おしょくじけん(お食事権)
団長は妻の変わり果てた姿に今日もショックを受けたので食欲も無く、妻と娘と大叔母?も参加する家族の夕食の席には最初の挨拶だけをして、勇者の復活呪文と治療呪文によって娘と妻と大叔母?を取り返したとだけ他の家族に告げて同席しなかった。
客人を連れて客室に行き、服を着替えさせたりカーチャの制服を詰めてサイズを合わせるよう命じたり、自分も私服に着替え、マナーを気にしなくて良いメンバーだけで集まった。
三女四女は見たことも無い綺麗な服を着せてもらい、ティアラとか装飾品も付けて、お姫様みたいな格好をさせてもらい大喜び。
「ねえちゃん、すごいぞ、きぬのふくだ」
「おひめさまみたいだっ」
「おお、良かったのう」
着物とかファッションには興味が無いカーチャは、ドレスやハイヒールは無理と言ったので普段使いのマジックアイテムのブーツをメイドに磨いて貰い、勇者らしく見えるよう男装。
本日の報酬として、まず夕食は手掴みでも構わない、マナー無用の高級な料理を出して労った。
「オマエラ、高い肉だっ、食えっ、今のうちに食えっ、明日の分も食って帰れ」
「「うんっ」」
「はは、食べ物は逃げはせんからゆっくり食べてくれ、何か食べたい物があればメイドに言うと良い」
幼竜子竜は何が食べたいか分からなかったが、普段から人間と同じ物を食べているようなので任せておく。
兄竜はこの部屋には少々大きく、両開きのドアでも入るのに苦労して床もミシミシ鳴ったが、もし部屋が壊れようと床が抜けようと、娘と妻を元に戻してくれた恩に比べると、微々たるものなので気にしない。
何ならカーチャが息子と結婚してくれれば、全財産でも支払う用意がある。
『あんちゃんと飯食うのも久しぶりだな、人間の食い物も久しぶりだろ?』
『ああ、大猪の肉とか熊とか、草や豆ばかりだったからなあ』
『にいちゃん、この鳥の足うまいぞ』
『ああ』
兄弟姉妹が竜語で話す内容は分からなかったが、これからはこの家の養子になって貰い、どうしても三女四女を養子にしてから正教会に送りたいと言ってくる家が出るまでカーチャの妹のまま育てたい団長。
父親や家に残っている姉竜も手続きのために呼びたかった所だが、今日は娘と妻の為に復活を急いだ。
また親子兄弟で一緒に同居できるよう離れを一つ与えるか、使用人屋敷で大きすぎる竜も一緒に暮らせる方が良いならそちらにする。
体育会系の合宿や合コンみたいに「肉、肉、肉」で、揚げ物もある超脂っこい物尽くしの食事だったが、若い竜四匹と三姉妹で平らげた。
「もうたべられない」
「くったくった」
「フルクカクウ」
「カウカウウ」
全員もう食べられないようなので、食後の飲み物とデザートでも頼む。
「何か甘い物か、珍しい果物でもあれば持って来てくれ」
メイドに命じると村では取れない果物や、甘く焼いたアップルパイのような物が出て来た。
「いかん、これは毒になる、子供が食っていいもんでねえ、おらが全部食ってやる」
「ねえちゃん、それよこせっ」
「わたしもくう」
「取るなっ」
まるで一休さんの和尚さんが生臭物である水飴を隠し持っていて、「毒なので食べてはいかん」と小坊主に言い渡しておいたのに食べてしまい、とんちで「作務で無作法をしてしまったので全員毒を食べて死にます」みたいな展開になったように、妹も幼竜も果物とかパイを食った。
「すごい、ひるめしよりうまいっ」
「「「「え?」」」」
そこからは地獄絵図で、兄弟姉妹で士官食堂にある貴族の昼飯メニューを食ったのが四女にバレてしまい、何で呼んでくれなかったのか泣き出し、一人だけ留守番だったと怒り、聞き分けの無い幼竜も一緒に泣き出して(普通の竜は人間の泣き方を知らない)子竜もハブられたので氷を吹いた。
幼竜二匹の鳴き声に気付いた本物の母親が屋敷の庭に着陸してしまい、窓から覗き込んでいつもの家族団欒だったので無理に救い出さず幼竜にバフ掛けした。
竜の母親に気付いて慌てた姉に肉を口の中に詰め込まれて幼竜が黙らされ、喉が詰まって別の意味で鳴いた幼竜を見て、親竜が水魔法を使ったり窓枠を破壊してメリメリと突入して来ようとした。
いつもの家族での楽しそうな光景を見た母竜が自分は参加できないので涙を流したり、人間の竜騎士団の団長程度では何もできない光景を見せつけられた。
「え? これが毎日? 日常の光景?」
三女四女と一緒に幼竜を育てて、貴族家のマナーを教えるのは早々に断念した団長だった。
食後のお風呂タイムはメイドに任せ、軽く家系図を見てもマリーナと言う人物は祖父の姉で間違いないようなので、隠居して臥せっている祖父に面通しをして確かめることにした。
もっと昔の世代に同名の人物がいるのは良くあることなので、祖父の部屋に大叔母とカーチャを連れて行って面会させる。
風呂と散髪を済ませてメイド達に外見を多少マシにして貰い、乳液だとか化粧で顔も少し整えた。
「これが、おら……?」
少女漫画風の白目で驚く定番のボケも入れ、何をしても立ち上がって来る短髪を整髪料を使ってオールバックに寝かせ付けた。
竜騎士団の服装も息子が小さい頃にあつらえたのがあったので、そちらを少し手直しして着せておいた。
「おー、ねえちゃんかっこいい」
「おとこみたいだ」
「クキャーククク」
「カカカカケココクカア」
子供達と幼竜はメイド達と遊ばせておいて、まず大叔母を病床の祖父の所に連れて行く。
「大叔母上、祖父トリニクレスと会って頂けますかな?」
「む? トリーがおるのか、行こう」
団長にカーチャ、大叔母の編成で祖父の寝室まで赴く。
ショックで症状が悪化しないと良いと思いながら入室したが、先触れでベッドの上でクッションにもたれている状態で面会の準備がされていたので、先代当主は二人目の入室者にすぐに気付いた。
「姉上…… 迎えに来て下さったのですか?」
団長もカーチャもアウトオブ眼中。自分が死ぬ時が来たと勘違いし、あの世にいるはずの姉が迎えに来てくれたのだと思って泣いている。
「この者は誰じゃ? 弟と合わせると言っておったろうが? トリーはこんな年寄りでは無いぞ」
死後56年経過しているので弟と認識できない姉。
先代当主の方は何も変わっていない姉を見て、目を細めてまだ泣いている。
「やはり大叔母上でしたか、年月が経っておりますので分かりづらいかと思いますが、こちらは大叔母上の弟君、先代クローリア侯爵トリニクレス様にございます」
「なんじゃと?」
「お爺様、大叔母上はこちらの今代勇者、カーチャが甦らせてくれたのでございます。わたくしの娘、お爺様の曾孫も生き帰っております」
娘の方は母親が何か悟ったのか手放そうとしないので、一緒に入浴したり遊んだりして、娘が眠そうにしたので早めに就寝した。
多分「進化の実」とか「異世界でチートスキルを手にした俺は」みたいに急にレベルが上がったので、チビでデブの体がバキバキ鳴って、翌朝には八頭身のモデル系高身長ボディーに進化するのかも知れない。
「お主、姉上と話し大叔母と言うたな、まさか姉上が見えておるのか?」
まだ死者で幽霊で死神だと思っている先代当主は、幽霊のはずの姉が見えている孫に、呆けた顔で問いかけた。
「はい、大叔母上は生き帰られました。先程こちらの勇者が死者復活の呪文を持って甦らせてくれたのです」
「勇者? その子が?」
「はい、エイシェントドラゴンの試練を終えて、死者復活の魔法も賜り、聖剣も持っております」
何か聖剣を要求されたようなので、アイテムボックスを漁って両手で聖剣を献上してみる。
「おお、持てん、絵物語の通りじゃ、抜き身を見せてくれぬか?」
「へえ、こうでしょうか?」
手に取ることは叶わなかったが、神々しい刀身を見て、竜の鱗でもない、オリハルコンのような希少金属でもない、神が作りたもうた神剣を拝んで、剣術者であり魔法士でもあり付与魔法士でもあり、勇者の冒険譚をこよなく愛する者の一人として大変満足した。
「素晴らしい剣じゃ」
膝の上に置かれた聖剣を見て、付与魔法士としても満たされた。
願うなら、勇者が持つ聖剣と剣士として手合わせしてみたかった所だが、そこまで過分な願いなどおこがましいとも感じた。
「勇者よ、その制服は?」
「昨日、カーチャは竜騎士団見習いとして入団しております。父親の許諾を得て、我が家の養子として迎える約束も交わしております」
「へぇ、おっ父が竜舎の飼育員ですだ」
他にも竜と会話できる能力もあり、今後火竜達にも竜魔術を教える予定で、竜騎士団員としてもとても優秀、聖女としての力もあり、弟妹にも同じ能力を与えたと前当主に報告した団長。
「うむ、拾い集めた火竜が魔法を使えぬのだけが心残りであったが、それすら叶うか」
他にもこの機会に魔法師団とも騎士団とも和解し、文書を交わして合意が成った事、大公家が次女と長男を養子として迎えたことなども簡単に伝えた。
「善きかな、善き哉」
今代勇者と言う娘も、竜騎士団の制服を着ている事からも、竜騎士団から、我が家から勇者が出た名誉もあり、先代当主は自分が創設した竜騎士団や我が家が末永く続くよう願って目を閉じ、折角姉が迎えに来てくれたことだし今宵死ぬことにした。
「うむ、我が人生に悔い無し、竜騎士団を頼む。姉上、あの世まで案内して下され、ゴフッゴフッ」
急に吐血して苦しみだした祖父を見て慌てる団長。人間、あらゆる事に満足して生き続ける意思を失うと、急激に破損が進んで死ぬこともある。
「お爺様っ、カーチャ、済まぬ、頼めるか?」
「へい」
許可が出たので天使を呼び、ジジイに何度説明してもこの子が幽霊では無く、ジジイを迎えに来た死神では無いと言っても理解しないようなので、多少若返らせることにしたが、56年前の天然痘大流行の年まで若返った。
「おお、おおお……」
天から天使が降りて来たので、本格的にあの世に行くつもりになったジジイは、パトラッシュ(誰?)が引く荷台に乗って、天使と一緒に昇天しようとしたが、何故か体だけ若返って12歳当時の体になった。
「おおっ、トリーでは無いか、なんじゃ? 若返ると弟になるとは、そんなに時が経っておったのか?」
こちらのロリBBAも、やっとこさ時間経過とか、自分が死んでから56年程経過したのを納得した。
「お爺様が子供に?」
「へえ、天命がありますんで、寿命が来たら眠ったまま起きない日が来ると思いやす。さっき死ぬはずでしたが、後何年かは子供のままで姉弟として生活できやす」
姉の幽霊が迎えに来て、竜騎士団から勇者を出して、聖剣など見て満足してあの世に行くはずだった先代当主は、残り数年を子供として過ごす。
「姉上…… これはどうしたことだ、勇者? 姉上も生き返って曾孫も生き返った? 寿命まではこの若さで?」
脳が若返ったので周囲の状況と自分の状況を理解できたようで、脳軟化症で老衰のジジイに、何度説明しても5回以上同じことを言っても絶対理解できないのが、今まで聞いていた話を脳内で整理するだけでメスガキに分からされた。
先代当主は自分の足で起き上がり、姉の手を取って話し始めた。
「56年程前の天然痘禍は酷い物だった、知人の五人に一人は死んだ。姉上も亡くなり、儂も患ったが鍛錬のお陰で生き永らえられた」
レベルを上げて物理で殴ると、相手が天然痘ウィルスでも有効だったようで、痘瘡の跡が残るだけで生き残れた元当主。
「そうだったか、我も死んだか」
記憶の片隅にある自分が死んだという事実を受け入れ、過去の天然痘による死者の多さを思い出し、まだ生きている者があれば当時の事でも語り合いたいと願った。
現在の問題として、生き返った娘の戸籍と言うか教会への登録は、次女で魔女が乗っ取ってしまったので教会での登録が無い。
祖父の姉で大叔母など、死んで数十年なので登録のしようが無い。
元当主が現在子供などと説明する手段が存在しない。
勇者の魔法と言う事でどうにかゴリ押しして戸籍を復活して、元当主も治療呪文で若返ったで通すしかない。
そうこうしているうちに日は暮れたので三女四女は寝る時間になり、幼竜子竜も就寝時間。
竜の酪農家の朝は早いので夜も早い。カーチャも眠そうな目をしたので寝る事にしたが、大公家から招待状が届いてしまい、夜会に出席するよう要請があった。
内容としては王宮を脱出した兄(王)が来るので必ず出席して、余興として次女の大聖女の治療を来客に見せ、勇者の英雄譚を話したり聖剣などを披露するような要請。
さらに同時に王宮から迎えの馬車が来てしまい、大聖女で勇者を召喚する書状も手渡された。
王宮の召喚なので応じなければ非礼で不敬に当たる。
そちらは王不在なので直々の召喚では無いようだが、認識を誤るように誰からの召喚状なのか記名も無ければ公式文書なのかの記載も無い。
どう見ても王宮の召喚状の方が偽物で、大公家で行われる夜会の邪魔をする嫌がらせ。
何の肩書も無い平民が王宮の召喚に応じた所で王城には立ち入れない。
せいぜい場外で何の効力も認定も無い鑑定が行われ、レベルやステータスやスキル、討伐実績を調べる程度で、時間を長引かせるためなら竜語の称号や使用可能な魔法まで辞書を使って調べられるが、明かに大公の夜会の邪魔をする事しか考えていない召喚状と迎えの馬車。
「竜騎士団団長殿、勇者と共に王宮においでいただかなければ困ります」
王宮からの迎えの馬車の一団が高圧的に要求してくるが、罠で偽の召喚で時間稼ぎの嫌がらせには応じたくない。
「いえ、現在あのような状況ですので、出立が叶いませぬ」
屋敷の庭に幼竜の母親が鎮座ましまして、窓から幼竜の寝顔を見るストーキング行為が行われている最中なので動けない。
「では勇者候補だけでも王宮へお出で願おう」
「いえ、彼女はすでに帰宅しました」
苦しい言い訳だが偽の召喚状には応じない。
夜会の招待を聞いた大叔母マリーナが立ち上がった。
「お忍びの夜会か、我も出席するぞ、知古がいるかも知れぬのでな」
「お供します、姉上」
マリーナと、子供サイズの私服に着替えた先代当主は、大公家の夜会に向かうと言い出して、余計に騒動を大きくしようとした。
この弟もどこかのラインハルト様とか、はめフラの戸籍上の弟みたいな超シスコン。
心の扉をバトルアックスとかハルバートで破壊されて心の奥まで踏み込まれたり、どこかのGTOみたいに「家族の心の壁を壊しに参りました~」とか言いながら工事用ハンマー(大)で、心のATフィールドをベキ折られた経験者。
ドアからのエントリーならトラップの心配があるので、壁から爆破エントリーされて「アルファワン・ゴー!」でキッドナップを全員救出、テロリストとの交渉や取引は許されないので全員射殺がセオリーなのも実行され、全て姉に支配されて踏みにじられた「我々の業界ではご褒美です」な哀れな弟。
「夜会のドレスを持て、青い奴じゃ、出先で着替える」
メイド達が走り回らされ、倉庫で遺品置き場から大叔母のドレス一式が出される。
当時から流行は二、三周しているが、56年も前の物なのでまず着れる物かどうかを確かめなければならない。
メイドや側仕えは他の娘用の、今風なドレスなども用意して現地に向かった。
急すぎるので仮縫いとか無しで現地でサイズ調整しなければならない。
もし合わせられなければ、近場なので別の物を用意するか、サイズが無ければ大公家で服が汚れた時の為にある流行遅れのドレスでも借りることもできる。
30分程度で準備が成され、カーチャも団長に馬車に押し込まれて出立した。
「儂は王宮に呼ばれているのでここを離れられん、君も各貴族家お抱えの勇者に勝負を挑まれるだろう、ドレス姿では戦えんだろうからそのまま行ってくれ」
「へい、行ってきやす」
ドレスにハイヒールでは歩くこともできないので、それはそれで好都合。
馬車の中で側仕えがマリーナに報告を始めた。
「お嬢様、青の夜会用ドレスですが、何分古い物ですので染みが出たりして駄目になっておりました」
「そうか、久しぶりに袖を通したかったのだがの」
「今風のドレスなどもご用意しております、そちらをお試しください」
「うむ」
本人たっての希望のドレスが使用不能と聞いて、また竜魔術でどうにかしてみる。
「そんでは、こいつにも回復呪文をかけて見やしょう」
「出来るのか?」
「へい」
ドレスには天使は降りて来なかったが、蚕の成虫が降りてきて56年程時間を巻き戻した。
「凄いでは無いか、服まで元に戻せるとは」
馬車は上級貴族街に入って、すぐに王宮近くの大公家に到着した。
入場後は着替え用の部屋を借り、後をついて飛んで来た兄竜は、他の飛竜などが止め置かれる駐機場に案内された。
一行はある意味決戦の場でもある、夜会会場に入場した。
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