11 ボス戦ふたたび 1
俺とルーシーさんは内扉、引き手が付いた両開きの石製に見える扉にそれぞれ手をかけ、引き開けた。
目に映るのは、先ほどと変わらない“ボス部屋”だ。
精霊眼は、精細表示ありですでに発動している。
加えて今回は、先の魔獣戦で気配察知を増感させたと思われる、“防壁”を環状に展開してみた。
環状と言っても、四角い部屋に内接した円形の“防壁”を張ったわけではなく、部屋の壁や露頭した岩などで終端せず、延ばした“防壁”同士を繋ぐかたちで環を形成したと言う意味で、形状としては壁に沿った方形だ。
狙いは当たりのようで、やはり部屋の中の気配がよく分かる。
ただ円筒状に上へ伸ばしてみても、受け取る気配に変化がなかったので、“防壁”の面積が増感の理由じゃないらしい。とすると……。
壁に沿って展開している“防壁”を上下ふたつに分割してみる。
うん、これだこれ。
受け取る気配が増えた。
さらに二分割、計四分割した“防壁リング”を形成する。
凄いな。
後ろでルーシーさんが背中の刀を抜くのが、見ているような実在感で感じ取れる。
よし、取り敢えずこれで行ってみよう。
あとにした前室の内扉が閉まって「カチャ」っと施錠の音がする。
そして部屋の中央にある“円陣”に魔力が注がれ、やがて形を取り始める。
ボスが出た────。
牙があり、丸い胴体に、短い尻尾と短い四本の肢、ただし体格が牛くらいある。
害猪だ。
少なくとも同じ種類の魔獣が現れるらしい。
日替わりとかではないようで、良かった。
俺はすでに前回と同じ場所に立っている。
ルーシーさんは少し離れた後ろ、前回月那たちがいたところだ。
「本当に害猪が出るのね」
ルーシーさんがそう呟く。
「嫌だな、信じていなかったんですか?」
「信用してるわよ。でも目の前の害猪を見ていると、ここが五層だって実感できなくて…」
珍しくルーシーさんが自信なさげな声で答える。
「分かりませんよ。転移罠なんてものがあるんです。じつは知らない間に第十一層へ跳ばされているのかもしれない」
「やめてよね。縁起でもない」
「そうですね。俺ももう懲り懲りです。来ますよ」
実体化を終えた害猪が動き始めた。
あれって実体化が終わる前に攻撃したらどうなるんだろ? 機会があれば試してみたいな…。
今回はこちらも準備をする時間が取れたので、気配探知に使う用と、盾にする用の“防壁”を、余裕をもって展開できた。
準備の途中でふと、壁に沿って展開した気配察知用の“防壁”と、盾に使う“防壁”が干渉したら嫌だな。と思ったので、気配察知用の方を透過型にしてみた。
一方通行ならぬ全方向通過だが、何も止めないものを“防壁”と呼ぶのはいかがなものか? と思ってしまうが、まあ後だあと。
ドシャッ!───
害猪の最初の突進を止めた。
盾は今回も大丈夫だ。
次は壁への固定を外し、横から見た断面が十字型の杭を錨にする。
ドシャッ!───
これも良し。
前回と同じく、十センチほど押し込まれたが、ちゃんと止めた。
次は十字型“杭”の地上に出ている“盾”の部分を後傾させて受け止める。
ドシッ!───
問題なし。
突進力を上向きに逸らされた害猪が、顎を上げ、腹を見せて上体を浮かせた。
次は盾を前傾させて受ける。
ブシッ!───
よし。
突進力を下向きに逸らされた害猪が頭を下げ、盾と地面に挟まれて、伏せの姿勢で嵌り込んだ。
ここまで前回の通りに進んでいる。いよいよ次で最後だ。
離れた害猪が、これまで以上の勢いをつけて突っ込んできた。
俺は盾を構えてタイミングを計り、「三」「二」「一」「今っ!」
盾を顔の横に立てると、床へ伸びている“杭”をさらに伸ばして、体を浮かせた。
前に使った即席昇降機とは違い、今回は十字型の錨からそのまま杭を伸ばしている。
さらに、延ばした杭の断面は、前回の「 杭 」から、今回は薄い板状の「 L 」型にしている。
つまり、薄くして切断性能を上げたうえ、曲げた部分で害猪の突進が止まるようにしたわけだ。
これなら間違っても二枚に下ろしてしまうという、衝撃の見た目にはならないだろう。
目論見どおり、肩の途中まで裂かれた害猪の頭が、俺の足元まで来て止まる。
薄くしても強度に変化はないようで、上へ逃れた俺が害猪の突進に揺らされることは無かった。
“壁”の丈夫さは、厚みに関係ないのだろうか?
少なくとも“壁”を伸ばしても重さを感じることがないので、これを振っても大剣を振るように勢いが付くということはなさそうに感じる。
前回今回の害猪では、向こうから大質量で突っ込んできてくれたため切断に至ったのだろう。
この辺りも検証が必要だな。実地で使ってどの口が言うかとは思うが……。
さて、盾役の本分を全うするために次の行動へ移る。
前回、天井へ向けて伸ばしていたもう一方の杭は、今回は打ち出したあと向きを下へ曲げ、十字型の錨の床状に広がった部分へ繋いでいた。
こんな「 ∩ 」感じだ。
つまり害猪は“見えない盾の床”に立ち、上と左右を“見えない杭”に囲まれたことになる。
これを、締める!
床に固定された十字型の“錨床”と俺の“見えない盾”で害猪を挟んで、“杭”による結束帯で締め上げるイメージだ。
害猪が前肢を折って、床に固定された。
「ルーシーさん!」
呼びかけを言い終える前に、ルーシーさんの姿は待機場所から消え、目の前で両手持ちの刀を振り抜いた姿で現れた。
瞬間移動にしか見えない!
一回、二回。
暴れていた害猪が硬直し、俺の収納へ吸い込まれて消えた。
「本当に止めちゃったのね」
額にかかった髪をかき上げながら、ルーシーさんがそう言う。
「嫌だな、そう言ったじゃないですか」
「信用してるわよ。でも実際に害猪を目の当たりにすると、どうしても常識が邪魔をするのよ! 仕方ないでしょ!?」
ルーシーさんが、まだ信じられないといった声を上げる。
「は、はは……」
ともあれ、これで宝箱部屋への傾斜路が開き、いただくものを頂いて転移部屋まで進めば、一仕事終わりだな。
……………。
「遅いですね…」
「そうなの?」
「前より時間がかかっています…」
「………」
すると入口の内扉が開き、見知った姿が顔を覗かせた。
“怒濤の山津波”とシルィーだ。
どうなっている?!
「あれ? 姉さん、タツヤ。二人ともまだいるのか?」
そう言って緊張を半ば解き、前室から出てくる面々。
あとにした前室の内扉が閉まって「カチャ」っと施錠の音がする。
そして部屋の中央にある“円陣”に魔力が注がれ、やがて形を取り始める。
ボスがまた出た────。




