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第48話 腕利きの鍛冶師

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挿絵(By みてみん)

 ガザン工房の親方と取引した後、俺はあることを思い出して、慌てて【収納箱(イ・ベネス)】を展開した。

 取り出した鉱石を見て、親方の表情は急に神妙になる。よく吟味したあと「これは!」と叫んだ。


「まさか? アダマンタイトか?」


「はい。先ほど話したクィーンスパイダーからたまたまドロップして。このアダマンタイトを使って、ミィミの武器を作りたいと思ってるんですけど」


「なるほどな。しかし、無理だ」


 親方は首を振りながら、俺にアダマンタイトを返した。


「残念ながらうちでは扱えないよ。アダマンタイトを扱えるのは、導きの星4の【魔法鍛冶師】だけだ」


 親方のいうことは正しい。

 クラスには戦闘職と非戦闘職が存在するが、【魔法鍛冶師】は中でも最優のクラスに含まれ、条件さえ揃えば『魔剣』を作ることも可能だ。

 しかも、アダマンタイトを扱うためには〈魔鉱の知識〉が必要だ。これはクラスレベルが3も必要になる。

 レア枠のクラスな上に、クラスアップが難しい。アダマンタイトを扱えるのは、ごく限られた鍛冶師に限るのだ。


「ただおいらが知る限り、1人だけいる。しかも、この街にだ」


「本当ですか? 紹介してもらえないでしょうか?」


「してもいいが、もう100年は打ってないはずだ」


「ひゃ、100年!!」


 ドワーフもエルフと同じぐらい長い生きだが、もう100年も仕事してないドワーフというのは初めて聞いた。働いたら負け……、何か理由があるのだろう。


「だが、腕は確かだ。昔、その爺さんが打ったっていう剣を見たが、見事なものだった。あれはスキルどうこうでできるものじゃねぇ。剣と対話でもできない限り、完成しねぇものだ」


 剣と会話か……。

 前に動画サイトである熟練の鍛冶師が話していたが、火と鉄と会話ができて、ようやく半人前と言っていた〈その人曰く、職人は死ぬまで半人前なのだそうだ〉。

 クラスやレベルがこの世界では絶対と思われているだろうが、間違いなくその範囲外の技術は存在する。ただ極めるということは、クラスやスキル、レベルの外の話というだけなのだ。


「親方、その人を紹介してもらえませんか? 興味が出てきました」


 俺は住所を聞いて、早速その工房にミィミと向かった。



 ◆◇◆◇◆



 30分ほど歩いて、件の工房に辿り着いた。

 寂れている以外、外見は一般的な工房に見える。しかし、中に入ってみて、少し驚いた。作業場はがらんとしていて――というより、ほぼ何もない。火床はおろか、金床、あの硫黄のような臭いもしてこない。


 代わりに目に付いたのは、どうも妙に既視感のあるものだった。


「穴?」


 どこかで見たことのある穴が、工房の真ん中に空いていた。俺とミィミはある予感を抱きながら、慎重に穴の中を降りていく。鉱山で使った光るマテリアルデバイスを頼りに、縦から横へと続く通路を進んでいった。


「あるじ、ミィミこの穴どこかで見た」


「ああ。俺もだ。ミィミ、卵を割らないように気を付けろよ」


「誰だ?」


 闇の中で何かが閃く。

 俺は咄嗟に腰に差した剣を抜く。なんとか鍔で受け止めることに成功した。


 それにしても手荒い歓迎だ。自衛にしたって、限度がある。ミィミが前なら卵ごと切られていたかもしれない。


「ぬっ? お前さん、その剣――――」


「あやしいものじゃない。あんたにアダマンタイトの武器を打ってもらいたくて、やってきた」


「アダマンタイト……?」


 ここ鍛冶師らしい男は、ようやく剣を引いた。代わりに闇に浮かび上がってきたのは、銀髪ならぬ灰色髪のドワーフだ。他のドワーフと比べても小柄だが、闇の中でも鋭く光るブラウン色の目は何かを極めた達人の空気を漂わせていた。


 俺は【収納箱(イ・ベネス)】を開いて、アダマンタイトを見せる。


「おお! 本当にアダマンタイトだ。見たのは50、いや70年ぶりか」


 アダマンタイトが放つ輝きを見ながら、鍛冶師は童心に返ったかのように目を光らせる。


 親方曰く、鍛冶師としてのやる気を失ったと聞いたけれど、今のところそうは見えない。この調子でいけば、武器を作ってもらえるかも。


「俺の名前はクロノ。こっちはミィミです」


「……ガルナンという」


「ガルナンさん、そのアダマンタイトを使って、この子に武器を作ってもらえませんか?」


「……ダメだ」


「何故です?」


「わしはもう引退した身だ」


「そんな話は聞いてませんけど」


「つい最近決めた。……それにもう100年近く魔鉱も鉄も打ってない。腕はとっくに錆びている」


「情熱もですか?」


「クロノとかいったか、小僧。どうしてわしにそこまで食い下がる」


「ガルナンさんがアダマンタイトを見ている時の目……。あれは鍛冶師としての情熱を失った人の目には見えませんでした」


 ガルナンさんは唸る。参ったなという感じで薄い灰色の髪を撫でる。それでも「うん」とは言わない。俺からもらったアダマンタイトに目を落としたまま固まっていた。


「腕は錆びていると思います。でも、情熱があればまた取り戻せる――俺はそう思います」


「若造が……。知った風な口を……」


「わかるんですよ、俺にも」


 年こそ違うが俺も1000年前は大賢者と呼ばれていた男だ。

 あの時のような「世界を救おう」という情熱こそないが、あの時の自分を取り戻そうという情熱は胸の中で激しく燃えている。取り戻した後のことはまだ考えていないが、1つ言えることはたとえ失ってもまた取り戻せるということだ。問題はただ本人の意志だけだ。


「それにガルナンさん、さっき俺の剣――――刀を見て、何か感じましたよね」


 俺は1度刀を納刀すると、ガルナンさんに差し出した。


「是非見てください。俺が自慢できる唯一の逸品です」


 ガルナンさんは迷っていたが、好奇心には勝てなかったようだ。

 差し出された刀に手を伸ばすと、慎重に鞘から抜いた。鞘から抜き放たていく刃の鋭さ、刃紋の美しさ、そして光……。ガルナンさんの目がさらに輝いていく。


「見たことのないが聞いたことぐらいはある。なるほど。これが勇者の世界にあるというカタナ(ヽヽヽ)という武器か」


「そうです。俺が信頼する鍛冶師に打ってもらいました。とても腕のいい鍛冶師です」


「ならば、そいつに打ってもらえ」


「残念ながらその子のクラスは【鍛冶師】なんです。ただあなたにそっくりです。工房ではなく、こんなところに穴を掘って、地下に工房を作ってるところなんか」


「地下に工房……?」


「名前はアンジェリカ。アンジェと呼ばれています。もしかしてガルナンさんは知ってるんじゃないですか?」


「弟子だ……。50年ほど前になる」


 やはり。

 穴を見て、ピンと来たのだ。

 アンジェほどの腕を持つ鍛冶師なら、その師も相当な腕が立つことはなんとなく想像できる。そして何故ガルナンさんが筆を、いや鎚を折ったのかはなんとなく予想がつく。


「アンジェはどんな子でした?」


「……優秀な弟子だった。わしが恐れるほどにな。それ故、厳しくしすぎてしまった。耐えきれず、あいつはわしの袂からいなくなった。良かったのだ。もうその時には、わしの教えることなど1つもなかったのだからな」


「なんで厳しくしたんですか?」


「才能がある故に、邪な道へ行ってほしくなかったからだ。結果、あいつを追い詰めることになったが。なあ……。あいつはどうしている?」


「それは俺が話さずともわかるでしょ」


 ガルナンさんの視線は、自然と俺の口元から手元にあった刀へと向けられる。


「真っ直ぐで純粋な刀だな」


「はい。あなたの教え通りです」


 ガルナンさんは満足そうに、そして嬉しそうに頷いた。時折涙を見せ、鼻をすする。「最近涙脆くていけねぇ」なんて江戸っ子みたいなことを言いながら、照れていた。心底ホッとしたのだろう。


 実は俺の予想は外れた。


 俺はアンジェの才能にガルナンさんが嫉妬したから鍛冶を辞めたのだと思った。しかし、それは違っていた。アンジェに嫉妬したんじゃない。彼女のほどの才能を、ちゃんと真っ直ぐ育てられたのか、ずっとそれが気がかりだったのだろう。


「クロノとやら。この刀には弱点がある。わかるか?」


「俺にはそう見えませんが……」


「鍛ち手が純粋すぎるのだ。ただ純粋だけな武器は脆い。硝子のようなものだ。包丁や果物ナイフならそれでもいい。しかし、武器とは命を殺めるものだ。骨も血も、感情も受け止めるものに純粋なものは叶わない」


「なるほど。なら、あなたならできますか? 岩を断つほどの刀を」


「保証できかねる。……使い手次第だ」


 ガルナンさんはニヤリと笑った。


 それまでの目の輝きと違う。心なしか血色もよくなったような気がする。何より挑戦者の雰囲気を纏っていた。クラスこそ自分より下位でありながら、類い稀なる才能を持つ者に挑戦する――そんな男の顔をしていた。


「それは保証します」


「いいだろう。請け負おう――――と言いたいところだが、1つ問題がある」


「なんでしょうか?」


「実は――――」



 あるじ!!!!



 それまでずっと黙ってガルナンと俺の会話を聞いていたミィミが叫ぶ。


 お腹の辺りをさすりながら、少女は涙目で訴えた。


「生まれるよ」



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