第63話 七長老の真実(前編)
俺はミクロとともに地下へと突っ込む。
1000年前、パダジアの王宮は隅から隅まで知っているつもりだが、そこは見たことのない地下宮殿が広がっていた。
その中央には鎖に繋がったパダジア精霊王国女王モルミナの姿が見える。
「モルミナ!!」
「大賢者様!!」
俺の声にモルミナはすぐに応えた。
モルミナもまた精霊たちと同じく、俺の魂の形がわかっているらしい。あらかじめアリエラたちから、【女王】の力を封印した時、視力も失ったと聞いていたが、その影響からかもしれない。
ミクロに降ってくる瓦礫を防いでもらいながら、俺は〈魔法の刃〉でモルミナの鎖を切り裂いた。
すると、モルミナは真っ先に俺に抱きついてくる。俺の顔の形を確かめるように、冷たくなった手を頬に押し当てる。目隠しした目からは涙が溢れていた。
「大賢者様! またお目に掛かりたいと思っておりました」
「俺もだ。まあ、こんな再会の仕方をするとは思ってもみなかったがな……」
「私はいつか……、いつか会えると信じておりました」
モルミナの顔に笑顔が灯る。
急激に血色がよくなっているように見える。よっぽど安心したのだろう。
「何者だ?」
突如乱入してきた俺を睨んだのは、七人のエルフの老人たちだ。おそらくこの者たちが七長老と呼ばれるエルフなのだろう。
「何者かなどどうでもいい」
「邪魔立てするというなら」
「死んでもらうまでだな」
七長老というだけあって、かなり年季が入った老人たちらしい。しかも老人と侮るなかれ、老いたエルフほど熱心に己のクラスを磨き、レベルを上げているものだ。詳しいことは〈鑑定〉してみないことにはわからないが、スキルツリーレベル150前後はいっているはずである。
対するこっちはスキルツリーレベル60。クラスレベルはまだ〝2〟だ。格好良く登場したはいいが、まさか最後にこんな強敵が待ち構えていたとはな。
エルフの老人たちは構える。
緊迫した空気が謎の地下宮殿に満ちていった。
「お待ちください、七長老様」
「その人を殺しちゃダメ」
突然、薄暗い宮殿に2つの剣閃が閃く。すると、2人の長老が倒れると、さらに剣を向けられたエルフが尻餅をついて、命乞いをする。現れた2人のエルフを見て、最年長と思われる小柄のエルフが息を呑んだ。
「アリエラ……、それにメイシーまで。お前たち生きていたのか!?」
「死んだと思っていましたか、長老ゴン」
「長老たちの悪事は全部聞いた」
そう言って、最後に現れたのはミィミだ。その小さな緋狼族の娘に持ち上げられていたのは、インノシマだった。手足を縛られ、半泣き状態の元勇者は「助けて」というように長老たちの方を向いていた。
「クーデターという割には随分のんびりしていると思っていたが、実はモルミナの血が目当てだったとはな」
現代ならモルミナの血を使って、クローンを作ることが可能かもしれないが、はっきり言って現実的ではない。この世界でも同じだ。「人間を増やす」なんて魔法やスキルは存在しない。1つ可能性があるとするならギフトだろう。
多くの勇者を輩出しているティフディリア帝国なら、そんなギフトを持っている勇者が1人ぐらいいてもおかしくない。あるいは帝国にそう持ちかけられ、七長老たちは凶行に及んだ可能性もある。
つまりギフトか何かで七長老たちの意図を知ったルギアは、その欲望をわざと増長させた上で、クーデターを持ちかけた。七長老たちはモルミナを手に入れ、帝国を後ろ盾に純血種の復興を、ルギアと帝国は傀儡となったパダジア精霊王国を手に入れるというわけだ。
さらにインノシマが知る限り、ルギアは純血派の七長老たちも消すつもりだったらしい。結局ルギアと帝国がすべての黒幕だったというわけだ。
「ゴン様、そして七長老の方々……。あなたたちも利用されていたんですよ」
メイシーは掲げた剣先とともに事実を突きつける。
血を使って純血のエルフを増やそうと考えていた七長老たちは、愕然としていた。それが俺のような冒険者の口からならはね除けることができただろうが、ティフディリア帝国の関係者となれば話は別だ。彼らしかわからない心当たりもあるのかもしれない。
「ふん。それがどうした?」
「ゴン様?」
「帝国が我々を利用しようとしているのは、最初からわかっていたこと。しかし、この国から、いやこの世界から雑種どもを一掃できるというなら、帝国だろうが、悪魔だろうが、手を貸すつもりであった」
ゴンの言葉はさらにエキサイトしていく。俺を憎々しげに睨むと、言い放った。
「若造が!! そもそも貴様は何者だ?」
『こいつは1000年前、魔族の王を倒した大賢者だ。忘れたか? お前らも世話になったろ?』







