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春に生まれる

「朝陽ー、そっちはどうだ? オレは大体終わった!」

「俺もひと段落ついたとこだよ」


 新しい春が巡ってきて、それと同時に恭生と朝陽は引っ越しをした。以前のアパートには愛着があったが、大の男ふたり暮らしではさすがに手狭だった。

 重要なのは場所より、朝陽と一緒にいることで。もっと広い家にと考えるのは、恭生にとって自然なことだった。


「恭兄の部屋、入っていい?」

「もちろん」


 新居を探す際、恭生は2LDKにこだわった。自分は物が多いタイプだし、朝陽だってカメラの機材などこれから増えていくかもしれないのだ。それぞれに部屋を持っていたほうが長く住めると考えた。

 だが職場であるヘアサロンの近くとなると、手の届かないほど家賃が高かった。徐々に探す範囲を広げていって、見つけたのは郊外に建つ、築10年ほどの物件だ。

 五階建ての賃貸マンション、四階の部屋。最寄り駅まで多少歩くが、主要駅へのアクセスは悪くない。いい部屋を見つけられたと満足している。


「おお、ベッドでか」

「クイーンサイズだからな」


 セミダブルのベッドで身を寄せ合って寝るのも好きだったが、せっかくだからと引っ越しを機に買い替えた。ダイブした朝陽の隣に、恭生も横たわる。


「今日からここで寝るのかあ。楽しみ」

「だな」


 引っ越しを決めた時、お互いの希望を出し合った。恭生の希望はそれぞれに部屋を持つこと。そして朝陽の希望は、同じベッドで寝ることだった。恭兄のスペースが狭くなるじゃん、と朝陽は渋ったが、ベッドは恭生の部屋へ置くことにした。朝陽の撮影は夜が主だから、帰宅が深夜になることもある。自分は先に就寝することもあるだろうと思ったら、朝陽に気を使わせないようにとそれは譲れなかった。


「あれ? うさぎと犬のぬいぐるみは?」

「リビングに置いた。ここも捨てがたかったけど、そっちのほうが朝陽も多く見てられるかと思って」

「そっか」


 窓から春の日差しがやわらかく入って、ふたりの寝転ぶシーツをあたためている。どちらからともなく手を繋ぎ、この家に越してきて初めてのキスをする。胸の底をくすぐられているような、浮足立つ心がよく分かる。


「恭兄」

「んー?」

「これからもよろしくお願いします」

「ん、こちらこそよろしくお願いします」

「恭兄、今眠いでしょ」

「あ、バレた? でも、朝陽も眠いだろ」

「うん、だってあったかい」

「な」


 朝陽のほうへ体を寄せ髪を撫でると、そっと抱きしめられる。いよいよ本格的にまぶたが重たくなってきた。

 リビングにはまだ段ボールがいくつか残っている。明日も休みを取っているけれど、予定があるから片づけたほうがいいと分かっているのだが。少しだけ、とふたりで許し合って瞳を閉じる。

 おだやかな、新しい日々の幕開けだ。


 

「恭兄どうしよ。緊張してきた……」


 翌日。新しいベッドで目覚め、朝食にトーストとたまごやきを食べて。今は電車に揺られているところだ。行き先は、神奈川にある朝陽の実家だ。

 朝陽は大きなため息を吐き、扉のガラスにごつんと額をぶつけた。最近だと今年の正月にも一緒に帰省したが、今日の朝陽はお気楽な気持ちではいられない。それをよく分かっているから、恭生はそっと朝陽の指先を握った。握り返される力は頼りない。


「大丈夫だよ。きっとちゃんと聞いてくれる」

「……そうかな」

「うん。それに、オレは絶対味方だから」

「……うん」


 朝陽はこの春、大学四年生になった。就職先はまだ決まっていない。カメラマンを本気で目指すと決め、多くの同級生たちとは違う道を歩き始めている。今日はその想いを両親に打ち明けるべく、実家に向かっているのだ。

 一緒に来てほしいと朝陽に頼まれた時、恭生は二つ返事で頷いた。自分の力で一歩進もうとする朝陽の力になれるのなら、どんなことでもしたかった。

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