28 厄猪──ミスフォートボア── 3
ちょっと自立状態での高速移動を試してみようと思う。
ロボットアニメで、ロボットが脚を動かさずスケートのように移動するやつだ。
使うのはいつもの“見えない盾”。
“自動追尾衝撃”から縦方向の動きをなくして、移動を水平方向に限定するのだ。
ひょい──。
“厄猪”の突進を躱してみる。
できる。
できるけど、盾の動きに体をついていかせるのが大変だな。
左腕にかかる負担が、かなりと大きい。
そこで“見えない盾”で足場を作ってそこへ立ち、足場の動きを盾に連動させてみる。
ひょい──。
よくなった。
盾の動きに足がついていく。
だが地面に大きめの凹凸があると、懸架装置が底突きしたトラックの荷台にいるように、体全体が突き上げられるのがいただけない。
小さな凹凸は、“足場板”が僅かに“錨床”から浮いて移動するよう形像しているため、問題ない。
実際に浮いている訳ではないのだろうが、この隙間を大きくし過ぎると、立ち姿勢で飛んでいるようになってしまうので、ここはあまり広げられない。
そこで盾と足元、三点の位置関係を完全な固定にせず、連動量を加速度半減まで緩めて、ゆっくり変化するようにしてみた。
三点の間に緩衝機構を入れた感じだ。
ひょい──。
おお、これは良いな。
雪上バイクに引いてもらう橇かスノーボードにでも乗っている気分だ。
いや、左右の足が自由になるので、片手杖のスキーかスケートの方が近いか。
加速・制動はもとより、転回も自在になる。
この状態で“厄猪”の突進を止める。
ダンッ!───
よし、止まった!
いろいろ緩めたので、ひょっとして押し返されるかも? と身構えていたのだが、そんなこともなく普通に止まった。
なにしろ僅かに浮いている設定なので、ちょっと心配してしまったのだ。
「止める」という意識があるときは、摩擦がどうこうではなく、“錨床”と“足元パネル”が一体化するのかな。
というか、これまでの“見えない盾”の挙動を考えると、一体化するのだと考えてしまった方がいいのかもしれない。
さて、“自動追尾衝撃”の代わりに一発試し打ちしてみますか!
“厄猪”が来る。
それを“ひょい”っと避け、横へと回り込む。
そのまま横腹へ“盾鎚撃”!
ドンッ!───
大当たり!
厄猪が、ゴロンゴロン転がっていく。
いけそうだ。
というか、転がりすぎだろう!
「かかれっ!」
スレインたちが突っ込む。
うん、前向きだな。
だが残念、厄猪は脚を下にして止まってしまい、すぐさま立ち上がってきた。
それを見たスレインたちが、慌てて引いていく。
厄猪を吹き飛ばした“盾鎚撃”は、通常の盾鎚撃で当たりの瞬間、錨床から伸びた“見えない盾”による突進力を上乗せして行なった。
害猪を切り裂いた、なんちゃって昇降機の動きを横にして、盾鎚撃に上乗せした形だ。
錨床を広い面積に広げたために、こんなことが出来たのだと思う。
地属性魔術で、外から身体強化をかけているようなものだな。
速度はこちらが段違いに速いようだが。
はじめは径路を通すために広げた床だったけれど、意外な性質を見せてくれて、ちょっと面白くなってきた。
そういや月那も、地属性術で体表を保護してたっけ。
耐久試験をしたとは聞いていないが、あれはどれくらい硬くなったんだろう?
うまくすれば力の上乗せにも使えそうだし、こんど話してみよう。
最初に“自動追尾衝撃”で飛んでしまったため、質量がどうこうと考えてしまったが、“錨床”を利用した“倍力補助”付きの“盾鎚撃”だ。と考えておけば、いまは充分だろう。
なんとなくこの“見えない盾”の、使い方が分かってきた気がする。
だが打ち噛ましは、これで打ち止めだ。
補助”付き盾鎚撃の威力は、厄猪の転がり方を見る限り、“自動追尾衝撃”に遜色がない。
“自動追尾衝撃”と“倍力鎚撃”が一回ずつ。
どちらも初めて使ってみたが、こちらの負担が大きすぎてもう使えない。
みたいなことにしておくか……。
もう一度言うが、俺は“厄猪を張り倒した男”になんて、なりたくないのだ。
弱点調査を再開しよう。
厄猪が来る。
それを避ける。
そして猪の横腹に張り付き、移動しながらナイフを刺す。
うん、刺さらない。ぜんぶ弾かれた。
ホントに岩だ。
あ、猪の奴、俺がくっついているのに気がついたぞ。器用に首をひねって、こちらを睨んでいる。
急発進、急停止、急転回して俺を引き剥がそうとしてくる。
急転回から牙で突いてきたので、“見えない盾”を伸ばして防ぐ。
俺も振り回されるのがつらくなったので、一度猪から離れた。
気を抜いているとき強烈に振り回されると、首と意識が持って行かれそうになる。
加減速が強力で小回りも利くというのは、こういう所でやっかいだ。
振り回されるときの重力に対抗するというと、対応策は耐Gスーツか。
戦闘機の操縦室は旅客機のそれとは異なり、機器類を保護する最低限の加圧と加温しかされていない。
では高高度の低圧低温から人間をどう守るのか? というと、飛行服や保護帽に、電熱器と血圧計の圧迫帯のような機構が組み込まれていて、機体の機動による多方向への重力に応じて圧力をかけ、脳に血流が行かなくなる暗転や、脳に血流が集中する赤転を緩和するようになっている。
これを“見えない盾”で再現する。
基本で使うのは、転移部屋から試験で転移させた全身板金鎧だ。
俺の収納は、中の物を取りだした後も、収納物鑑定の情報が残るようで、履歴が参照できる。
出発前日、ルーシーさんから頼まれた全身板金鎧の姿図を描いたのも、この情報を参照しながらだった。
この“鎧”の情報を“見えない盾”で模倣して、全身を覆う。
次に関節を設置し、外力が加わったときにはそれを無視して現状継続、内側からの力には九十パーセント応じるように設定する。
百パーセントにしてしまうと、力加減がわからなくなるので、感覚帰還用に一部を残したわけだ。
関節の素材は、さきほど盾と足元の三点を繋いだ柔らかい繋ぎを使う。リカルドの盾を強化したときに、盾と錨床を結んだものだ。
柔らかい繋ぎの強度は分からないが、もともとの盾がなくなるわけではないので、問題ないだろう。
最後に“鎧”と装備中の防具類の隙間を埋める。
耐重力スーツを思い付いたときには、この隙間を風船のようなもので埋めて耐G用の圧力を得ようと考えていたのだが、“見えない盾”は強度があるのに変形できるのだ。
これを素材にするなら、最初から密着させておいて、突発的な重力がかかったときにだけ、変形して必要な圧力を得ればいいじゃないかと気がついた。
装備に密着した外皮服でいいじゃないかと。
“見えない鎧”の出来上がりだ。
この“見えない○○”というのもいい加減どうにかしたいのだが、英語だと
“stealth armor”か?
うん、変わらない。
それに鎧が見えないのであって、俺自身が見えなくなるわけじゃない(笑)。




