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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
92/247

23 ボス部屋調査6 sideルーシー


 休憩を兼ねた最後の事前確認ブリーフィングのあと、ボス部屋前だ。


「……本当にここなの?」

「それらしい形跡がまったく見えんのだが……」


 スレインと顔を見合わせて、思わずそうこぼしてしまった。

 目的地へ着いたものの、そこに入り口を思わせる兆候ちょうこうが、まったく感じられなかったのだ。

 スレイン(斥候スカウト)も同じ意見らしい。


「どう?」


 私たちを案内してきたタツヤさんに、確認を求める。


「場所はここです。地図作成マッピングスキルによる地図マップは、ここに先日迷い込んだボス部屋へ繋がる、通路のようなものがあると示しています」


 気負うことなく答えるタツヤさん。

 彼の頭の中には、岩壁の中を含めた地図が浮かんでいるのだろう。

 少なくとも、なんの根拠もなしに言っているわけではなさそうだ。

 地図が思い浮かぶって言うのは、どんな感じなのかしら。

 便利そうだけど、見え方は気になるわね。


「そう。それじゃあスレイン、開け方をさぐってもらえる?」

「はい。やってみます」


 そうは言ったものの、スレインも声に力はない。

 ちゃんと見つかるといいのだけど。

 ホントに。


「おい、何をしてるんだ?」


 ルクスの声がしたのでそちらを見ると、タツヤさんが、立ち位置を前後に変えてはこちらを見直していた。


「前回、第六層から脱出したときに見た扉も岩壁いわかべ偽装ぎそうされていたんですが、その時は距離が偶然ぴたりと合ったときに、閉まっている扉の輪郭りんかくがうっすら見えたので、今回もそれで分からないかなと思いまして」

「そうだったの。それで、どう?」

「もうちょっと……」


 しばらくあれこれ見直した後、


「ここ、見える気がしますけど、どうですか?」

「どれ?」


 タツヤさんがそう言ってきて、足元に目印を置き、私に場所をけてくれる。


「もう少し下で……そう。それで」


 その場所へ立ち、指示に従って少し膝を曲げたところでタツヤさんの“良し(オーケー)”が出た。んー、これで見えるの?

 するとタツヤさんが扉のところまで行き、剣先で輪郭りんかくし示すと。


「ああ! 見えるわね。ちょっとスレイン、見てみて!」


 本当に見えた。

 すこし頭の位置を動かすだけで、岩の凸凹(でこぼこ)まぎれて、細い線が分からなくなる。

 凄い隠蔽いんぺい具合、よくこんなものを見つけたわね。

 技能スキルの補助あってのことだろうけど、タツヤさんの案内がなければ、なにも見つけることのないまま六層へ向かっていた可能性があるわね。

 スレインに場所を代わると、タツヤさんがもう一度扉の輪郭りんかくし示してくれる。


「……なるほど、これは…」

「ちなみに裏口は両開きで、掛け金(ラッチ)はありましたが、ロックはありませんでした」

「そうか」


 うなづいて、扉へ近寄っていくスレイン。

 これでうまく見つけられるといいわね。


 そこそこの時間を待つと、


「見つけました。これで開けられるはずです」


 という声が聞こえた。

 開けられるようだ。

 扉の中央付近には、ひじから先くらいの間を開けて、二箇所に四角い印が付けられていた。


「この二箇所を同時に押せば開くはずです。かぎもかかっていなければわなもありません」


 スレインも凄いわね。

 さすが熟練ベテラン斥候職スカウト


「開けましょう。無事に開いたら記録を取って、その後は予定通りに進めます。

 タツヤさん、さっきの“見えない壁”でスレインを保護できる?」

「できると思いますよ。形はわりと自由になりますから」


 ホント使いがあるわね、あの“見えない壁”。

 技能スキル遮断インターセプト”か。

 こういう状況では是非ぜひ欲しい技能スキルだけど、タツヤさんがすべての探索活動に同行できるはずもない。

 “技能スキル”を模倣もほうして“魔術”が生まれ、“魔術”を模倣して“術具”が生まれたそうだから、技能スキル遮断インターセプト”が普通の冒険者パーティーに普及するとして、何世代くらい先の話になるのかしら。


「じゃあお願いするわ」


 いよいよ扉が開く。


 スレインが扉の前に立つ。

 その後ろに私とタツヤさん、シルィーとルクス、リカルドとノルドと二列縦隊で続く。

 ダンジョンではトラップによってパーティーが分断されることがある。

 だからこういう時パーティーは固まって、周辺と解錠手を警戒する

 これほど浅いところで罠というのは見たことがないけど、念のためね。

 なにしろ本当なら、史上初の事案になるのだから。


 ちなみに私がひとりでダンジョンに入っていたときは、罠が発動し次第逃げていた。

 私に、罠発見や罠解除の才能アビリティーはない。


 スレインがふたつの印を押すと、扉はあっさりと開いた。

 扉の先は四角い小部屋で、部屋の奥は引き手のついた、壁いっぱいに開きそうな大扉に見える。

 多分いま開けた扉も、内側から見れば同じ様子をしているんじゃないかしら。


じょうもないのね、ここは。

 タツヤさんシルィーさん、二人で扉を開けたまま押さえていてもらえる? 他のみんなは記録を取ってちょうだい」


 “怒濤の山津波”が、予定していた作業を始めた。

 この場所の精密地図を作るために。


 ダンジョン内では、先ほどスレインが付けたような印は、時間が経てばダンジョンに吸収されて消える。だからもともと確認されているダンジョンの風物から測量そくりょうで位置を特定するしかない。


 入り口は見つけられた。開け方もわかった。

 私ひとりでここまで来て、この場所にたむろす魔獣を全滅させたとしても、タツヤさんとスレインがいなければ、何も見つけられずに引き返すことになったのは疑いようがない。

 みんな殊勲おてがらね。




「ルーシーさん」


 そう呼びかけながら、スレインが戻ってきた。


「どうしたの?」

「奥の扉には錠がかかっていました。しかも錠前に手を出せる場所がまったくありません」


 タツヤさんたちが体験した通りか……。


「……解放条件があるってこと?」

「タツヤもそう言っていました。奴の故郷では、扉に挟まれた部屋では両方の扉を同時に開けられないことがあるとか」

「そう。じゃあ、こちらが終わったらそれを試してみましょう」

「わかりました」


 解放条件。

 そう聞くと、私が小さいころ工房をやっている父親が旅先から持ち帰った、木組みの箱を思い出す。

 細い木の組み合わせが模様もように見える綺麗きれいな箱だったけど、その模様もようの一部が動いて、決まった手順で動かすことでふたが開く仕掛けになっていた。

 見せかけだけ(ダミーで)動く場所や動かしてはいけない所もあって、おさない私は、他の遊びを忘れてその箱にいどんだものだけど、一ヶ月経ったころ母親に回収されてしまった。

 箱は父から母へおくられたお土産(プレゼント)だったのだ。

 あれより簡単だといいわね。



「開かないんですってね」


 地図作りを終えた私たちは、タツヤさんシルィーさんが押さえてくれている入り口へと戻った。


「そうらしいですね」

「開閉の条件があるんですって?」

「そういう場合があるという話です。あくまで可能性の問題ですよ」

「そう。ともかくやってみましょうか」


 全員が小部屋に入ったところで、押さえていた外扉を閉めようとしたところ。


「動きません。外扉が固定ロックされています」


 外扉を押さえていたタツヤさんがそう言った。

 開けられた外扉が閉まらなくなっていた。


「なんですって!?」

「さっきはちゃんと動いていたじゃないか」

「そうなんですよね。そうなると……」


 タツヤさんが言いよどんだのを引き取る。


「そうなると、時間制限か重量制限か人数制限……とか?」

「さっきは動いていたのだから、一人ずつ外へ出てみよう。それで重量制限も人数制限もわかるだろう。さっきの状態まで戻しても動かなければ時間制限の可能性が高くなるから、いったん離れて最初からやり直した方がいい。

 まあ時間制限はないと思うんだが…」


 さらにスレインが続ける

 まずは最後に部屋へ入ったノルドに外へ出てもらう。


「動きました」


 ノルドが外へ出た途端、外扉が動くようになった。

 人数制限か重量制限の可能性が高くなったわね。


 その後外へ出た者を中に入れ、別の者が外へ出てみても、同じように扉が動いたり動かなかったりした。

 そして、人数が少ない分には問題なく動く。

 減らした人数分を収納ストレージの荷物で埋めても、扉はやはり動く。

 つまり重量制限の線は消えたわけ。

 結論。この部屋の通過条件は、“人数制限六名以内”ということらしい。


 これはちょっと困ったかな?



    †



「スレイン」

「はい、なんでしょう?」

「“怒濤の山津波”から二名選んでもらえる? ここまでの中間報告をもって地上へ向かってもらうわ」

「中間報告ですか?」

「ええ、この入り口が“最大六名”制限だから、私と案内役のタツヤさんシルィーさんは突入確定、後の調査を考えると探索のできる者一名と、その他に一名。五名で“ボス部屋”へ突入したいの。人選をお願い。“怒濤の山津波”は戦力が半減するので、“害猪イビルボア”戦は私が主体で行います」


 七名全員で“ボス部屋”突入とは行かなくなってしまった。

 ボス部屋入口の定員が、六名以内であることがわかってしまったから。

 一名あぶれるわけだけど、“ギルド依頼ミッション”の規定で、Cランク冒険者を第五層から単独で地上へ戻すわけにはいかない。だから報告(という名目)のために帰還させるのは二名以上になる。



「とりあえずリーダーの俺は突入組確定として、あと一人を誰にするかだな」

「まてまて兄貴、別にパーティーリーダーだから参加確定というわけではないだろう。あねさんが言ったのは、探索ができる者が一人欲しいということで、兄貴を指名したわけじゃない」

あねさん言うんじゃないってば……」


 むう、私としては本当にどの二人が残ってもらっても構わない。

 探索に長けたものが一人残って欲しいとは言ったが、スレインほどではなくともルクスも探索全般ができる。

 スレインと較べれば経験で劣るけど、万能さではルクスもたいしたものだし、本調査前の事前確認となれば、ルクスに経験を積ませるというのも“あり”だ。

 なにしろスレインという一流の斥候職スカウトがいるため影が薄いが、ルクスも斥候スカウトとして相当に優秀なのだから。

 攻撃手アタッカーとしては、前衛の私に後衛のシルィーさんまでいるから余裕がある。なんなら私ひとりでも問題ない。

 盾職シールダーには、害猪イビルボア経験者のタツヤさんが参加確定しているけど、さすがにレベル12に前に立ってもらおうとは思わない。

 たぶん前回も、あの“見えない壁”で上手うまく足止めをしていたのだろうと思っている。

 それで十分だ。


 つまりリカルドとノルドという戦闘特化の兄弟が残る、という組み合わせ以外ならどれでも有りなので、パーティー内部で調整してもらおうと思ったのだけれど、意外と紛糾ふんきゅうしている。

 話し合いで決められないなら、兄弟二組で“じゃんけん”してもらおうかしら……。


「全員、はい、れば、いい、んじゃ、ない?」

「六人しか入れないからめているんだろうが」


 すると、ずっと静観していたシルィーさんが意外な発言をして、ノルドが応えた。


「一度、で、駄目、なら、二度に、分け、たら?」

「分ける? 出来るのか? そんなことが」

「ルーシー、と、怒濤の、山津波、それぞれ、単独、で、害猪(イビル、ボア)、倒せる?」

「そうね、このんでやりたくはないけど、出来るかどうかと言うことなら出来るわよ」


 あの大きさ(サイズ)がちょっと嫌なのよね。


「オレたちも、いつもの面子メンバーで当たるなら、まあ問題はないな」


 シルィーさんの問いかけに、私とスレインが答える。


「ボクたち、が、初めて、“ボス、部屋”に、入った、とき、じつ、は、全員で、害猪(イビル、ボア)を、倒した、わけ、じゃない」


 ん? どういうこと?


「正しく、は、“またり”、が、全員(●●)、で、倒した。ボクたち、“白き、朝露”は、リディアが、強化術バフを、かけた、だけ。

 “見えない、()”、で、害猪(イビル、ボア)の、突進を、止め、られると、知った、タツヤ、は、“実験エクスペリメント”と、称して、何度も、なんども、害猪イビルボア、の、突進、を、止めて、最後は、瀕死に、追い、込んで、、ルナが、とどめ、を、さした」

「アレを止めた? 何度も??」


 シルィーさんが語る内容に、“怒濤の山津波”が全員で引いている。

 私もだ。


「そのとき、の、“実験エクスペリメント”の、成果、が、さっきの、技能スキル、“防壁プロテクションウォール”。

 攻撃特化アタッカー、の、ルーシー、と、相性が、いい」


 ああやっぱり。

 “見えない壁”でタツヤさんが“害猪イビルボア”を止めて、ルナさんがとどめを刺したのね。

 足止めじゃなくて、本気ガチめたみたいだけど。

 で、私にルナさんの代わりをしろと。

 まあ、いいんじゃないかな。


「ボクは、今日、ルナの、代わり、に、ここに、いる。けど、ボクは、後方、から、の、術、攻撃が、本業。後衛、の、いない“怒濤の、山津波”と、合わせる、のは、相性(あいしょう)抜群(ばつぐん)

「うむ、確かに…」


 シルィーさんの口上こうじょうに、その空気槌エアハンマーを自らの体で受けた経験があるリカルドがうなずいている。


「だがな、タツヤが先行してボス部屋に入るとなると、滞在のための物資をどうする? 一度閉まった入り口が、再び開くようになるまでどれくらいかかるか分からんのだろう? ダンジョン内では、持ちきれずに地面に置いた荷物は、程なくダンジョンに吸収されるぞ」

「問題、ない。ボク、の、収納ストレージに、必要、な、だけ、移せば、いい。ルーシー、が、許可、して、くれれば、収納ストレージを、提供、する」

収納ストレージまで持ってたのかよ!」

「ふふふ、タツヤ、と、ルナ、の、収納ストレージが、優秀、すぎて、ボクの、収納ストレージ、の、出番が、ない件…」

「知らんわ!」


 ホント、贅沢ぜいたくなパーティーよね。


「ダンジョンのボス部屋再使用間隔(クールタイム)は、俺の故郷ではたいてい“ゼロ”でしたよ」

「ゼロ?」

「ええ、先に入った者がボスを倒し、討伐報酬の宝箱を開けて部屋から退出すれば、その瞬間から次の挑戦者の入室が可能になりました。ここでも同じとは限りませんけどね」


 へー、やっぱりタツヤさんの故郷にはダンジョンがあったのね。

 いろいろと知恵が回るのも、それなら納得がいくわ。

 実は向こうでのレベルはずっと高くて、流されたときにレベル1に下がっていたりしてね。


「どうです? あねさん」

あねさん言うんじゃ……、そうね、今更の感はあるけど、タツヤさんとシルィーさんを戦力として当てにすることになるわよ、本当にそれでいいの?」

「もち、ろん」「ええ、俺もそれで構いませんよ」

「あんた達もいいのね」

「ああ」「ええ」「はい」「おう」


 これで一度にとはいかないけど、未踏領域みとうりょういきに入れない人はいなくなった。

 まあまあ結果オーライかしら。

 それじゃあ……。


「これより、ダンジョン・ヤグト第五層“ボス部屋”(仮称)現場(げんじょう)確認任務(ミッション)を開始します。

 一番手として私、Bランク冒険者ルーシー・リューとDランク冒険者タツヤ・アツモリが突入、ボス魔獣“害猪イビルボア”(予定)を撃破したのち、“宝箱部屋”を経由、“転移部屋”へと進み、第二班との合流を目標とする。

 突入二番手の、Cランクパーティー“怒濤の山津波”とDランク冒険者シルィー・セルは、一番手の突入後1鐘(さんじかん)のあいだ扉前で待機、ボス部屋への再入場が可能になれば突入を実施し、その後の行動は一番手と同じとする。

 待機時間内に再入場が可能にならなかった場合、別の場所へ仮拠点を作成したのち丸一日待機しつつ、引き続き再入場の可否を確認する。

 翌日の待機時間が終了してもボス部屋への再入場がかなわなかった場合、あるいは扉前が先ほどまでのように魔獣がたむろす状況になった場合にも、二番手は地上へ帰還し、冒険者ギルドへ報告を入れる。

 最後に、六層経由で上がってきた第二班もしくは一番手が合流した場合、二番手はその指示に従う。

 以上。

 みんないい?!」

「はい」「「「「 おう! 」」」」「は、い」



 行こう。




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