21 ボス部屋調査4 sideルーシー
「…集団ごとに相手をするなら何とでもなるけど、一気にまとまって来られたらちょっとまずいかしらね」
あの数の魔獣を相手にするのは、私一人でならできる。
目標地点から魔獣を排除するだけなら、中央の強い個体から順に潰していけば、全体の半分ほどを倒せば残りは逃げていくでしょう。
全部倒すなら、連鎖しにくい外側から削っていけばいい。
私の足の速さは狼型魔獣の比ではないので、一匹残らず殲滅できる。
けれど、それは今回の趣旨じゃない。
だからそれをするとしたら、他にどうしようもなくなった場合だけだ。
自分で引き受けたとは言え、面倒な事を振られたものね。
やっぱり冒険者は気楽だわ。
それはそれとして、周囲を囲まれた空間が多くの魔獣で埋まってしまった場合、限定的ながら空中戦ができる私はともかく、他のみんなが無事とはいかなくなる。
とくに怖いのは、攻撃力の高いノルドとシルィーさんが、範囲攻撃を使って味方を巻き込んでしまうこと。
ここはやっぱり……。
「ルーシーさん。問題なのが敵の数なら、俺の技能で何とかなると思いますよ」
「そうなの?」
「はい」
何かいい手があるのかしら?
「具体的には?」
「ここを指で触ってみてください」
そう言うとタツヤさんは、掲げた盾の下の空間を指差して待っている。
なにかしら? そう思いながら指を伸ばしてみると、指と指を突き合わせた格好になって、ちょっと気恥ずかしい。
その状態から、タツヤさんが指を引く。
でも私の指は進むことがない。
んん? なにこれ??
何か見えないもので手が停まり、そこから先へ進まない。
でも硝子のような透明な障害物がある様子でもない。
トントンと叩いてみても音がしないのだ。
前にルナさんの魔術剣を止めたのがこれってこと?
私の“跳躍”技能を移動なしで発動してみると、この“見えない壁のような領域”を迂回して発動する。
なによこれは!
私の“跳躍”技能は、発動した時点で“畳み込む”道筋を感じ取れる。
たとえば距離十歩分の道筋を思い描きながら一歩を踏み出すと、踏み出した一歩で十歩分の距離を移動するわけだけど、この技能で思い描く道筋は、先の様子が分かっていれば途中に障害物があっても通り抜けていく。
障害となる壁に窓が付いていて、向こうの景色が見える場合などでそうなる。
だというのに、この“見えない壁のようなモノ”は、向こうが見えているにも関わらず真っ直ぐ通り抜ける事ができず、そこを迂回する道筋しか選べない。
これは初めて遭遇する事態だ。
「これが……、タツヤさんの“遮断”技能なの?」
「たぶんそうじゃないかと。
ルーシーさんも見た、月那の“魔術剣”を止めたときが最初の発動でした。あれから出来ることが増えて、いまは壁を作れます。
あ、縁の方を触るときは慎重に。
縁を掴んでよじ登っても大丈夫でしたが、突進してきた害猪は切り裂きましたから」
ぴっくりして手を離す。
剣呑ね……。
そうか、あれが最初だったんだ。
「このスキルでこの空間全体に“腰高の壁”を作りますから、各通路の前に人を置けば個別に撃破ができるでしょう」
確かにそれができれば、足元を抜かれて後ろを取られる危険は激減するわね。
「強度はどれくらい?」
「ゴブリン五十匹の襲撃に耐え、害猪の突進を止めました」
丈夫ね──。
でも、頑丈さだけが問題になる訳じゃない。
「持続時間は?」
「戦闘中に限界が来たことはありませんね。俺が盾から手を離したときは壁が消えます」
持続時間も、彼らの戦闘経験の範囲内では問題なし──。
あの魔石の獲得量からして、じつは碌に戦闘をしていない、なんてことはない筈だ。
万が一一斉連鎖したとしても、“壁”が三分保てば魔獣を半減させられるから、持続時間については肯定的な保留かな。
盾から手を離すと壁が消える……。
んー、この“壁”の性質を、推測するための手掛かりが足りていないわね──。
「シルィーさんは、このことを知ってましたか?」
私も知らない、タツヤさんも分からない、あと何か知っている可能性があるとすればこの人くらいよね。
「それは、まあ、日頃、から、一緒、に、行動、してる、から…」
あら、意外とお茶目な返答。
「シルィーさんはコレが何か知っていますか?」
「知ら、ない。はじ、めて、見る。けど、それは、いま、必要、な、情報?」
齢百歳を超えていても知らないか。
まあ“遮断”技能は独自級だから、仕方ないかな。
必要な情報か? と問われると欲しい情報だけど、申告どおりの効果があるなら、今は充分かしらね。
「…そうですね。いまは入り口を塞いでいる魔獣をどうにかできるかが重要です………。やりましょう。広場の魔獣を片付けて、未踏領域を調査します!」
†
広場の魔獣駆除を再開した。
再開最初の魔獣も、スレインの予想通りに連鎖して、このときは四匹やって来た。
大きなの群れを相手にする前に、壁を使った戦闘を試せた。
案の定、ノルドから「剣が振り難い」という駄目出しが出た。
そこで打開策として、“見えない壁”を通路毎に「 U 」の形にしてもらった。
これによってノルドからの文句もなくなった。
やっぱり普段の立ち回り方からか、勢いよく剣を振れないというのは、かなり負担が溜まるらしい。
人員配置も少し変更。
前方の左翼をノルドに任せて、リカルドには後方入口を固めてもらう。
タツヤさんから「後ろの入口は“見えない壁”で完全に塞いでしまい、これまで通りの配置で」という案も出たけれど、入口の一つを初見の“見えない壁”一枚で、注意対象から外してしまうのは不安があった。
ルクスに後ろを任せることも考えたけど、間合いが長い槍は遊撃に回して、前衛を補助してもらった方が遊兵を作らずにいられる。
“見えない壁”による“腰高の壁”によって、リカルドとノルドが連携できる空間が狭くなったこともあるしね。
「連鎖した! 全部だ!」
あら、わりと早かったわね。
全員が緊張感を高めた。
「壁を張って!」
スレインが飛び込んだところで“見えない壁”を張ってもらい、魔獣の襲来に備える。
†
魔獣たちが一斉に突入してきた。
四つの通路すべてから。
通路に魔獣が入ると、一歩進んだところで“見えないの壁”によって前を塞がれる。そこを上から攻撃する。という方法は、うまく機能した。
向こうは攻撃のために必ず飛び上がらなくてはならないので、そこへタイミングを合わせてサクサクと狩っていく。
ペアを一時解消することになったリカルドとノルドは、多少勝手が違っているようだけど、抜かれそうな様子はないので良し。
安全第一ね。
ルクスは槍で、主に後ろのリカルドを補助している。
シルィーさんさんは【風礫】で、ノルドの相手の体制を崩している。
“術”を横から撃てるって便利ねえ(しみじみ)
というか、タツヤさんの援護をしなくていいの? いいのか、順調だし。
スレインには全体を見渡してもらっている。
斥候職の彼にはうってつけの役回りだ。
私はもちろん順調!
壁は揺らぐこともなくそこに在り続けてくれるので、安定して魔獣を狩れている。
ダンジョン内の魔獣は、倒されると魔石を残して体は消えるため、“仲間の屍を乗り越えてくる”。なんて事にもならなくて、これも安心材料だ。
この壁、凄く便利ね。
そうして結構な数の魔獣を減らしたころ、変化は訪れた。




