23 ボス部屋調査6 sideルーシー
休憩を兼ねた最後の事前確認のあと、ボス部屋前だ。
「……本当にここなの?」
「それらしい形跡がまったく見えんのだが……」
スレインと顔を見合わせて、思わずそうこぼしてしまった。
目的地へ着いたものの、そこに入り口を思わせる兆候が、まったく感じられなかったのだ。
スレイン(斥候)も同じ意見らしい。
「どう?」
私たちを案内してきたタツヤさんに、確認を求める。
「場所はここです。地図作成スキルによる地図は、ここに先日迷い込んだボス部屋へ繋がる、通路のようなものがあると示しています」
気負うことなく答えるタツヤさん。
彼の頭の中には、岩壁の中を含めた地図が浮かんでいるのだろう。
少なくとも、なんの根拠もなしに言っているわけではなさそうだ。
地図が思い浮かぶって言うのは、どんな感じなのかしら。
便利そうだけど、見え方は気になるわね。
「そう。それじゃあスレイン、開け方を探ってもらえる?」
「はい。やってみます」
そうは言ったものの、スレインも声に力はない。
ちゃんと見つかるといいのだけど。
ホントに。
「おい、何をしてるんだ?」
ルクスの声がしたのでそちらを見ると、タツヤさんが、立ち位置を前後に変えてはこちらを見直していた。
「前回、第六層から脱出したときに見た扉も岩壁に偽装されていたんですが、その時は距離が偶然ぴたりと合ったときに、閉まっている扉の輪郭がうっすら見えたので、今回もそれで分からないかなと思いまして」
「そうだったの。それで、どう?」
「もうちょっと……」
しばらくあれこれ見直した後、
「ここ、見える気がしますけど、どうですか?」
「どれ?」
タツヤさんがそう言ってきて、足元に目印を置き、私に場所を空けてくれる。
「もう少し下で……そう。それで」
その場所へ立ち、指示に従って少し膝を曲げたところでタツヤさんの“良し”が出た。んー、これで見えるの?
するとタツヤさんが扉のところまで行き、剣先で輪郭を指し示すと。
「ああ! 見えるわね。ちょっとスレイン、見てみて!」
本当に見えた。
すこし頭の位置を動かすだけで、岩の凸凹に紛れて、細い線が分からなくなる。
凄い隠蔽具合、よくこんなものを見つけたわね。
技能の補助あってのことだろうけど、タツヤさんの案内がなければ、なにも見つけることのないまま六層へ向かっていた可能性があるわね。
スレインに場所を代わると、タツヤさんがもう一度扉の輪郭を指し示してくれる。
「……なるほど、これは…」
「ちなみに裏口は両開きで、掛け金はありましたが、錠はありませんでした」
「そうか」
頷いて、扉へ近寄っていくスレイン。
これでうまく見つけられるといいわね。
そこそこの時間を待つと、
「見つけました。これで開けられるはずです」
という声が聞こえた。
開けられるようだ。
扉の中央付近には、肘から先くらいの間を開けて、二箇所に四角い印が付けられていた。
「この二箇所を同時に押せば開くはずです。鍵もかかっていなければ罠もありません」
スレインも凄いわね。
さすが熟練斥候職。
「開けましょう。無事に開いたら記録を取って、その後は予定通りに進めます。
タツヤさん、さっきの“見えない壁”でスレインを保護できる?」
「できると思いますよ。形はわりと自由になりますから」
ホント使い手があるわね、あの“見えない壁”。
技能“遮断”か。
こういう状況では是非欲しい技能だけど、タツヤさんがすべての探索活動に同行できる筈もない。
“技能”を模倣して“魔術”が生まれ、“魔術”を模倣して“術具”が生まれたそうだから、技能“遮断”が普通の冒険者パーティーに普及するとして、何世代くらい先の話になるのかしら。
「じゃあお願いするわ」
いよいよ扉が開く。
スレインが扉の前に立つ。
その後ろに私とタツヤさん、シルィーとルクス、リカルドとノルドと二列縦隊で続く。
ダンジョンでは罠によってパーティーが分断されることがある。
だからこういう時パーティーは固まって、周辺と解錠手を警戒する
これほど浅いところで罠というのは見たことがないけど、念のためね。
なにしろ本当なら、史上初の事案になるのだから。
ちなみに私がひとりでダンジョンに入っていたときは、罠が発動し次第逃げていた。
私に、罠発見や罠解除の才能はない。
スレインがふたつの印を押すと、扉はあっさりと開いた。
扉の先は四角い小部屋で、部屋の奥は引き手のついた、壁いっぱいに開きそうな大扉に見える。
多分いま開けた扉も、内側から見れば同じ様子をしているんじゃないかしら。
「錠もないのね、ここは。
タツヤさんシルィーさん、二人で扉を開けたまま押さえていてもらえる? 他のみんなは記録を取ってちょうだい」
“怒濤の山津波”が、予定していた作業を始めた。
この場所の精密地図を作るために。
ダンジョン内では、先ほどスレインが付けたような印は、時間が経てばダンジョンに吸収されて消える。だからもともと確認されているダンジョンの風物から測量で位置を特定するしかない。
入り口は見つけられた。開け方も判った。
私ひとりでここまで来て、この場所に屯す魔獣を全滅させたとしても、タツヤさんとスレインがいなければ、何も見つけられずに引き返すことになったのは疑いようがない。
みんな殊勲ね。
「ルーシーさん」
そう呼びかけながら、スレインが戻ってきた。
「どうしたの?」
「奥の扉には錠がかかっていました。しかも錠前に手を出せる場所がまったくありません」
タツヤさんたちが体験した通りか……。
「……解放条件があるってこと?」
「タツヤもそう言っていました。奴の故郷では、扉に挟まれた部屋では両方の扉を同時に開けられないことがあるとか」
「そう。じゃあ、こちらが終わったらそれを試してみましょう」
「わかりました」
解放条件。
そう聞くと、私が小さいころ工房をやっている父親が旅先から持ち帰った、木組みの箱を思い出す。
細い木の組み合わせが模様に見える綺麗な箱だったけど、その模様の一部が動いて、決まった手順で動かすことで蓋が開く仕掛けになっていた。
見せかけだけ動く場所や動かしてはいけない所もあって、幼い私は、他の遊びを忘れてその箱に挑んだものだけど、一ヶ月経ったころ母親に回収されてしまった。
箱は父から母へ贈られたお土産だったのだ。
あれより簡単だといいわね。
「開かないんですってね」
地図作りを終えた私たちは、タツヤさんシルィーさんが押さえてくれている入り口へと戻った。
「そうらしいですね」
「開閉の条件があるんですって?」
「そういう場合があるという話です。あくまで可能性の問題ですよ」
「そう。ともかくやってみましょうか」
全員が小部屋に入ったところで、押さえていた外扉を閉めようとしたところ。
「動きません。外扉が固定されています」
外扉を押さえていたタツヤさんがそう言った。
開けられた外扉が閉まらなくなっていた。
「なんですって!?」
「さっきはちゃんと動いていたじゃないか」
「そうなんですよね。そうなると……」
タツヤさんが言い淀んだのを引き取る。
「そうなると、時間制限か重量制限か人数制限……とか?」
「さっきは動いていたのだから、一人ずつ外へ出てみよう。それで重量制限も人数制限もわかるだろう。さっきの状態まで戻しても動かなければ時間制限の可能性が高くなるから、いったん離れて最初からやり直した方がいい。
まあ時間制限はないと思うんだが…」
さらにスレインが続ける
まずは最後に部屋へ入ったノルドに外へ出てもらう。
「動きました」
ノルドが外へ出た途端、外扉が動くようになった。
人数制限か重量制限の可能性が高くなったわね。
その後外へ出た者を中に入れ、別の者が外へ出てみても、同じように扉が動いたり動かなかったりした。
そして、人数が少ない分には問題なく動く。
減らした人数分を収納の荷物で埋めても、扉はやはり動く。
つまり重量制限の線は消えたわけ。
結論。この部屋の通過条件は、“人数制限六名以内”ということらしい。
これはちょっと困ったかな?
†
「スレイン」
「はい、なんでしょう?」
「“怒濤の山津波”から二名選んでもらえる? ここまでの中間報告をもって地上へ向かってもらうわ」
「中間報告ですか?」
「ええ、この入り口が“最大六名”制限だから、私と案内役のタツヤさんシルィーさんは突入確定、後の調査を考えると探索のできる者一名と、その他に一名。五名で“ボス部屋”へ突入したいの。人選をお願い。“怒濤の山津波”は戦力が半減するので、“害猪”戦は私が主体で行います」
七名全員で“ボス部屋”突入とは行かなくなってしまった。
ボス部屋入口の定員が、六名以内であることが判ってしまったから。
一名あぶれるわけだけど、“ギルド依頼”の規定で、Cランク冒険者を第五層から単独で地上へ戻すわけにはいかない。だから報告(という名目)のために帰還させるのは二名以上になる。
「とりあえずリーダーの俺は突入組確定として、あと一人を誰にするかだな」
「まてまて兄貴、別にパーティーリーダーだから参加確定というわけではないだろう。姉さんが言ったのは、探索ができる者が一人欲しいということで、兄貴を指名したわけじゃない」
「姉さん言うんじゃないってば……」
むう、私としては本当にどの二人が残ってもらっても構わない。
探索に長けたものが一人残って欲しいとは言ったが、スレインほどではなくともルクスも探索全般ができる。
スレインと較べれば経験で劣るけど、万能さではルクスもたいしたものだし、本調査前の事前確認となれば、ルクスに経験を積ませるというのも“あり”だ。
なにしろスレインという一流の斥候職がいるため影が薄いが、ルクスも斥候として相当に優秀なのだから。
攻撃手としては、前衛の私に後衛のシルィーさんまでいるから余裕がある。なんなら私ひとりでも問題ない。
盾職には、害猪経験者のタツヤさんが参加確定しているけど、さすがにレベル12に前に立ってもらおうとは思わない。
たぶん前回も、あの“見えない壁”で上手く足止めをしていたのだろうと思っている。
それで十分だ。
つまりリカルドとノルドという戦闘特化の兄弟が残る、という組み合わせ以外ならどれでも有りなので、パーティー内部で調整してもらおうと思ったのだけれど、意外と紛糾している。
話し合いで決められないなら、兄弟二組で“じゃんけん”してもらおうかしら……。
「全員、はい、れば、いい、んじゃ、ない?」
「六人しか入れないから揉めているんだろうが」
すると、ずっと静観していたシルィーさんが意外な発言をして、ノルドが応えた。
「一度、で、駄目、なら、二度に、分け、たら?」
「分ける? 出来るのか? そんなことが」
「ルーシー、と、怒濤の、山津波、それぞれ、単独、で、害猪、倒せる?」
「そうね、好き好んでやりたくはないけど、出来るかどうかと言うことなら出来るわよ」
あの大きさがちょっと嫌なのよね。
「オレたちも、いつもの面子で当たるなら、まあ問題はないな」
シルィーさんの問いかけに、私とスレインが答える。
「ボクたち、が、初めて、“ボス、部屋”に、入った、とき、じつ、は、全員で、害猪を、倒した、わけ、じゃない」
ん? どういうこと?
「正しく、は、“またり”、が、全員、で、倒した。ボクたち、“白き、朝露”は、リディアが、強化術を、かけた、だけ。
“見えない、壁”、で、害猪の、突進を、止め、られると、知った、タツヤ、は、“実験”と、称して、何度も、なんども、害猪、の、突進、を、止めて、最後は、瀕死に、追い、込んで、、ルナが、止め、を、さした」
「アレを止めた? 何度も??」
シルィーさんが語る内容に、“怒濤の山津波”が全員で引いている。
私もだ。
「そのとき、の、“実験”の、成果、が、さっきの、技能、“防壁”。
攻撃特化、の、ルーシー、と、相性が、いい」
ああやっぱり。
“見えない壁”でタツヤさんが“害猪”を止めて、ルナさんが止めを刺したのね。
足止めじゃなくて、本気で止めたみたいだけど。
で、私にルナさんの代わりをしろと。
まあ、いいんじゃないかな。
「ボクは、今日、ルナの、代わり、に、ここに、いる。けど、ボクは、後方、から、の、術、攻撃が、本業。後衛、の、いない“怒濤の、山津波”と、合わせる、のは、相性、抜群」
「うむ、確かに…」
シルィーさんの口上に、その空気槌を自らの体で受けた経験があるリカルドが頷いている。
「だがな、タツヤが先行してボス部屋に入るとなると、滞在のための物資をどうする? 一度閉まった入り口が、再び開くようになるまでどれくらいかかるか分からんのだろう? ダンジョン内では、持ちきれずに地面に置いた荷物は、程なくダンジョンに吸収されるぞ」
「問題、ない。ボク、の、収納に、必要、な、だけ、移せば、いい。ルーシー、が、許可、して、くれれば、収納を、提供、する」
「収納まで持ってたのかよ!」
「ふふふ、タツヤ、と、ルナ、の、収納が、優秀、すぎて、ボクの、収納、の、出番が、ない件…」
「知らんわ!」
ホント、贅沢なパーティーよね。
「ダンジョンのボス部屋再使用間隔は、俺の故郷ではたいてい“ゼロ”でしたよ」
「ゼロ?」
「ええ、先に入った者がボスを倒し、討伐報酬の宝箱を開けて部屋から退出すれば、その瞬間から次の挑戦者の入室が可能になりました。ここでも同じとは限りませんけどね」
へー、やっぱりタツヤさんの故郷にはダンジョンがあったのね。
いろいろと知恵が回るのも、それなら納得がいくわ。
実は向こうでのレベルはずっと高くて、流されたときにレベル1に下がっていたりしてね。
「どうです? 姉さん」
「姉さん言うんじゃ……、そうね、今更の感はあるけど、タツヤさんとシルィーさんを戦力として当てにすることになるわよ、本当にそれでいいの?」
「もち、ろん」「ええ、俺もそれで構いませんよ」
「あんた達もいいのね」
「ああ」「ええ」「はい」「おう」
これで一度にとはいかないけど、未踏領域に入れない人はいなくなった。
まあまあ結果オーライかしら。
それじゃあ……。
「これより、ダンジョン・ヤグト第五層“ボス部屋”(仮称)現場確認任務を開始します。
一番手として私、Bランク冒険者ルーシー・リューとDランク冒険者タツヤ・アツモリが突入、ボス魔獣“害猪”(予定)を撃破したのち、“宝箱部屋”を経由、“転移部屋”へと進み、第二班との合流を目標とする。
突入二番手の、Cランクパーティー“怒濤の山津波”とDランク冒険者シルィー・セルは、一番手の突入後1鐘のあいだ扉前で待機、ボス部屋への再入場が可能になれば突入を実施し、その後の行動は一番手と同じとする。
待機時間内に再入場が可能にならなかった場合、別の場所へ仮拠点を作成したのち丸一日待機しつつ、引き続き再入場の可否を確認する。
翌日の待機時間が終了してもボス部屋への再入場が叶わなかった場合、あるいは扉前が先ほどまでのように魔獣が屯す状況になった場合にも、二番手は地上へ帰還し、冒険者ギルドへ報告を入れる。
最後に、六層経由で上がってきた第二班もしくは一番手が合流した場合、二番手はその指示に従う。
以上。
みんないい?!」
「はい」「「「「 応! 」」」」「は、い」
行こう。




