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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
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24 ボス戦ふたたび sideルーシー


 ここまで調べた、ボス部屋前室(ぜんしつ)の二重扉(かい)条件。


外扉そととびらを外から開けるには、扉二枚の合わせ目付近にそれぞれついている“おし”を、二つ同時に押して掛け金(ラッチ)を解除する

・前室内への入場は“最大六名”。それより多く入室した場合、外扉が閉められない。

外扉そととびらを閉めれば、内扉うちとびらが開けられる。

・内扉を閉めれば、外扉が再度開けられる。

・外扉と内扉はほぼ同じ構造で、どちらも前室側へ開く。


という四点に、前回タツヤさんたちが調べた


・内扉は、ボス部屋側からは開けられない。


を加えた五点に集約されるようだ。


 要するに、外から中への一方通行ってこと。


 事前確認としてはこんなものでしょう。

 あとの細かいところは専門の人たちにまかせましょう。



    †



「さて、準備はいい?」

「ええ、もちろん」

「でも、本当にやるの?」

「そのつもりですよ。ルーシーさんは興味ありませんか?」

「そりゃ興味はあるけど」

害猪イビルボアを倒すことに違いはないですし、観察しているルーシーさんが危ないと判断したら、指示にはきちんと従います。せっかく高耐久の盾役がいるんですから、有効に活用してください」

「分かったわ。それじゃあ行きましょう」



「じゃあ突入するわ」


 再び外扉を開け、ボス部屋前室について調べたことを“怒濤の山津波”たちに伝え、突入開始を告げる。

 先ほどまでの予定通りに五人でボス部屋へ突入して、残りの二人にここまでの情報だけでもギルドに持ち帰ってもらった方が良かったかな? と少し思う。少しだけね。


「ご武運を」「頑張れ姉さん」「気を、つけて…」「行ってらっしゃい」「また後で」

「「行ってきます」」


 そうして二番手と一旦お別れした私たちは、外扉を閉めた。




 二人で内扉を引き開ける。

 やっぱり広いわね。

 先ほど多くの魔獣を片付けた広場ほど広いわけじゃない。組合ギルドの屋内訓練場はここより面積があるけど、天井が低いのでかさとしては似たようなものかな。

 でもここが第五層中央岩塊の中だと考えると、ずいぶん広々とした空間が取れていると思う。


 タツヤさんが前へ出て、ボス部屋へ踏み込んだ。

 ボス部屋に人が入った状態で内扉を閉めたら、果たして外扉を再び開けられるのか? なんて疑問が浮かんだけど、内扉を閉めたら私が閉め出されてしまった! なんてことになると、タツヤさんが一人で“害猪イビルボア”とたいすることになってしまう。そんな危険含み(リスキー)な好奇心は、本調査に任せましょう。


 引き開けた内扉うちとびらは、前室側と同じく見るからに扉然とした見た目をしていたけど、ボス部屋側には“ひき”もなければ、外扉の外側のような“おし”も見あたらなかった。

 私も扉を押さえていた手を離して部屋へ踏み出し、背中の剣を抜く。


 タツヤさんは“見えない壁”を展開しながら中を歩いているはずで、すこし壁沿いに歩いた後、


「前回は、ここで俺以外が待機していました」


と教えてくれる。

 このあと私が立つ場所だ。

 私がうなずくのを見て、タツヤさんが部屋の中央へ向かっていく。


 私が離れ、支える人のなくなった扉がゆっくりと閉まり、「カチャ」っと施前じょうまえの掛かる音がした。


 あっ!


 移動なしで発動していた“跳躍ちょうやく技能スキル経路ルートが、施錠音せじょうおんとともに、部屋の外へつながらなくなった。

 完全に閉じ込められた。いえ、もともとそういう場所なんだけど、技能スキルでの移動まで封じられるとは思っていなかった。

 これで最悪の場合、私だけ“跳躍ちょうやく技能スキルで戻って報告するという手は使えなくなった。

 五年前のようには行かなくなったわけだ。

 “レピド”さんや“セシリア”さんが私を連れて行った気持ちが、今なら少し分かる気がする。


 なに、“害猪イビルボア”を倒して先へ進めばいい話だ。これくらいでは動じない。警戒はするけど、目標は変わらない。


 それにしてもほんの少し前に、人生初の“跳躍ちょうやく”スキルが通らない事象に遭遇そうぐうしたばかりだというのに、はやくも二度目が来ちゃったか。

 五年ぶりに少し活動的アクティブになってみれば、人生が急展開すぎる。

 いちどタツヤさんと私の技能スキルについて、ゆっくり話がしたいな。


 そのタツヤさんから提案されたのは、害猪イビルボアの攻撃を前回と同じ手順で受けてみようという話だった。

 彼は害猪──がまた出るのかという所も含めて──は毎回同じ個体なのか? という所に興味があるようだ。

 その興味が意欲モチベーションに繋がるなら、止めたりしないわよ。

 でも、暴走はしないでね。

 タツヤさんが暴走? ──ちょっと想像しにくいか──。


 部屋の中央、床に描かれた魔術陣からモヤモヤしたものが立ち昇り、形を成していく。

 魔獣というのはこうやって生まれてくるの? それともここだけの話?

 “跳躍ちょうやく技能スキルの出現先は、いつでも攻撃を始められるよう狙いを定めている。

 ん───、とりあえず一撃入れてみたい!

 うん、私の暴走の方が危ないわね。自重じちょう……。


 モヤモヤが実態化を終了した。


 下顎したあごから牙が突き出し、丸い胴体、短い尾と短い四肢しし、ただし体重は私の十倍くらいありそう。



 害猪イビルボアだ───。



 二度目も同じ種類の魔獣が現れたようね。


「本当に害猪イビルボアが出るのね」

「嫌だな、信じていなかったんですか?」

「信用してるわよ。でも目の前の害猪イビルボアを見ていると、ここが五層だって実感できなくて…」


 これまでの常識とか経験とかが、くつがえされちゃってるもの……。


「分かりませんよ。転移(トラップ)なんてものがあるんです。実は知らない間に第十一層へばされているのかもしれない」

「やめてよね。縁起でもない」


 そうなったときのかえり道の長さと、残りの調査隊メンバーの先行きを想像すると、思いっきり気が重くなる。

 十一層なら、私たちも残りのメンバーも地上へ戻れるだろうけど、かなりの時間を要するのは明らかだ……。

 それに十一層でなく、二十二層とかへほうり出されたら、とても帰れる気がしない。


「そうですね。俺ももうりです。来ますよ」


 タツヤさんにも想像できるらしい。

 そうね、ダンジョンではないけど、タツヤさんもこの国へ“流されてきた人”だった。


 害猪イビルボアが走り出した。



 ドシャッ!───



 凄い。

 本当に害猪イビルボア突進チャージを止めた。

 いつでも飛び込めるように気を張っていたのを、ほんの少しだけゆるめる。


 ドシャッ!───


 地面に届くような大盾ならまだしも、普通の丸盾ラウンドシールドひとつで害猪イビルボアを止めている姿は、見た目の違和感ギャップ半端ハンパじゃない。


 ドシッ!───


 あの“見えない壁”を併用へいようしているのだと分かってはいるけど、


 ブシッ!───


 私が“跳躍ちょうやく”スキルに十倍、いえそれ以上の距離をたたみ込んでも、このひとにはめられてしまいそうだ。



 ザシュッ!───



 タツヤさんがび上がった(!)と思ったら、その足元で害猪イビルボアが肩までかれて、足が停まる。

 “見えない壁”のへりで、害猪イビルボアを切り裂いたっていうのがこれね!


 頭上にいたタツヤさんが、害猪イビルボアの横へ降り立つ。

 と同時に、害猪イビルボア前肢ぜんしった。


「ルーシーさん!」


 お呼びだ。

 タツヤさんがこちらを向いて「ル」と言ったときには“跳躍ちょうやく”を初めている。

 脇腹を一閃いっせん

 戻りで背中を大きく切り裂いて、手応えあり。

 害猪イビルボア摩滅まめつして、タツヤさんの収納ストレージへ吸い込まれた。


「ふぅ、本当に止めちゃったのね」


 タツヤさんに近づきながら、そう話す。


「嫌だな、そう言ったじゃないですか」

「信用してるわよ。でも実際に害猪イビルボアの当たりにすると、どうしても常識が邪魔をするのよ! 仕方ないでしょ!?」


 私って常識人だから!


「は、はは……」


 なによその乾いた笑いは……。





 ……………。


「遅いですね…」

「そうなの?」


 遅いらしい。

 私は初めてなので、こういうものかと思ってたけど。


「前より時間がかかっています…」

「………」


 すると入口の内扉が開き、見知った姿が顔を覗かせた。

 “怒濤の山津波”とシルィーさんだ。

 どういうこと?!


「あれ? あねさん、タツヤ。二人ともまだいるのか?」


 そう言いながら緊張をなかば解き、前室から出てくる二番手の面々。

 彼らが後にした前室ぜんしつうちとびらが閉まり、「カチャ」っと施錠せじょうの音がする。

 そして部屋の中央にある“魔術陣”に魔力が注がれたのか、モヤモヤが現れて形を取り始めた。



 また“ボス”?!────。




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