第58.5話 精霊VS人間(後編)
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◆◇◆◇◆ クワンドン ◆◇◆◇◆
それはまだ俺が鉱山街クワンドンにいた時の話だ。
ミィミのナックルガードとハンマーのバリエーションを変更させているのを見て、俺も1つ装備がほしくなった。俺の提案を聞いたガザン工房の親方は素っ頓狂な声を上げる。
「何? 盾がほしい?」
「ああ。できれば、大きめがいい。どちらかといえば、魔法吸収に優れたミスリル製の盾だと助かる……」
「うーん。今からか」
「いや、待て」
首を捻る親方を見かねて、声をかけたのは【魔法鍛冶師】のガルナンだった。「ちょっと待ってろ」と言って、自分の工房に戻っていく。帰ってきた時には、人が1人隠れられそうなラージシールドを持っていた。
「昔作ったゲテモノだ。大きすぎて、持ち運びが悪いって言われてな。全然売れなかった」
「確かにかなり重い」
でも、かなり頑丈そうだ。マテリアルデバイスの処理もされていて、魔法による攻撃にも耐性がついてる。見てくれはゲテモノだが、かなりの掘り出し物かもしれない。
「ガルナン、いくらだ?」
「おいおい。マジで買うのか?」
「ああ。こいつは切り札になるかもしれないぞ」
俺はニヤリと笑うのだった。
◆◇◆◇◆ 風霊の洞窟 ◆◇◆◇◆
魔法戦になることなんて精霊と戦う前からわかっていた。
風の精霊と本当に戦うことになるとは思わなかったが、俺は着々と準備を進めていたのである。まさに備えあれば憂いなしだ。
「さっきの言葉をそっくりそのまま返すぜ。あんたこそ俺たちを侮りすぎだ!」
ことごとく自分の攻撃と防御の芽を摘まれ、ついにルギアのにやけヅラもなくなるかと思いきや、そう大して変わらなかった。まだ自分が優位にあると思っているらしい。ならば、目に物を見せてやるだけだ。
「ミィミ、俺は盾役になる。お前は俺の後について、接近したところでルギアを狙ってくれ」
「あるじ、わかった」
「よし! 突っ切るぞ!!」
俺は盾を構えたまま風の精霊へと向かい突撃していく。その間も、パダジアは魔法による攻撃を行うが、ことごとくミスリル製のラージジールドが防いでしまった。それを見て、初めてルギアは狼狽する。
「なんだ! あの盾は!!」
「ルギア! 人を自分のコマぐらいにしか思っていないお前にはわからないだろう。これが……、これが人間の本当の力だ!!」
ラージシールドだけじゃない。
俺たちの武器や防具にはクワンドンの鍛冶師や鉱山労働者たち、国を憂う鉱山街の人たちの想いが詰まっている。例え精霊だろうと、それを壊すことはできない。たとえギフトであってもだ。
「仕方あるまい!!」
〈ソウルバインド〉!!
ルギアの身体から黒い根のようなものが伸びてくる。
束縛系の魔法か。目的は俺たちの足止めらしい。
ジャンッ!!
黒い根が俺たちにかかろうという時、〈ソウルバインド〉は無効化された。
「ほう。これもダメなのか?」
「当てが外れたな、ルギア。小細工なんかではこの盾は壊れないぞ」
実は今のはラージシールドのおかげではない。〈ソウルバインド〉は確かに俺の足に触れた。だが、その前は俺は〈破魔の盾〉を使っていたのだ。これは1日1回だけ魔法攻撃から身を守ることができる。それを知らないルギアが勘違いしたのだろう。
とはいえ、パダジアの魔法攻撃は強烈だ。目に見えて、ラージシールドの耐久力が下がっていくのがわかる。加えて、風の結界による影響が続いていた。如何にスパイク付きのブーツを履いていても、ミィミと違って俺では前進するだけで精一杯だった。
だが、1歩、また1歩……。
俺はパダジアとルギアに近づいていく。射程距離に入ると、俺は最後の力を振り絞った。
「うおおおおおおおおおお!!」
バキッ!!
次の瞬間、ラージシールドが粉々になる。それでも十分だった。俺とミィミはラージシールドの残骸を振り返ることなく、2人で猟犬となってルギアに襲いかかった。
「おおおおおおおおおお!!」
ミィミは俺の背後で練りに練った力を爆発させる。
〈フルスイング〉!!
「ぬおおおおおお!!」
ミィミの渾身の右フックが、ついにルギアを捉えた。ルギアはガードを上げて、防御姿勢を作ったが、もはやそんなものは関係ない。ミィミの拳はルギアの左腕を完全に破砕し、かつ頬を抉った。緋狼族の全力だ。むろん衝撃はそれだけに留まらず、ルギアの身体は風の結界の淵まで吹っ飛んでいった。
やった、と確信したが、ルギアは生きていた。正確にはまだ意識があるらしい。風の精霊の様子は変わらない。そこで俺はあることに気づいた。
「あれは……? 剣……?」
ずっと正面から見ていて気づかなかったのだが、パダジアの首筋に何か剣のようなものが刺さっているように見えた。
「まさかあれは……!!」
「ミィミ、作戦変更だ!!」
「どうしたの、あるじ?」
「パダジアの首筋についた剣を抜く! 手伝ってくれ!!」
「わかったよ、ある――――」
ミィミが息を呑む。
相棒が振り返った瞬間、俺はその目に映ったものをはっきりと捉えていた。
ゆっくりと俺の後ろから黒い装束を纏った男の影が現れる。
まるでスローモーションのようにナイフを振り上げた
男は暗い井戸の底から響いてきたような声で、俺の耳元で囁く。
「やっぱり舐めてるのは君だって」
クロノ・ケンゴくん……。






