10 ボス部屋突入 2
シルィーに荷物を渡した俺とルーシーさんは、いま外扉が閉じられるのを見ていた。
「さて、準備はいい?」
「ええ、もちろん」
「でも、本当にやるの?」
「そのつもりですよ。ルーシーさんは興味ありませんか?」
「そりゃあ興味はあるけど」
「害猪を倒すことに違いはないですし、観察しているルーシーさんが危ないと判断したら、指示にはきちんと従います。せっかく高耐久の盾役がいるんですから、有効に活用してください」
高耐久なのは盾だけだけどね。と、心の中で自分に突っ込みを入れた俺は、外扉が閉められて、ルーシーさんと二人で前室に残り、ボス討伐手順の最終確認をしていた。
ルーシーさんが懸念していたのは、俺が害猪の攻撃を、前回と同じ手順で受けてみようと提案したからだ。
俺が確かめたかったのは、害猪は毎回同じモノなのか? という所だ。
ゲーム「七国」では、同じ場所のボスは何時、誰が戦っても同じ程度の強さだし、あらかじめ決められた範囲の手順で襲ってくる。
当り前だ、同じキャラクターが、ゲームの戦闘ルーチンに従って動いているのだから。
イベントごとにサイコロを振って偏りを付けてはいるが、あくまで幅を演出しているだけで、定められた範囲から外れることはない。
だがここはゲームじゃない、現実だ。…たぶん。
その現実のダンジョンに現れるボス魔獣が、ゲームと同じように決まった手順で襲ってくるのか、それともふつうの生き物のように気分や経験を反映させて襲ってくるのか?
きちんと検証しようと思えば、何度もボス討伐を繰り返さないといけない話だが、そこまでするつもりはない。
まったく同じか、すこし違うか、まったく違うのか。そのていどの印象が掴めたら儲けもの。くらいのつもりでいる。
部屋の中央にある“円陣”に魔力が注がれ、転送されるか召喚されるのか、その場で生成されているのかは知らないが、形を持った実体が現れるのだ。
そんな創作物めいた登場をする生き物(?)が自然なわけはない。
だからよけいに検証めいたことを考えてしまうのかもしれないな。
「ホントに無理はしないでね」
「危ないときには、ルーシーさんを当てにしてますから」
「なっ、ホントに口が上手いんだから! 始めるわよ!」
そう言ってルーシーさんは、入ってきた表扉の方へ向かった。
ルーシーさんは、実は方向音痴。…という落ちではない。
多分の話だが、内扉を開けてしまえば外扉は開かなくなる可能性が高い。
だから外扉から入って一度その扉を閉めたあと、内側から外扉が開けられるかどうかを確認するという手順なのだ。
外扉を内側から引き開けてみると、「開いたわ」とルーシーさんが言う。
外で待機している“怒濤の山津波”とシルィーに「始めるわね」と告げると、次は外扉が開いている状態で、俺が内扉を開けようとする。
「開きません」
再び外扉を閉めたルーシーさんが俺の所へ来ると、外扉の方から「カチャ」という音がした。
二人で顔を見合わせる。
今度は二人で内扉を手前に引いてみる。
「開いたわね」「開きましたね」
扉を開けた先には、前に見たのと同じ三十メートル四方で、天井高が十五メートルほどの、広くて薄暗い空間が現れた。
いや、前に来たときは外からいきなり飛ばされて来たせいもあって、ことさら薄暗く感じたけど、改めて見れば普通のダンジョン環境か、これは。
五層や、ここボス部屋“前室”と、明るさに変わりはない。
「ここです。前に害猪と戦った場所で間違いありません。この反対側に宝箱部屋へ向かう道が…今は塞がっているようですね」
反対側にある筈の、宝箱部屋へ向かう傾斜路の入口は、今は岩壁になっていた。
「分かったわ」
開かれた内扉から離れて、今度は俺が外扉へ戻る。
「開けます」
外扉を引いてみるが、びくともしない。
「駄目ですね。動きません」
「こちらを閉めるわね」
そう言って内扉を閉めるルーシーさん。
引き手からは手を離さない。
「どう?」
ルーシーさんに言われて外扉へ手をかけると、後ろで「カチャ」という音がした。
「内扉に鍵が掛かったみたいですね」
「さっきも外扉の方からそんな音がしたわよね」
「でも鍵の外れる音は聞こえないんですよね」
「そうね。少し態とらしい気はするけど、まあ細かいところは今はいいわ。そっちは開く?」
「いえ、開きません」
「こっちもよ。つまり、両方の扉を一度に開けることは、できる素振りも見せないということね」
「そのようですね。外扉も内扉もこの“前室”の側に開くことといい、“前室”の大きさを考えると、人数だけでなく持ち込める物量にも限界があるって事ですかね」
先刻から何をしているのかというと、ボス部屋への入場条件を大まかに検証しているのだ。
今回は幸い、外扉をいったん閉めた後であっても、内扉、外扉とも前室側から開けられるようで、初心者(?)に配慮した造りになっているように感じる。
これが例えば、一度外扉を閉めた後は内扉しか開かず、ボス部屋へ突入するより他道がない。という状況もあり得るわけだ。
検証自体はもとの世界でもよくやっていたので馴染みがある。
ゲーム「七国」で、ではない。
現実の仕事でだ。
仕事に関係する新製品がどこかから出たとする。
その製品をまずは取扱説明書に従った使い方から始めて、動作の規則性を洗い出す。そして手間と時間と方向性、つまり資源の費やし方などを解析していくことで、基本骨子にまで辿り着こうとする。
“遡行工学”という手法で、“彼を知り己を知れば百戦殆からず”の意識でよくやっていた。
驚いたのは、こうした検証をすることを、ルーシーさんが言い出したことだ。
こういう方向に頭が働く人だから、Bランク冒険者がギルド職員なんてやっていて、現場確認の隊長を任されたりしているのだろうか。
そのルーシーさんが俺の方へやってきた。
そして外扉を引き開ける。今度は開いた。
扉の前に待機していた、“怒濤の山津波”とシルィーに、ここまでの検証結果を伝える。
それをルクスがメモに書き留め、自分の背嚢とシルィーのストレージにしまうのを確認してから。
「じゃあ突入するわ」
「ご武運を」「頑張れ姉さん」「気を、つけて…」「行ってらっしゃい」「また後で」
「「行ってきます」」
そして俺たちは、外扉を閉めた。




