第57話 秘密兵器
『ジャアアアアアアアア!!』
魔獣の断末魔が響く。クリスタルリザードの鱗には、強力な属性耐性がかかっている。だが、鱗までだ。ロスローエン鉱山にいた魔鉱獣同様に、生身には耐性がないはず。
「終われ! 終われ!!」
〈号雷槍〉を押し込みながら、俺は叫ぶ。ゲームの体力ゲージでもあればいいのだが、残念ながらゲームに似たファンタジー世界でもそればっかりは実装されていない。ただただ相手の体力が尽きるのを待つしかなかった。
「終われぇぇぇええええ!!」
ドンッ!!
轟音が鳴り響く。瞬間、クリスタルリザードは消滅した。残ったのは、背負ったクリスタルと、一部の牙や骨だけだ。
アリエラは肩を振るわせる。どうやらスキルレベルがアップしたらしい。
『スキルポイントを獲得しました。スキルレベルを最大2つまで上げることができます』
「スキルレベルを最大2つって……。この辺りのAランクを倒したって、今の私じゃ」
「それがクリスタルリザードのいいところだ。Bランクぐらいの強さで、SSランクと同じくらいスキルポイントを落としてくれる」
言ってみれば、この世界におけるメタル〇ライムみたいな位置づけだ。
ただ出現条件が一般的に知られていないいから、ほとんど人間が認知していない。
長寿のエルフとて、この方法を知らないだろう。
「よーし。素材回収したら、もう1匹呼び出すぞ」
「はーい」
『くわー』
「ちょっと待って! まだ戦うつもり?」
アリエラがハッと声を上げる。
「だってまだ『魔斬剣』を覚えてないだろ?」
「そ、それはそうだけど」
「大丈夫だって。向こうのパターンは覚えた。次はもっと簡単に倒せるはずだ。だろ、ミィミ?」
「ミィミがバーンとやって、ミクロがガーンとやって、あるじとアリエラがどーんとやればいいんだよね」
「そうだ」
「爪の先もわからないわ」
アリエラは慌てて突っ込む。
その表情を見て、笑ってしまった。
「ふふ……」
「何?」
「いや、やっと素のアリエラを見たっていうか。うん。俺はその方がいいぞ」
「素の私って……」
アリエラは決して無口な人間じゃない。本当は言いたくても、あえて自分の人格を表に出さないようにしているように俺には感じる。たぶん、それはアリエラが慕っているお姉さんと何か関係があるのだろう。
不幸といえば不幸だが、今アリエラの近くにお姉さんがいないということは、彼女の成長に良いことなのかもしれない。
「さっ! そろそろいいか」
俺はもう1度ラースの笛を吹くのだった。
『スキルポイントを獲得しました。スキルレベルを1つまで上げることができます』
『小スキル[剣技]のレベルが28になりました』
『〈魔斬剣〉を獲得しました』
アリエラはホッと息を吐く。
どうやら、ようやく〈魔斬剣〉を手に入れたらしい。
「本当に覚えるまでクリスタルリザードを呼ぶとは思わなかった」
若干恨みのこもった目で見る。
別に悪いことをしてるわけじゃないんだけどな。アリエラとしては、早くお姉さんを助けたいのだろうけど。
「そんな顔をしないでくれ。代わり、俺たち息があってきたと思わないか?」
「……そう、かもしれない」
「そうだよ」
「ニヤニヤしないで、クロノ」
「初めて名前を呼んでくれたな。ずっと『あなた』だったのに」
「こっちの方がいいやすい。それにクロノだって私のことを呼び捨てにしてる」
アリエラの白い顔がほんのりと赤くなる。うん。いい兆候だ。どんどん、アリエラが人間らしくなってきているような気がする。
「これなら風の精霊パダジアと戦うことになっても大丈夫そうだ」
「随分と余裕なのね。精霊と戦ったことでもあるの」
「……あるさ。昔な」
「冗談言わないで」
実は冗談ではない。
1000年前、似たようなことがこのパダジア精霊王国で起こった。魔王の幹部によって使役されてしまった風の精霊が暴走。それを諫めたのが、当時の『大賢者』の俺と、初代の『剣神』だ。
精霊を鎮めるのは大変だったが、事件をきっかけに険悪だった『剣神』とは仲良くなり、魔王討伐の貴重な戦力になってくれた。
そういえば出会った当初は、初代『剣神』アドゥラもアリエラのように心を開かないヤツだったっけ。気性の荒いアドゥラと比べると、アリエラは百倍穏やかだけどな。
『くわー!』
ミクロがチパチパと翼をはためかせながら、俺たちの方にやってくる。その口には小さな『宝籤箱』をくわえていた。
「おっ! また『宝籤箱』を拾ったのか。よく見つけたな、ミクロ」
『くわわん』
「あるじ、あける? あける?」
「そうだな。今は猫の手も借りたいぐらいだし」
俺は早速ミクロが拾ってきた『宝籤箱』を開く。
「ついてるな。こいつは今の俺たちにとってなくてはならないヤツだ」
中身を確認した俺は、ミクロの方を見て、口角を上げるのだった。






