いただけだよ」
思いの外まっとうな理由を言ってきた。結雪の剣はもともと村の物だということか。
ただハッパが言っている祭祀という言葉の意味がよく分からなかった。祭りのようなものだろか。そんな言葉ゲームでは出てこなかった。
「祭祀ってお祭りのことだよね? 巫子っていうのは何をするの?」
ハッパは二、三の瞬きをすると、部屋の何もない右辺りのスペースを見ながら、どういうこと? という感じで顔を前へ突き出し、眉間に皺を寄せた。
「あなた……村の人じゃないよね、やっぱり。村の人なら知ってるから」
そうか、ハッパには僕の正体が判然としないままなのか。けど、急に現れた僕に対して、ハッパを含め村人たちは『誰だ』とはならなかった。見たことない人間だったら、気付かれたり、何らかの反応があるはずだし。何となく存在感の薄い人物像として認識されているという感覚なのだろうか。そういった都合の良い所は夢らしさがあった。
まぁ、とにかく今は僕の正体のことは伏せて話を進めるべきだ。僕とハッパは互いに騙し合いながら相手の真意を掬い取ろうとしていた。
洞窟に向かった理由の方から責められないなら、ストレートに尋ねるしかない。
「これから君は村を襲わせようとしているんじゃないの?」
ハッパはそれまでも怪訝な顔だったが、首を傾げながら、さらに眉間に皺を寄せた。
「村を? 僕が? 何でそうなるの? そんな訳ないでしょ、自分の村なのに」
「じゃあ剣を奪えば魔物たちが怒るとか考えなかったの?」
魔物が村にやってくるのは、ハッパたちが剣を取り返したからとも考えられた。それを利用してハッパは魔物を誘った、とか。
「でもあれは元々村の物だし、だから取り返しただけです」
話の躱わし方が上手いのか分からないが、ハッパは自分が襲わせる訳がないという論を突き通すようだった。
実際に今の段階では魔物が来ていないんだから、起こってないことを責められない。
しかし言葉は繕えても、彼の場合、内面がモロに出やすいようで、何かを隠していると僕は直感した。敬語になるのも僕を欺こうとしているように聞こえる。
「嘘をつこうとして焦ってるんでしょ?」
「焦ってません! だ、だいたいどうして僕が村を襲わせる必要があるんです!」
ハッパは早口になって、吃りを勢いで誤魔化そうと必死になっていた。
「いや、それが分かんないというか」
「こっちの方が分かりません!」
言動と過剰な反応が釣り合っていない。
嘘をついているのは分かるのだが、どこを突けばいいんだろう。
ハッパは今にも話を打ち切って、逃げ出しそうに思えた。
罪悪感のようなものが表情に出ていたり、虚勢が声に混じったりしていて、僕としてはこのまま話を終わらせる訳にはいかない。どうしても納得しきらない部分がある。何が釈然としないのか。
というか、違うな。僕の方がまとまっていないんだ。
そもそも僕が彼に違和感を覚えたのは何だったか。
えっと、他に怪しかった点。最初に疑問をもったのは確か、そうだ。
「ネックレスだ。濁り水晶のネックレス。ハッパはネックレスの存在を知っていたでしょ」
「ネックレス……?」
初めて僕がムンレスの世界に来て、イタズラでネックレスを取っていた時、ハッパは「キミが持っていたのか」なんて言っていた。その台詞が意図するのは石化を防ぐネックレスの存在を知っていたし、探していたということだ。つまりメデューサが来ることを知っていたからなんじゃないのか。
言い訳はさせない。
「知らなかったとは言わせないの。だって僕は確かに『キミが持っていたのか』って台詞を聞いたからね。キミはネックレスに石化を防ぐ効果があることを知っていて、さらにメデューサが後から来ることも分かっていたんだ。身を挺してミロを守った点は確かに勇敢だったと思うよ。だけどそれが仇となったね」
「何、言ってるんですか?」
まだ言い逃れするつもりか。それなら何度でも言ってやる。
「キミが持っていたのか、そう言ったでしょ。いや、言ったんだ。何でそんな言葉が出てきた。答えてもらおう」
「何のことを言ってるのか分かんないですけど。僕が、あなたに『キミがネックレスを持っていたのか』って言ったっていうことですか?」
「そうだよ、だって僕は確かにこの耳で……え、あれ? ち、」
違ーう! この耳じゃなかったー!
そうだ、あの台詞を言われたのは僕がケルベロスの時だったんだ。
「ぼ、僕にじゃないよ。ケルベロスにだよ。言ったでしょ? 僕はあの時、傍にいたんだ。だから——」
「言ってませんけど。というか、さっきから何の話をしているんですか? あなたの言っていることが何一つとして分からないんです」
言った言わない論争に持ち込む気か。ちょっと、それはいただけないね。だって言ってたじゃんか
「それにさっき、何て言いました? メデューサがどうとか、ミロを守ったとか」
「だってメデューサが来た時に、ミロに言ってたでしょ。あと、『村の皆に知らせろ!』みたいなことも言ってた。その後にキミは何か変なモデル立ちみたいなポーズで石化してメデューサに連れて行か……」
そっか、この子は連れて行かれてないんだ。
石化もしてない。というか石化されてたらここにいないんだ。あれは一回目の時か。リセットされているからこのハッパには覚えがないのは当然だ。
一回目と二回目の夢の記憶と元のゲームのストーリーもあって、すごくややこしいし。
あれ、じゃあ、過去の発言を突けないってことじゃない? ここにいるミロの世界線で話を進めないといけないってことか。
前回の夢を思い出せばいい。このミロはメデューサにも会っていないんだ。僕が一撃で倒したから。僕がというかコペルニクスだけど。ネックレスは? ハッパがネックレスをミロに付けたのは確かだ。
「あ、ね、ネックレスのことは知ってるよね? ミロに付けてたでしょ?」
「逆に何でそのことを知っているんですか?」
「う……」
僕もその場にいたとは言えない。
そうだよな。僕がいないのに知っているのは確かにおかしいけど。え、どーしよ。なんて答えたらいいんだろう。
「さっきから聞いてるのにどうして答えてくれないんですか? だいたいあなた何者なんですか? 遠い親戚とか言って、あれも明らかに嘘だし」
ハッパの方から責められてる。ハッパに探りを入れることしか頭になかった。
……失敗した。
え、やり直したいんですけど。もっかいリセットしてからハッパに話しかけたい。
「村人のことはもちろんよく知っています。あなたが村人だってことも。だけど……なぜかあなたのことがよく分からないんです。村人なら祭祀のことを知っているはずなのに、知らないし」
……な、なんだよ、これ、どう返せばいいんだ! ていうか、なんで僕が責められないとダメなんですか、しかもこんな年下の子にさぁ! さっきの探偵気分を返せ!
ハッパは猜疑心満々でこちらを睨んでいたが、僕に対する怪しさからドア枠に預けていた背中を起こして、ついに外へと出て行ってしまった。
「え! ちょ、ちょっと待ってよ!」
慌てて追いかける。
「待って、ハッパ! でも君だって何か隠しているんでしょ? 何を知ってるの? 何もやましいことがないなら本当のことを教えてよ」
ハッパは振り返るも僕を見返すだけで何も答えなかった。
僕らは互いにしばらく目を合わせていた。
ハッパが警戒するのは仕方のないことだった。僕にも隠し事があるのに、ハッパにだけそれを尋ねることはおかしいもんな。
やがて、ハッパは背を向け、去ろうと歩みだした。
「ご、ごめん、僕が悪かった。謝るよ。確かに僕は怪しいと思う。言えないこともある。でも君にも何かあるんでしょ?」
ハッパの背が止まる。
そう、この子だって、何かを隠しているんだ。何なんだ、何を隠しているんだ。
「僕は確かにこの村の人じゃない。でも、このままじゃ、ダメなんだ。村が襲われるかもしれないんだ。皆が死んじゃうから、だから君から話を聞きたいんだ」
背中からでも彼が息を呑んだのが分かった。
「……皆が?」
こちらを確かめるハッパ。
僕が頷くと、ハッパはなぜか僕の顔を覗くようにじっと凝視した。僕もその汚れた顔を見返していると、途中で何かに気付いたように彼が、なぜか驚きの表情へとみるみる内に変わった。
そして言った。
「あなた……まさか、ダイシンセイ様?」
意味が分からなかった。初めて聞く単語だ。
ダイシンセイ?
何だ、それは。
「そうだよ」
きっぱりと即答した。
するとハッパは即座に踵を返し、再び小屋の中に戻る。ハッパは僕も中に入るのを待つとドアを閉め、こちらに向き直った。
「いつ? いつ襲われるの?」
「いや、君が襲わせるのかと思っていた」
ハッパは立ったまま地面を見下ろして、諦めたように力なく呟いた。
「……ようやくあなたの行動の意味が分かりました」
誰なんだろう、ダイシンセイ様って。
「村が襲われるのなら、確かに私のせいだと思います」
ダイシンセイというものが何なのかさっぱり分からなかったけど、ハッパはさらに改まった口調になった。何者か分からない不審人物でいるより、聞き出すことができるんならそっらの方が良かった。たぶん『様』が付いているってことはすごい人物なんだろう。
「君のせい? やっぱり村を襲わせるつもりだったってこと?」
「違います」
ハッパはうっすら口を開けて、呆然とした目でこちらを見た。
自分のせいなのかもしれないが、そんなつもりはなかったというのがハッパの主張のようで、それ以上は何も言うつもりがないようで、今は視線を床に落としていた。
「どうして、村が襲われるのが君のせいなの?」
小屋が狭いことも相まって沈黙が重たい。
引っ掛かるのは、ネックレスの効果についてもハッパが知っていたことだ。それに姉ちゃんの話だとハッパはオニクに続いて自ら囮にもなっている。それらの自己犠牲が、村を襲われたという行為と釣り合わない。ハッパは何かの思考に浸っているのか、なかなか話だそうとしなかった。
「じゃあ、洞窟にあったネックレスのことを聞いていいかな?」
「……ネックレス?」
「そう、君はミロに付けさせたでしょ。どうしてわざわざミロに付けさせたの?」
「あぁ、そのことですか」
ハッパはため息混じりに苦笑した。
「石化を防ぐことを分かっていたんだよね?」
「……ダイシンセイ様、失礼ですがあなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「な、名前?」
名前か。考えてなかった。躊躇するのもおかしいし、すぐに答えなければハッパは目敏いから怪しまれる。
「た……鯛太、あ、タイタン。タイタンです」
「タイタン様、村を救って下さいますか? 救ってくださるのなら、私は全てお話しします」
交換条件ときたか。しかし、どうやらハッパが村を救いたいのは確かなようだ。
「そのつもりなんだ。でも救える約束はできない。今、何とかしようとしている所なんだよ。それにはまず、君が味方なのかどうか、ハッキリさせないと前にすすめない。だから話を聞きたいんだ。君が何を隠しているのか話してほしい」
ハッパはドアから離れ、「わかりました」と言うと、ゆっくりと窓際に移動した。
「私がミロにネックレスを渡したのは御加護の話を聞いたことがあったからです」
窓は埃のせいで曇りガラスのようになっていて何も見えない。
「加護?」
「あのネックレスは元々、村の秘宝物として保管されていた物です。かつて渓谷にあった他所の村が魔物に見つかってしまって、そこから何とか秘密裏に譲り渡されたのです。石化を防ぐという効果まで私は知りませんでした。あの場所には見たことない物もたくさんあったので、魔物達はキラキラしている物を色々な場所から集めたのでしょう。……タイタン様」
とハッパはこちらを振り向いた。
「全てお話しします」




