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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
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25 厄猪ふたたび  sideルーシー


「あれ? あねさん、タツヤ。二人ともまだいるのか?」


 そう言いながら緊張をなかば解き、前室から出てくる二番手の面々。

 そんな彼らが後にした前室の内扉が閉まり、「カチャ」っと施錠の音がする。

 そして部屋の中央にある“魔術陣”に魔力が注がれたのか、モヤモヤしたものが現れて形を取り始めた。


 また“ボス”?!────。


「警戒して! 様子がおかしいの!」




 やがてモヤモヤが形を取って現れたのは、先程と同じ“いのしし”だった。

 けれど、灰色グレー焦げ茶(ダークブラウン)まだらと、一回り大きな体。


 うそっ───。


 頭が真っ白になる。

 それでもなんとか声を絞り出す。


「“厄猪ミスフォートボア”よ。第十八層からの魔獣。アレの正面には立たないで!」

「身体強化でも使ってくるんですか? ってどうしました? 大丈夫ですか?」


 自分で血の気が引いているのが分かるけど、はたから見てもそうらしい。


「そうよ…」


 初めて厄猪ミスフォートボアと遭遇した第十八層での記憶が、せきを切って押し寄せてくる。

 厄猪ミスフォートボアという名前は、後から帰還したもう一人の生存者、アカツキの斥候スカウトリーガンさんから聞いた。

 リーガンさんは私が離脱したあともその場に残り、Aランクパーティー“アカツキ”が崩壊ほうかいするさまを見届けていたのだ。

 役割として。


 攻撃のことごとくをはじき返す硬い体毛と体表、短い攻撃間隔にはリリア師匠ですら大技を出す余裕を持てず、師匠と回復役のセシリアさんがまとめて倒されたあとは、あっという間だったそうだ。


「筋力もそうだけど、体毛や体表を硬化してくるから、かすっただけでも大きな痛手ダメージがあるの。それに剣も魔術も通用しない…」


 実際に闘っているときは、ただただ硬い魔獣としか感じていなかったけど、あの頑強がんきょうさは身体強化によるものだったらしい。


 それが魔力を使った身体強化だということは、アカツキの風属性魔術士“ルカ・シフリンの覚え書き(メモ)”に書かれていた。

 リーガンさんと私が十八層から後送こうそうされるときに、報告用に持たされたもので、冒険者組合(ギルド)へ提出してあった物を、数日遅れてダンジョン・ヤグトから脱出したリーガンさんが返却を受け、彼らの最後の様子とともに私に届けてくれた。


「つまり、トゲトゲの付いた大岩が地面の上を飛んでくる感じですか」

「そう。だから……」


 言葉が続かない。

 頭が働かない。

 目は見え耳も聞こえているけれど、見ている光景の意味が、聞こえる音の意味がふわふわと頼りなくなっていく。

 回れ右をして地上へ向け走り出したくなる。

 逃げ場なんてどこにもないのに。

 手足の感覚がとお退き、自分が立っているのかさえ曖昧あいまいだ。


「タツヤ! ルーシーは“厄猪ミスフォートボア”とは戦えない。そこで守ってやってくれ!」


 失礼ね、スレインったら。

 と気持ちは思うものの身体はついてこず、私はあふれ出る記憶に翻弄ほんろうされていた。



 Biiizzzzzz───。



 聞き覚えのある“厄猪ミスフォートボア”の怒りの鳴き声が響く。

 小刻みなくせに重い攻撃が、角度を変えながら打ち込まれる。

 あの攻撃のせいで、師匠はろくに技が出せなかった。


「くそっ、盾に亀裂ひびが入ったぞ」


 盾戦士シールダーのレピドさんは、不意打ちを受けて最初に倒れてしまった。彼が生きていれば展開が変わっていたのだろうか? それとも盾ごと打ち破られて、結果は同じだった?

 いえ、“もしも”に意味なんてない。

 レピドさんは死んだ。

 セシリアさんも死んだ。

 ノーラさんも死んだ。

 ルカさんも死んだ。

 そしてリリア師匠も死んでしまった。

 私は見てないけど、私と一緒に後送されたリーガンさんは、その死に様を見ている。


 厄猪(アレ)が現れたら、みんなってしまうのだ。


「シルィー、俺が動いたら厄猪ミスフォートボアあし空気槌エアハンマーで払ってくれ! お前の右手側からだ!」

「わか、った…」

「こらっ、タツヤ! ちゃんとあねさんを守ってろって!」


 ぼんやりした頭に、そんなやり取りが聞こえてきた。

 この人も行ってしまう……。


「あなたも行ってしまうの?」


 タツヤさんの肩をつかんでそう問うた。


「すぐに戻ってきますよ」

「うそ」

「嘘じゃありません」

「………“アカツキ”だって、ほとんど全滅しちゃったんだから……」


 アレ(ミスフォートボア)のところへ行けば、みんな帰って来ない。

 生き残ったのは、戦わなかった者だけ。


「いま行かないと、“怒濤の山津波”の皆さんが全滅しちゃいますよ」

「やだ」


 知ってる人が居なくなるのはさみしい。


「そうでしょう? 幼なじみが全滅するのは嫌でしょう?」

「うん……」

「だからちょっと行ってきます。時間が経って、こちらが一人減るごとに勝率が下がりますからね。戦力が欠けていない今が、最大の好機なんです」


 だけどこの人は帰ってられるのだろうか……。

 “見えない壁”の、いえ“遮断インターセプト”の技能スキルを使うから、ひょっとしたら大丈夫なのかもしれないけど。

 それとも“アカツキ”の時も、盾戦士シールダーのレピドさんが健在ならアレ(ミスフォートボア)に勝てたのかな?

 これまで何度も問い返して、一度も答えが出せたことのない問題だ。


「ほんとに帰ってくる?」

「帰ってきますよ。ここは“壁”が張ってあるので安全ですが、ルーシーさんが“出たい”と願えば、壁は消えます。なので“厄猪ミスフォートボア”…でしたっけ? アレに一撃入れたいなら歓迎しますよ」

「ホント? ……」

「本当ですとも。なにせルーシーさんは、五層調査隊の最大戦力なんですから。機会は作ります。それが“盾職”のつとめです」


 そう言って、タツヤさんがこちらへ小指を出してきた。


「なに?」

「俺の故郷の“約束のしるし”です。小指をからめて……」


 言われたとおりに小指を絡める。

 なによこれ、ものすごずかしいじゃないの。


「指切りげんまん、うそついたら針千本のます」


 そう言って指を離すタツヤさん。

 約束を破ったら針を千本のませるって、海胆うにでも飲ませるの?

 ずいぶん過激ラジカルな契約をする土地もあるのね。


「それじゃあちょっと行ってきます」


 私がうなずくとタツヤさんは───飛んだ!?


 私がぶのとは違う。

 体を伸ばして空中を飛び、握った拳から“厄猪ミスフォートボア”へ突っ込んで行った!!


 何よあれは!!




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