第四話 大殺戮・前編
殺人級。カタストロフ。そう呼べるような事件が、起きた。
「王」が、動き出したのだ。
なんでも、千年に一度の大殺戮らしい。卒業前なのにィ!!!
そのため、俺ことリムリンと師匠は偵察を行っている。「リムリン! もっと急げ!」
「はぁ!? 師匠ッ! アンタが速すぎるんだよォ!!」
──この偵察、ただ走っているだけの時間である。
もう、本当に意味が分からない。なぜ走っているのかと聞かれれば、それは『なんか走りたい気分!』というしかない。それ以外に説明する言葉もない。師匠と俺は意味も分からずにひたすら走り回っていた。
それにしても、さっきの言葉が現実になるとは驚きだ。地獄って、もっとこう、悪魔がいっぱいいたり、地獄の門があったりとかするじゃないか。
それなのに、こんな平原で大殺戮が起こることになるなんて思いもしなかった。師匠に話を聞くと、なんでもこの虐殺を企てた犯人……いや犯神? とりあえず、ソイツは『王』なんだそうだ。俺は今、王様が自ら出向いてきているのかと驚いていたのだがそうではないらしい。
『王』が、大殺戮を始めるためには、まず地獄へ赴かなければならないそうだ。しかし、地獄は簡単に行ける場所ではない。天国と地獄の行き交いは不可能で、ある条件を満たす必要がある。
それが──『鬼神に勝つこと』だ。『王』が、鬼神に勝つことで、ようやく地獄の門が開き、天国と地獄を行き来できるようになる。そのため、『王』は自ら戦場に赴く必要があるのだ。
だがしかし、この条件を達成させるのは本当に難しい。まず第一に、地獄での生存率が絶望的だということだ。さらに、鬼神との相性が合えば、その生存率は限りなく0に近くなる。
そして『王』は、それをやってみせた。地獄での戦いに勝ち、生き残って見せたのだ。
そうすることでもうすぐ、大殺戮が始まる──。
つまり、何が言いたいのかと言うと……。
「師匠! もう始まりますよ!!」
「はぁ!? 嘘だろッ!?」
「だから速すぎたんですって!」
──もう、地獄はもう終わっている。
「「うわあぁぁぁぁぁぁああッ!!」」
俺でも、まだ速いんじゃないかと思ってしまう速度で走っているはずなのに、目の前の光景はそれ以上に速く流れている。まるでスロー再生をしているかのように、一歩また一歩と歩くたびに世界が遅くなっていく。
そんな世界の中で唯一、速く動く『それ』が近づいてくるのを肌で感じた。
──ドゴオオオオオオォォオオン!!!!
「ぐっ、ぐあぁぁぁあぁああ!!」
その音が、爆風だと気づくことができるのは数秒後だった。俺は今、師匠に庇われながら地面に転がっている。
「痛ってぇ……師匠! 大丈夫ですか!?」
「……あ、ああ」
どうやら、師匠も無事みたいだ。俺たちは急いで立ち上がり、状況を確認する。地獄から来た『王』は──。
「アイツが、『王』か」
そう、それしか考えられない。今立っている場所から、ソイツまでは数キロはあるだろう。しかし、分かる。奴から発せられている殺気とか圧力とかオーラとかが、五〇〇メートル先にいる男を危険人物だと教えてくれる。
俺が見たのは──地獄から来た王と思わしき男は、剣を腰につけており、鬼神すらも凌駕する正しく「王」だ。
王は、呪言を唱える。
こうして、大殺戮は始まったのだった──
齋は、空を翔ける。それは、常人には見えない。齋は、一直線に地獄前へ向かった。息も絶え絶え。体力は限界だ。だが、齋は進む。
なぜこんな事になったのだ。全く、「王」は何を考えているのかがわからない。イミフ。頭の中をイミフで埋め尽くすと、思考停止して、体の限界も無視して突き進んだ。門の前に立っている鬼神さえも無視して。
「リムリン!」
「あ、齋来た!」
「来たじゃねえ!」
とりあえず、状況把握だ。回復しながら、齋は先程のことを聞く。ますます「王」が何を考えているのかがイミフになってきた。
「大量殺戮が、一日後に始まる。今から一日間は、敵の探索だ。見つけても攻撃せず、知らせろ。」
「OK」
「了解」
「OK」
それだけ言うと、齋は飛び去る。
イミフとは、イミフでも意味が分からないわけではない。いや、イミフなのではなく、考えたくないだけだ。考えたくないのを無理矢理考えているからだ。イミフとは、それを無理矢理考えないことだ。
そして、考えたことをなかったことにすることだ。
「さてと……」
そう言って、齋は体を伸ばす。
現在、地獄に来ている。敵が来る、との事なので、その殲滅は俺たちの仕事となる。
「さて、どうしますか」
俺は、目の前にいる奴を見る。そして、齋はそいつを尾行するため、盗聴器を構える。他の皆は姿を消してついていくという。
「とりあえず、行こうか。」
そうは言ったが、正直言って面倒だ。一応、時間制限もある。さっさと終わらせよう。地獄は、はっきり言って広い。とても広い。地獄は、もともと一つだったのであるが、その昔、罪人の数が多すぎたことから、今の数に分割されたそうだ。ちなみに、昔の地獄は今より遥かに広く、罪人の数も今よりもっと多かったらしい。
さて、話を戻すと俺一人ではとても回りきれない広さがあるということである。しかし、俺には仲間がいる。奴らがいれば大丈夫だと思うが……不安だ。とにかく、急ぐしかない。
俺は、地獄内を飛ぶ。そして、先程つけた盗聴器から聞こえてくる音に耳を澄ます。今のところは大丈夫そうだ。このまま行けば……
と、思ったその時だった。
「かはっ」
突如として俺の体が、地面に叩きつけられたのであった。何が起こったのか?敵襲か?
「ぐふっ」
仕方がない、姿を消そう。視覚を奪われるが、モニターで脳内投影してなんとかする。そこで、俺はあることに気づいた。先程の敵襲撃の際、齋はあの爆発に巻き込まれて怪我を負ったが、今はその傷が完治しているではないか!つまり、今ここにいるのは「王」だ!モニターで確認したところ、そいつは地獄の中心へ向かって走っている。ということは……
「奴との決戦か……」
そう呟いて、俺はそいつに追跡を再開するのだった。
俺が敵の後をつけるが、一向に気づかない。よしよし。余裕。ふざけてカンチョーをしてみたが、やはり気づかない。かなり鈍感なようだ。
クスクス笑うが、聞こえていない。さあ、もうすぐで地獄の中心へ着く。そこで俺たちは決戦するようだ。果たして、どちらが勝つのか?楽しみだ。
と、そこで奴は立ち止まった。そして、突然こちらを振り向いた。気づかれたのか?俺は身構えるが、どうやら違うらしい。
どうやら、「王」は何かを思い出したらしい。奴が見ているのは……誰だ?あれは、もしかして俺か?何故俺がここにいるのがわかったんだ?そう考えていると、奴は突然走り出した。俺はそれを追跡する。
しかし、ここで問題が発生した。
「くっそ!」
俺は今、敵の空間の中にいるのだ。つまり、超音波で確認できないのだ。ここで俺の居場所を見失ってしまったら、奴を見つけることはとても困難になってしまうだろう。
だがしかし、奴は地獄の中心へと向かっている。そして、俺もそこへ向かわなくてはならない。仕方がない、最終手段だ!「はあああっ!」
俺は、自分自身に超音波をぶっ刺した。そして、そのまま奴のいる方向へ進んで行った。少し痛みがあるが、仕方がないだろう。
奴は……いた!俺が奴のところへ着くと、そこには謎の空間が広がっていた。虚空、とでもいうのが正しいだろうか。まあ、そんなことは分からない。俺は躊躇することなくその空間へ飛び込む。
「「王」!」
そして、そこにいたのは……
王とは格が違う。「神」であった。「く……」
俺は、思わず顔を歪める。こいつ、相当強い……。どうする?どうやって倒す?奴の能力は何だ?神ということは、十中八九「創造」だろう。しかし……創造主が、何をもってして「神」なのか?そもそも、能力とは一体なんなんだ?……わからない。
そして気づくと、奴は俺の目の前にいた。
っ!速すぎる!俺が認識できないとは! その瞬間、俺の体に激痛が走る。ああ、俺の右腕が切られたのか……
と、そこで俺は思い出す。奴の能力はなんだ?創造か?否、それだけではないような気がする。もっと凄い何かを奴は持っているのではないか?……
だが、そう考えた時にはもう遅かった。
地獄の争乱が、始まった。
「ふぅ、どうやら間に合ったようだな」
俺は、地獄内を見渡して呟く。見渡す限りの惨状は、まさに地獄というにふさわしい光景だ。いや、ここはすでに地獄と化しているのか……。
辺り一面に広がっていたはずの荒野は、今では森となっていた。それもただの森ではない。地獄という特性上、そこは人の立ち入りを拒む魔境と化していた。そう!まさしくそこは地獄の森林!魔樹海と言っても過言ではないだろう!「さて、俺も仕事をしなければな」
俺はそう言って、その場を後にするのだった。
──一方その頃、地獄外では……
「おい!なんでこんなに人が集まってるんだ!?」
「知らねえよ!ただこれはやばいぞ……」
地獄は、既に囲まれていた。そう、つまり包囲されていたのだ。その数は膨大である。地平線の彼方まで見えるが見えないほどの軍勢がそこにいた。その軍勢の正体は──「死者の魂」だった。
いや、正確には違う。生きたものの魂を焼き、殺すのだ。それも、ただ殺すのではない。「地獄送り」にするのである。
つまり、この場合は魂が消滅し地獄で受刑されるのだが……魂は、その死を受け入れてしまうと即座に消滅してしまうのだ。つまり、生者が死者になると同時に地獄に送られて永遠の苦しみを味わうことになるのである。
だがしかし、それはあくまでも生きているものの話である。既に死んだものは、もはや何も感じることもできずただただそこに存在するだけの存在となるだろう。そして時が経ち、自我が芽生える。その時、奴らは何を思うのか? 否、考える間もなく彼らは動き出す。
そう。今この瞬間が、「死者の魂」による大殺戮の始まりとなるのだった! しかし……そんな地獄でもまだマシな方であった。一番恐ろしいのはここではないからだ── そこは生者の国。現世である。そこには数多くの宗教があった。その宗教とは……多神教である。
神と呼ばれるものは数多くいるが、その中でも最も力を持つのは「創造神」である。
しかし、創造神はどうやらもう亡くなってしまったらしい。それに気づいた死者たちが、今動き出したのである──
「いやー地獄は盛り上がってますね!まあこの位普通ですけど!」
と、言うのは齋だ。ノーテンキだな。現在俺たちはモニターで地獄内を見ている。俺と師匠はいるのだが……どうも気になってしまうのだ。それはそうと……これヤバくない?
とりあえず、齋に敵の巣を見つけてもらおう。「ん?何です?」
齋は、モニターから目を離す。
「敵の巣を見つけてくれ」
「了解」とだけ言って、再びモニターに目を戻す。そして、少し経った後……
「見つけました!」
さて、これであとは突入するだけだな。しかし、どうやって突入するかが問題だ。このメンバーで突撃するとなると相当キツいだろう。とりあえず俺の仲間を送ろうと思う。ちなみに人数はたったの三人だが。
サイガ、昌磨、雷華だ。それぞれ「鬼」と「創造」と「森羅万象」の力を持つ者たちだ。
そして、俺はサイガにテレパシーを送る。(聞こえますか?)
(ああ、聞こえるよ。何のようだい?)
(突入しますので、手はず通りお願いします)
(分かった)
これでよし。さあ次は昌磨だ。同じようにテレパシーを送る。(聞こえるか?)
(ああ、聞こえるぞ!何のようだ!)
(突入するので……あれ?あの、あれを……)
(え?何?聞こえないぞ!)
どうやらテレパシーが届いていないようだ。サイガとの通信も途絶えているし……
仕方ない、直接言ってみよう。俺は昌磨に念話を飛ばす。(聞こえるか?聞こえていたら返事をくれ)
しかし、返事はなかった。まあ当然だろう。昌磨は今大殺戮の最中で忙しいのだ。だが、ここで一つあることに気づいたのである。昌磨は「翔馬」の力を持っている。では、なぜテレパシーが届かないのか?それは、昌磨の能力ではないということだ。
じゃあ一体だれが……?そう考えたとき、俺の中で全てが繋がった気がした。今まで疑問に思っていたことが解決したのだ。そう……「鬼神」だ!やつは、確か「念話」という能力を持っていたはずだ。なるほど……これは厄介だ。だがしかし、今はもう敵の巣に入るところまで来ているのだ。今さら引き返すこともできないし……よし、行こう!突入だ。窓から飛び込む。ガラスが割れる。最強のガラスらしいが、そんなの俺の筋肉の前には関係ない。そして、俺は着地する。
俺は「神」の能力を解除する。
──そして、地獄の戦いが今始まる! サイガと雷華は、既に敵の巣へと侵入していた。そこには……何もない空間が広がっていた。しかし、確かに何かの気配があったのだ。だが、なかなか出てこないので攻撃することにしたのだった。雷華の周りに稲妻が走る。サイガの体に竜巻が起こる。そして……それらが一気に解き放たれた! ズドオオォン! 凄まじい爆音。しかし、特に何も起こらなかった。
「ん?」と首を傾げる二人。おかしい。普通ならここで何かが起こるはずなのだが……だが、そんなことを考えている暇はなかった。なぜなら、目の前にやつがいたからだ──「神」が。
サイガは雷華の肩に手を置きながら思う。なぜここに創造主が?
しかも、今ここには俺とサイガと雷華しかいないではないか!まさか、三人で相手するというのだろうか?それはいくら何でも無茶だ。サイガは、雷華と目を合わせる。彼女はすでに臨戦態勢だ。いつでも攻撃できるだろう。ならば、俺も戦うしかないようだ。
「神」が腕を振り上げると同時に、二人は動き出した── 一方その頃──齋は何をしているのかというと……彼は地獄にはいなかった。彼がいるのは天国である。天国の警護。それが齋への司令だ。そしてそこにはもう一人……ユウキがいた。それはなぜか?簡単な話である。彼は敵の巣がどこか探していたのだ。しかし見つからなかったので、俺のところに来たのだった。そして今、俺たちは敵の巣を探しているのである。
「おい!本当にどこかわからんのか!?」
と齋が叫ぶ。するとユウキは……
「うるせえな!んなもん分かるわけないだろ!」
とキレるのだった。まあ、それも無理はない。何しろ敵の巣の場所が分からないのだ。そんなこと普通の人間には到底不可能だろう。だがしかし、彼らにはそれができるのだ。齋の能力によってな。彼の能力とは──「空間把握」である。これは、齋が視認できる範囲の空間を把握することができるというもの。つまり、「敵の巣」も把握することができるのだ! ちなみに、ユウキの能力とは──「高速移動」である。これは、行きたい場所に高速で移動することのできる能力である。彼は現在地獄に向かっている最中だ。そして……もうすぐ到着する頃だろう。だがしかし、肝心の敵の居場所がまだわからないらしい。まあそれもそのはず。まだ創造主の居場所は特定できていないようであるから……
するとここで、ユウキが口を開いた。
「おい!見つけたぞ!」と。
それは、かなり嬉しい知らせであった。なにせ今現在どこにいるのかが分からなかったからである。そしてユウキは続けて言う。
「敵の巣は……ここから数キロ先にある山の頂上だ!」と。なるほどな……だがしかし、敵の巣を見つけたからといって油断してはならない!なぜならば、彼らは最強なのだから!それに、もし敵が何かを企んでいるとしたら……いや、考えるのはやめておこう──そして……戦いが始まる── まずは俺が動いた。地面を蹴り上げ、「神」に向かって一直線に進んでいく。だがしかし、その行く手を阻むものが現れる。それはもちろん敵だ。恐らく地獄の死者なのだろうが……そんなことはどうでもいい。なぜなら俺は今全能だから!そして、雷華も後ろからついてきているのが分かる。
目の前に現れたのは四人の男たちだった。一人は筋骨隆々の男で、もう一人は頭脳明晰な男だ。これは俺が相手を解析した結果である。さらにその右には、スキンヘッドの男がいる。恐らく上位スキル保持。
そして最後は、仙人だった。こいつは……間違いなく「創造神」だ!俺はすぐに理解した。なぜなら、彼の能力は──「創造」だったからだ。彼は様々なものを生み出してきたのだろう。そして今、その力を使って俺たちを倒そうとしているのだな?そんなことはさせないぞ!と意気込みながらも攻撃を繰り出す俺だが……
しかしまあ、やはり敵は強かったというべきか……少し不安がある。とそこにもう一人謎の男が飛んで来た。そう、ユウキである。
彼は、創造神に蹴りを入れた。そして……そのまま吹き飛ばしたのだった!しかし、創造神は「ふっ」と笑いその衝撃を無効化してしまった!だがしかし、ユウキの攻撃はそれだけでは終わらない!彼はさらに攻撃を繰り出したのだ! まず最初に右ストレートだ。これは普通に避けられるが……なんと彼の左拳の追撃だった!今度は左手で殴る気なのだろうか?いやいやまさかそんなはずないよな?などと考えてしまった。
轟音が俺の耳を劈く。くそ、逃したか。まあいい。こちらも準備不足だ。しっかり準備しなければ。とはいえ、もう既に準備は終わっているのだが── そこで俺は気づいた。敵の巣が見えないことに。一体どこに行ってしまったのか……その時だった!突然、俺の体に衝撃が走ったのだ!その衝撃で吹き飛ばされてしまったが……どうやら敵は遠くにいたようだ。一体なぜ?そんな疑問はすぐに解決された。なぜならそこにはもう一人謎の男がいたのだから!しかもそいつは創造神のすぐ近くにいたようなので俺が吹き飛ばされたのはそいつが原因だろう。
さあどうするか……?とりあえず敵の能力は解析しておくか。
「神」
超上位攻撃スキルを保持。創造主。念話という能力と空間破壊、ベクトル操作、創造という能力を持っているようだ……
これはまた厄介な能力を持ち合わせているものだな……しかしまあ、なんとかなるだろう!まずは相手の出方を伺うとするか── 俺は再び敵に向かって走り出した。敵は俺が向かってくるのに気づいたようだが……特に何もしてくる様子はなかった。だがしかし、その後ろに創造神が迫っている!彼が腕を振り上げた時──俺はその腕に飛び乗った!そしてそこからさらにジャンプする。そして、空中で体を回転させ敵に向かって蹴りを入れるのだった。だがしかし、これは防がれてしまうのだった。
地面から二本の木が生える。それは俺の体を掴むとそのまま地面に叩きつけられてしまった……くそ……やはり強いな……だが、ここで諦めるわけにはいかないのだ!俺は再び立ち上がると、今度は突進していった── 次は雷華だ。彼女は目にも留まらぬ速度で移動していた。一瞬で敵の懐に入り込むと、拳を繰り出した!すると敵は軽くそれを躱した!だがしかし……その次の瞬間には彼女はもうそこにはいなかったのだ!一体どうやって移動したのかはわからないが……おそらく高速移動というものを使ったのだろう。そして、彼女は敵の背後から攻撃する。彼女の拳が敵の背中に当たる──と思ったその時だった──なんと今度は敵が攻撃を繰り出してきたのだった!彼は雷華に向かって手刀を繰り出す。その動きは光速。ならば、目には目を歯には歯を。光速には光速を。俺の光速の拳が神の二の腕を破壊する。その間にユウキと齋が五次破壊竜洛天依を発動する。まずはユウキの番だ。彼は足に力を入れる。地面が砕け、まるで隕石が落ちたかのようなクレーターができあがる。そして──敵の腹にサイボールを叩き込んだ!敵はその衝撃で吹き飛ばされる──はずだったのだが、なんと敵は自分の腹に手を当てると、それを跳ね返したではないか!そのせいでユウキは逆に吹き飛ばされてしまった……だがしかし、齋はまだ攻撃できる!齋は再び跳躍すると、空中で身を捻り強烈な蹴りを入れようとした── 次は俺の番だ!俺は自分の右手を掲げ、魔力を全力で出す。絶対に当てる!そして、俺は敵の目の前まで来ると魔法を発動する。
超微小範囲攻撃──「龍核撃派」!!雷華の時と同様に俺の拳から放たれた無数の光線は敵を直撃したのだった!だがしかし、やつはそれを防いでしまった。くそ……だめだったか……?いや、まだだ!俺の拳から放たれる微粒子がやつに付着する。俺が拳を閉じるとそれは即座に消滅した。それだけではない。その微細な粒子が一斉に爆発したのだ! これは、微粒子が付着した対象を破壊するという魔法だ。つまり……やつの体はバラバラに砕け散ったのだった!だがしかし──次の瞬間、俺の体に異変が起こったのだ。
突然体が動かなくなったのだ。それはまるで金縛りにあったような感覚だった……だがしかし、なぜこんなことになったのかはすぐに理解できた。これはまさか……あの創造神の能力か?やつのスキルの中に「ベクトル操作」というものがあったはずだ。きっとそれで俺の体を操っているのだろう。フッ、俺が抵抗できないとでも思っているのか?馬鹿め、そっちは残像だ!その時。
「動くな!」齋が言う。俺が迂闊に動くともろに攻撃を食らうところだった。危ねえ。どうやら齋も俺と同じ状況のようだ。だがしかし、ユウキは違ったようだ。彼は創造神の攻撃を躱した!そしてそのまま拳を振り上げる──がしかし、その攻撃は空を切った……俺は跳ぶ。だが、次の瞬間には、彼の体は地面にめり込んでいたのだ!
「ぐはっ……」……くそッ!俺が二人いれば……こんなことにはならなかったのに……! やはりか……ならばこちらも力付くで行くしかないようだな……
ならば、こちらもベクトル対策として、クロックアップで時間という概念をなくさねば。これでもう俺たちは無敵かもしれないと思うな! だがしかし……またもや俺の体に異変が起こる。これはまさか……?またしても時間が止められているというのか?ということはつまり、やつのスキルは時間停止ではないということか!?ならば一体なんだというのだ? 一方その頃── 雷華とユウキは苦戦していた。いや、むしろ押され気味だったと言えるだろう。だって、敵である王の防御力が高すぎるのだもの……これでは攻撃を当てることすら難しいだろう。なら、俺が入ってさっさと王を倒してしまおう。
「よし、助太刀するぞ」
「サンキュ」
早速、雷華が「『森羅万象:神之雷槌』」と叫ぶ。
すると、空から雷が落ちてきた。それは一瞬で王に直撃し、さらに追い討ちをかけるようにユウキが拳を放つ── だがしかし!彼は王を殴った瞬間に吹き飛ばされてしまった!間合いをミスって攻撃が届かなかったらしい……アホか。まあ、予想はしていたが……さてどうしたものか? そこで俺はふとあることを思いついた。「なあ雷華」と俺が言うと彼女には聞こえていたのか……彼女はこちらを振り向き言ったのだ。
「なんだ?」
「俺の力を使えばあいつの防御力を無視して攻撃できるかもしれない。協力してくれるか?」
俺がそう言うと、彼女は一瞬考えた後言った。「ああ」と。
よし!そうと決まれば早速やるしかないだろう── まず最初に雷華が王に向かって走り出す。そして、跳躍すると手刀を放った!だがしかし、その攻撃は簡単に避けられてしまう。しかし、俺はその間に王の背後を取っていたのだ……そして……
「龍核撃派!!」
俺の両手から一筋の光線が放たれる。防御力高すぎ。ダメージは十分の一も入らなかったかもしれない。……がしかし!俺は王の背後に回り込んでいたのだ。そして、王の背中を殴り飛ばす!するとどうだ?なんと王の背中の皮膚が剥がれ落ちたではないか!
「これは……?どういうことだ?」と俺。
「おそらくお前の能力で、防御力を無視して攻撃したんだろう」と雷華が言う。なるほどそういうことか──ならばもう一度試してみるか── 俺は再び王に向かって突進し、拳を突き出したのだったのだがやはり避けられてしまう。だがしかし、俺はさらに加速して拳を突き出した──そして……王の脇腹に命中させたのだった! その時だった。王が口から血反吐を吐き出す。なんと俺の拳が王に命中していたのだ!そこでさらに俺が追撃を仕掛けようとしたところ、後ろから誰かに殴られたのだ。振り返るとそこには神がいた。どうやら彼が俺を攻撃してきたらしい……それもかなりのパワーでだ。
「クッ‥‥」
彼の攻撃によって吹き飛ばされた俺は壁に衝突する寸前で体勢を立て直した後、再び彼に向かい合う。「ここは俺に任してお前は行け!」と雷華。
だがしかし、敵もそう甘くはなかったようだ──突如として地面から無数の木が生えて俺たちに襲いかかってきたのだ!それを回避していると今度は敵が俺たちの前に姿を現した。しかもそれは二体だ。その二体はどちらも顔が同じだった……これは一体どういうことだ?もしかして分身というやつだろうか……? 俺の予想は正しかったらしい。敵の数が増えたのと同時に攻撃方法が変わったのだ!まず最初に向かってきた敵が殴りかかってくる。それを躱すと今度は背後にもう一人の分身が現れ、蹴りを入れられる。そこで俺は反撃しようと拳を振り上げたが、その瞬間にはもう攻撃は終わっていたのだった──
「くっ……なかなかやるじゃないか」と俺。
するとその時だった。俺の背中に衝撃が走る──振り返るとそこには敵の拳が俺の背中に当たっていたのだ!
「ぐっ……」
その後、雷華も同じ状況に陥っていたようだ。どうやら敵は無尽蔵に分身を生み出すことができるらしい……厄介な。しかもそれだけではなかった。なんと俺たちの分身までもが攻撃をしかけてきたのだ──その攻撃により、俺たちは吹き飛ばされてしまった。さらにそのまま追撃されそうになるが、それをなんとか躱す……危ねえなクソ!
「どうする?このままだとやられるだけだぞ?」と雷華が言う。
たしかにその通りだ……だがしかし、このままでは埒が明かないのも事実だ。だがどうすることもできないので困っているのである……せめてこいつを一発でも殴ってやりたいものだな…….だがしかし……隙がなさすぎて迂闊に動けない。王と神に囲まれた。ヤバい。
同時刻。冥府では、人々の殺戮が始まった。神の配下、冥師は『冥土の土産』を発動し、罪もない人々を殺そうとしてほくそ笑んだ。だがしかし、齋によって首の骨を折られる。
「フンッ、口ほどにもない。」
冥師はそう呟き、回復して不定形に変化する。そして、不定形の体で、齋を飲み込んだのだった。