巡礼者達
クローリア侯爵家
白竜と飛竜に分乗して侯爵家に来た一行。とりあえずアイテムボックスから品物を降ろして、売れた品は屋敷の者に任せ、売っても良い物は全部出品してしまい、先代侯爵トリーの友人知人に欲しい物を買わせ、商人にも売ると国中の装備が充実する。
「この大広間とダンスホールに机でも並べて、品物も並べて手にとって見れるようにする。まずカーチャと白竜が降ろした品の目録を作って、鑑定眼持ちと執事やメイド総動員で準備するのだ」
「畏まりました」
武具や魔法具に護符に魔道具、素材として脅威度Mまでの魔物と、多少はみ出すが脅威度N~Qぐらいの死骸も屋外で陳列。
地獄熊とか地獄猪の魔物の剥製でも飾ってイキり散らしていた家でも、超人にしか倒せない魔獣の数々を置いて、祖先が討伐した話でも捏造して置けば、数世代と言わず家が続く限り永遠に誇り散らせる。
新入荷の竜の鱗に皮、牙や骨といった物は、今も竜の巣に開いている搬入口から続々と投入されている。
「ギルド既定の価格なら金貨1200枚、土竜の剣なら全てそれで間違いないかと」
「雷系の魔法の無効化確認ヨシ」
来客には武器ヲタでも槍好き斧好き、片刃のサムライソードや内刃の大型グルカナイフやショーテル等の収集家がいて、鎧好きの中でもエルフ系のエンチャント好きとか竜の鱗マニアとか海魔の鱗好きがいる。
コミケでも鉄ヲタ以外にバスマニアとかキャンピングカーマニアが、乗客?と言うか好意同乗者乗せて自分で運行して来るマニアまでいるので、鋼鉄天使の実写版みたいなバスマニア的な好事家も多数。
即売会だが、まるで警察が盗品を分類して並べるように、綺麗に整列させて準備させた。
「おう、トリニクレス、儂らも手伝おうぞ」
「うむ、護衛や執事にも手伝わせよう」
「済まぬな、招待客に手伝わせるなど」
魔道具のLINEみたいな機能で一斉通報されたので、近所の隠居して暇な、若返った元ジジイが開始時間前に集まってしまい、護符のネックレスや腕輪や指輪が大好きなマニアで古女房も参戦。
一応オークション的な事もするが、マブダチでズットモで昔からの悪友には、優先権と優待価格が与えられるので、これから数日間開催される販売会で無双できる。
「なあ、今日の目玉の神龍の鱗と暗黒竜の鱗、儂に回せよ。盾に加工して家宝にするのじゃ」
「何を言うか、あれは儂も狙っておる」
ここにもいた盾マニア、この国では盾の勇者でもラフタリア狸でもフィーロ鳥でも疎外されたり差別されない。
貴重な盾が腕から取れないなら、若い体ごと連れて行かれて、両刀遣いのジジイに「アッーーー!」と言わされる。
七色に輝く神竜の盾と、光を一切反射しない漆黒の盾。その大判の盾を壁に二枚並べて、間に槍とか大斧でも掛け合わせて飾り、それを見物しながらチビリチビリ酒でも楽しむ変態。
「まあ慌てるな、あそこにあるのは見本。神竜本人から勇者に渡された、体全体の鱗と皮があるでな、鎧一式拵えてから重騎士の盾を作っても幾らでも余るわい」
「おおっ、それは豪気な」
「暗黒竜ダリーシュ卿は勇者の兄だ、後は言わずとも分かるな。他にはリヴァイアサンの鱗も有るぞ」
「多いのう、金がいくらあっても足りんぞ」
「そこはそれ、儲け話に一口噛ませて貰ったり、他の入場者と同じじゃ、金貨より貴重な通貨、存分に使わせて貰おう」
「お主も悪よのう」
オリンピック的な物の開催を一手に任されてみたり、親族企業が濡れ手に粟で三兆円とか、開会式も会場も選手村もゴミ、ダンボールハウスで済ませば凄まじく儲かる。
「剣の形に加工するのは無理でも、斧の刃として一枚使い、どうにか柄を付ければ全身神竜の装備ができるぞ」
「それでは国宝にされるぞ、飾っておけば王家に献上させられる」
「うちから勇者と連名で献上しておくわい、二つ目や三つ目があっても誰も困らぬ」
「ほう、上手くやりおったな」
「それほどの娘を養子にできたとは、うちの嫁に欲しいぐらいじゃ」
「奴には白竜の番がいてな、もう売れ口は決まっておる」
「その竜も養子にしたそうな、クローリア家が昇爵され、公爵家になるのも時間の問題だのう」
「公爵家は一つ取り潰されたばかりだし、その領地まで手に入れるか?
「はははっ」
他にも勇者から買った黒竜の革靴の自慢話、レベルが上がって全力で走るとブーツが壊れるなど、くだらない話もしていると、竜の鱗の刃紋など見ながらスキットルを開けて一杯やるジジイがいたので、ドヤ顔で酒の自販機も自慢する。
「見よ、これがギルドにしかない酒の販売機だ、ハッピーの販売機も有るぞ。利き酒をして飲み比べてもな、13年物の葡萄酒より良い物が出て来る。もっと寝かせた品とも比べてみたら、やはりこちらの方が美味いのだ、飲んでみよ」
夜中に帰宅して、それからも寝酒に利き酒までして、睡眠時間数時間で起床した選ばれた体と頭を持つ貴族。
「うむ、昔飲んだが確かに美味かった。荒くれ者の中で飲む、銅貨で買える安酒と侮ったから買わなかったが」
「ほお、それではご相伴に預かろうかの」
一杯飲んだだけで舌の味覚を感じる部分を弄って、脳の旨味を感じる受容体まで弄る外法の味なので、年代物の葡萄酒にも勝る芳醇な味に、酒には五月蠅いジジイも唸った。
「素晴らしい、これは幾らで買える」
「金貨三十枚。同じ値段で高級酒を樽買いするより、外れも無いし蠅も入っておらぬ、こちらの方が良いぞ、ぜひ買うのをお勧めする」
「ほう、配達もしておるのか?」
「ああ、それでも流石に竜の巣には配達できぬそうでな、勇者が自分で持って行った」
「アイテムボックス持ちか、この大きさも入るとはなあ」
屋外に置いてある魔獣なども、大型自販機を超える大きさで、底知れぬ容積に驚いた元ジジイ一同。
「お主らもレベルが上がって、小物入れや剣入れどころではなくなっておるだろう、勇者の箱などドアから何人も入って歩いて見回れた程だ」
「そうか、そちらはまだ試しておらなんだな、よし、これを持ち帰っても良いか?」
「はは、馬鹿者、それは来客用だ。これからギルドに買いに行くから一緒に着いて来い。それとな、客に挨拶をしたら、儂と勇者、護衛の数人は竜の巣に行ってエイシェントドラゴンと対話する予定だ、誰か行きたい者はおるか?」
「なんと、鉄壁の巣に入れて貰えるのか?」
「勇者と白竜の案内だ、陛下と大公閣下からも許可を得ておる」
「是非行きたい、冥途の土産に一度は絵物語の世界を……」
「儂らも連れて行ってくれ、頼むっ」
「竜のご機嫌を損ねると、生きて帰れぬかもしれぬぞ?」
「構わぬ、もう十分に生きた」
「しかしこの一同ゾロゾロ連れて行くのもなあ? そうだ、お主ら竜騎士団に復帰せぬか? 竜なら余っておるぞ」
貴族が四人ほど竜の敵になって騎乗できなくなり除隊、大人しい飛竜なら大抵の者が乗れるし、気性が荒い火竜でも、これだけの高レベルの者なら噛まれてもブレス吐かれても死なない。
「うむ、威力偵察か武装して示威行動か、あちらの戦力には及ばぬが、多少は歯ごたえがあるのを見せねば舐められるしな」
「許可を得たのは儂一人だけで密使なのだがな、護衛なら仕方あるまい」
「それなら儂も同行する」
「は? 大公閣下」
ジジイ達で密談していると、販売会を見に来た元大公まで同行すると言い出した。
「竜の巣か、余も是非行ってこの目で見てみたい」
「陛下……」
僧籍になり、新修道士会立ち上げで忙しいはずの王まで、竜の巣観光ツアーに参加。
侯爵家に王が御行幸ではなく、先王で一僧侶が戯れに訪れただけなのでオッケー?
竜の巣へも先王で僧侶が観光に行くだけなので、兵団が同行しなくても良い。
ここにジジイ達によるジジイのための竜の巣観光ツアーが発足、「オマエラ、竜の巣に行きたいか~?」な感じで、イージーリスニング的に編曲されたスタートレックのテーマが流れるウルトラクイズで、竜に食われたり殺されたりする罰ゲームもある旅行計画が決行された。
全員貴族のジジイなので、筒井康隆先生の「農協月に行く」みたいな酷過ぎる旅行にはならない。
肛がデカイ肛門様による、助さん角さんも、うっかり八兵衛も風車の弥七もいる「助さん角さん懲らしめてやりなさいっ」な漫遊記も開始される。
ちなみにこのメンバー全員、ギルドに神聖騎士が出現したので、魔国にも近隣諸国にも勝利しているのは知らない。
冬宮に至る街道
元リッチと元ヴァンパイアの主従も、修道女会にあった古いボロい馬車で偽装して旅行計画開始。
ハンガリー国境?から合法的に旅行すると、西側?に逃げられる状態で、どこか他国に亡命もできる、のかも知れない。
「おっと待ちな、ここを通るには通行料がいるんだ。金目のもん全部置いて行って貰おうか? 若い女がいたら俺達で預かるぜ」
いつの間にか護送船団のように集合していた旅人たちの最前列に、絵に描いたような下種な盗賊が数十人現れ、護衛の冒険者は多勢に無勢で逃げだしてしまいクエスト失敗。
元歩兵なのか、魔国軍到来で勝ち目がないので脱走した兵士らしく、ある程度装備も統制も取れている集団。
よくある用語と一緒で、国内の治安は麻の如く乱れ、民は塗炭の苦しみを味わっていた。
普通の市民や商人が次々に餌食になり、乗合馬車で故郷や就職先や嫁入り先に移動している村娘や少女までが引き出され、盗賊に連れ去られる前に乱暴されようとしていた。
「待て、悪漢どもめっ、不法は許さぬっ」
「なんだ? 金持ってそうなお貴族様じゃねえか? その装備と服と金置いて行ったら生かしといてやる、それとも身代金タップリ払って貰おうか、実家はどこだ?」
「そのような物は既にない、天涯孤独、生涯勝手の身」
「へえ、金蔓もねえのか、おい、やっちまえ」
「へい」
今こそ聖女より与えられた力を振るう時、弱きを助け強きを挫く、天網恢恢疎にして漏らさず。
「聖なる雷よ、悪を貫けっ、エリアサンダーブラスト」
「影縫い」
主人が範囲攻撃魔法を放ち、従者の家令がニンジャの影縫いを放つと、敵方の盗賊だけが雷のジュール熱で神経と筋肉を焼き尽くされ、剣を持った利き腕から落雷し、足まで焼かれたので歩くこともできず、のた打ち回っていた。
「さあ、商人の皆さん、お嬢さん方、こ奴らを討って経験値となさい」
家令が刃物を渡し、レベル10村人とか低レベル商人に経験を積ませ、自分達と同じように多少なりとも戦えるよう糧とする。
逃亡兵で盗賊が死んだ後は、討伐証明として首を落とし、アイテムボックスに収納して旅の路銀にするために番所に引き渡す。
目立った行動は出来るだけ避けて、他の旅人を見捨ててでも逃げなければならない身なのだが、新聖女に塔の中から救い出され、その無償の愛と行動に感化された元王族は「義を見てせざるは勇無きなり」と思い至り、自分の逃走経路が判明するのも気にせず、名も無き旅人で村人を救った。
「貴族様、ありがとうございました。最近逃亡兵が野盗に堕ちる例が多く、護衛の冒険者まで逃げてしまい、我らも皆命まで奪われ、若い娘は奴らのアジトに連れて行かれ、慰み者にされた後で娼婦として売られる所でございました。何と感謝してよいやら、本当にありがとうございました」
商人連中が貢物を持って現れ、村娘や少女達にも祈るように感謝された。
朝までは盗賊の一人にも敵わない弱い身であったのに、聖女の不思議な力によって二人共治療呪文を覚え、自分も聖騎士として戦えるようにして貰えた。
それはもう神佑天助の域に達していて、この力は哀れな民や、戦う力すら持たぬ弱き者に対して行使しなければ、力を授けてくれた聖女にも申し訳が立たない。
「良いのだ、この我が身もこちらの爺も、新聖女様によって救われた身。この力は其方らを不法から守るために授けられた力なのだろう。こうして力を振るう度に聖女が救いたかった者、一切衆生の身を救えて、恩を返せたような気さえする、こちらこそ感謝する」
既に双方が宗教的な法悦に身を包まれ、救ったはずの者が感謝の感情を抱く、この世の理の歯車が反転逆転したような、救いと癒しの空間が展開された。
「私共も王都で治療を受け、新聖女様達に救われたので御座います。この子はすぐにでも修道女会に身を捧げ、生涯を御恩のお返しに神に仕えたいと申しましたが、まず心配していた両親や親族に快癒を知らせるために帰途に付いていた所でした。そこにこの災難、もう駄目かと思いましたが、ここでも聖女様の愛と温情により救われました。これよりこの婆も孫も修道女会に身を捧げる所存でございます」
「そうであったか、我らは皆、聖女様に身を救われた。せめて故郷迄の遠い旅、我らにも同行させて貰えないだろうか? この旅の全てが聖女様への返礼で御礼の旅だと思う、これを全うしてこそ新たな旅立ちの起点となるはずなのだ」
「ああ、有難き幸せ、これら全て、聖女様の思し召しなりっ」
本来警護を依頼するはずの商人や村人からではなく、救ったはずの元王族から同行を依頼してしまう。
明かに何か別の意志が介在し、神の言葉が今にも聞こえそうな一団が、聖女の愛に包まれながら逆方向に巡礼を開始して故郷に向かう。
もう一度王都へ向かって感謝の旅を始める時には何が起るのか分からないが、神話に語られるかの如き、神が定めたる何かが今も自分達の身に起こっているのを確信し、双方が涙しながら巡礼の旅を始めた。
西方に逃れた姫騎士と婆や一行。
道中何度か盗賊や魔獣の襲撃を受けて、悪しき者を全て撃退し、聖女職を極めても余り戦えない婆やを連れ、旅の途中で一緒になった商人や村人を全て従え、哀れで愚かなる子羊を導く羊飼いとなった姫騎士。
この「巡礼の旅」にこそ何かの意味が隠されているのだと思い、新たな試練と苦痛の数々と、背負った子羊達の命の重み、そして今までの人生の苦痛でさえも神の試練なのだと確信した。
民草を救う戦いの数々と、途中の村々での治療の積み重ねまでが、聖女様から与えられた試練の一つで、その謎解きと解を求めて歩き、苦戦が続くのも足が痛むのまでが法悦に達し、聖歌など合唱しながら滞在先の村に到着した。
「ああ、聖女様、この村は呪われております。流行病に侵され、若い者までが倒れ天に召される有様、どうか聖女様の法力で我らをお救い下さい」
「ええ、これもまた聖女様と神が下された試練、ここで間違いを正してゆかなければ、我が巡礼の旅は終わらず。ああ、神よ、我にさらなる艱難辛苦を授け給え」
旅に疲れた体を休めようともせず、新聖女から与えられた法力により、病に侵された村人でさえ、愛おしそうに抱いて癒して行く巡礼者で姫騎士。
「ああ、あのように病に穢れて汚れた者にまで愛を下された」
「神よ、神の使途に栄光あれ」
「エリアリザレクション、エリア死者蘇生」
部外者で余所者で見た事も聞いたことも無い新参者に、土足で縄張りを踏み荒らされているにも関わらず、神父や見習い聖人や修道女に村長まで感激して、外からの光を結んでいるのかすら怪しい、疲れ果てて壊れた聖騎士の瞳を見て涙を流す。
姫騎士も、生まれてから見えていた物の全てがこの世の陰であり過ちの全てだったと悟り、光を失ってからの地獄巡りでさえも、必要だった苦痛と苦難だと信じた。
昨夜再び光を与えられてからも、この間違った世界を正して行くのが自分に与えられた巡礼の旅なのだと確信した。
穢れて汚れ切ったこの世界を、新聖女に与えられた命の炎と正しき燈明で、子羊たちを過たずに導いていくのが、この巡礼の旅の正しき姿なのだと知った。
次第に王都から放射状に延びて行く癒しと赦しの力。
これらの人物を放った本人は何も考えていないのだが、思い違いして勘違いして気も違っている連中が、与えられている苦痛でさえ巡礼の一歩なのだと信じてしまい、さらなる苦渋と苦痛と神の試練まで求めて、傷付いても軽い足取りで歩んで行く。
本人が全く与り知らない所で、寒村や貧乏過ぎる村を中心に新聖女救世主伝説が広がって行った。
それも貧しくて誰一人手を差し伸べず、ゴブリンだけ殺す仕事でも安く引き受けてくれる冒険者からも知られないで、この世の地獄で魔獣の餌場になった場所でも、何の報酬すらなくとも、全く命を惜しまず立ち向かって斬り倒して行く。
「魔獣一つ、二つ…… 三つ」
防御魔法が開く度に聖女から与えられた護りを感じ、魔獣から与えられる痛みで傷だらけになる事こそが、神の試練で法悦だと感じるヘンタイ達が、国中に散らばって周囲の村々を救って行った。
「ああ、聖女様、わたくしは此度の試練も快癒させました、お褒め下さいまし」
百体にも及ぶ魔獣を討伐し終わり、冒険者ギルドにすら持ち込もうとしない巡礼者。
金銭が必要なら村を復興したい者が換金すればよい。
返り血に塗れた瞳はまたも光を失っていたが、聖女による眩しいまでの法力の光と導きによって道は確かであり、穢れた存在を斬り捨てるのには何の心痛も感じず、食事や休息の眠りまで穢れと感じるほどになって、あらゆる修行と苦行を求める者が増えた。
その祈りを一身に受けている魔女は、二頭身で暗黒竜にしがみ付いたまま、竜騎士団に到着していた。
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