第50話 可変型武器
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アダマンタイトの精錬作業も可能となり、いよいよミィミの武器の作成、俺の武具のマテリアルデバイス化が進められていった。にわかに騒がしいのは、久しぶりに発注がかかったからではない。
ギルドが鉱山の再開を宣告し、情報を拡散したことによって徐々に人が戻り始めたからだ。
俺とミィミはマテリアルデバイスができるまで、鉱山の中で鉱夫たちが安全に作業できるように見回った。案の定、魔鉱獣はすでに出現し始めていたが、普通の冒険者でも対処できるレベルだ。ギルドにも冒険者が戻りつつあり、人手も増えていった。
こうしてイールでの日々が過ぎていき、ついに俺たちのマテリアルデバイスが完成した。
「待たせたな、クロノ兄ちゃん、ミィミ嬢ちゃん」
俺たちはガザン工房に集まり、関わった職人と一緒に武具を確認する。
「「おお!」」
揃えられたピカピカの武具を見て、俺とミィミは一緒に歓声を上げた。
早速、装備してみる。ちなみに俺の装備はこんなところだ。
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【名前】 クロノ・ケンゴ
【ギフト】 おもいだす LV 2
【クラス】 大賢者 LV 2
【スキルツリー】 LV 60
【主な装備】
[武器] 刀
内訳 マテリアルデバイス+アダマンタイト強化
【レア度】 ★★★★★
【使用推奨レベル】 40以上
【クラス】 魔法剣士LV1
【主なスキル】 属性強化
[防具①] ミスリルローブ
内訳 マテリアルデバイス
【レア度】 ★★★★☆
【使用推奨レベル】 30以上
【クラス】 探窟家
【主なスキル】 シャドウステップ
[防具②] ミスリルガード
内訳 マテリアルデバイス
【レア度】 ★★★★☆
【使用推奨レベル】 30以上
【クラス】 騎士
【主なスキル】 シールドバッシュ
[防具③] ミスリルブーツ
内訳 マテリアルデバイス
【レア度】 ★★★☆☆
【使用推奨レベル】 20以上
【クラス】 闘士
【主なスキル】 蹴り
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「なんだい、クロノ。【探窟家】のクラスをリクエストしたのかい」
若干呆れたような口調で俺をからかったのは、お披露目会にちゃっかり参加したエイリアさんだ。たぶんイールでは1番彼女と仲良くなった。向こうはミィミと、卵からかえったミクロにご執心で休みの日にはわざわざ宿屋に来て、ミクロを撫でに来るほどだった。
「エイリアさんの戦いを見ていたら、欲しくなって。俺は後衛なんでどっしりと構えるよりも、回避のスキルは多い方がいいんですよ」
「なるほど。それにしても、他のスキルは接近戦に強いものを選んだのはなんでだい?」
「鉱山のような狭い場所ではどうしても間合いが詰まってしまいます。クロスレンジでも戦えるようになるため、選びました」
「うん。いい選択だ」
「ありがとうございます。それにしても、よく【魔法剣士】のクラスを付与するマテリアルデバイスを作れましたね」
マテリアルデバイスにクラスやスキルを付与する場合、特定のアイテムが必要になる。レアリティの高いクラスほどアイテムの入手難易度が高く、難しい。俺の装備では【魔法剣士】が1番レアリティが高く、その次に【探窟家】が高い。
「お前さんのアダマンタイトのおかげだ。アイテムもちょうど残っていて、付与することができた。レアものだ。大切にしろよ。刀と一緒にな」
「はい。そうします!」
「あるじ! あるじ! ミィミも見て!」
俺に遅れて装備をととのえたミィミが、みんなの前でくるりと回る。その勇ましさというよりは、その可愛さに再び場は盛り上がった。
Sサイズのミスリルプレートに、動きやすく仕上げられたミスリルグリーブ。緋色の髪にはミスリルが散らばったティアラを装備している。
しかし、ミィミの最大の特徴はなんといっても、両拳にはめられたごついグローブだろう。
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【名前】 ミィミ・キーナ
【ギフト】 へんしん LV 1
【クラス】 獣戦士 LV 1
【スキルツリー】 LV 30
【主な装備】
[武器] 可変アダマングローブ
内訳 マテリアルデバイス+アダマンタイト強化
【レア度】 ★★★★★
【使用推奨レベル】 40以上
【クラス】 ナックルマスター
【主なスキル】 崩拳
[防具①] ミスリルプレート
内訳 マテリアルデバイス
【レア度】 ★★★★☆
【使用推奨レベル】 30以上
【クラス】 帝国衛士
【主なスキル】 ジャストガード
[防具②] ミスリルスカート
内訳 マテリアルデバイス
【レア度】 ★★★☆☆
【使用推奨レベル】 20以上
【クラス】 回復師
【主なスキル】 自動回復
[防具③] ミスリルブーツ
内訳 マテリアルデバイス
【レア度】 ★★★☆☆
【使用推奨レベル】 20以上
【クラス】 重戦士
【主なスキル】 重量軽減
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改めてマテリアルデバイスについて説明していくと、デバイス自体が保有できるスキルは【レア度】の数に応じている。スキルの種類は使用頻度によって増えて行き、その用途によってクラスの中から最適なものが選ばれる。
装備者が選べないところが1つのネックだが、個人的な経験から不便と感じたことはない。最初にいったがマテリアルデバイスは、それ自体意志を持っている。装備する者が思い描く戦法を共有することによって、スキルを選んでいるので、自然と好みのスキルになっていることが多いのだ。
「物の見事に盾役な構成になったな」
「うん! ミィミ、あるじを守る!!」
ミィミはやる気満々だ。
俺としてはそのスピードを活かして、無傷で戦闘を終えてほしいのだが、緋狼族の膂力と体力もまた魅力だ。こうなることは仕方ないかもしれない。
「それはそうと、この『可変アダマングローブ』ってなんだ?」
俺が尋ねると、ミィミと武器を手がけたガルナンさんがお互い顔を合わせて、ニヤリと笑った。なんだ。ミィミはともかく、ガルナンさんの笑顔がめちゃくちゃ嫌な予感をさせるんだが……。
「ミィミ、見せてやれ」
「うん!」
ガルナンさんの合図を聞いて、ミィミはグローブを外した。すると、グローブの口と口を組み合わせる。直後、グローブは自動的に動き出し、名前の通り変形を始めた。スチームパンクの主人公が持っているような武器のように、歯車に似た音を立てながら姿を変え始めたのだ。
「じゃーん!」
ミィミの拙い擬音とともに現れたのは、長柄のハンマーだ。サイズ感は俺たちがイールに来た際、ミィミが持っていたハンマーと似ている。
「どう、あるじ?」
「2WAYタイプの可変型武器か! すげー!」
ナックルとハンマー――どっちも打撃タイプの武器だが、間合いが大きく違ってくる。懐が広い相手には潜り込んでナックルを使えばいいし、懐が狭い相手にはハンマーを使えばいい。強度の高い相手には、拳を保護する意味でもハンマーは有効だしな。
というか単純に羨ましい。
今から俺の刀も、変形することはできないだろうか。
「クロノ、これからどうするんだい? もしあんたらが良かったら、イールに定住しないか? いい物件を紹介するよ」
エイリアさんは勧めてくる。
イールはいい街だ。人柄もいいし、みんな一生懸命生きている。ここに住んでいる間、ずっとぬるま湯に浸かっているような居心地の良さを感じた。そもそも帝国と、その取り巻く国々の諍いに巻き込まれたくなくて、パダジア精霊王国を選んだ。もう正義の味方はこりごりだと思っていたのに、武器を強化するという目的があったとはいえ、結局1000年前と同じようなことをしている。
正直、自分でも嫌になるほど、正義の味方気質らしい。これだけ人が辟易していても、頭は次の目標に向かって動き始めているんだからな。
「悪い。俺は次の目的地に向かうよ」
「魔鉱の暴走の元凶を止めるんだね」
「誰かがやってくれるなら、それでいい。でも、俺しかできないなら行くしかない。パダジア精霊王国にはちょっとした知り合いもいるしな」
「そうか。寂しくなるね」
そう言った後、エイリアさんは俺に1冊の本を渡した。見事な装丁が施された本を見て、俺は思わず目を丸くする。
「『獣の奏書』!」
ミィミのクラス『獣戦士』のクラスアップに必要な魔導書だ。これを使えば、ミィミもクラスレベルを2にできる。
「うちの亭主が残した書斎に挟まっていた。うちらには無用な長物だが、あんたたちには必要なものだろう?」
「いいんですか? レアアイテムですよ。売却すればAランクの冒険者を10人は雇うことだって」
「必要ないよ。あの鉱山はイールの住人のもんだ。だから、今度こそあたしたちが守る。……ここは任せて、あんたたちはもっと大きなことをしてきな」
「ありがとうございます」
「感謝はいらない。むしろこんなことしかできなくて、申し訳ないぐらいんだからね」
「いえ。十分です。……あ。そのエイリアさん。1つお願いがあるのですが……」
「なあ、クロノ。あんたは勇者なんだろ。確か異世界の言葉で、〝黒〟のことを〝ブラック〟っていうそうだね」
「まさか……! 知っていたんですか?」
「これでもギルドマスターでね。隣国の国境付近で行われた剣闘大会で活躍した英雄の名前ぐらい耳に入ってる」
どうやら、元勇者を亭主に持つ人にはバレバレだったらしい。今思えば、もう少し仮名を考えるべきだった。この世界では英語なんてわからないだろと思ってしまった俺が浅はかだったのだ。
「元気でな、クロノ、ミィミ。たまには顔を出しておくれよ」
「ええ。勿論です」
「エイリアのおばちゃん、ありがと」
「ははは……。できれば、お姉さんって呼んでほしんだけどね」
ミィミを抱きしめ、エイリアさんは苦笑いを浮かべる。その目には涙が滲んでいたが、嬉しそうだった。
『くわー!』
「そう言えば、ミクロもいたんだっけね」
『くわー!』
パタパタと翼を羽ばたかせながら、口を開ける。
「なんて言ってるの、あるじ?」
「わかるだろ。
またね、だ……。
◆◇◆◇◆
「ばいばーい!」
『くわー!』
次の日、俺たちは朝一番の馬車に乗ってイールを後にした。朝早いにもかかわらず、エイリアさんやガルナンさん、ガザン工房の親方と職人、他にもイールで世話になった人たちが見送りに来てくれた。
パダジア精霊国の国土の7割を占める大森林に入ると、いよいよイールの姿が見えなくなる。ずっと手を振り続けていたミィミは、少し寂しそうに呟いた。
「いいまちだったね、あるじ」
「ああ。すべてが終わったら、また行こう」
俺はイールの人たちに武器や防具以上に、大事なものをもらったような気がする。人と人の営み。どんなにチートな能力を持っても、人間は1人では生きていけない。何より人だからこそ、人とのつながりはどうしても生まれる。うら寂れた現代の生活で感じることを失った人との繋がりを、イールで取り戻したような気がした。
だからこそ、受けた恩は返す。俺はそれを返すために向かう。
「行くぞ、ミィミ、ミクロ。目指すはパダジア精霊国首都クワンドンだ」
「おー!」
『くわー!』
威勢のいい声が、大森林に生える樹木を縫って響き渡るのだった。