冥府魔道
歩兵師団
炎竜によって、徴兵されたスラムの屑とか冒険者も追い出されたクズが全員焼き殺されている途中で、大隊の指揮官とか側近、教官なども死なないように身体を焼かれて、地獄の苦しみを味合わされている。
竜の呪いに近い物なので、長男が呪いを引き千切って行っても、新たに炎竜に点火されて燃え続けている。
「アハハ、アハハハハハハハハハハハハッ」
新兵達がのた打ち回って苦しみ、地獄の魔獣のような凄まじい悲鳴と絶叫を聞いて、その様子がとても楽しいのか、狂ったように笑い続けている炎竜の娘。
長男はこうなってしまった悪魔を黙らせたり、怒りを抑える方法を知っていたのですぐに実行した。
まず抱き締めて頬摺りして、それから唇で唇を塞いで悪魔のような笑いを止め、小さい頭をもっと押さえつけて抱き締めた。
そのままの姿勢でいると悪魔の瞳孔で光彩が上に移動して行き、白目を剥いたようになって、炎竜を呼ぶベルを取り落とし、長男の背中を抱き返した。
やがて髪の毛の先が赤い怒りの炎から、普段の青白い炎に入れ替わったので離れてみて、口と口の間を涎の銀の橋が掛かって、炎竜の娘の機嫌が斜めから真っすぐに直った。
「もう、悪い人……」
母親の目の前で濃厚なラブシーンを披露させられ、たったそれだけで怒りの炎も消されてしまう安い女だとバレてしまい、母竜もそれを咎めるでもなく祝福されてしまった。
「母さん、私、もうすぐ子供もできると思う。その時はまた呼ぶね」
「キューーーーーカルカルカル、クカカクレコカクケケ」
涙目で喜んでいる母竜を見て、自分の番が人間でも祝福してくれて、孫がドラゴニュートでも、人間世界で生活させるとしても、娘の幸せだけを祈って泣いてくれる母竜を見て、人外の悪魔も胸に熱い物がこみ上げて来て、同じように涙目になって、周囲を破滅させずに帰ろうとする母竜を優しい目で見送った。
そこで凄まじい飛来音と風切り音がして、時速数百キロで高速飛行していた火竜が到来し、七階梯魔法によって炎竜に攻撃があった。
多少効果がありそうな氷雪の呪文だったが、絶対防御呪文に防がれ効果無し。
しかし、地上にいる歩兵師団の雑兵はレジストなどできず、余波によって氷漬けにされ、消えない炎で燃えながら凍り、止めの一撃を食らって全員絶命した。
長男とベルは先程掛けて貰った絶対防御呪文もあり、自力でもレジストできたが、まつ毛や口の中が一瞬で凍った。
この攻撃は周囲の被害を一切考慮されていない。この二人も攻撃対象である。
「何だ今のっ? 竜? 竜騎士団かっ?」
「私達も攻撃して来たっ」
「指揮官も教官も皆殺しだ、俺達の事なんか考えてねえっ」
他の火竜で竜騎士も飛来して、炎竜にロックオンされないスピードと距離で、複数の火竜が円形に取り囲み、死角から多数で接敵して、射程に入り次第攻撃魔法を放ち、目くらましの為の七階梯魔法が間断なく降り注いでいた。
巨大な炎竜にとっては何事でもない攻撃だが、ベルにとっては脅威になり始めた。
そして、摂氏360度の飽和蒸気や、それ以上の爆炎で焼かれると長男は即死する。
呼吸し続けていないと生きて行けない脆弱な人間で、血流や酸素の供給が停止した時点で脳が失神し停止する、酸素を供給できなくなれば心停止、4,5分で脳死へと進む。
もし1500度を超えるような鉄でさえ溶ける温度なら、人体など一瞬で蒸発して炭化する。
「ヒイイイイイッ!」
愚かな人間など、炎竜に対しては抵抗すらできない、殺すのを楽しむための生き物とまで思っていたが、自分が選んだ番も同じ人間である。
竜舎にいる調子に乗った若竜が、姉に制裁を受けて何度も殺されて、素材や経験値にされたのを嘲笑っていたが、自分も同じことをしていたに過ぎないのにようやく気付いた。
「早く逃げようっ、ここにいたら駄目っ!」
凄まじい爆撃が繰り返され、轟音と爆風と衝撃波が響き渡って会話など不可能。
『竜化するから乗ってっ!』
竜語の念話ですら会話できない爆撃の直下、長男は既に気絶していたので、ベルは竜化して長男を掴んで爆心地から逃げ出した。
竜騎士団
「メテオストライクッ!」
竜騎士での攻撃開始前、まず第一弾として団長がメテオストライクを詠唱して小天体を呼んだ。
多少の追尾能力があるので、低速で飛行した程度なら追う事もできるが、空間転移されてしまうと追尾不能。
あと少しで空間転移門が開いて炎竜は巣に帰り、ほんの数十名から百名程度の犠牲者で済んだのだが、攻撃開始の合図でそれはなくなった。
団長からのハンドサインと煙玉の投下。赤玉、赤玉、赤玉、竜騎士団総員死すとも市民を守れ。決意表明のような攻撃開始命令で、竜騎士の死番の者から突入を開始した。
地上にいる者の生死など一切考慮されていない苛烈な爆撃、あえて言えば炎竜の娘は国家安全保障上大問題があるので、今回の第二目標。
第二目標から撃破すると、第一目標の炎竜からの激しい抵抗と王都侵攻が予想されるが、魔国侵攻を控えた今、決戦開始の時間。
どちらとも対戦せず魔国支配を受け入れ、炎竜や他の竜の脅威を魔国や魔王に丸投げする手段もあったが、武門によって立つ貴族家や王家からすると、面子やプライドとして受け入れられない方策でもある。
矜持により立つものであるからには、去勢されて妻や娘と言った家族を凌辱蹂躙されているのを目の前で見ながら、笑顔で茶を出して無法者を歓待する人生などあってはならない。
レイプによって生まれた子を我が子のように可愛がったり、浮気女に托卵された子を、それと知りながら笑顔で育て続ける者、それはもう正常な生物でも人類でも無い。
この世界を構築した天使と呼ばれる機械も、その部分だけは決して去勢はしなかった。
「メテオストライクッ!」
「メテオストライクッ!」
続けて副団長と小隊長による十階梯魔法が放たれ、上空に置かれている爆撃用の岩石で出来た小天体を呼ぶ。
天使によってあらかじめ配置された物で、召喚までは寝言である魔法を使用する。
しかし重力加速度で落下して地面や目標に着弾し、E=MC2で核兵器に匹敵する熱やエネルギーを放出して蒸散する部分は物理攻撃になる。
自然に落ちて来る飛来物の大半が彗星や氷の塊で、現在も野球のボール程度の氷塊が絶え間なく降り注ぎ、蒸散していく水分と落下してくる氷塊でバランスがとれている。
氷塊を召喚して落とすと、断熱圧縮により上空で爆散し、ツングースカの大爆発のような衝撃波と飽和水蒸気の熱が駆け巡り、西夏と呼ばれる地域の爆発で、当時のロンドンでも夜に新聞が読めたような光源が発生する。
絶対防御呪文と言えど、ここまでの物理攻撃を完全に防ぎきれるものでは無い。
特に、数千度の空気を吸い込んだ瞬間、長男は必ず死ぬ。
ベルトーチカ
『ああっ、やめてっ、もうしないからっ、こいつだけは殺さないでっ、長老っ、兄さんっ、姉さんっ、神様っ、助けてっ!』
ベルはようやく今までの行いを後悔して、自分の番が殺されるのを止めようとした。
現在長男は爆撃の衝撃波で気を失っていて、自分の意志で防御力を増やしたり身体強化したり、魔法や物理攻撃に対してレジストすることが出来ない。
天空からは神罰のような、悪意とも人間の怒りとも呼べるような物が複数飛来し、母親目掛けて超音速で落下してきている。
自分と自分の番から距離を取るよう、母竜は逆方向に飛んでくれているようだが、本当に身を隠すなら空間転移して逃げれば良い。
母竜は自分を犠牲にしてでも娘と娘の番、そして娘の中に芽生え始めている、確認できないほどの新しい命のために死のうとしてくれている。
命の重さや命の連鎖のような物を始めて感じられた炎竜の娘は、遥か後方で何かが着弾して凄まじい爆発を生んだのが分かった。
『母さんっ、母さんっ、母さんっ!』
やがて熱風と衝撃波が追い縋り、初撃からは逃れることが出来たが、第二撃はその倍の起爆力があったので、長男はベルの腕の中でジュージューと音を立てて焼け始めた。
『イヤアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
爆心地
メテオストライク用の岩石が飛来する前、母竜は空間転移門を開いて滑り込む準備をしていたが、遥か彼方にいる娘を確認すると、一緒にいる番と、もう一つの小さな命を感じ、もっと確認しようとして転移門に入るのが遅れた。
それでも転移門に入って炎竜の巣である燃える大地に出ようとしたが、第二撃が転移門の後ろをこじ開け、数万度の熱と爆炎と衝撃波が襲い掛かって、亜空間の中で弾き飛ばされた。
炎竜の巣の近くで転移門が開いたが、恐ろしい程の熱風と衝撃波が起こっただけで、竜は出て来なかった。
魔法師団
魔の森からエクスフライの魔法でマッハ(死語)で飛んで来た上位の魔法士達だったが、竜騎士団の方が早く到着開戦してしまい、連携を取るほどの連絡も訓練もできていなかった。
遠雷のような爆発音が遠くから聞こえ続け、多数の竜と思われるものが飛び交い、最後にメテオストライクと思われる飛来物が落下。
三度に渡る大爆発が起こり、それ以降は静かになったので、竜騎士団が全滅したか、もしかすると炎竜に勝利したか、空間転移させて撃退できたのだと思えた。
「やりおったか、奴らめ。我らが到着前に終わらせたとなると面目が立たんぞ?」
低速で機動力が低い騎士団など出撃すらできておらず、少数の騎馬騎士が斥候に出た程度よりはマシだったが、魔法師団が現着する前に飛竜でも飛ばされ、速報が王に報告されるのだけは避けたかった。
昨日までならあらゆる手段を講じて妨害し、竜騎士団を全滅させてでも手柄を横取りするのが魔法師団だったが、歴史的な協定を結んだばかりなのでそれは出来なかった。
魔法による調印なので強制力が発生して、竜騎士団を攻撃などすると契約違反でギアスで死ぬ。
「せめて暗黒竜か勇者の手柄であれば言い訳もできようが…… 勇者も竜騎士の一人であったな、遠方まで出るのではなかった」
その出張の理由、奇跡の指輪を借りたのも暗黒竜と勇者なのだが、「竜騎士団の謀略?」とまでは思わない程度には友好的になった。
この平面世界の歴史で、勇者職や竜が人化した冒険者以外、炎竜のようなネームドの竜を討伐したことなど無いが、騎士団のような一般兵が人類史上初めての快挙を起こした。
炎竜は反撃不能など、様々な理由や事情も奇跡的な出来事もあったが、勇者と暗黒竜が到着前の事で、督戦していた中立の飛竜隊が、早速王都に飛んで報告しに行っている。
これは王家直轄の部隊なので、魔法師団が攻撃するのは反逆罪に問われる。
暗黒竜
ベルの後方に空間転移門が開き、巨大な暗黒竜が妹竜同伴で、バーンと扉を開いて出現した。
『待たせたな』
妹センサー標準装備の暗黒竜は、妹がピンチになった時に現れる。
『兄さんっ』
兄の絶対防御呪文の範囲に抱き留められ、長男が焼かれるのは止まったが、既に数百度の熱風を吸い込んで、気道熱傷とか肺胞熱傷で死ぬ寸前。
『起きろっ、クソガキッ』
暗黒竜の治療呪文で全快したはずが、目を覚まさない。
王都近郊の場所に着陸し、人化して服を着込み、キスしたり色々やって、長男を起こそうとしたが起きない。
人間という生き物は衝撃波だけで内臓を全部やられて死ぬ。
砲撃や爆撃を受けて「伏せろ」と言われて腹を地面に付けてしまうと、着弾から爆発の衝撃波で内臓破壊されて、数日間持っても食事もとれず、真っ黒な血を吐いて死ぬ。
気絶して地面に倒れ伏し、あらゆる周波数の衝撃を内臓と脳に食らって死んでいて、もう4分経過したので生き返らない。
ベルはあの状態からでも、人間達を盾にして自分達に強力な魔法が放たれないよう、王都に向かって近寄っていた。
城砦から数十キロ以上離れた所にある駐屯地での交戦開始。
母竜は王都から遠ざかる方向に逃げたが、それでも爆心地は百キロ以内だったので、ギルドの強化ガラスでも吹き飛び、市販の普通のガラスなど跡形もなく吹き飛んで、目に傷を負うものも多く正教会に運ばれていた。
尚、竜騎士村のストナ家ボロ家は、衝撃波で崩壊して屋根も吹き飛んでいる。
片翼の姉竜が帰宅すると、悲鳴を上げて泣いて失神する。
やがて勇者は竜化した兄竜に乗せられ、トリーも同乗して到着。付いて来るなと言っても付いて来た三女四女に幼竜子竜まで現着。
『まだ生きてたか、クソガキ、あいつが魔女としたら、おめえは悪魔だよなあ』
長男が死んでいるとしたら、復活できるのは勇者しかいないのだが、とても怒っているようで、そんな話を言い出せる状態ではない。
どこかのイデオンの劇場版みたいに「コスモが目を覚まさないの」「暖かいキスは?」「したわ」な~んて言える状況でもない。
『カーチャ、こいつ起きねえんだけど、どうなってんの?』
そこは一切空気読まない暗黒竜が、ベルが今一番知りたいことを聞いてくれた。
『ああ、天命が尽きたんだ。クズがあんまり酷い事しやがったから、神様が魂摘まんで抜いて行ったんだろうや』
『ヒイイイイイイイッ!』
あれだけ粋がっていた炎竜の娘は、自分の大事な命を奪われた時にだけ泣き出した。
『おめえ、人間殺しまくった時笑ってたよなあ? さあ、笑えよ、全部おめえが殺したんだ、おっ母さんもなあ、ヘヘ』
『イヤアアアアアアアアアアアアアアッ!』
『ベル振り回してゲラゲラ笑ってたみたいにっ、笑えっ、つってんだろうがっ?』
『いやあっ、いやああああああっ!』
姉に胸倉をつかまれたまま、頭を抱え、髪を振り乱して泣き叫ぶ炎竜の娘。
下らないプライドとか選民思想とか、ゴミを処分する程度の楽しみとしてやった殺しが、自分から全てを奪い去って行った。
『歯ぁ食いしばれっ、クソがっ!』
『ガフッ』
勇者パンチで前歯を全部圧し折られ、鼻が骨折して曲がるほど殴られたベル。
もう自殺する以外に無い状況だったが、あることが気になって命を絶つことが出来なかった。
『お腹だけはやめてっ、子供いるかもしれないからっ!』
腹を押さえて亀になって、勇者キックで腹を蹴られるのだけは阻止する。
『おいおい、おめえが命の大事さとか歌うか? おめえが殺した分、おらが卵全部叩き割ってやんよ』
『やめてーーーーっ!』
そこで背景になっていた三女と四女が、兄が死んでいるのを許せなかったらしく、勇者にしか許されていない呪文を唱えた。
「「ケルケルケルケル、クカカカカカ、キキキキキキ、カーーーッ」」
団長の娘とマリーナを復活させるときに見られていたので、呪文だけ知っていた二人。
四女はまだ子竜と契約しておらず、魔法の使用許可すらなく、三女は回復魔法は許されていても、十二階梯の竜魔術まで使う権利は与えられていない。
それでも兄が復活する可能性に掛けて呪文を唱えた。
『あっ?』
ベルも僅かな可能性に希望を持ってみたが、奇跡は起こらず番は生き返らなかった。
『おまえらが使えるかよ。さ~て、腹出せ~、おめえの大事な大事な忘れ形見の卵、これから全部踏み潰してやる』
『いやああああああっ! 血が繋がった弟の子なのよっ、どうして殺せるのっ?』
『おめえソックリな悪魔が産まれて来るからだよ、生まれる前に殺す』
ケツバットされてもタイキックを食らっても、あらゆる身体強化や防御を駆使して亀になって腹だけは守り、僅かな望みに全てを託している娘は、母が守ってくれた命をどうにかして生かそうとした。
『やめよ、そこまでだ、もう良い』
こちらも背景になっていたトリーが発言し、甥と姪殺しで妹殺しを止めようとした。
家族の問題で勇者の決定だが、養父の家長や騎士団関係者として止めてみた。
「先代様よぅ、こんな悪魔でバケモン、生かしておいたら必ず復習しに来ますぜ、今のうちにやっとかないと、必ず、必ず復讐しに来て十年もしないで王都が火の海になりまさあ」
悪魔の卵を踏み潰した後は、もちろん悪魔本人、血が繋がっていない妹で炎竜の娘も殺すつもりの勇者。
悪魔も、悪魔で人類の天敵の卵を全部生かすと、人類に恨みを持っている勢力を結集して襲い掛かって来る。
「奢り高ぶって小さな命を絶つと、どんな結果になるのか、もうその娘は知っている。最後の望みを絶つとその娘は心が死ぬだろう。それから王家へと引き渡して処刑されるとしても唯々諾々と従うかも知れぬ、それはお主が求める道とは違うはずだ、別の道を探せ」
今後、魔王を倒せば不要になった勇者も始末される。
一度妹も甥も姪も殺した勇者なら、刺客となった兄弟姉妹も両親も平然と殺し、それを命じた貴族達と王家を楽しみながら一人残らず抹殺する。
今度は勇者が魔王か竜王となって人類の死滅を開始する。支配ではない。
先代勇者はそんな道を歩まず、死んだように偽装して姿を消したか、世を儚んで自ら命を捨てた。
トリーとしても、この気さくで面白い娘がそんな地獄の底を歩み、冥府魔道を行くのには堪えられない。もう少しまともな道を探ろうとした。
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