19 ボス部屋調査2 sideルーシー
「けっこういるな」
スレインが呟く。
目的の広場には、大量の魔獣が屯していた。
まあ多いと言えば多いわね。
今は広場から少し離れたところにある、戦闘予定地の外側から広場を眺めている。
闘いというのは詰まるところ、命の削り合いだ。
だから闘いに長けるためにする事は、
・相手の命を削り奪い取る能力、攻撃力と命中力を養う。
・こちらの命を削られないようために、防御力、回避力、索敵力などを養う。
索敵力は、攻防の両方に役立つけどね。
・そして一匹目に勝てても二匹目に負けてはしょうがないので、闘いをを継続できる力、継戦能力を高める。
これらについて熟達することを目指す。
そしてそこに至るまで生き延びられた者が“Cランク冒険者”と呼ばれるようになる。
“怒濤の山津波”は今まさにここに居るわけだ。
彼らのような冒険者が、組合の中核を担っている。
「問題ないでしょう。タツヤさん、場所はあの壁で間違いないのね?」
では“Cランク”から“Bランク”へ昇級するにはなにが必要なのか?
それは体格の不利や数の不利を覆すことのできる、突破力だ。
具体的には、自分と同じ大きさや重さ、パーティーであれば総員分の合計重量を越えた段階の魔獣を討伐することなどで、道が開ける。
戦闘力に限らず、罠の張り方や指揮力、情報収集力や支援力などでも評価される。
つまり、自分(たち)に相応しい体格を越えた魔獣を倒したり、連鎖する同格以上の群れから相当数を倒して生還することで、昇格に必要な得点が溜まっていくのだ。
これは一般には公表されていない。
実力を顧みず格上に挑むおバカを出さないための措置で、目眩ましのために昇級試験を行なうこともある。
私もギルド職員として働くようになってから、このことを知った。
私が“Bランク”に上がったときも、確かにそんな状況だった。
「間違いありません。あの平らになった岩壁の中央が目標です」
「そうか。それじゃあ先ずは掃除だな。俺たちで一匹倒してみるんですこし下がってください。警戒を忘れずに」
「そうね。大丈夫とは思うけど、前に連鎖報告があった場所だから気をつけて」
タツヤさんの“地図作成”技能が、この場所で間違いないと示しているらしい。
なら行動を次の段階へ進める。
第五層で連鎖するのは洞窟蝙蝠だけというのが常識だけど、ここはそもそも報告例の少ない区域だ。
それに過去に一例だけ、地上型魔獣の連鎖が報告されていた。
以前の私なら独りであの数を殲滅していたけど、空白を挟んだ直後で無理をするつもりはない。
訓練こそ欠かしていなかったけど、実戦は五年ぶりなのだ。
それにもともとここへは戦闘を目的に来たわけじゃない。今回はそういう立場ではないのよね。
まずは戦闘役を担う“怒濤の山津波”に対応してもらい、問題なさそうなら“タツヤ”さん“シルィー”さんにも回し、私の出番はそのあとだ。
周囲を囲われた場所に陣取り、スレインが猫型で中くらいの魔獣を釣ってくる。
「リンクはない」
連鎖報告をして、連れてきた魔獣をリカルドに擦り付ける。
リカルドがそれを捌き、
「ノルド」
「応!」
ノルドがとどめを刺した。
まったく危なげがない。
予定通りね。
「問題ないな。次を連れてくる」
そう言ってスレインが再び出て行く。
それを三度繰り返しても変化が出ないので、
「良さそうね、少しペースを上げましょう。スレイン、こっちへも頂戴」
タツヤさんシルィーさんへも魔獣を回してもらう。
私は二人の後詰めだ。
一応ね。
予想はしていたけど、タツヤさんとシルィーさんは、余裕綽々で魔獣を処理していく。
そう、処理なのだ。
スレインの連れてきた魔獣二匹が一方の側へ集まろうとすると、シルィーさんが風属性魔術で二つに分ける。
上手い。
別れた魔獣は再び合流することなく、それぞれの組へと向かう。
リカルドが「オラオラ」やっているのは分かるんだけど、静かに待ち受けているタツヤさんのところへ、ちゃんと魔獣が素直に向かっていくのが不思議ね。
タツヤさんは魔獣の初撃を盾で往なして、頭と前肢をおよがせた魔獣が晒した腹に、剣を突き立てる。
盾こそ激しく動いているものの、立ち位置は変わっていない。
剣も斬りかかるというより、腰の辺りに置いた剣に勢いを殺しきれない魔獣がお腹から刺さりに来る感じで、刺さり始めてから差し込むという手順だ。
盾職というと相手の攻撃を受けるので、ガンガンと騒々しいのが普通なのに、それがない。
攻撃のほとんどを往なしているので、かなり静かだ。
あ、盾で殴った。
それにタツヤさんは盾を前腕に固定していない、握り手だけで盾を保持しているので、盾の自由度が高い。
それほど筋肉が多いようには見えないから、身体強化を使っている?
男の人にしては珍しいわね。
激しく動くのは、足元を狙われたときくらいで、固定してない盾を伸ばして魔獣の頭を地面で挟み、グリッと転がし腹を上に向けさせ、剣で刺している。
こういう盾使いは見たことがない。
それ以前に、ルナさんと模擬戦をしたときはこれほどじゃなかったはずだ。
“西の森”とダンジョン罠”の経験で腕を上げた!?
上手くなりすぎでしょう!
“アカツキ”のレピドさんはAランクで凄かったけど、あの人は巨大な 巌だった。
この人は何だろう?
“滝”かな……?
そんな風に、広場の魔獣掃除は、波乱もなく順調に進んでいった。
二組がそれぞれ二十匹ほどの魔獣を狩ったところで、小休止にはいる。
いいペースね。
「私もそろそろ体を暖めるわ。こっちは大丈夫よ。スレイン、よろしくね」
シルィーさんはもとより、タツヤさんもまったく問題ないのが確認できたため、私も体を暖めることにする。
前座はさっさと片付けよう。
「人使いが荒いなぁ…」
「ぼやかないぼやかない。
連鎖しないにしても、三匹目を釣るまでに一匹目が近づいてくるから大変なのは分かるわよ。そこは二匹づつ頻度を上げるなりして調整してね。こちらは何とでもなるから」
さて、準備運動といきますか。
背中の剣を抜いて、むかし師匠に教わった型をなぞり始める。
いまも欠かさず練習している、いちばん始めの振り出しだ。
それが一巡したところで歩法も交えていると。
────!?
何かあったみたいね。
お知らせ
来週(7月最後の週)のどこかで、ルーシー視点の話を一部、一章~三章へ移動させます。
具体的には、下記の通り。
話の並びと副題の調整だけで、内容は変わりません。
【変更後】
1‐1 プロローグ 転移?
:
1‐7 冒険者登録(前)
:
1‐23 パーティー 後
4‐18→1‐24 記憶5 冒険者登録 sideルーシー
------------------
2‐1 パーティー登録
:
2‐5 魔石買取り(前)
:
2‐11 事情聴取
:
2‐16 訓練 月那 vs 達弥
4‐19→2‐17 記憶6 魔石買取り sideルーシー
4‐20→2‐18 記憶7 事情聴取 sideルーシー
4‐21→2‐19 記憶8 月那vs達弥 sideルーシー
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3‐1 地力向上計画 前
:
3‐19 帰還
3‐20 ギルド依頼
:
3‐23 騎乗講習 3
4‐22→3‐24 呼び出し sideルーシー
4‐23→3‐25 帰還 sideルーシー
4‐24→3‐26 ギルド依頼 sideルーシー
4‐25→3‐27 調査隊1 sideルーシー
4‐26→3‐28 調査隊2 sideルーシー
4‐27→3‐29 調査隊3 sideルーシー
4‐28→3‐30 調査隊4 sideルーシー
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4‐1 ボス部屋調査 1
:
4‐17 記憶4 ルーシー・リュー 5年前
(4‐18 記憶5 ルーシー・リュー 今月初頭)→移動
(4‐19 記憶6 ルーシー・リュー 今月初頭)→ 〃
(4‐20 記憶7 ルーシー・リュー 今月初頭)→ 〃
(4‐21 記憶8 ルーシー・リュー 今月初頭)→ 〃
(4‐22 呼び出し ルーシー・リュー) → 〃
(4‐23 帰還 ルーシー・リュー) → 〃
(4‐24 ギルド依頼 ルーシー・リュー) → 〃
(4‐25 調査隊1 ルーシー・リュー) → 〃
(4‐26 調査隊2 ルーシー・リュー) → 〃
(4‐27 調査隊3 ルーシー・リュー) → 〃
(4‐28 調査隊4 ルーシー・リュー) → 〃
4‐29 ボス部屋調査1 sideルーシー
4‐30 ボス部屋調査2 sideルーシー
こんな予定です。




