22 ボス部屋調査5 sideルーシー
「くる…」「上だ!」
シルィーさんとスレインの声が響く。
広場にいた魔獣の主体は狼型だったので、岩登りはないかな? と期待していたのだけど、残念、来ちゃったか。
なるべく早くここを片付けるから、ちょっとだけ頑張ってね、遊撃役の三人。
動いた。
スレインが矢を放つ。
呼応して魔獣が岩を下り始めた。
あら? なんだか途中で引っ掛かってる?
チラッと見上げると、魔獣が空中でジタバタしている。
タツヤさんが上にも“壁”を張っているみたいね。
相手の意表を突けるというのは良いことよ。
私も意表を突かれたけど。
一匹落ちてきた。
風の気配がして静かになったから、シルィーさんが仕留めたようだ。
スレインが矢を放ち。
「一回転、二、一、今!」
「んぬおぉぉぉぉぉ!」
つづけて指示が出ると、ノルドが体ごと回転して落下中の二匹目を切り裂いた。
もう一匹も、跳んだ。
私の後方へ落ちそうだ。
スレインが矢を射たけど、手応えがない。
ルクスがこちらへ向かって来る。
シルィーさんが魔術剣を使った気配がしたけど、魔獣の気配は消えていない。
“びたん”という落下音がして、私の後ろに魔獣が着地した。
あまりスマートな着地ではないけど、ともかく魔獣は生きている。
床を引っ掻き体勢を立てなおして静かになる。
力を溜めている。飛び掛かってくるわね。前方は新しい魔獣が入って来るところだから、後ろを先に。
剣の柄をずらして開く。
この仕掛けが剣の強度を制限しているのだけど、乱戦のときにはとても役に立つので文句は言えない。
そもそも師匠からの賜りものなので、文句を言う筋合いがない。
背中合わせになっている二枚の刃を、鋏のように少し開くと、剣身にある軸が分離する。
右手で持った剣を後方へ向けながら、体を開いて一歩後方へ
【跳躍】
後ろの魔獣に右手の剣が刺さる。
あら、魔獣がお腹を見せていた。
タツヤさんが“壁”を張ってくれたのか。
しかも私の剣が刺さる前に“壁”を解除しているとか、とんでもない技量だ。
いままでCランク以下でこんな対応ができた人はいない。
ルクスとシルィーさんがこちらへ向かっている。
止めは任せて、前の魔獣を…後ろの魔獣が頭を殴られたように回転した! これもタツヤさん? 遠隔攻撃は当たらないって言ってたけど、できるじゃない。
前方へ一歩【跳躍】
牽制に残していた左手の剣を、右手と合わせて体の前で交差するように振り切る。
飛び上がってきた狼型の首が飛んで、消えていく。
お代わりは?
いないわね。
タツヤさんの所も終わったし、後ろの魔獣もルクスが止めを刺した。
あとはリカルドとノルドの所だけど、魔獣の気配はいま相手にしている二体だけだ。
中衛の面々が補助に向かったことだし、じきに終わるでしょう。
「スレイン、あそこの二匹でおしまいかしら?」
「戦闘開始前そのままの状況ならそうです。周辺を確認してきましょうか」
「あの二箇所が終わったらそうしてちょうだい。そのあと一休みしてから目的地へ向かいましょう」
「わかりました」
周辺状況が確認できたら、一息入れないとね。
「タツヤさんもお疲れさま。もう少ししたら休憩するから、それまで“壁”の維持をよろしくね」
この人は、けっきょく最後まで“壁”を張り通した。
それも自分の受け持ち分を、順調に倒しながらね。
「お疲れさまでした。俺の方は大丈夫ですよ」
「ほんと? 体力も魔力も大丈夫?」
「ええ、何かが減った感じはありませんから、問題ないと思います」
シルィーさんはすぐ隣にいるタツヤさんをほったらかしにして、ずっとノルドの支援をしていた。
つまりタツヤさんはこの位の状況なら、普段から援護を必要としていないということ?
本当に凄いわね。
なんだか嬉しくなっちゃう。
「そう、凄いのね。
それにしても、予定通りにボス部屋へ突入できそうなのは、タツヤさんのおかげね。先に二班と合流して、よけいな時間を使わずに済みそうよ」
「先に合流ですか?」
「ええ、どちらの班も今みたいな想定外の障害があったときには、もう一方と同じ径路で一旦合流して、そのあと共同で事に当たる手筈になっていたの。でもそれもタツヤさんのお陰でしなくて済んだから」
そうなれば半日は確実に失してしまうし、第二班でも何かあれば調査失敗となりかねない。
緑の旋風のスルハは日頃から紅牙の育成を助けているし、紅牙は緑の旋風が潜るときに援護役として動いている間柄。だから最初からBランクのスルハを戦力として数に入れておける。
較べてこちらの第一班は、私が組合職員としての参加なので、必要以上に私が手を出すのは、スレインたち“怒濤の山津波”への加点を減らすことに繋がってしまって美味しくない。
場合によっては私の評価まで下げることになる。
つまり先ほどのように、彼らだけで処理が難しい状況でもなければ、私が手を出すのは何方にとっても美味しくないのだ。
ああ面倒くさい。
面倒くさいけど、冒険者組合という枠組みが、人々の安全な暮らしと冒険者自身の生活と地位の向上に大きく寄与しているのは間違いない。
少々面倒だからと好きをすれば、その面倒が支えている多くの暮らしを揺るがしかねない。
冒険者活動をした四年と、五年の組合職員を経験した私が、それを識っているのが何より面倒だ。
あら?
気付かなかったけど、タツヤさんが疲れた表情をしてるじゃない。
「ほんとうに大丈夫? やっぱり疲れたような表情をしてるわよ」
顔色は悪くないから、健康に問題があるわけじゃなさそうだけど……。
「問題ありませんよ。惚けている顔に見えたなら、ルーシーさんの剣技に見惚れていたからですね。ルーシーさんこそあれ程の身体強化を使って、魔力は大丈夫なんですか? って大丈夫だからBランクなんですね」
「なっ! 相変わらず口がうまいのね」
この人……、たまに不意打ちでこういうことを言うから油断できない……。
「ルーシーさんの武器って、双剣──双刀だったんですね。他に見たことがありませんけど、こちらで使い手は多いんですか?」
「そう…とう?」
ってなに??
「背側に刃のない剣のことです。俺の故郷ではそれを“刀”とか“刀”と呼んで、諸刃の“剣”とは区別していたんですよ。それが一対二本で双刀です」
へえ、そうすると師匠たちとタツヤさんって出身が近いのかしら…?
「そうなのね。剣、いえ刀を二本使う人も多いのかしら」
「二本持つ人は多くいましたけど、“打刀”の本差しに、短い“脇差し”という刀を加えて、寸法違いで持つ人が殆ど……」
「姉さん、こっちも終わりました!」
「姉さん言うんじゃないってば! じゃあ休憩。スレインは一度周囲の索敵をおねがい。“壁”を解除するわよ!」
面白い話が聞けそうだったのに、残念!
「じゃ、壁を解除してください」
「“壁”を解除しました」
「“壁”解除!」
「“刀”の話、後で続きを聞かせてね。それじゃ行きましょう、タツヤさん」
でも、楽しみが増えたわね。




