9 登録 後編
「ゴ」
「ゴ?」
「ゴブリンが六十匹超えってなんですかーっ!?」
ルーシーさんが興奮していた。
実際これは疲れた。
初っ端に遭遇したゴブリン二匹を倒し、ひと休みして歩き出してからしばらくしての事だ。ひと一人が通れるほどの岩の隙間を抜けると、そこはゴブリンたちの集会所だったのだ。
近くに居たゴブリンとしばらくお見合いをしてしまったが、向こうも固まっていたのが我に返ったのか「ギャギャギャギャ!」と大声で叫び始めて、他の連中もすぐこちらに注目した。
大急いで来た道を戻り広い所へ出てすぐ反転。追いかけてくるゴブリンを盾で押さえ付けて剣で攻撃する。
左右は高さのある岩壁に挟まれていたので、後ろのゴブリンたちは先頭が邪魔で前に出られない。
わたわたしているうちにルナさんも背中の剣を抜いて、押さえているゴブリンを攻撃し始めた。
倒したゴブリンの死体が障壁代わりになっていい具合と思っていたら、後ろのゴブリンが死体を踏み越えるようになって、そうも言っていられなくなった。
死体の山から高さを持って飛びかかってこられるのが、けっこう面倒なのだ。
月那さんに頼んで、障壁にしている死体を收納して高さを調節してもらっているとき、剣で触れた死体でも收納できることに気がついてからは早かった。
盾で足止めする → 攻撃距離の長い両手剣で仕留める → 死体に変わったら収納する。
この流れで作業できるようになって、ようやく息がつけるようになった。
他にも出入り口があったら囲まれるかな~。と思いつつも、取れる手立てが他になかったのだ。
まずは数を減らさないと、逃げるに逃げられない。
実際、外へ出ていたゴブリンが三匹戻ってきたときは、月那さんに岩壁側を肉障壁で対処してもらっているうちに、俺が戻ってきたゴブリンの相手をして無事に乗り切った。
「はぁ~────、ゴブリンはときどき群れを作ります。その規模が大きくなって集落を作るようになると、爆発的に増えて大惨事になるので、集団のゴブリンは冒険者ギルドの特別討伐対象になっています。
後日タツヤさんとルナさんにはギルドから特別討伐報償が出ることになるでしょう………。
一応調査をしますから、場所を教えてくださいね。
これだけ倒せば、レベルが1から一気に5まで上がってもおかしくないですね」
との事だった。
お疲れのようだ、俺たちも疲れた。
これで討伐実績は達成とのことで、あとは明日の朝2鐘(午前9時頃らしい)の後でここへ顔を出して実技試験を受け、明後日にランクアップの講習を受ければ、晴れてDランク冒険者だそうだ。
講習のあとで実技試験じゃないのか? と思ったが、生きのいいうちにどれくらい戦えるのか見ておき、翌日講習の午前で共有認識(冒険者の常識)と少し理論、知っておくとお得な情報を座学で詰め込む。午後は基礎的な訓練方法を伝えて、どうやっても生き残れなさそうな者を落とすんだそうだ。
そりゃそうか。ギルドにとって低レベル冒険者に何を求めるかと言えば、まずは生還だろう。それもできるだけ無傷での、だ。
ゲームと同じなら、ここは魔獣の危険が常にある世界なので、戦力は少しでも多く欲しい。成果は個々の甲斐性次第だが、怪我をして仕事ができない体になって貧困率が上がったり、帰ってこなくて人口が減るのは有り難くない。
危険を抱えた環境で、評判を下げる(ギルド員の損耗を増やす)ことなく生産効率を上げようとするのは、団体経営の基本だ。
元の世界と決定的に違うのは、もし何もしなければ魔獣の脅威により生活圏が縮小し、人が生きていけなくなるというこの世界の事情だろう。
元の世界なら、直接の影響を被るのはその人(法人を含む)と、繋がりのある人たちだけだ。
いや、元の世界でも人の生活圏が劇的に広がったのはここ数百年のことか。それ以前は何万年も、自然や野生動物の脅威に怯えながら寄り集まり細々と暮らしていたのだから、そんな頃と状況が同じってことか。
お前たち二人は試験の結果如何に関わらず合格な。と、ルーシーさんとの話の途中から混ざってきた四十歳台くらいのおっさんが言ってきた。
えー、いいのか? それで。
と思ったら、ゴブリン六十匹と戦って無傷で生還できるなら、Dランク冒険者として充分すぎるから、はよ稼いできてくれ。と言われた。
無傷じゃなかったよ。軽いものだったから、ストレージにあった低ランク魔術薬で治したけどね。
まずは結果が評価されるんだと。経過は余裕ができてから、長期視点で。
うん、まあ分かるよ。忘れてうやむやにならなきゃ、俺もそれでいいと思う。
幸いにして、意図せず成果を出してしまったみたいだからね
ホント、幸いにして。
あ、ゴブリン六十匹のことは早目に忘れさせてください。こちらも軽いトラウマです。
でもおかげで体はだいぶ動くようになりました。
多謝。
今日はここまででいい。明日の実技試験でな。と言われたので、買い取り代金を受け取って、引き上げることにする。
ルーシーさんからEランク冒険者証を受け取る。
受け取った冒険者証を鑑定器に繋いだ状態で、先ほど鑑定を受けたときと同じく、板の上に手をかざすと、これでこの冒険者証は俺専用となったのだそうだ。
複製はできないそうだが、ホントかね?
これが俺の冒険者証か。
銅製らしい赤みを帯びた金属板だ。
ちょっと小説の登場人物になったようで、ワクワクするのは仕方ないね。
冒険者証には識別番号、名前、発行日、発行ギルド名が刻まれている。4月1日発行なのか。こっちに四月バカなんてないだろうけど、わたしちょっぴり気になりますよ。
目立つ模様が彫られているので何だろう? と尋ねたら、タルサ市の市章だそうだ。
冒険者のランクは冒険者証のプレート材質で判別できるという。
つまり、見る人がこれを見れば、冒険者ギルドタルサ支部所属のEランク冒険者ということが一目で分かり、刻まれた文字を読めば個人の照会ができる。鑑定器のある場所で、本人と冒険者証を同時に鑑定すれば、本人証明にも使えるということだ。
ずいぶん立派な認識票だな。
「買い取りの精算と討伐報酬は、数が多いので、後日精算して特別討伐報償と一緒に渡すことにさせて頂いてよろしいですか。
冒険者証は収納に入れずに、肌身離さず身につけていてください。収納は本人が死亡した場合の挙動が人によってまちまちで、収納品がその場に溢れる人もいれば、収納されたまま文字通り死蔵になる人もいるので、最悪の場合になるべく身元が分かる形での保管をお願いします。
聞き覚えのなかった残りの技能については調べておきますね」
と言われた。
へー、収納ってそうなんだ。冒険者証は首にかけておく。
了解しました。よろしくお願いします、ルーシーさん。
と言うことで、本日の活動を終えて冒険者ギルドを後にした。




