13 ボス戦ふたたび 3
「くそっ、大盾に亀裂が入ったぞ」
どうやら人は保っても盾が危ないらしい。
俺もルーシーさんを守ってばかりいないで攻撃に参加したほうがいいだろう。
戦力を逐次投入していては、勝てる戦いも勝てなくなる。
ノルドが防御に回り、攻撃力が目減りしている今なら尚更だ。
“厄猪”は、出し惜しみをして勝てる相手ではないのだろう。
リカルドの大盾が崩壊すれば、連動して戦線まで崩壊する。
俺はいつも前衛に立っているので、後方支援というのはやったことがないのだが、今回は出来ることがあるかもしれない。
まずは実験を兼ねて、間接的に戦闘に参加してみよう。
俺の“見えない盾”だが、ご多分に漏れず制約がある。
まず、どういう理由か盾なしでは発動できない。
そのためだろう、発動の中心として使用した盾から手を離すと、“見えない盾”の効果が消える。
そして関係のない離れた場所にポツンと単独で発現させることができない。
離れた場所で発動したければ、“見えない壁”などを延ばしてその場所へ辿り着かせ、その上で“壁”として発現させる必要があるようなのだ。
まあ延ばすと言っても高さのある壁である必要はなく、地面に描いた画か線のようなもので充分だ。
要するに“有線”での繋がりを必要とする。と言うことじゃないかと思う。
線の材料は何だろね?
そこで床に展開した“錨床”の、横から見た断面で十字型の横棒部分。つまり床に沿って広がっている面を、四方に四倍まで広げる。
害猪への対応で、一辺四メートル四方に展開していた錨床を、十六メートル四方まで広げたわけだ。
面積で言えば十六倍に広がったわけだが、これで“怒濤の山津波”+シルィーがいる場所までカバーできた。
あれ? 錨の“床”を広げたつもりだったが、壁に沿わせていた…感応壁、───いやもう全方向通過で壁じゃなかったな。感応環でいいか、環なのは間違いない。───感応環まで一緒に四倍に広がってしまった。
一部が中央岩塊からはみ出す所まで広がってしまったが、設定を探っている時間が惜しいので、とりあえずこのままで行く。
感知の範囲が広がったので、そのぶん精細度を上げておこう。
四分割して使っていた“感応環”を、こちらも四倍の十六分割にする。
これで水平の輪が縦に十六個積み重なっている状態になった。
数を増やした分受け取る情報の精細度が上がり、情報の総量も上がったが、とくに負担が増えた感じはしないので問題はないだろう。
本題はこちらだ。
“錨床”を広げたことで、俺からリカルドたちへの繋がりができた。
俺の盾を強化している……というか最近は、パーティー防御のほとんどを賄っている“見えない盾”。
どうやら最初の発現は月那との立ち合いの時ではなく、冒険者ギルドでDランク昇格試験を受けたときに、そこにいるノルドと対戦した折り無自覚に発現させて、模擬戦闘用の盾を意識せずに強化していた節がある。
そう言うことなら、これまで使ってきた俺の“盾”も無意識に強化していた可能性があるわけだ。
なら同じようにリカルドの大盾を強化することはできないか? と思い付いたので、まずはやる。
自分の盾をどうやって強化していたのか? 自覚はまるきりないため、ゼロからイメージを創り出す。
“感応環”と同じく、両方向……全方向通過の“見えない盾”を作り、リカルドの大盾と重ね合わせる。
大きさはリカルドの大盾と同じだ。
せっかくなので、トゲトゲも再現しておく。
この“見えない盾”をリカルドの大盾を起点にして動きを追随させる。
大盾が持ち上げられて接続が切れたら事なので、そのときは盾の下端から地面に張ってある“錨床”まで自動で“壁”が延び、繋がりが維持されるよう想定しておく。
接続用の“壁”は、“錨床”から大盾の下端まで垂直だ。
そして“全方向通過”を“全方向遮断”へ切り替える。
どうだ?
「なんだ!? 盾がいきなり安定したぞ!!」
毎回少しずつ角度を変えてくる“厄猪”の小刻みな突進を、大盾下端の右端と左端の突起を軸にして、器用に角度を合わせながら受け続けていたリカルドから、驚きの声があがった。
「例の“壁”で大盾を補強してみた」
「そんなことが出来たのかよ!」
「初めてやったんで不具合あるかもしれない。何か気付いたら教えてくれ」
「いひひ、危なっかしいな。だが、有り難え!」
リカルドの機嫌よく吠えた。
初手はどうやら上手く行ったようだ。
もう一手行く。
“錨床”を目立てする。
線を繋げば済む大盾の強化で、わざわざ“錨床”を展開したのはこのためだ。
目立ての向きは、リカルドの大盾と平行に。
こちらもリカルドの大盾を起点にして、大盾の前面へ扇状に展開する。
効果は、リカルドたちの方へ進む場合は接地力が逃げる。離れる場合は接地力が強くなるのに加えて、肢の接地面に傷害を負う弱体化だ。
何のことはない、錨床の断面を鋸の刃状にした地形効果だ。
着想は、先日この第五層の外で、月那が魔猪を地属性魔術の“落し穴”で捕まえ倒した時に得た。
俺が“捕獲”の初期版で魔猪を捕まえたのは、“見えない盾”を折り曲げられるようになった直後で、それによって出来ることを模索している時だった。
じっさい初めて使ってうまく捕えられたし討伐もできたのだが、それを見た月那が、自分の技能でできる“捕獲”をその場で考え、実際にやってのけたのだ。
俺の使った“捕獲”を、彼女が自分の技能で再現しただけなのは分かっている。
だがその同じ事を、あの「地面を動かす」という単純極まる一工程で実現したことは衝撃だった。
俺のような工学畑の人間は、目の前の出来事を構成要素に分解し、要素ごとの対応を考え、それらを正しく並べてひとつの成果にすることに馴れている。
それが多様な事案への対応力になることを知っているからだ。
だがそれは「手間」と「時間」と「費用」、つまり“コスト”と呼ばれるものを膨らませがちになる。
月那版“捕獲”は、衝撃をもってその負の側面を思い出させてくれた。
コストが低く抑えられれば良い…というものではなく、「継続性を持つものか否か」という視点を外すことは出来ない。
だがそこまで含めた同じ条件下で、同じ成果を得るために必要とする経費は、少なく済む方が優れている。
月那の地属性版“捕獲”に刺激され、逆に地属性でできることを俺の“遮断”技能でできないか? と考えた結果が、この“錨床”であり、その目立てだ。
「七国」に出てくる地属性魔術は他にも数多くあるが、俺が技能を使って行なう遠隔攻撃は狙いが甘々なので、こんな地形効果を使った弱体化という形になった。
単純化については継続課題と言うことで………。
「シルィー、俺が動いたら厄猪の肢を空気槌で払ってくれ! お前の右手側からだ!」
「わか、った…」
「こらっ、タツヤ! ちゃんと姉さんを守ってろって!」
ちゃんとルーシーさんの周りに壁を張っておきますから。と言い返そうとしたとき、後ろから肩をつかまれた。
ルーシーさんだ。
「あなたも行ってしまうの?」




