プロローグ なんでどうしてこうなった?
よろしくお願いします!
別れる時、本当は納得なんてしていなかった。
だって私は貴族じゃないもの。
貴族じゃないから家門の存続とか後継や嫡男がどうのとかさっぱりわからないもの。
ただわかったのは、
彼が私ではなく“家”を選んだ事。
私への愛ではなく、ベイカー子爵家というアイデンティティを選んだという事実。
まだ救いなのは、彼が“家族”の為にその選択をしたという事だ。
だからもう仕方ない。
家族や家を捨てて私を選んで!なんて言えるほど大した女でもないしね。
大好きだったけど、本当に愛していたけどご縁がなかったと思うしかない。
そして私たちは別れ、彼と私は無関係な人間となった。
無関係だから、私が避妊薬とサプリを間違えて服用して、それによりジャストミートに妊娠してしまった事も、そして一人で産んで一人で育てている事も伝える必要はないわよね。
だってもう会う事はないんだから。
私達の人生が交差する事はないんだから。
なのに……なんで?
なんでどうしてこうなった?
新しく勤める事になった職場の上官がどうして彼なのっ?
なんで?なんでよっ?
領地に戻って領地経営はどーした?
なんで王都で文官として働いているの?
ちょっと……困る、ホントに困るんですけど!
ま、まぁいいわ。
バレなきゃいいんだもの。
可愛い可愛い私の一人娘、シュシュの存在を。
あの子は私だけの子。
新しい職場でたまたま知り合いが居たというくらいの感覚でいればいい、それだけの事よ。
だから大丈夫。
せっかく手に入れた王宮文官という職を手放すわけにはいかないから。
大丈夫。
大…丈夫……?