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わたし達、冒険者始めます  作者: 遠ノ守
第四章 過去から呼ぶ声
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11 ボス戦ふたたび 1     


 俺とルーシーさんは内扉、引き手が付いた両開きの石製に見える扉にそれぞれ手をかけ、引き開けた。

 目に映るのは、先ほどと変わらない“ボス部屋”だ。


 精霊眼は、精細表示ありですでに発動している。

 加えて今回は、先の魔獣戦で気配察知を増感ブーストさせたと思われる、“防壁”をサークル状に展開してみた。

 環状サークルと言っても、四角い部屋に内接した円形サークルの“防壁プロテクションウォール”を張ったわけではなく、部屋の壁や露頭した岩などで終端ターミネートせず、延ばした“防壁プロテクションウォール”同士を繋ぐかたちでサークルを形成したと言う意味で、形状としては壁に沿った方形スクエアだ。


 狙いは当たりのようで、やはり部屋の中の気配がよく分かる。

 ただ円筒状に上へ伸ばしてみても、受け取る気配に変化がなかったので、“防壁”の面積が増感ブーストの理由じゃないらしい。とすると……。

 壁に沿って展開している“防壁”を上下ふたつに分割してみる。

 うん、これだこれ。

 受け取る気配が増えた。

 さらに二分割、計四分割した“防壁リング”を形成する。


 凄いな。

 後ろでルーシーさんが背中の刀を抜くのが、見ているような実在感リアリティーで感じ取れる。

 よし、取り敢えずこれで行ってみよう。



 あとにした前室の内扉が閉まって「カチャ」っと施錠の音がする。

 そして部屋の中央にある“円陣サークル”に魔力が注がれ、やがて形を取り始める。



 ボスが出た────。



 牙があり、丸い胴体に、短い尻尾と短い四本の(あし)、ただし体格が牛くらいある。

 害猪イビルボアだ。


 少なくとも同じ種類の魔獣が現れるらしい。

 日替ひがわりとかではないようで、良かった。


 俺はすでに前回と同じ場所に立っている。

 ルーシーさんは少し離れた後ろ、前回月那(るな)たちがいたところだ。


「本当に害猪イビルボアが出るのね」


 ルーシーさんがそうつぶやく。


「嫌だな、信じていなかったんですか?」

「信用してるわよ。でも目の前の害猪イビルボアを見ていると、ここが五層だって実感できなくて…」


 珍しくルーシーさんが自信なさげな声で答える。


「分かりませんよ。転移(トラップ)なんてものがあるんです。じつは知らない間に第十一層へばされているのかもしれない」

「やめてよね。縁起でもない」

「そうですね。俺ももうりです。来ますよ」


 実体化を終えた害猪イビルボアが動き始めた。


 あれって実体化が終わる前に攻撃したらどうなるんだろ? 機会があれば試してみたいな…。

 今回はこちらも準備をする時間が取れたので、気配探知に使う用と、盾にする用の“防壁”を、余裕をもって展開できた。


 準備の途中でふと、壁に沿って展開した気配察知用の“防壁”と、盾に使う“防壁”が干渉かんしょうしたら嫌だな。と思ったので、気配察知用の方を透過型にしてみた。

 一方通行ならぬ全方向通過だが、何も止めないものを“防壁”と呼ぶのはいかがなものか? と思ってしまうが、まあ後だあと。


 ドシャッ!───



 害猪イビルボアの最初の突進チャージを止めた。

 盾は今回も大丈夫だ。

 次は壁への固定を外し、横から見た断面が十字型のパイルアンカーにする。


 ドシャッ!───



 これも良し。

 前回と同じく、十センチほど押し込まれたが、ちゃんと止めた。

 次は十字型“杭”の地上に出ている“盾”の部分を後傾させて受け止める。


 ドシッ!───



 問題なし。

 突進力を上向きにらされた害猪イビルボアが、あごを上げ、腹を見せて上体を浮かせた。

 次は盾を前傾させて受ける。


 ブシッ!───



 よし。

 突進力を下向きにらされた害猪イビルボアが頭を下げ、盾と地面に挟まれて、せの姿勢ではまり込んだ。

 ここまで前回の通りに進んでいる。いよいよ次で最後フィニッシュだ。


 離れた害猪イビルボアが、これまで以上の勢いをつけて突っ込んできた。

 俺は盾を構えてタイミングを計り、「三」「二」「一」「今っ!」

 盾を顔の横に立てると、床へ伸びている“杭”をさらに伸ばして、体を浮かせた。


 前に使った即席昇降機(エレペーター)とは違い、今回は十字型のアンカーからそのままパイルを伸ばしている。

 さらに、延ばしたパイルの断面は、前回の「 パイル 」から、今回は薄い板状の「 (エル) 」型にしている。

 つまり、薄くして切断性能を上げたうえ、曲げた部分で害猪イビルボアの突進が止まるようにしたわけだ。

 これなら間違っても二枚におろろしてしまうという、衝撃の見た目(ビジュアル)にはならないだろう。


 目論見もくろみどおり、肩の途中まで裂かれた害猪イビルボアの頭が、俺の足元まで来て止まる。

 薄くしても強度に変化はないようで、上へ逃れた俺が害猪イビルボア突進チャージに揺らされることは無かった。

 “ウォール”の丈夫さは、厚みに関係ないのだろうか?

 少なくとも“ウォール”を伸ばしても重さを感じることがないので、これを振っても大剣を振るように勢いが付くということはなさそうに感じる。

 前回今回の害猪イビルボアでは、向こうから大質量で突っ込んできてくれたため切断に至ったのだろう。

 この辺りも検証が必要だな。実地で使ってどの口が言うかとは思うが……。


 さて、盾役の本分をまっとうするために次の行動へ移る。


 前回、天井へ向けて伸ばしていたもう一方のパイルは、今回は打ち出したあと向きを下へ曲げ、十字型のアンカーの床状に広がった部分へ繋いでいた。

 こんな「 ∩ 」感じだ。

 つまり害猪イビルボアは“見えない盾の床”に立ち、上と左右を“見えないパイル”に囲まれたことになる。


 これを、める!


 床に固定された十字型の“錨床アンカーフロア”と俺の“見えない盾”で害猪イビルボアはさんで、“パイル”による結束帯ラッシングベルトで締め上げるイメージだ。

 害猪イビルボアが前肢を折って、床に固定された。


「ルーシーさん!」


 呼びかけを言い終える前に、ルーシーさんの姿は待機場所から消え、目の前で両手持ちの刀を振り抜いた姿で現れた。

 瞬間移動にしか見えない!


 一回、二回。


 暴れていた害猪イビルボアが硬直し、俺の収納ストレージへ吸い込まれて消えた。


「本当に止めちゃったのね」


 ひたいにかかった髪をかき上げながら、ルーシーさんがそう言う。


「嫌だな、そう言ったじゃないですか」

「信用してるわよ。でも実際に害猪イビルボアの当たりにすると、どうしても常識が邪魔をするのよ! 仕方ないでしょ!?」


 ルーシーさんが、まだ信じられないといった声を上げる。


「は、はは……」


 ともあれ、これで宝箱部屋への傾斜路が開き、いただくものを頂いて転移部屋まで進めば、一仕事終わりだな。






 ……………。


「遅いですね…」

「そうなの?」

「前より時間がかかっています…」

「………」


 すると入口の内扉が開き、見知った姿が顔を覗かせた。

 “怒濤の山津波”とシルィーだ。

 どうなっている?!


「あれ? あねさん、タツヤ。二人ともまだいるのか?」


 そう言って緊張をなかば解き、前室から出てくる面々。

 あとにした前室の内扉が閉まって「カチャ」っと施錠の音がする。

 そして部屋の中央にある“円陣サークル”に魔力が注がれ、やがて形を取り始める。



 ボスがまた出た────。




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