第六話 電脳
地獄へ行ってから約1か月半。
最近は戦いもなく鍛錬ばかりの少し暇な毎日が続き、俺の「強いやつと相手したい」という気持ちは増えていくばかりだった。
今、齋はいない。あいつの演算は強く、それを買われ一足先に討伐へ向かっていた。
「やることねぇなぁ」と悪態をついていると、何やら封書が。開けてみると、中身は待ちに待った討伐の命令だった。
「よし!」と小さくガッツポーズをすると、ユウキも来いと書いてあった。
ユウキと二人で指定の廃工場へ向かう。
「今回は二人かな?齋がいないから。」
「いや、だれか加勢してれるってさ。誰が来るか楽しみだ。」着いてみると、雷華がいた。
「もう一人って雷華のことか。よろしく、今回の敵はどんなのかわかるか?」
「そっちに行った文章には書いてなかったの?簡潔に教えるわ。まず、今回の敵は藍英というやつ。昔は従順なAIだったんだけど、ある事故で故障してスクラップになりかけた時、死んでしまった子供の魂が乗り移り、道徳心が育たないまま力を持ってしまったが故に凶暴化したらしいわ。」
「なるほど、理解した。ユウキ、どこにいるかわかるか?」
「真『カメラ・アイ』」というどこに何があるか完璧にわかる能力を身に着けたユウキに聞くと、
「まっすぐ行った所を右に曲がって2m」と返事が来た。
降りしきる雨が、ところどころに穴の空いたトタン屋根を叩く。すぐにテレポートして、さあご対面。
ユウキが後ろを向いてこちらに気づいていない藍英に「祭玉」でちょっかいをかけると、想像より大きな奴がこっちを向いた。
白に黒の割れのような模様のコイツだが、どう見ても目がイカれている。
少し怖気づいたユウキが「さっきの攻撃、俺じゃなくてリンだからね!?」とこちらに責任をなすりつけてきた。
「ユウキだろ?まあいいや、久しぶりの対戦だ。行くぞ!」
藍英が「…ス.ツブス」と声を放つ。
「雷華、属性は何だ?」
「元々緑だったけど、今は『森羅』っていう自然とか空想の動物とかの属性の方を使ってるわ。」
「なるほど。」
そんな事を言っている間に、藍英からの攻撃が始まった。
「コテシラベ,『バグ』」
藍英の横にあった金属の欠片が浮かび上がる。
あの形は…蜂のロボットか?考えていると、「バグ」が針を飛ばしてきた。
「これは...毒!」とっさに「虚数空間」に取り込んで事なきを得た。
だが藍英は、攻撃をかわされたのに涼しげにしている。もっと強い攻撃を持っているのだろう。
何が来るか用心していても、なぜか藍英は攻撃を出さない。もしかしてあれだけ?ならば早く終わらせてやる。
雷華が「一角獣」を繰り出す。
この技は幻獣ユニコーンを模した生物を生成して、角や足で攻撃することができる。
さぁ、通るか?初めて見た技だったが、思ったより悪くない。これならダメージぐらいは与えられるだろう。
そう前だけに気を取られていて、しばらく虚数空間の異変に気づかなかった。
前のサルモネラ戦の後、空間強化していたのにまさか出てきたのかよ…。
空間が破れ、でてきた毒針は一角獣を狙っている。
「雷華、ユニコーンは毒針いけるか?」「大丈夫、あいつの肌はそんなヤワじゃない。」「なら良かった」
軽く会話を交わしユニコーンを見つつ攻撃態勢に移る。
雷華の言う通りユニコーンは毒針を弾き飛ばし、そのままの勢いで藍英に走っていく。
その角が藍英に触れたと思ったその時、藍英が「電キ『食』」と小さく呟いた。
よりによって電気攻撃か!?
藍英の背から触手かコードがわからないような物が伸び、壁から飛び出ていた強電気線に接続され、触手から順に藍英から青色の稲妻が走る。
「サイ・バリア」を発動させようと考えるも、「今から間に合うだろうか」という思いが頭をよぎる。
大丈夫、いける!稲妻がユニコーンに絡みつく。
だがその一瞬前、ユニコーンの周りは結界が覆っていた。
「間に合った!」ユウキを見てみると、もうサイボールの体勢に映っていた。
こいつ、よっぽど刺客京戦の時のミスを悔いているのかあの後放出系めちゃめちゃ練習して、だいぶ無駄な動作がなくなったんだよな。
齋から教えてもらった「四則演算」でIQ1.3倍になって頭の回転も早くなってるし。
ユウキが「俺のターン!THROW!」などとどこかで聞いた事があるようなセリフを言いながら、藍英の方へ走っていく。
放出系だから「投げる=throw」か。駄洒落…っていうか言葉遊びが好きなのは相変わらずだな。
同じくデュlネタ「次回:ユウキ、死す。 ディエルスタンバイ!」とか求めてないぞ。
そんなことを考えている時にも、ユウキの手からは球が膨らんでいた。
「火玉!」ユウキのレベルアップしたサイ・ボールが藍英の眉間を狙う。
久しぶりの戦闘なのに俺ほとんど活躍せずに終わるんだなと感じていると、藍英の動きに反応するのが遅れた。
「スキルデリート」
「!?」
球が消えた、どういうことだ?デリート?いやそんなパソコンのデータじゃあるまいし、いやちょっと待て藍英こっち来て
「『アイエル』」
なんだそれと思う間もなく、俺の前に来た藍英から熱波と光が放たれる。
そして今頃、ユウキの「IL…白熱電球!」という声から、なぜ光の熱の攻撃だったかわかった。
結界?回復?間に合うだろうか。結界を出すも、藍英の攻撃のほうが先に来ることを悟る。
ユウキに頼れそうにもない。これまで何度もハプニングに襲われたが、こんな絶望的な状況となるのは久しぶりだった。
とりあえず、「サイ・カブト」で脳だけは守る。ギリで間に合ったが、重傷は免れられない。
回復の間に追撃が来たらと思うと恐ろしくなった。
光が俺の目を焼き貫く寸前、雷華が「『フェニックス』!」と叫ぶ。
その瞬間俺の体は、ものすごい速度で上に持ち上げられる。
攻撃は俺の下を通過し、俺はまさかの無傷で済んだ。
「雷華、ありがとう!」
追撃の阻止のためすぐに「サイ・アーマ」で防御に徹しようとしたが、藍英からそんな動きは起こらなかった。
なぜだと感じると、ユウキが声を発する。
「フィラメント切れたの?今の時代はLEDだよ!」
そういうことね。ならこっちのターンだ。
「さっきの威力で終わりだと思ってる?まだまだこれから!」
ユウキがすぐに構えに入る。雷華も攻撃段階に移り、「っていうかここも蛍光灯じゃん」と呟きながらユニコーンと動きを合わせ始めた。
俺も攻撃体勢へと移る。
さっきの「IL」により、そこにあった機械に大穴があき、ところどころ液体になっている。
ただ出てきた球が…小さい。直径で「獅子玉」のだいたい二分の一、ただ脅威度はそれより上。
「絶対仕留める」という気配がした。
「プランC!」
雷華からの指示にOKサインで答え、俺は前へ出る。
藍英は、俺とユウキどっちを攻撃すれば良いか戸惑っているようで。
「知ってるか藍英。」
ここからはもうひとりが引き継ぐ。
「こっちは3人!忘れないでね!」
『ユグドライア』からの『サンダーボルト』。
「電気は雷属性の一部、って知ってた?ショートしときなよ。」
完全に動きが止まった藍英に俺が肉薄、阿修羅 × 黒雷纏繞のタッグで合金肌をぶん殴る。
もしかして阿修羅って収束できない?やってみるか。狙いを点にする感じで…いけたわ。
一点に注ぎ込んだ攻撃が、藍英をへこませ、穴を開け、もう一個穴を開け、もっかい…。
「中身は大事そうだねぇ!」ユウキのご登場だ。
さっきの球は元の大きさのまま分裂し、藍英の体へ一斉になだれ込む。
「『利加狼球』、リュカオン強いね!」
「狩り成功率8割だからねぇ」
「それすごいのか?」
「百獣の王の3,4倍だけど?」
「おみそれしました」
「神にもなってるし」
「まじですか」
ちょっとでかめの野犬じゃなかったらしい。
「んで、やった?」
「「おいコラ」」
最後の最後にフラグを埋め込まないでくれ、疲れた。
「アァァァアア」
「「ユウキ…。」」さすがはフラグ、俺たちの疲労度は考慮してくれないらしい。
「コウゲキ、ムリ。コウフクコウフク…。」
「「「セェェェフ」」」
やっぱフラグは踏み倒してこそですよ!!
とりあえずユウキには一発デコピンしておく。
「そーいやこいつ元々早死にした子供だっけか、もしかして厚生とかできんのかな?」
「森羅は魂に干渉できないよ?」
「ほぉん。なあ藍英。お前スキルデリートとかいうのやってたじゃんか。もしかして『初期化』ってできる?」
「デキル、サイシュウォゥギ。」
「あともう一つ。デリートってことは『ゴミ箱』ってあるか?」
「アレ」と指された方を見れば結晶の山が。
「…なるほど。ってことは…。ユウキ、技って自分自身にも打てるよな?」
「行けたはず。」
「オッケー了解。藍英が自分を『初期化』、そのあとこの体?を壊して…。魂魔術があれば…」
「あったよ〜!カメラアイ、鑑定みたいな使い方もできるみたい!」
「よっしゃビンゴ!雷華いる?」「じゃあもらおうかな。破壊してみる」
最後の最後に角へし折られて有効活用されちゃうユニコーン可哀想に。
「取得できた〜!」
「じゃあ藍英よろしく」
「アリガトウ、ソシテサヨナラ。『イニシャライズ』 ……。」
「雷華、いけるか?」「頑張る!『ユウタイリダツ』!」
……
「成功っぽいな。さっ、一番疲弊してないの俺だしなんとかするか。『黒火炎陽』、からの『メテオフォール』!」
黒の火に包まれた藍英の体を隕石が貫き…スクラップと成り果てた。
「オッケ、勝てたみたいだ!」「よっしゃ!」「疲れた〜」
「あの結晶まだいっぱいあったよな?とりま戦勝祝いだ、誰がどれ取るか決めようぜ!」
「ちなみに一番上のあれはめちゃめちゃ弱そうだから取らないほうが良いと思うよ」
「「いや嘘つけ」」
「じゃあリムリン、いっきまぁす…って!ガチでいらねぇじゃんか!?」
「だから言ったのに…。雷華、あの右上のやつ取っときな」
「わかった、せいっと…。おっ、『情報神の加護』?鑑定の上位互換か!」
「俺だけ運ゲーじゃねぁかよ…。あっそれ取るの?もらうわ!」「ヤケクソかな?」「まあしゃーないでしょ」
「『蒼華大輪』…いや名前から強そうだな…。って!よっしゃみたか!?鑑定スキル『アプレイザル』ゲットだぜ!」
「「自分の持ってる方が高性能だからなんとも思わないかな」」
「あぁもうクッソ…。」