12 ボス戦ふたたび 2
「あれ? 姉さん、タツヤ。二人ともまだいるのか?」
そう言って緊張を半ば解きながら、前室から出てくる“怒濤の山津波”の面々。
「警戒して! 様子がおかしいのよ!」
ルーシーさんが警戒を呼びかける。
彼らが後にした前室の内扉が閉まり、「カチャ」っと施錠の音がする。
そして部屋の中央にある“円陣”に魔力が注がれ、やがて形を取り始める。
ボスがまた出た────。
現れたのは害猪と同じ“猪”なのだが、害猪の体色が灰色だったのに対し、コイツは焦げ茶の部分が増えた斑な二色だ。
しかも害猪よりも体が一回り大きい。
そして俺を一番警戒させているのが、その身に纏う魔力だ。
「“厄猪”よ。第十八層からの魔獣。アレの正面には立たないで!」
あれは“厄猪”と言うらしい。
そんな魔獣、ギルドの資料に載ってたっけ?
名前からして“害猪”の上位種かな?
「身体強化でも使ってくるんですか? ってどうしました? 大丈夫ですか?」
そう思ってルーシーさんの方を見ると、ルーシーさんが蒼白になっていた。
「そうよ……」
厄猪が魔力を纏っているため、当てずっぽうに言ってみたんだが、肯定されてしまった。
だがそれよりも、ルーシーさんの声が震えているのが気にかかる。
「筋力もそうだけど、体毛や体表を硬化してくるから、掠っただけでも大きな痛手があるの」
「つまり、トゲトゲの付いた大岩が地面の上を飛んでくる感じですか」
「そう。だから……」
うーん、盾職は止めてナンボなので、接触禁止はいただけないな。
それに、それきり言葉を途切れさせてしまったルーシーさんだ。本当にどうしてしまったのだろう。
そうしている間に、リカルドが盾を換えているのに気がついた。
先ほど俺の収納からシルィーの収納へ移した荷物のひとつだ。
大振りの丸盾から換わったのは、面積が畳一枚近くある四角い大盾だった。
表面と上下の縁には、トゲトゲの突起がいくつも飛び出している凶暴な外観だ。これも挑発行動の一環かね。
ノルドも、一回り幅と厚みが増えた大剣に換装している。
物資の運搬に収納が使えるということで、本来の装備を害猪用として温存してきたと言うことか。
ここまで浅い層で活動するために、取り回しと移動速度重視で丸盾を使っていたが、こちらがリカルドやノルドの本気装備ということなのだろう。
その大盾を片手剣で叩きながら、いつもと同じように「うらうらうら!」と叫ぶ。
いつもと違うのは、リカルドの後ろにノルド、ルクス、シルィー、スレインが、一列縦隊で並んでいることだ。
「タツヤ! ルーシーは“厄猪”とは戦えない。そこで守ってやってくれ!」
最後尾にいるスレインが俺にそう言ってくる。
なにか訳ありのようだが、ゆっくり事情を聞いている時間はなさそうだ。
ともかく今は、事情を知っているらしい相手に言われたとおり動いておくか。
実体化を完了した“厄猪”が、リカルドへ向かって走り出す。
加速が速い。
最大速度は害猪とそれほど違わなく見えるが、その速度にいたるまでの時間が短い。
より大きな質量が、短い距離で十分な勢いを付けられると言うことだ。
これは厄介だな。
体格が大きくて最大速度が変わらないということは、増えた質量分だけ運動エネルギーが増したということだ。
それなのに、より短時間で最大速度まで至る。
つまり、より攻撃力が高くなり、そのくせより手数が増え、より小回りが利くようになったと言うことになる。
リカルドが大盾の突起を地面に突き刺して固定する。どこでも考えることは同じだ。
相手の突進を迎え撃つために、大地の力を借りる。
だが、俺の“防壁”と異なり、盾の下以外を固定しているのはあくまで人だ。
そこへ“厄猪”が近づく。
衝突!
バシャッ!! という車同士の交通事故のような音がするが、交通事故と違うのは、生き物の方が無生物の盾に向かって攻撃しに行くところだ。
その盾の後ろでは、リカルドの後ろをノルドが支えていた。
なるほど、巨漢兄弟の二重連結で突進を受け止めるわけか。
長身のノルドが後ろから盾の上端を押さえれば、梃子の原理もあってさらに制止力が上がる。
それでも一メートル近く押し込まれているのは、“厄猪”の突進力を恐れるべきか、それとも崩されることなくそれを受け切ってしまった、リカルドとノルド兄弟の技量を褒めるべきなのか?
いやそれ以前にあの二人、本当に人間なのか??(失礼)
“厄猪”の動きが止まった一瞬、一列になった後ろの三人、シルィーが左に飛び出し“風の魔術剣”を突き出し、ルクスが右へ飛び出して槍を突き出し、最後尾のスレインが矢を射る。
シルィーの魔術剣は損傷を与えたようだが、突きの点攻撃なので、あの巨躯に対しては効果が限定的だ。
ルクスの槍とスレインの矢は、硬い表皮に弾かれた。
Biiizzzzzz───。
突進を止められ攻撃された瞬間、“厄猪”は鳴き声を上げて後ろ走りで二メートルほど後退し、そのまま前進して追撃をかけてきた。
ジャブのような小刻みな攻撃だが、加速の良さで相当な威力を持った打撃が、少しずつ角度を変えて打ち込まれる。
「くそっ、盾に亀裂が入ったぞ」
どうやら人は保っても盾が危ないようだ。
俺もルーシーさんを守ってばかりいないで攻撃に参加したほうがいいだろう。
だがその前に、リカルドの大盾が崩壊すれば戦線が崩壊する。
いつも前衛に立っているため、後方支援というのはやったことがないのだが、今回は出来ることがあるかもしれない。
まずはそこからだ。




