第41話 ボス種
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イラストレーターは「チート薬師のスローライフ」の松うに先生です。
ヒロインがめっちゃかわいいので、ご予約お願いします。
ミィミの一撃はミスリルゴーレムを覆うミスリルの鎧を穿つ。
「ぬうううううううううう!!」
さらにミィミは力を込めた。
鬼の形相でハンマーを押し込むと、鎧の奥に埋まっていた核にヒビが入った。
そして裂帛の気合いのもと、ミィミはついに核を砕く。
『ぶごごごごごごごごっっっっ!!』
ミスリルゴーレムたらしめていた魔力が一気に漏出する。赤い光が広がると、眼窩の奥の光が消失した。ガラリと音を立て、残ったのは大きなミスリルの塊だけだった。
「たおした?」
ミィミから急激に殺気が抜けていく。同時に〈狂化〉の効力もなくなると、元のミィミに戻った。
「ああ。よくやった、ミィミ」
俺はミィミを抱きしめる。
ついでに頭を撫でてやる。
ミィミはホッと息を吐いた後、すぐ俺に抱きついて甘えた。どうやらいつものミィミに戻ったらしい。
「あるじ! ミィミ、つよかった? すごかった?」
「ああ。強かったし、凄かったぞ。本当によくやってくれた。さすが俺の相棒だな」
「むふ~。あるじ~」
満足そうに息を吐く。
今はこんな労いしかできないが、帰ったらご馳走だな。
「あるじ、ミスリルゴーレムつよかった」
「ああ。ちょっと油断していた」
というより、正直に言って異常だ。
最初のアーマーバッシュといい、自己修復といい、俺が保有していることを知らないスキルを使ってきた。
だが、こうやって倒してみて、思考が冷静になっていくにつれ、なんとなく原因がわかってきた。
やはりこの鉱山の異常環境が原因と見ていい。
魔鉱の暴走は雨や霧のような自然現象と同じだ。鉱山内の換気を徹底し、魔力を輩出してやれば、自ずと鎮静化する。そうでなくても、時間とともに消失するものだ。
なのに、ロスローエン鉱山は違う。
魔鉱の暴走が始まって、3ヵ月が経つというのに、空気中の魔力が減少するどころか、さらに濃くなっている印象だ。これではダンジョン化は止められない。必然、魔力を餌とする魔獣や魔鉱獣はより強力になる。
それは巨大化したミスリルラーバや、スキルを使いこなすミスリルゴーレムを明らかだ。
おそらく鉱山が今の状況のようになった原因は、魔鉱の暴走以外にある。仮にそれを突き止めなければ、鉱山は一生このままかもしれない。
不意にイールで出会ったギルドマスターの顔がちらつく。その表情は怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。
『あたしが望むのは、旦那の形見でも骸でもない。これ以上犠牲者を増やさないことなんだからね』
すみません。エイリアさん、約束の一部を破らせてください。
「ミィミ……。相談なんだが……」
「あるじ! ミィミからのお願いを」
声が揃う。思わずキョトンとしてしまった。
「レディファーストだ。ミィミから言って」
「ミィミ! エイリアのパパをさがしたい。エイリアはさがしてほしくないっていってたけど、こんなばしょで1人いるのさびしい。ミィミ、さびしいのはイヤッ!」
ミィミは真剣に訴える。
今にも泣きそうな顔を見て、俺は不覚にも笑ってしまった。
どうやら同じことを考えていたらしい。
いきなり笑い始めた俺を見て、ミィミはポカポカと叩き始める。
「あるじ! なんで笑うの! ミィミ、とてもしんけん!!」
「ごめんごめん。そうだな、1人は寂しいもんな」
ミィミはその苦しさをよくわかっている。
エイリアさんの旦那さんがどうなっているかはわからないが、今もっとも近い場所にいることは確かだ。
ここまで来たら、ミィミの想いとともに何とか報いてあげたい。
(帰ったら、すっごく怒られそうだけどな)
「探索を続ける。目的はエイリアさんの旦那さんの安否確認。そして魔鉱の暴走の原因に何かヒントになりそうなことを見つけるんだ」
「うん! わかった!! ……あっ。そうだ。あるじ、これ……」
ミィミが恐る恐る出してきたのは、例のハンマーだ。
柄の部分もそうだが、ハンマーの頭の部分はヒビが入り、割れていた。対ミスリルと、ミィミの全力にハンマーがもたなかったらしい。
むしろよくもった方かもしれない。
「こわれちゃった」
「大丈夫。これは予測していた。壊れるまでよく振るった。ハンマーに感謝だ」
「おはかをたてる」
ミィミは穴を掘り出した。
もの言わぬ相棒とはいえ、ミィミからすれば戦友みたいなものだろう。
お墓を建てるというのは、小さなミィミらしい発想だ。
そんなミィミの想いが通じたのだろうか。俺たちは思わぬものに出くわす。
「これは……ドロップアイテムか」
魔獣を倒していると、たまにドロップアイテムが出てくる。魔獣の一部であったり、飲み込んだものだったり、それは様々だ。
たとえ飲み込んだものだとしても、本来は魔獣の体内で溶けて、分解されるものだが、奇跡的に見つけたアイテムは無事だったらしい。
今回、ミスリルゴーレムから出てきたのは、大きな斧槍だった。それもとびきりなレアな奴だ。
「これ……。マテリアルデバイスだ」
ミスリル製の刃に加えて、ミスリルの結晶が石突き、刃の部分にはめ込まれている。
詳しい事はきちんと鑑定しなければならないが、かなりの業物だ。
「思ったよりも重いな……。ミィミはどうだ?」
ミィミに預けると、片手で軽く振り回す。まるでミィミに吸い付くようだ。
「うん。悪くない」
「じゃあ、ミィミが使ってくれ。俺にはちと重い」
「うん。でも……」
先ほど作ったお墓を見つめる。
「あのハンマーが導いてくれた縁だと思おう」
「うん。ありがとう、ハンマーさん」
ミィミはペコリと一礼する。
俺は斧槍の中に刻まれたレベルを読み解く。
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【名前】 ミスリルハルバード
【レア度】 ★★★★☆ 【クラス】 重戦士 LV 1
【使用推奨レベル】 LV 10
【スキルツリー】 LV 30
[力]LV 10 +30%上昇
[技術]LV 10
戦士の魂
戦士の勘
[剣技]LV 10
振り下ろし
パリィ
亀甲羅斬り
※本来の重騎士の能力より劣る
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思わぬ収獲物だな。マテリアルデバイスの中には、使用に一定のスキルツリーレベルを必要とするが、ミィミは条件に合致する。
不幸中の幸いというべきか。あの武器をドロップできたことは、この後の探索にプラスに働くかもしれない。
◆◇◆◇◆
ミスリルゴーレムが出てきた横穴を進む。幸いなことに別のフロアに出てきた。先ほどの縦穴と違って、さほどの広くない。これならミスリルゴーレムのような大型の魔鉱獣は出てこられないはず。
俺はマテリアルデバイスに映った地図を頼りに、なるべく狭い通路を選びながら進んでいく。
怖いのはミスリルゴーレムのような大きな魔獣。そしてボス種だ。
ダンジョン化した場所にはかならず魔獣をまとめ上げるボス種が存在する。
ミスリルゴーレムの強さからして、Aランク。レベル70は想定しなければならないだろう。どう背伸びしても今の俺たちに太刀打ちはできない。
見つかった時は逃げるの一択だ。
「ん?」
「あるじ、どうしたの?」
「地図と違う」
つと立ち止まり、俺は何度も地図と実際の地形を確認する。たった3ヵ月とはいえ、魔獣がいる鉱山が放置されてきたのだ。地形が変わることはあるだろうが、どうもきな臭い。
「地図上ではここは広い空間だったはず」
「でも、狭い通路だよ、あるじ」
ミィミの言う通り、どう見ても狭い通路だ。
だが、ここまで地形が変わるだろうか。大きな崩落でも起きない限り、あり得ないと思うが……。
厄介なことに、他に道はない。この場合通路が狭くなっているのは僥倖だ。
「ミィミ、一気に駆け抜けるぞ」
「わかった。あるじ」
俺たちはタイミングを合わせて、走り出す。中頃まで来て、俺たちは足を止めた。洞窟に見慣れぬものがあったからだ。
「絹……?」
そう。まるで洗濯物でも干すように大きな白い布が天井から吊り下がっていた。
問題は、それが絹ではないことだ。
俺は腕輪を天井にかざす。
広がっていた光景に息を飲んだ。
そこには先ほどの絹が無数に広がっていた。その絹の中で何かが蠢いている。そして、ようやく俺は絹の正体に気づく。
「これは繭……。いや、糸か!! ――――はっ! ミィミ、走れ!!」
俺はミィミの背中を押す。
ともかく全力で駆け抜けた瞬間、どこからか擦るような音が聞こえる。それが足音だと気づいた時には、俺たちはすでに囲まれていた。
「ソルジャースパイダー……」
B-ランクの魔獣だ。
名前の通り、兵隊蜘蛛……。
そして兵隊がいるということは、守るべき女王も存在するということだ。
ガチャリ!!
重たい鎧を下ろしたような音がする。背後を振り返った時、三つの目が光って見えた。それはゆっくりと高くなっていき、俺たちを見下ろす。
鉄のアームできたような細い8本の肢。まるで豪奢なファーを被ったような鋭い毛に、大きなお尻。開いた牙からは涎が溢れ、腐った獣臭が鼻を突く。前肢の死神の鎌めいて鋭く、暗がりの洞窟の中でも冷たく光っていた。
ミスリルゴーレムほどの高さはないが、振りまく威厳は従えるソルジャースパイダーの君主にふさわしい。
間違いない……。
「最悪だ……」
こいつが、この鉱山のボス種だ!