コント「ユイはい」
配役・・・A=プロデューサー B=監督 ●=ト書き
●映画のヒロインを決めるオーディション会場。
●AとBが並んで審査している。
A「オーディションの結果は後ほど事務所にお知らせします。(Bを見る)監督、やめてくださいよ」
B「何が?」
A「何がって、机の下で僕の太ももに“まいて”って指で書いてたじゃないですか。今の子、そんなにダメでしたか?」
B「ダメじゃないさ。熱意もあるし演技も上手い。ただ・・・」
A「ただ?」
B「私のイメージに合わない。ヒロインのユイは可憐な中に強さがある子なんだ」
A「なるほど。最終選考ともなると、そこまで見るんですね」
B「そしてエレガントでユーモラスでなおかつ」
A「興味深いお話ですが監督、時間がありませんので。次の人どうぞ」
B「おぉっ・・・」
A「神田リサさんですね。自己PRをお願いします・・・結果は後ほど事務所にお知らせします。(Bを見る)監督、どうされました?」
B「ユイだ」
A「え?」
B「彼女は私がイメージするユイそのものだ!ドアが開いた瞬間こう思った。ユイが入ってきた、と」
A「そうですか!よかった。監督のお眼鏡にかなう子が見つかって」
B「こうしちゃいられない!早速彼女と話を」
A「待ってください。まだオーディションを受けに来た子が残ってます」
B「もういいだろ、見つかったんだから」
A「そう言わずに。みんなこの映画のオーディションに人生を賭けてますので。真剣にお願いします」
B「えぇ~?」
A「気が乗らないのは分かりますが、お願いします。次の人どうぞ。小沢ミズキさんですね」
B「うーん」
A「ちょっと監督」
B「あ~」
A「監督!そんなに顔をしかめられては」
B「ユイだ」
A「えっ!?」
B「彼女は私がイメージするユイそのものだ!ドアが開いた瞬間こう思った。ユイが入ってきた、と」
A「いやいや、そういうのが連続することあります!?」
B「ユイが2人になってしまった。ユイが2人?どういうことだぁ!?」
A「監督落ち着いて!(女優を見る)小沢さん、合格とは言ってません、はしゃがないで!いったん出てください。(Bを見る)監督、大丈夫ですか?」
B「あぁなんとか」
A「では続けましょう。次の人」
B「ユイだ」
A「大丈夫じゃなかった」
B「(やや早口で)ドアが開いた瞬間こう思ったユイが入ってきたと」
A「言い慣れて滑舌よくなってるじゃないですか。次の人」
B「ユイはい」
A「ユイが入ってきた、を略さないでください」
B「フルで言うの面倒い」
A「だからって縮めなくても。次の人」
B「ユイはいっ」
A「そのフレーズ気に入ったんですか?次の人」
B「はいはいユイはい」
A「言い過ぎてもう投げやりじゃないですか。次の人」
B「ユイは・・・い」
A「溜めた!?もはや言い飽きて遊び出してる」
B「ユイはい!ユイはいユイはーい!」
A「まだ誰も入ってないですよ。監督ストップ!ユイが7人になりました」
B「豊作だな」
A「いいように言わないでください。こんなに増やしてどうするんですか?」
B「7人いるなら、曜日ごとに違う女優にやらせるか」
A「日替わり定食みたいに言わないでください。大丈夫ですか?後半感覚マヒしてませんでした?」
B「バカを言うな!私の感覚に狂いはない!」
A「じゃあ、この履歴書を見てください。この子はどうですか?」
B「ユイはい」
A「さっき落とした子ですよ?」
B「え?」
A「神田さんの前に、イメージに合わないって言った子ですよ。これでもユイはいですか?」
B「おかしいな。どうも神田くんから感覚が狂ったみたいだ。麻婆豆腐の後に何食っても辛く感じるみたいに」
A「どんな例えですか」
B「それだけ彼女が圧倒的だったということだ。もう一度会いたいから連れてきてくれ」
A「まだオーディションの途中ですよ?」
B「いいから早く!」
A「分かりました・・・神田さんお連れしました」
B「違うなぁ」
A「えっ!?」
B「ユイいいえ」
A「ユイはいの逆!?」
B「さっきはイメージ通りだったのにっ!どういうことだぁ!?」
A「監督落ち着いて!(女優を見る)神田さん、不合格とは言ってません、泣かないで!いったん出てください。(Bを見る)監督、調子が悪いならもう止めた方がいいのでは?」
B「いや、これ以上日程を遅らせるわけにはいかん。ちょっと待て。へはぁ~~~・・・」
A「何ですかその、独特な呼吸は?」
B「これをやると落ち着くんだ。よしっもう大丈夫!」
A「それなら続けましょう。次の人どうぞ」
B「・・・(Aを見つめる)」
A「監督?僕の顔に何か?」
B「・・・ユイはい」
A「オーディション中止します!」