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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
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26 厄猪──ミスフォートボア── 1


「あなたも行ってしまうの?」


 次の行動をシルィーと打ち合わせていたら、後ろからルーシーさんに問いかけられた。


「すぐに戻ってきますよ」

「うそ」

「嘘じゃありません」


 ルーシーさんの様子は、顔色が悪いことと関係あるのか? 昔ダンジョン・ヤグトで痛い目にあったくらいはありそうだな。

 遊戯ゲームじゃなくて現実リアルだから、冗談事しゃれでは済まない話なのだろう。


「………“アカツキ”だって、ほとんど全滅しちゃったんだから……」


 昔いたパーティーか知り合いが、ミスフォートボア(アレ)のせいで全滅したのか。

 そしてルーシーさんは、生き残ったか“ほとんど”の例外からそれを聞かされた?

 アレは第十八層からの魔獣だって言ってたからな。

 組合ギルドには第十七層までの資料しかなかったから、アレ(ミスフォートボア)のせいで最深到達階層を更新し損ねたのか。

 ルーシーさんの反応の激烈げきれつさからすると、実際に全滅をその目にしてきた可能性もある。

 それは大変そうだが、今は“怒濤の山津波”たちを支援しないと、俺たちもここで全滅しかねない。


「いま行かないと、“怒濤の山津波”の皆さんが全滅しちゃいますよ」

「やだ」


 即答だ。

 恐慌パニック状態に近くても、幼なじみの全滅は嫌な事だと分かるらしい。

 まだ立ち直りが期待できるかな。


「そうでしょう? 幼なじみが全滅するのは嫌でしょう?」

「うん……」


 強いな。幼なじみのきずな。ちょっとける。

 じゃなくて、これを梃子てこにできれば……。


「だからちょっと行ってきます。時間が経って一人減るごとに、勝率が下がりますからね。こちらの戦力が欠けていない、今が最大の好機なんです」


 こんな状況ではゆっくり時間をかけてはいられない。

 できればルーシーさんにも復活して欲しい。


「ほんとに帰ってくる?」

「帰ってきますよ。ここは“壁”が張ってあるので安全ですが、ルーシーさんが“出たい”と思えば、壁は消えます。なので“厄猪ミスフォートボア”…でしたっけ? アレに一撃入れたいなら歓迎しますよ」


 ルーシーさんの周囲を“見えない壁”で囲い、中から外への一方通行にして、念のため中から外へ出たら壁そのものが解除されるように設定する。

 こんな条件設定は初めてするけど、ちゃんと働くかな?


「ホン…ト?」


 もう一押し。


「本当ですとも。なにせルーシーさんは、五階層調査隊の最大戦力なんですから。機会は俺が作ります。それが“盾職”のつとめです」


 俺は指切りをしようと小指を差し出す。


「……なに?」

「俺の故郷の“約束のしるし”です。小指をからめて……」


 ルーシーさんは、ちょっと不思議そうな顔をしながらも指を絡めてくれた。


「指切りげんまん、うそついたら針千本のます」


 心なしかほほに赤みが差してきた気がする。

 少しは元気が出てきたかな?

 指を離すと、怒濤どとう山津波やまつなみ + シルィーの五名はまだ健在だ。


「それじゃあちょっと行ってきます」


 ルーシーさんがうなずいてくれた。

 さて、行きますか。




    †



「飛ぶ!」


 と言っても、○○○○マンよろしく空を飛行するわけじゃない。

 “見えない壁”を変形して射出する“衝撃インパクト”だ。


 いつものように自分の盾を起点に、先端を(エル)字型に変形させた“壁”を射出する。のではなく、足元の“錨床アンカーフロア”を起点にして、射出した“壁”の先端に自分が乗っているのがちょっと違う。

 (エル)字型をした“壁”の内側の、水平にした“壁(床?)”に両腕を伸ばして腹ばいに乗っている格好だ。

 ひょっとしてはたから見たら、飛んでいるように見えるかもしれない。


 これは遠隔攻撃が当たらないことへの対策でやってみた。

 戦闘場所までの距離を詰めるのにも役立つ。

 もう一つ、“感応環レスポンスリング”による気配察知の較正キャリブレーションをしたかったのもある。

 今後、遠隔攻撃の照準に“感応環レスポンスリング”の気配察知が使えるようになると、期待しての行動だ。



 伸ばした両拳りょうこぶしの間に目標をとらえ続ければ、自然と目標に当たる。精霊眼も併用しているため、障害物さえ(今はないけど…)ものともしない。言うなれば“自動追尾衝撃ホーミングインパクト”で、厄猪ミスフォートボアの横っ腹へ肉迫にくはくする。


 衝突コリジョン! ───


 “自動追尾衝撃ホーミングインパクト”と、反対側から足元を狙ったシルィーの“横打ち空気槌エアハンマー”が相まって、厄猪ミスフォートボアが盛大な音をたてて横倒しになった。

 厄猪ミスフォートボアを転ばせられればおんの字と考えていたのだが、勢い余って六百三十度、つまり一回転と四分の三も回ってしまった。

 まわり過ぎだ。

 意外なほど強い“衝撃インパクト”の威力だった。


 これまで見たことのない大きさと強さの魔獣だったので、気合いを入れてぶつけてみたのだが、考えていたよりも相手ミスフォートボアを強く突き飛ばしてしまったようだ。

 不思議なのは、出した威力の割りに反動の衝撃が少なかったことだ。

 射出や停止の加速度()はちゃんと感じたので、技能スキル慣性かんせいを無視している。などという話ではないと思う。

 ひょっとして俺の“見えないたて”って、受ける相手にとっては質量がとてつもなく大きかったりするのだろうか?

 いやいやいやいや────。

 でも、元の世界では考えられない話だが、魔術だの技能スキルだのがあるこの世界では、そういうことも“あり”なのか?

 よく分からないな。


 感じとしては前に交通安全映画で見た、大型のトラックが自転車や三輪車を跳ね飛ばす映像と重なる。

 その大型のトラックが時速二キロメートルでいのししと押しくらべをした場合、トラックがほぼ時速二キロメートルでいのししを押し続けることになるだろう。

 押されるのが、自分より大きい猪の魔獣だというのが非日常的な光景ではあるが、試しにそんな感じのことを、ちょっとやってみようか……。


「倒れたぞ! 全員攻撃!」


 スレインの号令がかかる。


 俺は着地点、先ほどまで厄猪ミスフォートボアがいた場所に立っている。

 その厄猪ミスフォートボア衝撃インパクトで吹き飛ばされて、数歩先で起き上がろうとしてもがいている。

 体が大きくて四肢が短いので、必死になって体をよじらしている。


 転がった厄猪ミスフォートボアには、“怒濤の山津波”とシルィーがここぞとばかりに襲いかかっているのだが、ルーシーさんの言うとおり体表と体毛が硬く、ノルドの大剣ですら攻撃が通じていない。

 シルィーの魔術剣は効いているようで、痛がってはいるのだがそこまでのようだ。

 この硬さと重量で突っ込まられたら、そりぁあ味方の損害ダメージふくらむことだろう。


 必死に腰をひねる厄猪ミスフォートボアがやっと前肢二本を地面につけると、五人がルーシーさんの後ろまで待避した。

 他の者がいなくなったので、盾をかかげて“見えない盾”を展開する。

 もちろん錨床アンカーフロアに接続した状態でだ。

 そのまま厄猪ミスフォートボアへゆっくりと近付いていく。


 “見えない盾”の強度についてはこれまでの実績があるので、あまり心配していない。

 ボア(ヤツ)は転がされた衝撃ダメージが大きかったのか、横っ腹を見せたままあらぬ方向を見ている。

 そして厄猪ミスフォートボアのすぐ脇へ到着し、盾がボア(ヤツ)に密着する。

 そこから“じわり”と盾(とボア)を押してやると……。

 厄猪ミスフォートボアも“じわり”と横ずれした。


 ほう……。


 反動がまったくないわけではないが、この巨体をずいぶん軽い力で押し動かせたと思う。


「ほら、はじ、まった。また、実験(エクス、ペリメント)、する、つもり、だ」

「ほう、あれがそうなのか」

「たぶん、さっき、飛んだ、のも、そう」


 む、先ほど入場メンバーで揉めていたときは、うまく丸め込んでくれたシルィーだが、あの設定は続いているらしい。

 観客ギャラリーもいることだし、少しは自重した方がいいか。

 長く伸ばした“見えない盾”の先端で、厄猪ミスフォートボアをペチンと弾いてみたかったのだが、成功した時の絵面えずらが酷いことになりそうだ。

 それに、ルーシーさんに一撃入れてもらう機会をつくらないといけない。

 お仕事しよう。


 俺は厄猪ミスフォートボアの前に出て、“見えない盾”を解除し、徒手ベアハンド戦闘体勢ファイティングポーズを取った。




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