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銀の魔女のしたて屋さん

作者: たまご
掲載日:2022/08/24

 深い深い森の中。


 小さな赤いとんがり屋根のしたて屋さんは、今日も朝からいそがしい。


「じゅんばんに並んでください」


 茶色い猫の輝夜が、受け付けをしている。


「はい、妖精さんのドレスできてますよ」


 品物を手渡しているのは、白猫の月白。


「いらっしゃいませ。今日は、なにをつくります?」


 にこにことお客さんをむかえているのは、銀の魔女のトリルだ。


「魔女さま、うちの子達のよそいきをつくってほしいんだけど」


 キツネのお母さんが、子供達をつれてきた。


「もう、人間に化けられるようになったの?」


「あたりまえでしょ」


 トリルの質問に、子ギツネ達が胸をはった。


「でも、おねえちゃん、まだしっぽが出ているのよ」


「あんたこそ、耳がついてたじゃん」


 ケンカを始めた子ギツネ達に、お母さんのキツネはため息をついた。


「どっちも、まだまだでしょ。きちんと化けられるように練習をしなけりゃ」


 ふふとトリルが笑った。


「じゃあ、おそろいにしようか?」


 トリルは銀のはさみを持って、お店の外に出た。


 じょきじょきと音を立て、空の青とヒマワリの黄色を切り取る。


 空色の太いしまとあざやかな黄色の細いしまが、キレイに交互に並んだ布をふわりと広げてみせた。


「これで、ワンピースをつくろう」


 顔を見合わせて、子ギツネ達はうれしそうに笑った。


 キツネのお母さんも、満足そうにうなずいている。


「これで、今度のお祭りにつれていけるわね」


「しあがりは、三週間後になります」


 輝夜が、ひきかえけんの葉っぱをキツネの一家に手渡した。


「それまで、上手に化けられるようになってね」


「うん、がんばる」


 子ギツネ達は手をふって、森の中に帰っていった。




「今日は、ここまでになります」


「ほかの人は、また明日きてください」


 月白と輝夜はそう言って、お店をしめた。


「さて、作業に入ろうかな」


 トリルは、お店のおくにある工房に入った。


 波の音を切り取ったかろやかな布に、夜の闇で染めたつややかなシルク。


 朝つゆで作ったビーズに、小鳥のさえずりのスパンコール。


 虹を編んだリボンに、泡のレース。


 キレイなものやかわいいものが、工房にはぎっしりと並んでいる。


「魔女さま、いまつくっているのは?」


 輝夜が首をかしげた。


「これは、エルフの女王のドレス。ダンスパーティーに着ていきたいんだって」


 バラの香りで染めた真っ赤なドレスに、みつばちの羽音をつむいだ黄金色の糸で刺しゅうをほどこす。


 銀の針で、ていねいに、すばやく、かろやかに。


「んー」


 トリルが、体をのばす。


「一休みして、お茶にしよう」


 小さな丸い木のテーブルに、こもれびで編んだクロスをふわりとかけた。


 白いカップに、花びらを浮かべたハーブティーをそそぐ。


 とろりとした甘いみつをとじこめた、ふんわりとした口あたりの焼き菓子もお皿にならべる。


 月白と輝夜は、あたたかいミルクをもらった。


 ぴくぴくと、月白達の耳が動いた。


「魔女さま、だれかくるよ」


「あら、こんな時間に誰かしら」


 とんとん、と小さくノックする音がきこえた。


「ごめんなさい、お店はもうおやすみです」  


 月白が声をかける。


「あ、あの、ここはどこですか……?」


 月白と輝夜は、顔を見合わせた。


「魔女さま、迷子みたい」


「なら、入ってもらって」


 扉をあけると、小さな女の子が立っていた。


 髪はぼさぼさで、着ている服もぼろぼろだ。


「わたし、かえれないの」


「大丈夫よ」


 トリルはにっこりと笑って、女の子を家に入れた。


「お茶をどうぞ」


 あたらしいカップに、ハーブティーをそそぐ。


「ありがとう」


 一口飲んで、女の子はほうと息をついた。


「お菓子も、どうぞ」


 焼き菓子をそっと口に運ぶ。


「おいしい……」


 女の子を見て、トリルは笑った。


「だいぶ、おちついたみたいね」


 女の子の着ている服は、そでのふくらんだ桃色のかわいらしいワンピースにかわっていた。


 髪は明るい茶色の巻き毛だ。


 女の子はお菓子を持ったまま、うつむいてしまった。


「わたし、道がわからなくて……」


 おうちにかえれないの、と女の子は悲しそうに言った。


「魔女さま、助けてあげて」


「かわいそうだよ」


 月白と輝夜が、トリルに言った。


「そうね」


 トリルは窓をあけ、手をのばした。


 もどした手には、きらきらと光るリボンがあった。


「星の光をあつめたリボンよ」


 そう言いながら、女の子の手首にリボンをむすんだ。


「これで、もう大丈夫。おうちに帰れるから」


「ほんとう……?」


「おうちにつくまで、リボンはほどかないでね」


「うん」


 女の子はうれしそうに帰っていった。


 その日、遠い遠いどこかの国のお姫さまが暗い眠りから目をさました。


 手首に、星の光のリボンをむすんで。




「はい、くまさんのウェディングドレスですね。うけつけました」


「白鳥座のコートは、こちらになります」


「いらっしゃいませ。今日は、なにをつくります?」


 深い深い森の中。


 小さな赤いとんがり屋根のしたて屋さんは、今日も朝からいそがしい。










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