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父と娘の対面

「ねぇ、本当に一緒に来るの?」


二人で話し合った翌日、ベケスド=ヤコブの件のお礼にとデニスを食事に招いたウェンディだが、彼は終業後このまま向かうと言うのだ。


「食材の買い出しとかもあるだろうから手伝うよ。それに早くシュシュに会いたいから」


「……クルトくんは大丈夫なの?お家に一人で居るんじゃないでしょうね?」


「俺の乳母のドゥーサが見てくれているよ」


「そう……」


まぁ正直いつものようにシュシュを抱っこしながら市場で三人分の食事を買うのは大変なので手伝って貰えるのは有り難い。


なのでウェンディはデニスの申し出を受ける事にした。


「先に託児所に寄るから」


「……ああ」


そう告げるとデニスは神妙な面持ちになる。

緊張しているのだろうか。


ウェンディはそう思いながらもデニスを連れて王宮から歩いて10分程の場所にある託児所へと向かった。


託児所に入ると直ぐにお友達と遊んでいるシュシュを見つける。


「シュシュ、ただいま!」


「あ!まま!」


母親の姿を見てパッと笑顔になるシュシュを見た瞬間、隣にいたデニスが小さく息を呑んだのがわかった。


「ままおちゃえり!」


そう言って母親にしがみ付くシュシュをデニスは食い入るように見つめていた。

ウェンディはデニスに告げた。


「……娘のシュシュです」


「うん……」


デニスはそう返事するも一心にシュシュを見つめている。


母親の側に大人の男の人が立っている事に気付いたシュシュがデニスの方を見た。


二人、しばしそうやって見つめ合う。

きょとんとしていたシュシュがデニスに言った。


「だあれ?」


その言葉を受け、デニスはシュシュを怖がらせないようにゆっくりとしゃがんだ。

そして優しくゆっくりとした口調でこう告げた。


「……はじめましてシュシュちゃん。僕の名前はデニスといいます」


「ままの……おともち?」


「そうだよ……ママのお友達だ。シュシュちゃんも……僕のお友達になってくれるかな……?」


「うん!」


元気よく笑顔で頷いたシュシュをデニスは眩しそうに見つめた。

彼の瞳が潤んでいるのに気付いたが、ウェンディは敢えて何も言わなかった。


「シュシュ、今日はね、デニスおじさんがウチにゴハンを食べに来るのよ」


「ふんと?やったぁ!」


「よ、喜んでくれてる……」


デニスが感動して呟くが、ウェンディは釘を刺すように言った。


「お客さんが来るからワクワクしているだけよ」


「そ、そうか……それでも、嫌と言われなくて良かったよ。可愛いな、本当に可愛い。元気で明るくて、キミみたいだ」


「……見てくれはイヤになるくらい貴方にそっくりだけどね」


「うん……そうだな……」


またデニスはまるで尊いものを見るようにシュシュを見つめた。

そのうち手でも合わせて拝みそうだ。


「じゃあシュシュ、帰ろうか」


「うん!はい、まま」


シュシュはそう言ってウェンディに手を伸ばした。

お帰り恒例の抱っこのご所望だ。


ウェンディがシュシュを抱き上げようとしたその時、デニスが遠慮がちに言った。


「……俺が……抱っこしたら駄目かな……?こ、こう見えても甥っ子で子どもは抱き慣れているんだ。い、嫌がるだろうか……」


ウェンディはシュシュに訊ねた。


「シュシュ、デニスおじさんに抱っこしてもらう?」


するとシュシュはぽかんとデニスを見上げ、ふるふると首を振った。


ーーぷっ


そらそうだ。

会って直ぐの大人の男性に抱っこされるなんて、いくら人見知りをしないシュシュでもイヤだろう。

ウェンディはデニスに言った。


「嫌だって。いきなり抱っこなんて無理よ」


「そ、そうだよな……いや、ごめん……」


デニスは気不味そうだ。


そしてシュシュが可愛くてつい暴走した…とデニスは大きな体で小さく呟いた。


いつものようにウェンディが娘を抱き上げると、

「じゃあ鞄を持つよ」と言ってデニスはウェンディの鞄を手にした。


それからその足で市場へ向かう。


一応ご馳走するのだからと、ウェンディはデニスに訊いてみた。


「何が食べたい?好きなものを作るわよ」


「え?そうだな……」


デニスはそう訊ねられるとは思っていなかったようで少し驚いた様子だった。

そして少し逡巡してから答える。


「もし、手間でなければアレが食べたい。昔よく作ってくれたチキンのクリーム煮」


「え?あんなのでいいの?」


「ああ、それがずっと食べたかったから」


「ふぅん……まぁシュシュもそれが好きだからいいけどね」


「そうか……一緒か」


「いちいち感慨深げに言わないで」


「す、すまん」


「おぢたんおこられたー」


「面目ない……」



そんな風に話しているうちに市場へと着いた。


精肉店でチキンを。

青果店で玉ねぎとマッシュルームを。

そしてベーカリーでパンとミルクを購入した。


……全てデニスの支払いで。


「お金を出して貰ったらお礼の意味がないでしょう」


「いいんだ。作って貰うので充分礼になる」


そう言って荷物も全部持ち、最後に寄ったキャンディショップでシュシュの大好きな苺ミルクキャンディも買ってくれた。


どうやらウェンディが買い物をしている間にデニスがシュシュの好きなものを聞き出したようだ。


「いちこみゆくー!」


まぁシュシュが嬉しそうだからいいか……。


その苺ミルクキャンディを食べながらシュシュが何かに気付いたように言う。

デニスの方を見ながら、今日はおさげに結った自分の三つ編みを手にして。


「……いっちょ?」


「え?」


デニスが聞き返す。

シュシュはデニスの頭を指差し、そして自分の髪を見せながらもう一度言った。


「かみ、いっちょ!」


「っ………あぁ……一緒だ……一緒だな、シュシュちゃん……」


言葉を詰まらせながらデニスが答える。


彼は今、何を思っているのだろう。


ウェンディは何も言わず歩き続ける。



そしてようやくウェンディとシュシュが暮らすアパートへと帰り着いた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



アパートに着くまでで時間切れとなりました。(作者の)


美味しいゴハンは次回に持ち越し☆


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― 新着の感想 ―
[一言] が、がんばれデニス(^^;) でもウェンディを傷つけた分以上にがんばらないとですよねー
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