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銀の魔女のしたて屋さん

作者: たまご

 深い深い森の中。


 小さな赤いとんがり屋根のしたて屋さんは、今日も朝からいそがしい。


「じゅんばんに並んでください」


 茶色い猫の輝夜が、受け付けをしている。


「はい、妖精さんのドレスできてますよ」


 品物を手渡しているのは、白猫の月白。


「いらっしゃいませ。今日は、なにをつくります?」


 にこにことお客さんをむかえているのは、銀の魔女のトリルだ。


「魔女さま、うちの子達のよそいきをつくってほしいんだけど」


 キツネのお母さんが、子供達をつれてきた。


「もう、人間に化けられるようになったの?」


「あたりまえでしょ」


 トリルの質問に、子ギツネ達が胸をはった。


「でも、おねえちゃん、まだしっぽが出ているのよ」


「あんたこそ、耳がついてたじゃん」


 ケンカを始めた子ギツネ達に、お母さんのキツネはため息をついた。


「どっちも、まだまだでしょ。きちんと化けられるように練習をしなけりゃ」


 ふふとトリルが笑った。


「じゃあ、おそろいにしようか?」


 トリルは銀のはさみを持って、お店の外に出た。


 じょきじょきと音を立て、空の青とヒマワリの黄色を切り取る。


 空色の太いしまとあざやかな黄色の細いしまが、キレイに交互に並んだ布をふわりと広げてみせた。


「これで、ワンピースをつくろう」


 顔を見合わせて、子ギツネ達はうれしそうに笑った。


 キツネのお母さんも、満足そうにうなずいている。


「これで、今度のお祭りにつれていけるわね」


「しあがりは、三週間後になります」


 輝夜が、ひきかえけんの葉っぱをキツネの一家に手渡した。


「それまで、上手に化けられるようになってね」


「うん、がんばる」


 子ギツネ達は手をふって、森の中に帰っていった。




「今日は、ここまでになります」


「ほかの人は、また明日きてください」


 月白と輝夜はそう言って、お店をしめた。


「さて、作業に入ろうかな」


 トリルは、お店のおくにある工房に入った。


 波の音を切り取ったかろやかな布に、夜の闇で染めたつややかなシルク。


 朝つゆで作ったビーズに、小鳥のさえずりのスパンコール。


 虹を編んだリボンに、泡のレース。


 キレイなものやかわいいものが、工房にはぎっしりと並んでいる。


「魔女さま、いまつくっているのは?」


 輝夜が首をかしげた。


「これは、エルフの女王のドレス。ダンスパーティーに着ていきたいんだって」


 バラの香りで染めた真っ赤なドレスに、みつばちの羽音をつむいだ黄金色の糸で刺しゅうをほどこす。


 銀の針で、ていねいに、すばやく、かろやかに。


「んー」


 トリルが、体をのばす。


「一休みして、お茶にしよう」


 小さな丸い木のテーブルに、こもれびで編んだクロスをふわりとかけた。


 白いカップに、花びらを浮かべたハーブティーをそそぐ。


 とろりとした甘いみつをとじこめた、ふんわりとした口あたりの焼き菓子もお皿にならべる。


 月白と輝夜は、あたたかいミルクをもらった。


 ぴくぴくと、月白達の耳が動いた。


「魔女さま、だれかくるよ」


「あら、こんな時間に誰かしら」


 とんとん、と小さくノックする音がきこえた。


「ごめんなさい、お店はもうおやすみです」  


 月白が声をかける。


「あ、あの、ここはどこですか……?」


 月白と輝夜は、顔を見合わせた。


「魔女さま、迷子みたい」


「なら、入ってもらって」


 扉をあけると、小さな女の子が立っていた。


 髪はぼさぼさで、着ている服もぼろぼろだ。


「わたし、かえれないの」


「大丈夫よ」


 トリルはにっこりと笑って、女の子を家に入れた。


「お茶をどうぞ」


 あたらしいカップに、ハーブティーをそそぐ。


「ありがとう」


 一口飲んで、女の子はほうと息をついた。


「お菓子も、どうぞ」


 焼き菓子をそっと口に運ぶ。


「おいしい……」


 女の子を見て、トリルは笑った。


「だいぶ、おちついたみたいね」


 女の子の着ている服は、そでのふくらんだ桃色のかわいらしいワンピースにかわっていた。


 髪は明るい茶色の巻き毛だ。


 女の子はお菓子を持ったまま、うつむいてしまった。


「わたし、道がわからなくて……」


 おうちにかえれないの、と女の子は悲しそうに言った。


「魔女さま、助けてあげて」


「かわいそうだよ」


 月白と輝夜が、トリルに言った。


「そうね」


 トリルは窓をあけ、手をのばした。


 もどした手には、きらきらと光るリボンがあった。


「星の光をあつめたリボンよ」


 そう言いながら、女の子の手首にリボンをむすんだ。


「これで、もう大丈夫。おうちに帰れるから」


「ほんとう……?」


「おうちにつくまで、リボンはほどかないでね」


「うん」


 女の子はうれしそうに帰っていった。


 その日、遠い遠いどこかの国のお姫さまが暗い眠りから目をさました。


 手首に、星の光のリボンをむすんで。




「はい、くまさんのウェディングドレスですね。うけつけました」


「白鳥座のコートは、こちらになります」


「いらっしゃいませ。今日は、なにをつくります?」


 深い深い森の中。


 小さな赤いとんがり屋根のしたて屋さんは、今日も朝からいそがしい。










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