第43話 激闘
◆◇◆◇◆ クロノ ◆◇◆◇◆
〈魔法の刃〉!!
〈魔法の刃〉!!
〈魔法の刃〉!!
連続射出する。
〈弟子の知恵〉によって全体化された白刃は分散すると、ソルジャースパイダーの群れに直撃した。
しかし、1発では倒せない。
ミィミが相手をするクィーンスパイダーに比べれば雑魚だが、それなりにランクの高い魔獣だけあって体力があるらしい。
全体化のおかげで魔力の消費は抑えられているが、これはこれでキツい。さらにソルジャースパイダーの動きは素早く、〈魔法の刃〉の速度と軌道に対応する個体もあった。
そんな猛者が、波のように押し寄せる白刃をかいくぐって、俺の間合いに侵入してくる。
「俺が魔法だけだと思うなよ」
刀を閃かせ、躍り出たソルジャースパイダーを一刀両断する。
多少血しぶきを上げながら、ソルジャースパイダーは消滅した。
(こいつら、意外と脆い?)
刀から伝わってきた感触に、俺は一瞬戸惑う。そこにまたソルジャースパイダーが襲いかかってきたが、立て続けに2匹を平らげた。
「こいつら親のクィーンスパイダーとは違って、魔鉱化していないのか?」
クィーンスパイダーはフルプレートの鎧を装備するかのようにミスリルやその他の鉱物に身を包んでいる。どうやら、それもあってミィミも苦戦しているようだ。
だけど、ソルジャースパイダーは違う。ほとんどが魔鉱獣と化していない。つまり普通のソルジャースパイダーなのだ。
考えられる可能性は、すべて親であるクィーンスパイダーに搾取されたからだろう。
(なら、属性魔法が通じるか)
俺は刀で振るって、ソルジャースパイダーとの間を開ける。
すかさず手をかざした。
〈号雷槍〉!
雷属性を伴った槍はけたたましい音を立てながら、向かってきたソルジャースパイダーを貫く。さらに雷撃の効果によって、一撃で消滅した。
「いけるな! ならば!!」
〈号雷槍〉!
さらに!
〈弟子の知恵〉!
最初は1本だった雷の槍が何十本と俺の頭上で輝く。バリバリという音と光に、さしものソルジャースパイダーたちもおののいた。
「食らえ!!」
ソルジャースパイダーに槍を投げつける。無数の雷の槍はまさにレーザービームのようにソルジャースパイダーを貫く。
強烈なダメージに加え、〈魔法の刃〉よりもはるかに速い射出速度はソルジャースパイダーの回避能力を上回り、根こそぎ駆逐された。
(気持ちいい……)
全体化が決まって一気に魔獣を倒すのは何度もやっても爽快だ。
俺はソルジャースパイダーの落とした魔結晶を潰していく。
『スキルポイントを獲得しました。スキルレベルを最大3つまで上げることができます』
あれだけ倒して、スキルレベルは3つまでしか上げられないか。予想していたが、目標レベルまではまだまだだ。
「あるじ、伏せて!!」
ミィミの声が聞こえる。
確認と思考の前に俺は頭を下げる。その上を紅蓮の火線が飛んでいった。岩肌を焼く一撃。ミィミの声がなければ、首がすっとんでいたかもしれない。
そのミィミの身体は煤だらけになっていた。目の端で見ていたが、クィーンスパイダーの炎に手を焼いているらしい。
何度も呼吸を繰り返し、新たな相棒と一緒にクィーンスパイダーを睨み返した。俺は背中越しに声をかける。
「調子はどうだ、相棒」
「ぜっこうちょうだよ、あるじ!」
「そいつは良かった。もう少し耐えてくれ、ミィミ」
「うん! だいじょうぶ!!」
再び各々の相手に相対しようとした時、頭上から何かが落ちてくる。ドンッと大きな砂埃を上げて、目の前に現れたのは大きな繭だ。それも1つだけではない、確認できるだけで計3つはある。どうやら先ほどの火線によって、糸が切れ、落ちてきたらしい。
繭がムズムズと動き始めると、蝶の羽化のように繭が割れる。現れたのは、美しい蝶とはほど遠い。
「ぶおおおおおおおおおおおおお!」
ミスリルゴーレムだ。
ゴツゴツとした岩の表皮を見せて、洞窟全体が震動するように嘶く。おそらくクィーンスパイダーの餌として囚われていたのだろう。
長い間囚われていたすれば、相当のお腹が空いているはずだ。人族の俺やミィミに指向がむくと、ミスリルゴーレムは襲いかかってきた。
「あるじ、あのゴーレムが3ひきいるよ……」
「チャンスだ!」
「え? ええええええ?」
絶体絶命にも見えるが、これはチャンスだ。
「ソルジャースパイダーでは俺の目的は果たせない。そういう意味ではミスリルゴーレムは打って付けだ」
思わず笑みがこぼれる。
それを見て、ミィミも少し安心したように微笑んだ。
「あるじ、わるだくみ?」
「そんなところだ。ミィミ、合図をしたらスイッチしてくれ」
「ばしょを変えるんだね。わかった! 行くよ、ハルバン! もうちょっとがんばるよ!!」
ミィミはいつも通り元気よく返事する。
再び俺たちは自分の相手の前に踊り出る。後ろでミィミがクィーンスパイダーを引きつける音が聞こえる。
俺は俺で無数の魔獣の前に立ちはだかった。
魔獣はミスリルゴーレムだけじゃない。騒ぎを聞きつけて、穴という穴からソルジャースパイダーが出てくる。さらに大型化したミスリルラーバの姿もあった。
「【大賢者】の俺に、大層な大歓迎だな。けど、大宴会よりは俺は仲間内で慎ましくやる飲み会が好きなんだ」
といっても、コンパとか合コンとかやったことはないけどな。
〈号雷槍〉+全体化!!
無数の雷の槍を放つ。
ひとまずソルジャースパイダーの露払いをすませると、残ったミスリルゴーレムとミスリルラーバに集中する。
「ぜいっ!」
俺は向かってきたミスリルラーバを一刀に処す。さすがはアンジェが作った刀だ。ミスリル相手でも、刃こぼれ1つしない。
(ミスリルラーバの対応はこれで可能だな。いざとなれば〈魔法の刃〉でなんとなる。問題は……)
俺は魔力回復役の瓶を捨てながら、そびえ立つ3体のミスリルゴーレムを睨む。
こいつらの強度は、ミスリルできた城門並みの硬さだ。加えて〈自己回復〉のスキルのおかげで、並みの火力では倒せない。残念ながら手持ちの俺のスキルで、それを突破するのは難しい。アンジェの刀も、あそこまで分厚いとスパッと斬ることはできない。
ミスリルゴーレムの核を直接攻撃すれば俺にも勝機があるが、やはり覆っているミスリルが問題だ。
〈魔法の刃〉!!
ミスリルゴーレムの足に向かって、魔法を放つ。足元の岩盤がくずれると、ミスリルゴーレムはよろけた。顔が低い位置になったことを確認して、俺は魔法を唱える。
〈収納箱〉
便利な収納魔法から取り出したのは、1個の丸い黒玉。その導火線にはすでに火が灯り、バチバチと音を立てていた。
「ダイナマイトだ!」
俺はミスリルゴーレムに投げつける。現代ではお馴染みの火薬で、こちらでも炭鉱を掘削する時に使われているらしい。掘削作業ができなくなったイールであらかじめ買いそろえていたのだ。
ドンッ!!
爆発音が響く。
エイリアさんと戦った時の教訓を経て、火薬の量は減らしておいた。だから、洞窟が崩れるほどの威力はない。
しかし、至近で爆発を受けた1体のミスリルゴーレムの顔は半分吹き飛んでいた。
『ごごご……ごご…………』
当然、それでは致命傷に至らない。俺自身もそれで倒せるとは思っていなかった。事実、ミスリルゴーレムの顔はみるみる回復していく。
完全回復すると、無傷のミスリルゴーレムと一緒に雄叫びを上げる。続いて、俺の方に走ってきた。
(よし! 俺の方にヘイトを向けたな)
俺は翻って、後退する。
正確に言えば、後ろ側で戦っているミィミとクィーンスパイダーに向かってだ。
「ミィミ、スイッチ!!」
「うん!!」
ミィミと俺の立ち位置が変わる。
俺はクィーンスパイダーを、ミィミは追撃するミスリルゴーレム3体と対峙する。
『キシャアアアアアアアアア!!』
現れた俺を見て、クィーンスパイダーは威嚇してくる。改めてみると、すごい威圧感だ。この巨大蜘蛛相手にミィミ1人で戦っていたかと思うと、ゾッとする。
今の俺がこのクィーンスパイダーに肉薄できるとすれば、これしかない。
〈菌毒の槍〉!!
狙うはクィーンスパイダーが纏うミスリルの外骨格ではない。
目だ!!
『ジャアアアアアアアアアア!!』
見事、クィーンスパイダーの目を射貫く。如何に硬い外骨格があろうと、目はどうしても無防備になる。
さらに〈菌毒の槍〉の毒に犯され、クィーンスパイダーは身悶えた。
真っ赤になった複眼で俺を睨むと、薄い刃のような肢を動かし、俺に向かって突進してくる。
「怖い怖い……。ちょっと退散させてもらうぞ」
〈収納箱〉から煙幕を取り出し、後方に投げる。濛々と湧き上がった煙の中に俺は隠れたが、構わずクィーンスパイダーは追従した。
一時的に視力を失ったクイーンスパイダーは何も見えない煙幕の中で闇雲に動く。
すると、クィーンスパイダーは動く気配に釣られた。
自慢の前肢を動かし、煙幕の中で動く物を切り裂く。
ドガガガガガガガッッッ!!
耳をつんざくような轟音が響いた。煙幕から押し出されるように吹き飛んだのは、3体のミスリルゴーレムである。
その身体がバラバラになり、幸運というより狙い通り核が露出していた。
半死半生のミスリルゴーレムを煙幕の外で待っていた俺がとどめをさす
〈号雷槍〉!!
全体化した雷撃の槍がミスリルゴーレムの核を潰す。ついに3体のミスリルゴーレムはミスリルと大きな魔結晶だけ残して、消滅した。
俺はすかさず魔結晶を砕く。
『スキルポイントを獲得しました。スキルレベルを最大5つまで上げることができます』
ナイス! これはおいしい!!
そうとわかれば、お代わりだ。
「ミィミ、まだ天井に貼り付いている繭を斬ってくれ!」
「わかった!!」
俺の意図を察したのだろう。
ミィミは岩肌に張り巡らされた繭糸を伝って、次々と繭玉の中にあった魔獣たちを解放する。煙幕の中にいるクィーンスパイダーに落とすと、物音や気配に反応して、次々と前肢で切り裂いていった。
俺は煙幕から出てくる魔獣たちにとどめを刺し、魔結晶を壊していく。
『スキルポイントを獲得しました。スキルレベルを最大2つまで上げることができます』
あと、必要レベル4!
『スキルポイントを獲得しました。スキルレベルを最大3つまで上げることができます』
あと〝1〟……!
『スキルポイントを獲得しました。スキルレベルを1つまで上げることができます』
『上限に到達しました。これ以上スキルレベルを上げるためには、クラスレベルを上げてください』
「よし! 到達だ」
現状、クラスレベル2で到達できる最高値〝60〟を達成した。
「あるじ、やったね」
「いや、まだだ! この状態ではまだクィーンに及ばない。だから、俺はさらなる高みに至る」
通常、クラスレベルが上がらなければ、これ以上レベルを上げることはできない。
しかし、クラスアップアイテム以外に、一時的にレベル上げる方法はある。
そのアイテムの使用条件は、クラスツリーレベル60以上。
そう。それもまたマテリアルデバイス、いやマテリアルアイテムなのだ。
やがて、煙が晴れていく。
ついにクィーンスパイダーは煙幕の外にいた俺たちを捕捉した。
「行くぞ、クィーンスパイダー。この力が、俺が今出せる最高の火力だ」
俺は〈収納箱〉から1杯の杯を取り出した。
「これが『英雄の甘露』だ……!」