幼馴染と夏祭り
夏休みも終わりに近づく黄昏時、朱く染まる地面に長く伸びた鳥居の影をたくさんの人が潜っていく。聴こえるのは賑やかな笑い声と祭りばやし。今日は地元の神社の夏祭りだ。
母さんにからかわれながら着せられた浴衣は、果たして自分に似合っているのだろうかと袖や裾を見ながら考えていると……
「ヒロ君! こっち~!」
聞きなれた女の子の声に顔を上げると、見慣れない浴衣姿の少女。
「ごめんね、待たせちゃった? 浴衣の帯の結び方がなかなか決まらなくて… でも、おかげさまでバッチリ決めてきたよ。どう、かな…? 私の浴衣姿」
もう一度声を掛けられてハッとした。藍染の蝶が涼しげに舞う浴衣に白い帯、薄らと化粧をした顔はいつもより大人っぽく、紅く艶やかな唇に鼓動が高鳴る。つい最近正式に恋人同士になった幼馴染のユッコだ。
「ああ、うん… 俺も、今来たところだから」
「あれ? 反応がうすいなぁ あっ、もしかして、浴衣姿の私が可愛すぎて照れてちゃってるの?」
「なっ!? そんなことねーよ! …よく似合ってるよ」
正直、滅茶苦茶可愛い。
「えへへ、もっとちゃんと褒めてくれなきゃだめだよ。えっと、キミの彼女… なんだからね。ヒロ君も浴衣、似合ってるよ。ん-と、すっごくかっこいい… かな?」
「そっ、そう? 浴衣なんて初めて着るからわかんねーや」
俺の顔を覗き込むユッコの顔が赤いのは夕焼けのせいだ。きっと俺の顔も。
「うーん、やっぱりまだ慣れないね」
「はぁ… お互いに」
困り顔のユッコがそうつぶやくと、自然とため息が漏れた。
「ふふふ」「あはは」
そして笑い声が重なる。
「この間までただの幼馴染だったもんね。でも、ヒロ君の方から告白してくれたの、すっごく嬉しかった」
「はっ、恥ずかしいこと言うなよ! …ずっと、伝えなきゃって思ってたんだよ」
そう言った途端、ユッコが満面の笑みを輝かせて期待の目を向けてくる。墓穴を掘ってしまった…
「ねぇ、いつから私のこと好きだったの…?」
「絶対教えねー」
「えー、良いじゃない教えてくれても」
「ユッコはどうなんだよ?」
「んーと、ヒロ君が教えてくれたら教えてあげてもいいかな」
「なんだよそれ」
後ろに手を組み俯いて草履を遊ばせる仕草に、それ以上の言葉が出なかった。
「ヒロ君、はぐれないように、手… 繋いでほしいな。 …あの頃みたいに」
そうして差し出された小さな手に、戸惑いながら、そっと手を重ねる。
…あの頃みたいに。