第37話 鉱山街のギルド
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イラストレーターは「チート薬師のスローライフ」の松うに先生です。
ヒロインがめっちゃかわいいので、ご予約お願いします。
妙なことになった。
鉱山の状況を聞くためにギルドにやってきたはいいが、まさかそのギルドマスターと戦うことになるなんて。
気が引けるが、向こうはやる気満々だ。ギルドの扉や窓を閉め切り、「オープン」の札を「クローズ」に裏返した。
「よし。これで誰も来ないだろう」
「本気ですか?」
「君たちは本気じゃないのか? 鉱山に行って、ミスリルを取りたいんだろ」
「それはそうですが……」
「鉱山は今や魔窟だ。生半可なレベルの冒険者では太刀打ちさえできないだろう。まして、君たちのレベルは半人前以下だ。年長者として、責任者として教え込む必要がある」
「…………」
「さあ、始めようか。ルールは簡単だ。あたしに参ったを言わせるか、あたしを外に出したら、あんたらの勝ち。その逆があたしの勝ちだ」
「あんたを外に出す?」
「そのままの意味だよ」
なんだか相撲みたいなルールだな。
「1つお願いしたいが、見ての通りのボロ屋でね。年季も入ってるからあちこちガタが来ている。ちょっと派手な魔法をかました瞬間、建物ごと崩れる可能性が高い」
なら、外でやればいいと思うのだが……。おそらく何かしらの事情があるのだろう。
「では、始めようか」
「こっちは……」
「2人で来なさい」
「いいのか?」
「言ったろ。君たちは半人前以下だってね」
エイリアは果物ナイフぐらいの小さなナイフを取り出すと、指先で弄ぶ。
「完全に舐められてるな。ミィミ、頑張るぞ」
「うー! ミィミ、がんばる!」
ミィミはやる気を漲らせる。
そして試合は始まった。
最初に元気よく飛び出したのは、ミィミだ。クラスの能力と言うより、ミィミの基礎能力は最初から高い。たとえクラスレベルが低かろうと、全体的なステータスはクラスレベル3の冒険者となんら引けを取らない。
事実、ミィミはあっさりエイリアの懐に飛び込んだ。
「行っくよ!」
すかさず右フックを食らわせる。
エイリアの脇腹を抉るかと思われたが、エイリアの姿が歪んだ。それどころか完全に消えてしまう。まさに煙に巻かれたようにだ。
「ほよ?」
「ミィミ、後ろだ」
「速いね。ちょっと驚いたよ」
背後に回り込んだエイリアはミィミの背中を蹴る。威力十分の蹴りは、ミィミを吹き飛ばし、壁に叩きつける。
「ミィミ!」
「仲間の心配をしている場合かい?」
気が付いた時には、エイリアがすぐ側にいた。ミィミを蹴られて、2秒も経過していない。その間に、一瞬にして俺の方に詰めてきたのだ。
エイリアの持ったナイフが閃く。
俺は寸前のところで躱すが、ナイフの斬撃は後退する俺を追いかけてくる。
(落ち着け……)
見たところ、エイリアの攻撃はさほど脅威じゃない。距離の詰め方には驚かされたが、目が追いつかないほどというわけではなかった。
やはり問題があるとしたら、一瞬にしてキルゾーンに入ってくるスピードと、謎の回避方法か。
俺はまだエイリアのクラスを知らない。これはあくまで俺の歴戦の勘だが、俺たちはすでにエイリアの術中にはまりつつある。
思えば、この試合のルールも、状況も、すべてエイリアの条件の下で作られたものだ。
おそらくこの埃立った薄暗い室内を締め切ったことにも何か意味があるのだろう。
「悠長に考えている場合かね、魔法使いくん」
「え?」
気が付けば、俺は壁を背にしていた。
そこにエイリアのハイキックが襲いかかる。単なる打撃が目的じゃない。おそらく壁をぶち破って、俺を外に出すつもりだ。
蹴りの威力は先ほどのミィミを吹き飛ばしたところを見ると、決して低くはない。
「あるじ!!」
悲鳴じみた叫びとともに、エイリアの後ろから飛びかかったのは、ミィミだ。
エイリアは寸前のところハイキックを停止する。ミィミを受け止めるかと思ったが、再び霧のように消えた。
「わっ! ミィミ!!」
「あるじ、よけて!!」
エイリアを通り抜けたミィミと、俺がぶつかる。幸い外に放り出ることはなかったが、組んずほぐれつと惨憺たる姿だ。
「アハハハハハ。無様だね」
エイリアの笑い声が薄暗いギルドの1階に響く。その声を聞きながら、俺とミィミは立ち上がった。
「ミィミ、大丈夫か?」
「うん。あるじは」
「俺もだ。それよりも……」
「うん」
「「この人、強い……!」」
さすがはギルドマスターだけはある。どこのギルドも引退した冒険者やその関係者が責任者になっていることが多い職業だが、現役の頃はさぞかし名のある冒険者だったのだろう。
そもそもエルフというところから侮れない。
ゲームやラノベに出てくるエルフは弓を射たり、魔法を使ったり、後衛タイプのキャラが多いが、この世界のエルフは違う。
身体はさほど強くないが、長い年月を生きるだけあって、どのエルフも技術レベルが達人の域に達していることが多い。ステータスでも、クラスレベルによって成長が一時的に阻害されることがあるとはいえ、たいがいが高レベルだ。一応、それもわかっていて挑んだのだが、さすがにこうも手玉に取られるとは思ってもみなかった。
「戦えばなんとかなると思っていたが……。無策すぎたな。【大賢者】失格だな」
「だいじょうぶ」
「ミィミ?」
「あるじはつよい、かしこいし、あたまもいい。何よりかっこいい」
「み、ミィミ……?」
なんかそこまではっきり言われると、めちゃくちゃ恥ずかしいのだが……。
「だから、ミィミのあるじは勝つよ」
勝つ、と確信を持って響いたミィミの瞳に一片の迷いはない。俺が負けるなんて微塵も考えていないらしい。
さすがにそういう目をされるとプレッシャーだな。
でも……。
「そこまで言われて、勝たないわけにはいかないな」
「ほう。まだやるかね」
「ああ。ようやくあんたの正体が見えてきたところだしな」
俺は1本の筒をエイリアに投げる。
見たこともない筒にエイリアの反応が一歩遅れた。そこにすかさず俺は〈号雷槍〉を使う。
(威力は最小限に絞って……)
雷を帯びた槍を筒に向かって投げつける。
「もしかして爆薬? 君、ルール違反だぞ」
「違う! それは!!」
〈号雷槍〉が筒に着弾する。そこから生まれたのは強烈な光だった。
マグネシウムを使った閃光弾なんて、この世界の人間なら初めてだろう。案の定、思いっきり光を浴びたエイリアは怯む。一時的とはいえ、完全に視力を失ったらしい。
そこに飛び込んだのは、ミィミだ。
「うりゃあああああああ!!」
「くそ! シャドウ――――」
エイリアは何かスキルを発動しようとしたが、発動しなかった。そこにミィミの拳がお腹に突き刺さる。遠慮の無い緋狼族の一撃に、さしものエイリアも顔を歪める。
さすがに外に吹き飛ばされることはなかったが、壁まで押し返すことができた。
「エイリア……。あんたの行動にはすべて意味があった。場所を室内に限定したことも、派手なスキルが使えないというルールも、そして窓を閉めて、薄暗くしたこの状況も……。すべて意味があったんだ」
「ほう……。聞こうじゃないか、その意味とやらを」
「ここは言わば、鉱山の中だ」
薄暗く、密閉された室内。
爆発や破壊系のスキルが使えない。
これは光の届きにくい鉱山の薄暗さと、脆い岩盤を意識したものなのだろう。
「エイリア……、いやエイリアさん、あんたは俺たちが鉱山で戦って、どれだけ動けるかを試していたんじゃないか?」
エイリアが強いのは認める。
しかし、一番の問題は室内戦というだけで手持ちの魔法やスキルでは半分近く使えないため、俺たちの力が半減してしまうことだ。
「対するあんたのは狭い空間内で一番効果が発揮できるクラス――――即ち【探窟家】だ」
名前の通り、洞窟探索に特化したクラスで、罠の解除や逆に罠を仕掛けるスキル。短刀を魔法剣にする魔法。そして特に室内で威力を発揮するのが、[シャドウステップ]というスキルだ。
影から影に移動できるこのスキルなら、暗い洞窟内ならどこにでも移動できる。暗闇で無敵のスキルなのだ。
「ただし[シャドウステップ]に弱点がある。離れた影の場所には移動できないことだ。あくまで移動できる影はつながっていなければならない」
だから、俺は閃光弾を打って、隠れる陰をなくした。
[シャドウステップ]で移動できなかったエイリアは、ミィミの攻撃をまともに受けるしかなかったというわけだ。
パチパチ……。
俺の解説が終わると、エイリアは拍手を送る。
「なかなか博識じゃないか。他人のクラスをそこまで知っているなんて、なかなか勉強熱心なんだね。……でも、種がわかっても対処法はないよ。それとも建物に穴を開けるかい。やめておいた方がいい。そろそろ陽が沈む頃合いだからね」
先ほどから闇が深く濃くなっている気がする。エイリアの言う通り、陽が沈みかけているのだろう。
「それともさっきの攻撃をもう1度しかけてみるかい?」
トドメにニヤリと笑ってみせる。
戦闘経験豊富なエルフだ。
二番煎じは通じないことはわかっている。だが、同じく俺もエイリアの攻略方法を見抜いていた。
「ミィミ、スキルポイントは残ってるな」
「うん。あるじの言う通り残してあるよ」
「よし。[獣の声]をLV8まで上昇」
「わかった。おお。あるじ、なんか覚えたよ」
「よし。早速使ってみてくれ」
「わかった」
ミィミは覚えたばかりのスキルを使う。一方、エイリアは距離を詰めてくる。狙うは俺だ。頭の俺を先に叩こうという魂胆なのだろう。
そこに立ちはだかったのは、ミィミだ。
「あるじはやらせないの」
「しつこい獣人ちゃんだね。またあたしのシャドウステップの餌食になりたいのかい?」
〈シャドウステップ〉
エイリアの姿がドロリと溶ける。
影の中に完全に姿をなくすと、エイリアの気配はなくなってしまった。
エイリアはゆっくりと現れる。音や匂いで悟らせないためだ。
彼女が出てきたのは、天井……。
ギルドの梁の上からだった。
「終わりよ」
エイリアが迫った瞬間、ミィミは反応する。まるで知っていたかのような動きに、エイリアは面を食らう。
その顔面にも強烈な一打を食らった。
ドンッ! という音をしたが、エイリアの傷は浅かった。
「危なかった。直前で〈ミストフォーム〉を使っていなかったら負けていた」
1日1回だけ、あらゆる物理攻撃を回避できる魔法だ。
当たれば必倒だった一撃を躱せたのは、〈ミストフォーム〉のおかげだった。
「くそ! 奥の手を使ってしまった。……そういえば、坊やはどこだ? 消えた。いつの間に? どこだ? 外に出た気配は……!」
「ここですよ!!」
エイリアが見えたのは手だ。
俺の掌底が綺麗にエイリアの顎を貫く。
「あっ……」
脳を揺らされたエイリアは崩れるように倒れる。
〈霧隠れ〉を解いた俺は、倒れたエイリアを見下ろすのだった。
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