第61話 答えは「YES」だ!
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
「ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~」のコミカライズが、ピッコマ&コミックノヴァにて更新されました。
こちらもよろしくお願いします。
大きくなったミクロは口を開ける。
喉の奥には子どもの頃とは比べものにならないほどの火塊が燃えさかっていた。すかさず解き放たれると、神殿が紅蓮に彩られた。一瞬にして風の精霊パダジアを火だるまにしてしまう。
〈暴風の塞〉
炎の渦の中で風の城塞ができあがる。パダジアは炎を風で押し返そうとするが、そうはならなかった。ミクロの炎がそれほど強力なのだ。霊獣といえど、ミクロは星火竜。霊獣の格から考えれば、トップクラスになる。いくら精霊とはいえ、安易に炎を吹き飛ばすことはできなかった。
「な、なんだよ、あの竜は。いきなり出てきて、せ、精霊と――――」
「インノシマ、呆けてる場合か」
「あ!? んぎゃ!!」
俺は〈号雷槍〉をインノシマの首筋に押し付ける。一応威力は最小限に絞っておいたが、しばらくは動くこともできないだろう。
再び俺は走り出す。
「ミクロ、そのまま抑えておいてくれよ」
ミクロに手を焼いているパダジアに俺は飛びついた。大きくつるりとした背中に貼り付くと、せっせとよじ登っていく。目標はパダジアの首筋だ。そこには剣が刺さっていた。
「やっぱりな。これは『剣神』が使っていた剣だな」
友人であり、戦友であり、そして仲間だった『剣神』は出会った時、すでに200歳を超えるエルフの女性だった。振り返ってみれば、年などまったく感じさせないほど、若く、美しく、瑞々しい精神を持っていた。その『剣神』を支えたのが、今俺の目の前にある聖剣グラディスだ。
1000年生きるマテリアルデバイスで、人間のような意志を持ち、よく憎まれ口を叩く喋る剣。『剣神』とはよく喧嘩していたが、闘いとなれば一騎当千……。あらゆる戦場で存在感を放ち、敗北濃厚の戦況を幾度も跳ね返してきた。
グラヴィスが何故ここに刺さっているのか、俺にはわからない。
1つ言えることは、聖剣である前に、あの誇り高かった『剣神』のことを忘れ、パダジアを操るための触媒と化してしまっているということだ。
「待ってろ。今、思い出させてやる」
俺は手を伸ばした。
しかし、肝心の『幻窓』が浮かび上がることはなかった。いや、浮かび上がるには浮かび上がるのだが。
『ギフト「おもいだす」の条件に合致する対象が近くくくくくく『ギフト「おもいだす」の条qあwせdrftrgyt※※※※※※※※『ギフト「おもいだす」の条件に合致する対象がががががが近くにいますqあwせdrf』
『ギフトを使用ししししししますか? Yqあwせdrftgyふじこlp;@/N』件に合致する対象が近くにいます』『ギフトドドドドドドドド…………。
何度も点滅し、選択画面が現れないのだ。
狼狽する俺を見て、大狼となったミィミと1人で戦うことになったルギアはほくそ笑む。
「何をしようとしているか知らないが、無駄だ。その剣は堕ちている」
「堕ちている?」
「人も精霊も、そして意志あるマテリアルデバイスも同じだ。それが1000年も生き、人に仕えていた剣ならばな」
「何が言いたい、ルギア」
「生きることは光だと私は思う。しかし、光があればまた影もある。しかるに生命とは、魂とは――影なくして生きられない。どんな聖人も、精霊も、聖剣にも影は存在する。私はそれを思い出させただけだ。己を照らす光によってできた影の大きさをな」
つまり1000年生きる聖剣にも、意志を持つ剣にも、アリエラが抱えていたような悩みや不安、あるいは恐怖があったということか。
「忠告しよう。私のギフトと、その聖剣があれば、どんな命とて心を支配できる。国の王しかし、神しかり……な」
「ぷはっ!」
「何がおかしい。ついに気でも触れたか?」
「おかしいさ。お前の言う通り、この聖剣グラディスにも影はあったかもしれない。でも、俺は知っている。たとえ心に闇があっても、こいつはいじけたりしないし、インノシマのように引きこもったりしない。ただグラディスは忘れているだけだ」
平和な世界になって、1000年。
それまで誰も振るわれることなく、骨董扱いされていたなら、自分が武器であることすら覚えているかどうか怪しい。
なら、俺がやれることは1つだけだ。
「思い出させてやるよ」
俺のギフトでな……。
躊躇うことなく聖剣を握る。
まるで触られることを拒否するように聖剣は俺を弾き飛ばそうとしてきた。長く生きていれば、いい思い出も悪い思い出だってあるだろう。お前たちマテリアルデバイスは、人間に勝手に意志を持たされて、生まれてきた。それを後悔してきた武具もあるだろう。
でも、俺は知っている。
お前と『剣神』がいつも笑っていたことを……。
肌身離さず寄り添い続けていたことを……。
お前が生まれてきたことを呪うほど、世界に絶望していないことを……。
「いい加減思い出せ!! 聖剣グラディス!!」
俺は叫ぶ。すると光があふれ出た。その濁流に俺は飲み込まれる。その中で脳裏に入ってきたのは、1つの映像だ。
聖剣グラディスと、最後を迎えようとしている『剣神』の姿だった。
◆◇◆◇◆ 剣神 ◆◇◆◇◆
エルフは傍らに愛剣を置いて、星を見ていた。
側には酒があり、入れた酒杯の水面にも星が映り込んでいた。
「なあ、グラディス……。力を貸してくれねぇか?」
『なんだよ、藪から棒に。今さら寿命を伸ばしてくれなんて、我が輩にはそんな機能はないぞ』
「違うよ、あたしの想い人にさ」
『想……。お、お前、熊みたいに強いのに想い人なんていた……あ、ちょっ! あ、酒をかけるな! 錆びるだろ」
エルフは傍らの愛剣にたっぷりと酒を垂らす。
その柄についた古ぼけたミスリルは、ピカピカと抗議を意志を示した。
「あたしだって乙女さ。あんたよりは長く生きてないけど、400年生きれば1人や2人はいるものさ」
『へぇ~。で? 誰なんだ?』
愛剣はミスリルを光らせる。
出歯亀になった愛剣を見ながら、エルフはただ微笑むだけだった。
そしてそのエルフは2年後に死んだ。
所持者をなくした愛剣を次に扱う者はいなかった。
愛剣はあまりに強く、誰も扱うことができなかったからだ。
そして愛剣は暗い神殿の中に奉納された。自分の力がゆっくりと機能しなくなっていく感覚を味わいながら、愛剣は星を見ていた。
そして、あの時の夜を思い出した。
「なあ、アドゥラ……。お前の想い人って誰だったんだ?」
愛剣は星に語りかける。
しかし、答えは返ってこない。
「アドゥラ、我が輩はお前と一緒に戦場で――――」
◆◇◆◇◆ クロノ ◆◇◆◇◆
「なら、俺がお前を戦場に連れてってやる!!」
流れ込んでくる聖剣グラディスの意志。
柄を強く握りながら、俺はいつの間にか呟いていた。
200年近く付き添った相棒の死。
剣として誰にも求められなかった寂しさ。
死に場所を失った無念。
ナイフで切り刻むように俺の心に流れ込んでくる。気持ちはわかる。俺も大事な仲間と別れたくなかった。誰にも求められない寂しさを転生先で味わった。自分がどうありたいのかわからぬまま、異界の地で死を迎えそうになった。
でも、俺とグラディスには決定的に違う点がある。
俺は人で、グラディスは武器だということだ。
「お前は人より長く生きてきた。それはつまり人の意志を多く受け継いできたってことだ……。思い出せ。最後にアドゥラは何をお前に願った?」
『力を貸してくれねぇか?』
『あたしの想い人にさ』
「思い出せ。お前は何者であったかを……。お前は聖剣グラディス。『剣神』に愛された唯一の聖剣だ」
直後、聖剣は強く光る。同時に産声のような叫びが響き渡った。ミィミが、アリエラが、ミクロが、パダジアが、インノシマが、メイシーが、ルギアが――――すべて白い光の中に埋もれていく。
神殿の境目すら見えない真っ白な光の中で、『幻窓』だけが浮かび上がる。
『ギフト「おもいだす」の条件に合致する対象が近くにいます』
『ギフトを使用しますか? Y/N』
「イエスだ!!」






