素直にならないと出られない部屋に閉じ込められた喧嘩の絶えない幼馴染の二人はその部屋から出た後つきあうことになったようです
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「ちょっと、何で私の後をついてくるのよっ!」
「うるせー、俺の家もそっちだからに決まってるだろーが、このバカ女っ!」
学校からの帰り道。
俺、工藤高志は俺の前を歩いていた同級生で幼馴染の女の子とそんな大人気ないやり取りをした。
いや、まだ中学生なので大人ではなく子供であることは間違えないのだが今はそういう話ではないだろう。
俺の家の隣に住んでいる幼馴染の高瀬遥が金髪のツインテールを振り乱しながら叫んだ。
「ほんっと、あんたみたいなのと幼馴染だなんて最っ低っ!」
「そりゃーこっちのセリフだっ!」
母方のおばあさんが欧米人でクォーターの遥はその髪の毛だけでなく容姿も日本人離れしていて凄く目立つ子だった。
その一方、俺の方はまあ、普通だ普通。
昔はよく一緒に遊んでいたし仲も悪くはなかったはずなのに中学に上がった頃からいつの間にやらお互いイガミ合うような関係になってしまった。
正直に言えば俺は昔から遥のことが好きだった。
今はこんなにツンケンしているけど根は素直で優しい子だということを俺は知っている。
何よりも一緒にいてホッと安心できる。
肩肘張らずに素の自分でいられるというのだろうか。
とはいえ彼女は家族枠に収まる存在というわけではない。
幼馴染同士でよくある異性や恋人としては見れないということは絶対にない。
小学校の高学年になった頃から遥は成長期に入ったようでその日本人離れしたスタイルは正直お年頃の童貞少年では直視できないほどだ。
というか服を着ている姿だけでも十分ナニができるほどだ。
ナニったらナニだ。
そんなこと俺に言わせるなよ。
遥が隣にいると正直他の女の子のことを考えようという気にすらならない。
彼女は中学に入ってから元々優れていた容姿にさらに磨きがかかり俺はもう溜息しか出なかった。
最早彼女は俺の手の届かない存在になってしまった。
そんなやさぐれた俺の諦めの心はかわいさ余って憎さ100倍。
最初のきっかけは何かささいなことだったと思う。
遥に何か言われて一度過剰に反応してからはもうずっと口を開けばお互いがお互いを罵り合うような歪な関係になってしまった。
俺としても謝って関係を修復したいという気持ちはあるものの気恥ずかしさと思春期特有のやせ我慢とが相俟って未だにズルズルとこんな関係が続いていた。
どうせ関係が修復されたとしても俺と彼女とでは釣り合わない。
俺の気持ちが彼女に届くことはないだろう。
それならば中途半端な幼馴染の関係が続くよりはきっぱりと彼女に嫌われた方が諦めもつくというものだ。
俺は今日もそう強がって遥と罵詈雑言罵り合った。
「あれっ?」
「えっ、なに?」
俺に続いて遥も困惑の声を上げた。
俺たちの家まであと少しという場所でそれは起きた。
道の角を曲がったところで俺たちはいつの間にか不思議な場所にいた。
「ここ、どこ?」
「いつ建物の中に入ったんだ?」
俺たちは気が付けば外ではなく真っ白な部屋の中にいた。
その部屋には窓がなく四方は壁に覆われ、出入口と思われるドアが1つあるだけだった。
――がちゃがちゃがちゃ
「開かないわ」
遙がドアノブを回してドアを開けようとするが一向に開く気配がない。
「どけよ。俺がやる」
遙に代わってドアノブを回す。
ドアを押したり引いたりするががちゃがちゃという音がするだけでドアはびくとも動かない。
するとドアに何か文字が浮かんでくるのが見えた。
『この部屋は真実の部屋です。この部屋に入った二人が素直になって真実を話さないと外に出ることはできません』
「なに、このイタズラ!」
遥が憤慨した。
「こんな遊びにつきあっていられないわ」
遙はスマホを取り出して外部への連絡を試みる。
「うそっ……」
「どうした?」
「圏外になってる……」
俺も自分のスマホを取り出してみたが遥と同じだった。
電話もメールもできない。
インターネットにもつながらない。
「ちょっとどうなってるのよっ! 出しなさいっ、早くここから出しなさいよっ!」
遙がドアをドンドンと叩く。
俺は冷静に他に出ることができる場所がないかと壁を叩いて材質を確かめた。
壁の奥が空洞になっていれば最悪破壊することも選択肢となるが材質的に多少強く叩いたところでびくともしそうになかった。
「どうしよう……」
ひとしきり興奮が収まったのか遥は床に座り込んだ。
俺はもう少し何かここから出るきっかけになるものはないかと壁は勿論、天井も物を投げてみるなりしてみたが結果は芳しくなかった。
「くっそう、ダメだ。まったく出られそうもない」
とうとう俺も観念して床に座り込んだ。
この部屋に入ってからどのくらい時間が経っただろうか。
そう思って腕時計を見ると、俺たちが入っただろう時間でなぜか止まっていた。
スマホの時計も同じだった。
――ぐぅ~
お腹の鳴る音がした。
俺のではない。
ということは誰のものか答えは一つだ。
俺が遥の方に視線を送ると遥は俺の視線に気づいたのかバツが悪そうにそっぽを向いて言った。
「悪い? 笑いたければ笑えばいいじゃない!」
そんな遥に何も答えず、俺は持っていた鞄を開けて中をゴソゴソと漁った。
今日の昼休みに食後にでも食べようと思って持ってきていたクッキーがあったはずだ。チョコレートチップの入ったチョコチップクッキーだ。
俺はその包みを鞄から取り出すと無言で遥にそれを差し出した。
「あなた、これっ」
「食べろよ。腹が減ってるんだろ?」
「でもっ……」
遥が躊躇する。
この部屋から出られないとなれば当然食事をすることもできない。
当然のことながら食べ物は貴重だ。
「いいから」
「でも私だけが食べるのは……」
再び遥が躊躇する。
ああそうだ。
遥は昔から自分だけが良ければいいだなんて考えない子だった。
幼稚園のときに誰かにもらったお菓子を友達みんなに分けてあげてたら自分の分がなくなってしまって泣いたこともあった。
あのときは……
「じゃあ、半分に分けて食べよーぜ」
そう、あの時は俺が遥からもらったやつを半分こにして一緒に食べたんだった。
クッキーは5枚あったので2枚と半分。
きっちり半分に分けた。
「ありがと……」
遥はそう言ってクッキーを口に運んだ。
艶めかしい唇に思わず視線が吸い寄せられる。
あの唇が俺以外の誰かのものになると思うとやるせない気分になった。
俺はそんな考えを振り払うかのように俺も小腹が空いたのでクッキーを口へと運ぶ。
お互いに無言でボリボリとクッキーを咀嚼する音だけが聞こえた。
クッキーを食べ終えたあともひょっとしたらという期待を込めてこの部屋から脱出できないか部屋の中を確かめた。
何とか出るためのきっかけにならないかと端から端までくまなく調べた。
しかし、結果は同じ。
そしてまた俺たちは二人とも床に座り込んだ。
(それにしてもいったいこれは何なんだ?)
正直、今のこの状況、訳がわからない。
常識から完全に隔絶されている。
異常だ。
しかし、そんなことは考えるだけ無駄だ。
今こうして俺たちが二人閉じ込められているということだけが間違いのない絶対的な事実だ。
そういえばドアには外に出るためのヒントが書かれていた。
(素直になって真実を話すっていうのはどういうことだろうか?)
この期に及んでは癪な話だがこの部屋を用意した誰かの指示に従うしかないだろう。
条件に従う行為をすることが唯一この部屋から出ることができる可能性のある行為だ。
それが文字通りこの部屋から出る鍵となるのだろう。
問題はその鍵が何かということになるのだが俺がそこまで思い悩むことはなかった。
なぜなら俺が遥に秘密にしていることといえば俺には一つしか思い当たらなかったからだ。
チラリと遥を見ると彼女はぼーっとした表情を浮かべている。
さっきクッキーを食べたがあれからまたかなりの時間が経ったのだと思う。
もう時間の感覚がなくなっていてどのくらい時間が経ったのかすら分からない。
再びお腹も空いてきたし、空腹でちょっとフラフラしてきた。
このままいくと俺だけでなく彼女の命も危ないかもしれない。
俺は腹を括った。
「なあ、遥。ドアに書かれていること、何か心当たりはないか?」
遥はぼーっとした表情で俺に視線を返した。
「素直に真実を、ね。つまり私たちが何かを隠しているならそれをきれいさっぱり話せってことよね」
「ああ、そうだ。何か隠していることがあるか?」
「……ないわね」
「そうか……」
ひょっとしたら、という気持ちがなくはなかった。
もしも遥が俺と同じであるのであればという淡い期待があった。
しかし残念ながら物語のように上手くいきそうにはない。
遥の言うことが事実であるとして今この状況をもしも神様が作ったというならば。
その意図は俺が遥に告白して振られることで変に拗れた二人の関係をきれいさっぱり清算しろということなのだろう。
俺はもう遥にとって仲の悪い幼馴染としてすら近くにいることは許されないということだ。
チラリと遥の顔見る。
ちょっと調子が悪そうで顔色は優れない。
こんなところに閉じ込められればそれはそうだろう。
もう猶予はなさそうだ。
俺は不意に立ち上がるとドアの前まで言った。
そしてそこで遥の方を見て言った。
「遥、ごめん。今から本当のことを話すよ。それで、もしここから出られるようになったら俺はそのままここを出て行く。返事はいらないから」
「?」
遥はきょとんとした表情を浮かべている。
ああ、そんな顔をした君もやっぱりかわいい。
しかし、そんな顔を見るのもこれが最後になるだろう。
「高瀬遥、俺はお前が好きだ。昔から大好きだった」
俺はそう告白すると彼女から顔を背けドアノブを掴んでガチャガチャと回した。
「くそっ、どうなってるんだよっ! 言っただろっ! 素直に俺の真実を全部言っただろっ! これ以上はねーよっ! 開けろっ、早く開けろよクソ野郎っ!」
ドンドンとドアを叩くがドアはびくとも動かない。
ああ恥ずかしいっ!
告白を決めて遥から返事を聞かずに直ぐにここから出て行くという俺のシナリオ通りにはならなかった。
純情な童貞少年を弄びやがって!
絶対にただじゃおかないっ!
俺は怒りにまかせてドアを叩き続けた。
「ごめんなさいっ!」
そんな俺に突然後ろから誰かが抱き着いてきた。
考えるまでもない。
たった今俺が告白をしたその相手だ。
その感触はこれまでに感じたことがないほどに柔らかくて温かだった。
「ごめんさいっ! 私っ、わたし嘘ついたっ、私も好きっ、好きだからっ、あなたのことが本当は好きっ! 大好きだからっ!」
「えっ?」
――ガチャ
その瞬間、これまでどんなに押したり引いたり叩いたりしてもビクともしなかったドアがあっさりと開いた。
「あれ?」
気が付くと俺たちは家の近所の道に二人立っていた。
さっきまであった真っ白な部屋はどこを見ても見当たらない。
まるで最初から何もなかったかのようだ。
時計を確認すると時計は動き始めていた。
時間もそんなに経っていなかった。
(夢だったのか?)
いわゆる白昼夢。
遥と両想いでありたいという俺の願望が見せた泡沫の夢だったのだろうか。
――未練だ
そう思って俺は遥を置いて歩き始めた。
「待って!」
その声の主に思わず振り返る。
「お願い、私もっ、私も素直になるからっ! だからっ、だからもう一人にしないでっ!」
「遥っ!」
俺はその言葉を聞いて思わず彼女に駆け寄り彼女を強く抱きしめた。
「ごめんっ、俺がっ、俺が意気地がなかったから」
「ちがうのっ、私がっ、私が素直になれなかったからっ」
ああよかった。
さっきのは夢ではなかったんだっ!
どうやら俺たちは似た者同士だったらしい。
そんな彼女が潤んだ瞳で俺を見上げる。
心臓がドクンと跳ねてうるさいくらいに鼓動が早くなる。
俺は震える手で彼女の肩に手を置くと彼女はその白い頬をほんのりとピンク色に染めた。
目を瞑ってわずかに顔を上げた彼女の唇に俺はそっとキスをした。
初めての彼女とのキスはほんのりとチョコレートの甘い味がした。
読んでいただきありがとうございます。
本作はちょっとファンタジーを交えたものにしてみました。
今までとはちょっと違う風味の作品になりましたがいかがだったでしょうか?
毎度のことで申し訳ありませんが ↓ の ☆を★に変えていただくと(★の数は気分でどうぞ)今後の作品作りのモチベーションになります。
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そのため、純粋な意味で次につながるモチベーションになりますので一つよろしくお願い致します(読んでいただいた方の人数もそれで把握ができますのでよろしくお願い致します)。