表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
98/245

29 厄猪──ミスフォートボア── 4


 さて、厄猪ミスフォートボアの弱点探しを再開する。


 厄猪ミスフォートボアが突っ込んでくる。


 ひょい──。


 それをかわして厄猪ミスフォートボア追従ついじゅうし、移動しながら塹壕トレンチナイフです。


 右側面、どこにも刺さらない。

 左側面、こちらも駄目だ。

 背中を含めて、どこもかしこもナイフが刺さらない。


 厄猪ミスフォートボアは俺を振り切ろうと、加速アクセル制動ブレーキ転回ターンをくり返す。

 張り付かれるのは嫌なようだ。

 俺を振り切ろうとしてボス部屋内部をメチャクチャに走り回るので、錨床アンカーフロアの範囲から飛び出しそうになる。


 いつものように迎え撃つのではなく魔獣に追従するとなると、一辺十六メートルの錨床アンカーフロアではまるで広さが足らない。

 そこで後方で距離が開いた端の部分を前方へ振り向けるという方法で錨床アンカーフロアを維持してみた。

 面積を広げる前にとりあえず試してみたのだが、さほどせわしなくなることもなく、拍子抜けするほど楽に対処できた。

 でも今度、もっと広い面積も試してみよう。


 耐重力(グラビティ)スーツもきちんと仕事をしていて、(ジー)がかかる都度、意識を持って行かれないよう気を張る必要はなくなった。

 なにしろ時速数十キロの速度スピードで、回転半径一メートル未満の転回ターンをしてくるので、振り切られないように気を張るのはとても大変なのだ。横滑り転回(ドリフト)なしでやってみれば良く分かる。

 だが“見えない鎧(ステルスアーマー)”のおかげで首も安定して、むち打ち症の心配をせずに済みそうだし、黒転ブラックアウト赤転レッドアウト共ども問題のないレベルに収まっている。


 厄猪ミスフォートボアが俺を自分と壁の間に挟んで、こそげ落とそうとしてきた。

 はさまれて痛手ダメージを負いそうなら、ルーシーさんに使った円筒形の“見えない壁”でこじ開けようと待ち構えていたのだが、“見えない鎧(ステルスアーマー)”に触れた壁の方が先に壊れたのには、ちょっとおどろかされた。

 さすが“見えないたて”による“見えない鎧(ステルスアーマー)”。

 スーツの強度は充分だ。


 加圧による体力の消耗はあるようで、まったく対価無し(ノーコスト)とはいかないらしい。

 だが戦闘中の話だ。

 安静にしているわけではない。

 効果の高さを考えれば、ささいな出費コストだろう。



 そんな中で、小さいながら進展があった。

 ヤツ(ミスフォートボア)の後方を調べていて、ちょっとした発見をしたのだ。


 厄猪ミスフォートボア股間こかんの急所をねらってみると、ここには短刀ナイフが刺さった。

 だがまったく反応がない。

 どういうことだろう。

 神経がないのか?

 急所というのは神経叢しんけいそうがあって、普通なら知らん顔できない場所なんだが。


 ダンジョン以外で魔獣を倒せば、死骸しがいがのこる。

 普通のけものを狩るのと同じに血が出るし、素材の肉や骨、羽やきもなどが手に入る。

 解体をしているし、だれもが普通にその肉を口にしているので、間違いない。

 普通の獣との違いは、体内の魔石の有無うむと、通常種よりも強靱な体や特殊能力、そして魔石を持たない生き物への攻撃性だ。


 一方ダンジョン内で魔獣を倒すと、体は消えてなくなる。

 血は出ない。

 残るのは魔石だけだ。

 血が飛び散らないので、ダンジョンの方がいいという冒険者もいるらしい。

 魔石以外が消えるので、後始末が楽だという話も聞いた。

 いやむくろが残ったとしても、どのみちダンジョンに吸収されて消えるのだが、たしかに解体の手間はない。

 初めてダンジョンにもぐったときから感じていたが、この違いはなんなのだろう。

 まあ考察こうさつは後回しか。


 しかし厄猪ミスフォートボアあしは、ものすごい勢いで動く。

 脚が短くて歩幅が狭いのに、速度は人の数倍速いので、蹴り脚が速くて目に見えないほどになる。

 いのししの脚は短くて、蹴られる心配がないので後ろにいるわけだが、これが馬や羊の後ろなら、られるのが必至ひっしの位置取りだ。


 あと試してないのは、脚の裏と腹の下か……。

 さすがにここを探るのは、られるというかまれるな。


 厄猪ミスフォートボアの腹は、あの巨体であっても俺の膝高ひざだかくらいだ。

 その腹を調べようと思えば、アイツ(ボア)の下へもぐるか、アイツをひっくり返すより他ない。


 下へ入るのはちょっと遠慮したいかな……。

 “見えない鎧”を装備しているので、踏みつぶされてあの世行き……ということにはならないと思うのだが、確信は持てない。

 ハッキリ言って試したくない。

 体重数百キログラムに踏まれるなんていうのは、想像するだけで恐ろしい。

 これは本能による恐怖で、理屈でなんとかなるものじゃない。

 傍で見ている連中が、その瞬間俺の死を確信すること請け合いだ。


 だからと言って“倍力鎚撃アシストバッシュ”で殴り倒すのはな───。


「あっ」


 思わず声が出た。


 なにもひっくり返してまで調べる必要はないじゃないか。

 前後左右と上も硬くて、攻撃は通りそうになかったのだ。

 残っているのは、下だけだ。

 良くても悪くても、そこを攻撃してもらえばいい。

 それで駄目なら、“倍力鎚撃アシストバッシュ”を連打して殴り倒そう。

 よし決めた。


 あとはひっくり返す方法だが……。

 “捕獲キャプチャー”?

 いやどうせ傾斜を使うなら、前脚まえあしよりも左右のどちらかを上か下へ動かし、横向きに寝かせたいな。

 いまなら機動力があるから、こちらから積極的に攻めることができる。

 よし、それで行こう。




 厄猪ミスフォートボアの前へ出て、後ろ向きに“猫だまし”で挑発ちょうはつする。


 パン──。


 怒った厄猪ミスフォートボアが速度を上げる。

 あ、すごい。あそこからまだ速度が上がるんだ。

 だが加減速も旋回性能もこちらが上だ。

 あ、厄猪ミスフォートボアの速度が戻った。

 最高速度を出せるのは一瞬か。


 リッターバイクに乗っているような加速で、距離を離してから反転する。


 距離を置いて厄猪ミスフォートボアと向かい合った俺は、まっすぐ厄猪ミスフォートボアへ向かって突進した。





リッターバイク:排気量1,000cc級の自動二輪車オートバイ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ