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【書籍化】政略結婚したはずの元恋人(現上司)に復縁を迫られています(旧タイトル 今さらなんだというのでしょう)  作者: キムラましゅろう


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13/19

ナイトが二人も?

治安の悪い今のアパートからの転居を提案されたウェンディ。


結局その日は結論を出せず、デニスは心配しながら後ろ髪引かれる思いで帰って行った。


ウェンディはどうするべきかを考える。

デニスにお金を出して貰って引っ越すか、それとも振られた女の意地だと突っ撥ねるか……。



ーーうーん……後者が出来たらカッコいいんだけど……。

でもシュシュの事を思うと……。

もういっそのこと更なる貧乏暮らしを覚悟して自費で引っ越すか。


だけどまた余裕がなくなる上に家賃だけが上がるのは心許ない。

それにもし自分が病気をして働けなくなったら?

もしシュシュが大病や大怪我をしたら?


不安要素は泉のように湧き出してくる。


だけどかつての自分が、デニスに別れを告げられ涙したあの日の自分が彼の提案を受け入れる事に首を振る。


ーーだけどだけどばっかりね……。


一体どうしたらいいのだろう。

どうする事が最善か。


そんな事を考えながら次の日の業務を終えた。

そしてその日の帰り。


「え?まさか家まで送るとか言うつもり?」


「言うつもりだ。シュシュを迎えに行き、市場で買い物をしてキミ達が無事に家に着くまで、見届けてさせてほしい」


「そ、そんなっ……それじゃあ家で待っているクルトくんが可哀想じゃない!」


「クルトにはちゃんと帰宅が遅くなる訳を話した。あの子はもうすぐ六歳だ、全てでないにせよちゃんと分かってくれたよ。それどころかキミとシュシュをしっかり守るようにと約束させられた。それにウチには通いの乳母が居てくれるしね」


「え?クルトくんに私たちの事を話したの?」


「隠しておける事じゃないし、シュシュは隠さねばならないような存在じゃないからな」


「そ、そうね……」


と、なんやかんやと言いくるめられ、デニスに送られる事になったのだった。


託児所にシュシュを迎えに行き、また市場へ寄る。


その時に荒物屋の店主に

「おっ!お嬢ちゃん今日はパパと一緒かい?」と訊ねられたシュシュがとびきりの笑顔で、


「ぱぱちあうよ!」と父親である事を否定していた。


「うっ……」


仕方ないと受け入れているデニスだが、やはり元気に否定されると心が抉られるらしい。


ーーあーあ……ご愁傷様。



そうやってアパートに着く。


階段を登ろうとすると、上からいつもウェンディに厭らしい視線を向けてくる中年の男が降りて来たがウェンディがデニスと一緒にいる姿を見て、表情が曇った。

そして今日はデニスの事を不躾に見ている。

その視線に気付いたデニスがひと睨みすると、男は口惜しそうに舌打ちをしてどこかへと出掛けて行った。


ーーまぁデニスはルックスはピカイチだし、明らかに貴族然としてて威圧的だものね。

私たちの前ではヘタレだけど。


だが気持ち悪い視線を向けてくる中年男に一矢報いた(デニスが)気がして少し溜飲が下がるウェンディであった。



そうしてデニスは部屋の入り口でウェンディに言う。


「部屋に入ったら鍵をしっかり掛けるんだ。そしてその後誰が来ても解錠しない事。夜眠る時に窓を開けたまま寝るのもやめて欲しい。分かったね?頼んだよ?」


まるで子どもに言い聞かせるように言うデニスにウェンディの反発心が浮上する。


「なんなの?そんな事いちいち言われなくても分かっているわよ、貴方は私の父親なわけ?」


「うっ……父親は嫌だな」


「じゃあ口煩い事は言わないで。それから明日はもう送って要らないわ、クルトくんの為に早く帰ってあげて」


「クルトは理解してくれていると言っただろう。それなら転居の事を前向きに考えて欲しい」


「それはもう少し考えたいの」


「ウェンディ、本当に頼むから……とにかく物件はもう業者に頼んで探し始めているから」


「でもっ……」


その時、玄関先で話している二人の間にシュシュが来てデニスに言った。


「おじたん、はい」


そう言ってデニスの手を引っ張って中に入るよう促した。

シュシュは今日もデニスが家で食事をすると思っているようだ。


デニスは優しい眼差しをシュシュに向け、大きな手でその小さな頭を撫でた。


「ありがとうシュシュちゃん。でも今日は帰るよ。今度は僕がシュシュちゃんとママを食事に誘うね」


「まんま?」


「そう。外でまんまを食べよう」


「うん!」


シュシュは途端に満面の笑みを浮かべた。

外食を知らないシュシュはおそらくよく分かっていない。

しかしなんだか楽しそうな雰囲気なのは感じ取っているようだ。


シュシュとそう約束をして、デニスはまた後ろ髪を引かれた様子で帰って行った。




しかし翌日の終業時間。


「はじめましてウェンディさん。デニス=ベイカーの“おい”のクルトです。ぼくもシュシュちゃんをまもりにきました」


「え……?ク、クルトくん?」


「はい。いつもおじがおせわになってます」


ーーなんてしっかりした子!すごく賢そうだわ……!


クルトを見て感心するウェンディにデニスが言った。


「すまない、クルトが自分も是非二人を守るナイトになりたいと言って。王宮の終業時間に合わせて乳母に連れて来て貰ったそうなんだ」


「ぼくもおじさんにけんをならっているのでたたかえます!」


「……と言って聞かないんだ……」


ーーあ、こういうところは年相応なのね。


「来てしまったのは仕方ないから、今日はクルトも一緒に送らせてもらってもいいだろうか?」


「送って貰うのを辞退して、二人はこのままお帰りになるという選択肢は?」


「残念ながら無いな。キミが嫌がっても後ろを付いて歩く」


「勇者様御一行じゃないんだから……」


ウェンディは抵抗するだけ時間の無駄だと思い、二人のナイトの護衛を承諾した。


託児所に着くとデニスと共に現れたクルト少年をシュシュは不思議そうに見た。

そんなシュシュにクルトは言う。


「はじめましてシュシュちゃん。ぼくはキミのイトコのクルトです、よろしくね」


ーー従兄って言っちゃってるし……。

まぁシュシュには理解出来ないか。


「いとと?」


「イトコだよ。シュシュちゃんのパパのおいっこなんだ」


「すすのぱぱ?」

(二歳児は“しゃしゅしょ”が苦手な子が多い…気がする・作者の持論)


「デニスおじさんだよ」


ーー思いっきりバラしてるしーー!


ウェンディが口をあんぐりと開けてデニスの方を見ると彼は彼で口をあんぐりと開けていた。


ーーいやでもきっと大丈夫。甥とか叔父さんとか従兄とか、二歳児には理解出来ないわ。


そう思うウェンディを他所にシュシュはデニスの方を見た。

そしてクルトの方も見てから、今日はウサギさんのお耳ヘアーのツインテールにしている自分の髪を手にして言った。


「ぱぱ、くゆと(クルト)いっちょ?」


シュシュは確かに正しく理解はしていない。

理解はしていないが自分のキャメルブラウンの髪色とデニスやクルトの髪色が同じなのを見て、何かを感じ取ったようだ。

シュシュ自身も分かっていない何かを。


その瞬間、デニスが膝から崩れ落ちた。

糸の切れた操り人形のようにグシャリと嫌な音を立てて。


「ちょっ?デニスっ?貴方それ半月板大丈夫なのっ?」


四つん這いになった状態のまま動かなくなってしまったデニスにウェンディは訊ねた。

デニスは声を押し出すようにしてウェンディに言う。


「……すまないウェンディ……まさかの事態だが……俺はもう、やはりもうっ……無理だっ……こんなに可愛い娘に一度でもパパと呼ばれてしまうとっ……もう他人のフリには戻れないっ!」


「あーー………」


今ここで、クルトとシュシュの目の前でデニスなんか父親ではない!と言える胆力はウェンディには、無い。


カオスだ……と思うウェンディを尻目に、シュシュは膝を突いたままのデニスの頭をヨシヨシと撫でた。


「ぱぱよちよち」


「ぱっ、ぱぱ……!」


そんなシュシュの頭をクルトが撫でる。


「シュシュは(既に呼び捨て)やさしいよいこだね」


「うん!」


「………カオスだわ……」



その後ウェンディはもう自棄(やけ)になり、アパートまで送ってくれたデニスとクルトに夕食も食べて行けと告げた。


そしてキャメルブラウン頭共を引き連れ、精神的には這々の体で帰宅する。


しかしそこで更なる悲劇が……。


ただでさえいっぱいいっぱいであるというのに、ベランダに干してあったウェンディの下着が盗まれていたのだ。


そのトドメの事態にぶちギレたウェンディ。


そしてデニスの金で引っ越す事を半ば自棄になって決断したのだった……。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



作中では触れませんので補足を。


ウェンディの下着を盗んだのは例の中年男ではなく、

隣室の三十代の男(妻子持ち)でした。


侵入経路はベランダの手摺りを伝って……。


若くて美人なシングルマザー……思っていた以上に狙われているようです。


都会、怖っ!とウェンディは震えあがったそうな……。


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― 新着の感想 ―
「送って要らないわ」ってどこの方言??
可愛いし素敵なのに、シリアスなのかと思いきやコメディ…。 幼子の舌っ足らずな会話や、小さいナイトが可愛くて可愛くて! あと作者様の補足が好き…。 お話が面白くて面白くて… 終わってしまう日が来るのが切…
半月板大丈夫?←笑笑笑 めっちゃ笑いました。
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