第58話 精霊vs人間(前編)
本日よりコミックノヴァ&ピッコマ様にて、
「ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~」のコミカライズが配信開始しました。
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「私のクラス――『暗黒導師』は手癖の悪いスキルばかりでね。単独では何の役にも立たないデバッファーだ。しかし、ギフト【せいしんは】はなかなかに強力でね。人や精霊を問わず、その人間の精神を支配することができる。ありきたりな表現だが、操り人形にできるということだ」
ルギアは薄く笑みを浮かべながら、愉快げに語る。
人はおろか精霊ですら支配化に置くギフトとか、チートにもほどがある。
「お姉ちゃん……。私だよ。アリエラよ!」
「無駄だよ、アリエラ女史。そこにいるのは君の知る姉ではない。精霊士メイシーはもはや私の手足だ。やれ、メイシー」
「はい……」
ギィン!!
うお! ノーモーションからアリエラに斬りかかってきた。いつ鞘から剣を抜いたかわからない。剣閃が光ったかと思えば、打ち下ろしていた。なるほど。アリエラが自分より強いといった理由が今ならわかる。
でも、アリエラも負けてはいない。俺ですら見逃した剣筋にうまく対応していた。いきなり姉が敵として現れながら、この反応……。やはりアリエラも只者ではない。
「お姉ちゃん! 目を覚まして!!」
「アリエラ、今は諦めろ!!」
「でも! お姉ちゃんは――――」
「今はと言った。俺とミィミがルギアを倒す。昏倒させれば、いくら優秀なギフトでも効果は切れるはずだ」
俺の言葉にルギアは「さよう」とあっさり認めた。
「それまでメイシーを頼む。今の彼女に対抗できるのは、アリエラだけだ」
「…………わかった」
アリエラの表情は覚悟を決めたというより、迷いの中で仕方なく決めたという様子だった。しかし、形はどうあれ、アリエラには覚悟を決めてもらわなければならない。メイシーほどの達人を引き留めておけるのは、アリエラ以外にいないのだから。
〈閃光剣〉!!
早速メイシーのスキルが炸裂する。アリエラは〈切り払い〉で対応するが、やはり防戦一方だ。あっという間に壁に追い詰められる。
今のアリエラには酷かもしれないが、信じるしか道はない。
「ミィミ、最速で決着をつけるぞ」
「うん。あるじ!!」
俺とミィミは、ルギア、その側に佇む風の精霊パダジアを睨んだ。
「最速……? フッ。舐められたものだな。私1人ならわかるが、勇者クロノ。あなたに見えているのだろうか? この風の精霊を」
風の精霊パダジアは叫ぶと、風が大きく逆巻いた。
腐臭を含んだ風から、亡者のような悲鳴が聞こえる。
国を加護する精霊の表情は大きく歪み、まるで苦しんでいるようにも見えた。
「確かに精霊を傀儡にしたお前のギフトは強力だ、ルギア。でも、お前は知らないだろう。その精霊が1人の人間によって、1度倒されていることを」
「精霊を倒す? 世迷い言を……。パダジア、やれ!!」
『ぶおおおおおおああああああ!!』
パダジアが吠えると、周囲の大気が渦を巻き始める。砂や小さな飛礫を巻き上げた暴風は、やがて俺たちを包む巨大な竜巻へと変化していった。
〈暴風結界〉
強烈な風の結界に閉じ込められ、俺たちは身動きが取れなくなる。それどころ立っているのもやっとだった。
『くわー!!」
「ミクロ!!」
パダジアの突風にミクロが吹き飛ばされる。
そのまま神殿に空いた風穴の奥へと吸い込まれてしまった。
「あるじ! ミクロが!!」
「くそ! パダジアの結界か!! なら――――」
〈魔法の刃〉!!
魔力でできた白刃がパダジアとルギアに襲いかかる。精霊は魔法生物と言われている。直接攻撃は通じなくとも、魔法攻撃は通ることは周知の事実だ。さらに如何に強力な風の結界でも、魔法の軌道を逸らすことは不可能なはずである。
「フッ!!」
俺の魔法攻撃を見て、ルギアはほくそ笑む。
〈魔力吸収〉!!
俺の魔法があっさりとルギアに吸収されてしまう。
厄介だな。〈魔力吸収〉のスキルまで持っているのか。
精霊であるパダジアにダメージを与えることができるのは、魔法攻撃だけ。
それをあっさり還付されてしまった。
このコンビ……。即席の割に厄介だぞ。
「どうかな、私とパダジアのコンビは。パダジアがお前たちの動きを止め、私が遠距離からの魔法を封じる。優れた防御陣とは思わないかね」
「ルギア……、いや騙好海邦。あんた、あんまりゲームとかしたことないだろ?」
「ゲーム?」
「どんなに完璧といわれようと、穴はあるものだぜ」
「世迷い言を……。君たちは私たちに指一本…………ん? 獣人がいない!?」
「わかってるんだよ。少なくとも風の精霊の攻撃パターンはな」
「なに!!」
「いけ!! ミィミ!!」
その時、ルギアはようやく気づく。
暴風をものともせずに、パダジアとルギアに迫るミィミを……。
「走るだと! この暴風の中で!!」
「悪いが、俺の頭の中には入っているんだよ。精霊の攻撃パターンがな!!」
ミィミは地を蹴り、ついにルギアに接敵する。
すかさずスキルに繋げた。
〈蹴り〉!
ミスリルブーツのマテリアルデバイスに内蔵されたスキルを発動させる。通常の蹴りの何倍もの威力を秘めたそれが、ルギアの顎をかすめた。おしい!! わずかに風に煽られて、間合いを誤ってしまった。だが、ミィミの格闘センスは本物だ。くるりと空中で回ったかと思えば、着地し、今度は別のスキルに繋げる。
〈フルスイング〉!!
〈蹴り〉からの〈フルスイング〉というコンビネーション。
ミィミは今度こそルギアを仕留めにかかる。
「パダジア!!」
『ぶおおおおおおおお!!』
〈暴風の塞〉!
強烈な風の壁がルギアとミィミの間に立ちはだかる。ミィミはそのまま風に突き上げられると、風の結界の淵まで飛ばされた。結果的に俺のところにまで戻ってくる。
「あるじ、ごめん。しとめられなかった」
「いや、十分だ。結界の中でもミィミが動けるってわかったからな」
俺とミィミが次の展開を相談する中、ルギアは愉快げに笑った。
「スパイク付きのブーツとはね。考えましたな。この世界にはあまり見られないものだが、君の特注品か、勇者クロノ」
もうネタがわかったのか。
ルギアの言う通りだ。今回風の精霊との戦いを想定して、俺はあらゆる対策を講じてきた。その1つがスパイクが付いたブーツだ。如何に強風の中でも、しっかりと地面を噛むことができれば、動きづらくとも立つことは可能。身体能力お化けのミィミなら、動きに支障がないこともわかった。
今、このパーティーで1番攻撃力があるのはミィミだ。それを戦力として数えられるのは、かなり戦力としてデカい。
「まずルギアの〈魔力吸収〉をどうにかしないと、パダジアにダメージすら与えられない」
「だね!!」
俺たちの方針は固まる。
聞いていたルギアの顔色は少し曇った。
「作戦としては悪くない。だが、まだ私たちを見くびりすぎているようだ。パダジア」
『うおおおおおおおおお!!』
暴風の結界の中に、魔力が集まる。パダジアの手の中に収束していくと、一振りの剣が出現した。さらに剣には圧縮された空気が集まる。次第に超震動を始めると、けたたましい音を立て始めた。
〈旋風刃〉!!
ついに暴風を灯った剣が振り下ろされる。風の結界の中で膨張した刃は、まるで巨大ビルが落ちてくるかのようだった。
ドオオオオオオオオオオンンン!!
爆発音が響き渡る。
煙はすぐに結界の風に煽られて、消滅し、塵を巻き上げた。
「おやおや。少々勝負を生き急いでしまったか?」
「そうでもないぞ。……まあ、こんなに早く奥の手を使うとは思ってもみなかったけどな」
「ほう、盾か……!」
そう。俺の手に、身体を覆い隠すようなラージシールドが装備されていた。






