第44話 英雄の甘露
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【名前】 英雄の甘露
【レア度】 ★★★★★
【使用推奨レベル】 LV 60
【クラス】超人
【スキル】〈マックスパワー〉
【効果】クラスレベル〝3〟上昇し、さらにスキルツリーレベルを限界値まで上げる。効果は5分間。
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『英雄の甘露』を飲み干す。
その瞬間、身体の中には電流のような鋭い感覚が走る。胃の辺りから一気に体温が拡散し、毛穴が開き、自然と髪の毛が逆立っていく。
身体の中で魔力が満ち満ちて、さらに膨張するのを感じる。あふれ出た魔力は光となって、俺を包んだ。
(喉が……、いや全身が灼けるように暑い……。でもわかる)
この感覚……覚えている。
俺が昔英雄と讃えられた時と似ているのだ。
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【名前】 クロノ・ケンゴ
【ギフト】 おもいだす LV Ⅴ 【クラス】 大賢者
【スキルツリー】 LV 150
[魔法効果]LV 50 [知識]LV 50 [魔法]LV 50
魔力 550%上昇 賢者の記憶 魔法の刃 魔力増幅
魔力量 550%上昇 劣魔物の知識 貪亀の呪い 破魔の盾
魔法速度 550%上昇 薬の知識 菌毒の槍 歴泉の陣
弟子の知識 小回復 収納
錬金見習いの知識 属性変化 闇の霧
中級魔物の知識 次元の扉 天候支配
魔草の知識 テレパシー 不和の魔眼
魔法使い知識 使い魔召喚 絶対障壁
錬金の知識 生命の息吹 虚無の剣
上級魔物の知識
天候の知識
【固有スキル】 【隕石落とし(メテオラ)】
【緊急離脱】
【装備】 魔導士のローブ 三角帽 日本刀
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「むかしのあるじだ……」
燃えさかる炎のように魔力を巡らす俺を見て、ミィミが呟く。直後、ミィミは後ろに倒れた。俺は素早く動いて、ミィミを受け止める。おそらくホッとして気が抜けたのだろう。
胸に抱くミィミはとても軽い。こんな少女が、ギフトを使わずにたった1人で相対していた。激戦であったことは、ミィミの姿と一緒に戦った武器を見れば一目瞭然だった。
「ミィミ、もう少しだけ待っててくれ」
俺はそっとミィミを寝かせる。
警護するようにミスリルハルバードを側に突き立てると、俺は真っ直ぐクィーンスパイダーに向かって行った。
それまで威勢のよかった魔獣はゴロゴロと喉を鳴らして、俺を目で威嚇してくる。時折、笑みを見せていた余裕はすでにクィーンスパイダーからは感じられない。
「獣でもわかるんだな……」
圧倒的戦力差という奴を……。
『グアアアアアアアアアア!!』
突如叫び声を上げて、襲いかかってきたのはミスリルゴーレムだ。それに続いて、ソルジャースパイダー、ミスリルゴーレム、ミスリルラーバが追従する。今やこの空間でたった1人の人間側となった俺に、一斉に群がった。
女王を助けろ、というところだろうか。だが、魔獣たちの一致団結した行動を止めたのは、クィーンスパイダーの方だ。
『ギギギギッ!!』
やめろ! という感じで悲鳴が響く。しかし、もう遅い。すでに魔獣や魔鉱獣たちは、俺の魔法の領域に入っていた。
〈不和の魔眼〉!
俺の目が光り、視線を通して獣たちに魔力をぶつける。すると、ミスリルラーバも、ソルジャースパイダーも、そしてミスリルゴーレムもぴたりと止まった。
〈不和の魔眼〉は魔獣の意識を一時的に支配する魔法だ。さらに俺は〈上級魔物の知識〉を使い、魔獣たちに命令を下す。さっきは俺の方に向けていた殺意がゆっくりと背後へと向けられていく。
魔獣たちは大きく唸りを上げ、目の前の巨大な蜘蛛に向かっていった。
「〈不和の魔眼〉は強力な洗脳魔法だ。スキルツリーレベルが低い魔獣はその支配から抗うことはできない。この魔法に今耐えられるのは、お前だけだ、クィーンスパイダー」
ついに魔獣たちはクィーンスパイダーに飛びかかる。肢に噛み付き、尻や腹、硬い外骨格を壊していく。その姿は大型の昆虫に群がる蟻の姿に似ていた。
クィーンスパイダーは黙ってみていなかった。前肢で次々と魔獣たちを蹴散らしていく。元養分だったゴーレムも真っ二つに切り裂いてしまった。
「形勢逆転だな」
残り3分……。
十分な時間だ。
終わりにしよう。
俺は刀を構えた
〈魔法の刃〉!!
〈魔法の刃〉!!
それは刃というよりは、ミサイルに近いかもしれない。さらに〈魔法使いの知識〉によって、無詠唱、二重詠唱によって同時に2つの魔法を撃ち放つことができる。
それだけではない。
複数の〈魔法の刃〉はすべて着弾する。たった1発の魔法だけで、クィーンスパイダーの外骨格は、半壊状態になっていた。
「[魔力効果]によって、今や俺の魔力は、攻撃力、速度、量ともに上昇率が500%以上だ。当初の五倍の力ならば、如何にお前の外骨格が硬かろうと、ツリーレベルがこちらが上ならば、造作もない」
そして……、あと斬るだけだ。
俺は走り出す。
向かうはクィーンスパイダーだ。
刀を両手で持ち、一気に片をつけようと前に出る。
「終わりだ!!」
エイリアさんの無念。
ここに散った冒険者の無念。
仕事ができない鉱夫の無念。
ここで断ち切らせてもらう。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッ!!」
飛び上がり、俺は刀を大上段から振り下ろす。決まったと思った一瞬、クィーンスパイダーの顎門が開く。その口の中で、青白い光が渦を巻いていた。同時にクィーンスパイダーが纏ったミスリルも光っていた。
「しま――――」
ドォオオオオオオオオンンン!!
巨大な光の収束砲が放たれる。それは真っ直ぐ空間を横切ると、斜め上へと抜けていく。容赦のないパワーは鉱山を貫き、外に出ても衰えなかった。
やがて浮かんだ空を割った。
おそらくそれはクィーンスパイダーの奥の手だったのだろう。使えば、鉱山自体を破壊しかねない一撃。リスクを冒しても放ったのは、それだけ鉱山の女王が追い詰められていたからだ。
ゴロゴロと喉を鳴らし、クィーンスパイダーは満足そうに微笑む。
だが……。
「惜しかったな」
〈破魔の盾〉
その効果は1日1度だけ魔法の攻撃から必ず身を守るというものだ。
「物理で殴ってくる奴が多くてな。……今日はまだ1度も使ってないんだよ」
収束砲で巻き起こった上昇気流に煽られながら、俺はゆっくりと落下していく。
その手には、現代最強の白兵戦兵器『日本刀』が握られていた。
ジャンッ!!
クィーンスパイダーの顔が縦に割れる。さらにファスナーを開くように、巨大な女王蜘蛛の身体は縦に割け、そして轟音とともに倒れた。
その直後だった。
『英雄の甘露』の効果が切れたのは……。それまで軽かった身体が、ずっしりと鉛を背負ったかように重くなる。10年分の疲れがドッと押し寄せてきたかのようだ。
「ともかくだ……」
クィーンスパイダーが赤い燐光とともに消滅していく。
俺はミィミの側でそれを見守った。赤い髪を撫でながら、相棒を労う。ミスリルハルバードの鋭い刃に燐光の輝きが反射すると、まるで泣いているようにも見えた。
「やったぞ、ミィミ」
俺たちの勝ちだ!