表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
96/245

27 厄猪──ミスフォートボア── 2


 厄猪ミスフォートボア素手すでいどむ。

 べつに自棄やけを起こしたわけじゃない。

 それに厳密には素手でもない。


 先ほどの“衝突”の感じからすると、“見えないたて”で厄猪ミスフォートボアを止めるのは、可能だろう。

 短距離ショートレンジで勢いを乗せてくる厄猪ミスフォートボアの加速力は、攻撃頻度(ひんど)が高くて厄介やっかいだが、最大速度トップスピード害猪イビルボアと変わらない。

 速度スピードが同程度なら体が大きい分、持っている運動エネルギーは大きくなるが、体重が害猪イビルボアの二倍という事はない。せいぜい二割増しか、多くて三割(ぞう)に見える。

 最大攻撃力は害猪イビルボアとさほど違わないないため、めるのに問題ないだろう。

 多くとも、三倍四倍とまでは行かないと思う。


 だが今回は止めるだけでは足らない。


 この厄猪ミスフォートボアは身体強化で体を硬化させる。言わば“身体硬化(こうか)”を使うため、こちらの攻撃がダメージに繋がらない。

 これは害猪イビルボアの体当たりが単純な質量攻撃だったのに対し、厄猪ミスフォートボアの攻撃が切削や貫通性ペネトレイションを持ち、こちらの防御がより困難になることを意味している。

 狩猟用の穿孔弾ホローポイントと、軍用の被甲弾フルメタルジャケットの違いに当たるかな。


 これまでのたたかいでは、俺が相手まじゅうを押さえ、みんなが攻撃するという役割分担だったが、今回は厄猪ミスフォートボアを止めつつ、みんなに損傷ダメージを与えてもらう方法をさぐる必要がある。

 こちらの攻撃が通じない上、他の者では厄猪ミスフォートボアの近くにいられないので、俺があれこれ試して、あいつの弱点を探し出そう! というわけだ。


 その厄猪ミスフォートボアの装甲には、狼型ウルフタイプを両断してのけたノルドの大剣ですら通用しなかった

 ルーシーさんの剣と技能スキルも、むかし通用しなかったんだろうな、あの様子ようすだと。

 そんな相手に俺の片手剣なんて、つま楊枝ようじみたいなものだ。

 だから今だけいつもの片手剣を除装じょそうして、代わりに塹壕トレンチナイフを装備した。


 短刀ナイフに、「 B 」の形のしっかりした護拳ナックルガードが付き、握りやすく取り落としにくい。名前の通り塹壕ざんごうのような狭小きょうしょうで劣悪な空間での戦闘に特化した、近接戦闘用ナイフだ。

 勿論もちろんこんな小さなナイフで損害ダメージを出そうというわけじゃない。

 損害ダメージを与えられそうな場所をさぐろうという話だ。


 にしても厄介やっかいなものだね。攻撃が通らないっていうのは。

 さて、どう損傷ダメージを与えたものか……。



 厄猪ミスフォートボアの攻撃手段は、きばによるとつと、体重に速度を乗せたまし、つまり体当たりによる質量攻撃と、身体硬化による付随損傷(ダメージ)だ。

 牙の攻撃は下段からの突き上げと考えれば対応できる。

 質量攻撃への対処も害猪イビルボアの相手で出来ていて、広い錨床アンカーフロア全体で受け止めれば問題ない。

 何しろ自分も相手も錨床アンカーフロアの上にいるのだ。

 すべてたなごころの上。

 つまり、こちら──俺が倒されてしまう心配は、あまりしていない。

 事実、先ほどから何度か攻撃を受けているが、完全に受け切れていて、損害ダメージは受けていない。


 ないのだが、こちらからの攻撃手段にも微妙なものしかない。

 “錨床アンカーフロア”の目立めだては続けているし、厄猪ミスフォートボア標的ターゲットは俺がとったので、リカルドたちへの突進チャージ牽制けんせいする必要はなくなり、錨床アンカーフロア目立めだて効果は継続損傷スリップダメージひとつにしぼっている。

 ただ七国ゲームとは違い、相手のHP(ヒットポイント)バーが見えるわけじゃないので、どれほど体力(HP)を削れているのか判然としない。

 椅子に座ってなら、厄猪ミスフォートボアを拘束して徹夜も考えられるが、かなり激しく体を動かしながらでは無理!

 長丁場なら水分補給も食事もしたい。用足しにだって行きたくなる。

 前の二つは収納ストレージを使えばなんとかなるだろうが、後半はどうにもならない。

 極端に長い時間はかけられないだろうな。


 また厄猪ミスフォートボアが突進してくる。

 衝突の直前に、俺は上へと飛び上がった。

 害猪イビルボアを二枚に下ろした、縦型の風閂かぜかんぬきだ。

 だが厄猪ミスフォートボアには通用しなかった。

 はじき返されたわけではない。直前で減速して向きを変えられて、衝突が起こらなかった。


 そう言えば洞窟蝙蝠ハンガーバットは、水平に張った“見えない盾”に着地しようとしなかったし、狼型ウルフタイプは“見えない壁”に沿って走っていた。

 魔獣っていうのは、“見えない盾”を感じ取っているのかもしれないな。視覚とは別の感覚かもしれないが。

 そして害猪イビルボアは止まりきれずに切り裂かれ、厄猪ミスフォートボアは急加速と同様、急減速ができて止まれたという事か。



 ともかく“見えない盾”の平らな面には体当たりをしてくるので、厄猪ミスフォートボアがぶつかる瞬間、塹壕トレンチナイフを“見えない盾”から突き出して、相手の硬さをみてみる。

 やわらかい所はないかな~?


 だが当たる部分は攻撃に使う部位だけあって、どこも硬い。

 ぶつかって止まった瞬間を狙い、脇へ回り込んでみるがやはり硬い。

 もっと後半身へも行ってみたいが、それだけ時間をかければ離脱されてしまう。

 早くも手詰てづまりだ。


 相手が向かっ来てくれるので、それを受け止め短刀ナイフで体表の様子を探ることはできるのだが、全身くまなくとはいかない。

 なぜか?

 こちらの移動速度が足りてないためだ。


 人は自前の足で、どれくらいの速度スピードが出せるだろう?

 フルマラソン、42.195キロメートルの世界記録が2時間ほど、時速にして毎時20キロメートルくらい。

 100メートル走を10秒で走れば、毎時36キロ。

 これはいずれも陸上競技のトップ選手プレイヤーが叩き出す値で、一般人ではこの半分にも満たず、自転車を使ってさえ非常に大変な思いをする事になる。


 ひるがえって、野生の“いのしし”の最高速度が毎時45キロ、馬なら毎時60キロ、狼も同じくらい。競走馬なら80キロメートルを超える走行性能を持っている。

 こうしてくらべると、“ひと”がいかに鈍足どんそくなのかが分かるだろう。


 野生の“イノシシ”が走るところなど見た事はないが、ひらけた地形で、四足歩行動物に追われたら、人の足ではまず逃げ切れない速度差があるのだ。

 だから狩猟も魔獣狩りも、遠隔攻撃か、わなを仕掛けるか、挑発ちょうはつしてこちらへお越しいただく事になる。

 ルーシーさんのスキルによる移動が、いかに破格なものかがよく分かるだろう。


 先ほどの“自動追尾衝撃ホーミングインパクト”は、攻撃手段としてどうだろう?

 これは有効そうで、何発か入れれば倒せる可能性がある。

 だが“却下きゃっか”だ。

 速度も出るし、相手に損害ダメージを与えられそうだが、ルーシーさんに自然な一撃を入れてもらう余地よちがない。

 有効な攻撃手段があるのなら、自分で倒しなさいという話になる。

 それで“厄猪ミスフォートボアを張り倒した男”として周囲に認識されるのは、二重の意味でありがたくない。


 俺と月那るなが、このゲームにそっくりな世界で“冒険者”を始めたのは、生きびて、元の世界へ戻るための手掛かりと、それを探すための移動の自由を得るためだ。

 今回の件で変に名を上げて、何処どこへ行っても身バレするなんていう状況は好ましくない。

 命の次に大切なのは、意思決定の自由だ。そこには移動の自由も含まれ、時によっては一番が入れ替わることすらある。


 不必要に名前が売れてしまい、社会的に移動が不自由になってしまうのは有り難くない。

 いよいよとなって他に手がなければ別だろうけど、いま取る手段じゃない。

 月那るなや“白き朝露”の前ならともかく、現在は“怒濤の山津波”もいる。

 ルーシーさんは個人的に信用できるが、立場上あとで組合ギルドに報告しなくてはいけないはずだ。

 だから俺としては、“見えない盾”で説明できる範囲で、厄猪ミスフォートボアを押さえるにとどめ、攻撃やとどめは他の人にやってもらえるとがたい。





 ‥‥‥飛ばなければどうだろう───?



 鳥ならぬ二足歩行の人間が“空”を飛ぶのは、明らかな異常事態だ。

 先ほど、伸ばした“見えない盾”の先端で、厄猪ミスフォートボアをペチンとはじく実験をやめたのも、明らかに異常だからだ。

 だが速度は欲しい。


 それなら、二本の足で立ったままの移動ならどうだろうか。

 アニメの歩行型ロボットが、浮揚ホバリングしながら移動したり、脚のタイヤやローラーを使って高速移動するやつだ。

 現実のロボットにはまだまだできる事ではないが、“空”を飛ぶよりは、高速移動の異常さがゆるくないか??

 人間なら自立姿勢での移動は、おかしなことじゃない。

 すぐそこには“瞬間移動”にしか見えない動きをするルーシーさんだっているのだ。



 ───ちょっと試してみるか。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ