9 ボス部屋突入 1
「とりあえずリーダーの俺は確定として、あと一人を誰にするかだな」
「まてまて兄貴、別にパーティーリーダーだから参加確定というわけではないだろう。姉さんが言ったのは、探索ができる者が一人欲しいということで、兄貴を指名したわけじゃない」
「姉さん言うんじゃないってば…」
かなり激論が交わされているのだが、すべて小声で話されているためその様子が微笑ましく見えてしまうのは、致し方のないことだと俺は思う。
ボス部屋への入場が、一度に六名までと分かった。
いま俺たちは総勢七名で行動している。
誰か一名が、ボス部屋に入れないということだ。
誰がボス部屋に入れて誰が入れないのか、そして入れないその一名に、どう行動してもらうか? というのが今の争点だ。
どう行動してもらうかという点は、中間報告を兼ねて地上へ戻るという案が有力になったが、それを一人でという部分でさらなる問題が浮上する。
そもそも冒険者ギルドとしては、俺のようなDランク冒険者をパーティーから分断した状態で五層まで連れてきて、“あとは自由に地上へ戻ってね”と放り出すことができないらしい。されても困るが。
問題になるのは、今回の任務が「冒険者ギルドによって主催されている」という点だ。
つまり、依頼者=冒険者ギルド(タルサ支部)という事だ。
ギルド依頼の任務は、冒険者に対してある程度の強制力が働く。
依頼を断れないわけではないが、それには代償を伴う。
そしてある程度の強制力を持つギルド依頼であるため、ギルド側にも相応の制約が課される。
依頼に参加させた冒険者の、適正な範囲での安全確保だ。
仕事の性質上、絶対安全の保証はできない。
それでもこうした場合の指針が設けられているのだそうだ。
ギルド依頼の調査任務で、第五層や第六層で単独行動できるのは、この中ではBランクのルーシーさんだけだ。
Cランクの“怒濤の山津波”なら、ギルドは彼らを二名以上で行動させなくてはいけない。
Dランクの俺とシルィーなら、放置していいのは複数名状態でも二層まで、単独なら第一層限定となり、それより深い階層へ連れていく場合は、ルーシーさんたちのような上位冒険者の保護対象ということになるのだとか。
まあ俺たち“またり”と“白き朝露”は、正規の入り口から入場しての最大到達階層が第三層なので、この評価も妥当と言える…のかな?
つまりギルド依頼を受けた冒険者が規定を守らずに、怪我をしたり依頼に失敗しても、それはギルド依頼を受けて規定を守らなかった冒険者の責任で、冒険者ギルドの過失にはならない。だが冒険者ギルドが冒険者に規定に沿わない行動を指示することもできないのだ。
今回の場合なら、ルーシーさんの指示がそれに当たり、“怒濤の山津波”の誰かを、一名だけで第五層から地上へ帰還させることができない理由になる。
突入メンバーだが、隊長であるルーシーさんは当然突入組だ。
俺とシルィーはランクのことに加えて案内役としての参加ということもあり、これも第二班と合流するまで付き合う必要がある。
個人的には報告は済ませているので、あとは冒険者ギルドに任せて地上に居たかったのだが、再びダンジョンに潜ったからには、月那たちと合流して全員で地上に戻りたい。
顔見知りより親しい存在であるルーシーさんが、調査隊の隊長だということも、知らん顔を決めていられなくさせている。
そんな訳で、ボス部屋に入らず報告に戻る面子は、Cランクパーティー“怒濤の山津波”から二名選ぶことになった。
ベテランCランクパーティー“怒濤の山津波”が、ダンジョンに入った場合の適正活動階層は第十層あたりだそうだ。
そのCランクパーティーの一人ひとりを、Cランクのソロ冒険者として見た場合にどういった評価になるのか。
ここ第五層で魔獣と一対一なら問題ないらしい。
しかし第五層で二匹以上の魔獣を同時に相手にするとなると、一人として問題なくとはいかないそうだ。
そしてダンジョンでは、こちらの思う通りに事が進む場合の方が少ない。
だからこそ小回りの利く小集団で活動することが推奨されるのだし、今の「どの組み合わせがもっとも安全に帰還でき、かつ減員によって本来のボス部屋調査に支障を来さないでいられるか?」という議論に繋がる。
この四人の特徴を見ると、リカルドかノルドにルクスを付けて地上へ戻すのが順当そうに見える。
じっさい“怒濤の山津波”のリーダーであるスレインが提案したのがそれだった。
だが今回、当のルクスが難色を示した。
挙句、ボス部屋に入れなかった二名だけで、第二班と同じ径路を辿って未踏領域入りしようという話が出たあたりから、雲行きがが怪しくなってきた。
何のことはない、全員がダンジョンの未踏領域を見たいのだ。
傍から見ているとそれが良く分かる。
これは長引くか、無理をするとしこりを残しそうだな。と思い始めたところで、意外な人物から声がかかった。
「全員、はい、れば、いい、んじゃ、ない?」
「六人しか入れないから揉めているんだろうが」
寡黙なシルィーの意外な発言に、ノルドが反応した。
「一度、で、駄目、なら、二度に、分け、たら?」
「分ける? 出来るのか? そんなことが」
「ルーシー、と、怒濤の、山津波、それぞれ、単独、で、害猪、倒せる?」
「そうね、好き好んでやりたくはないけど、出来るかどうかと言うことなら出来るわよ」
「オレたちも、いつもの面子で当たるなら、まあ問題はないな」
シルィーの問いかけに、ルーシーさんとスレインが答えた。
「ボクたち、が、初めて、“ボス、部屋”に、入った、とき、じつ、は、全員で、害猪を、倒した、わけ、じゃない」
ん? なにを言い始めた?
俺は話の流れの不穏さに、緊張を強めた。
「正しく、は、“またり”、が、全員、で、倒した。ボクたち、“白き、朝露”は、リディアが、強化術を、かけた、だけ。
“見えない、壁”、で、害猪の、突進を、止め、られると、知った、タツヤ、は、“実験”と、称して、何度も、なんども、害猪、の、突進、を、止めて、最後は、瀕死に、追い、込んで、月那が、止め、を、さした」
くっ、ぶっちゃけてくれたぞ。
まあ、ルーシーさんに報告してある内容から外れていないから、目くじら立てる必要がないのが幸いか。
五層の“魔猪”を倒した時の話が混ぜてあるので、ぎりぎり俺が一人で“害猪”を倒した話にはなっていない。
「アレを止めた? 何度も??」
語られる内容に、四人が四人とも引いているのが、少しこころに刺さるな…。
「そのとき、の、“実験”の、成果、が、さっきの、技能、“防壁”。
攻撃特化、の、ルーシー、と、相性が、いい」
なる程、これは売り込みをかけているのか。
「ボクは、今日、月那の、代わり、に、ここに、いる。けど、ボクは、後方、から、の、術、攻撃が、本業。後衛、の、いない“怒濤の、山津波”と、合わせる、のは、相性、抜群」
「うむ、確かに…」
シルィー自身の売り込みに、その攻撃を自らの体で受けた経験のあるリカルドが頷く。
「だがな、タツヤが先行してボス部屋に入るとなると、滞在のための物資はどうする? 一度閉まった入り口が、再び開くようになるまでどれくらいかかるか分からんのだろう? ダンジョン内では、持ちきれずに地面に置いた荷物は、程なくしてダンジョンに吸収されるぞ」
「問題、ない。ボク、の、収納に、必要、な、だけ、移せば、いい。ルーシー、が、許可、して、くれれば、収納を、提供、する」
「収納まで持ってたのかよ!」
「ふふふ、タツヤ、と、ルナ、の、収納が、優秀、すぎて、ボクの、収納、の、出番が、ない件…」
「知らんわ!」
何やら俺への敵愾心が爆上がりした件……。
閑話休題、せっかくシルィーが珍しい長台詞で補綴してくれたのだから、すこし援護しておくか。
「ダンジョンのボス部屋再使用間隔は、俺の故郷ではたいてい“ゼロ”でしたよ」
「ゼロ?」
「ええ、先に入った者がボスを倒し、討伐報酬の宝箱を開けて部屋から退出すれば、その瞬間から次の挑戦者の入室が可能になりました。ここでも同じとは限りませんけどね」
なにせゲームでの話だからな。
だがゲームそっくりなこの世界で、ダンジョンがあるのにボス部屋が知られていない今の状況では、こんな話も情報としての価値をもつ。
挑戦側が負けたときも同じ事になるわけだが、こちらの戦力が充分な今は、それをわざわざ指摘する必要はないだろう。
「どうです? 姉さん」
「姉さん言うんじゃ……、そうね、今更の感はあるけど、タツヤさんとシルィーさんを戦力として当てにすることになるわよ、本当にそれでいいの?」
「もち、ろん」「ええ、俺もそれで構いませんよ」
「あんた達もいいのね」
「ああ」「ええ」「はい」「おう」
これで一斉にとはいかないが、ともかく未踏領域に入れない者はいなくなった。
全員の承諾を聞き、少し考えたあとルーシーさんは口を開いた。
「これより、ダンジョン・ヤグト第五層“ボス部屋”(仮称)現場確認任務を開始します。
一番手として私、Bランク冒険者ルーシー・リューとDランク冒険者タツヤ・アツモリが突入、ボス魔獣“害猪”(予定)を撃破したのち、“宝箱部屋”を経由、“転移部屋”へと進み、第二班との合流を目標とします。
突入二番手の、Cランクパーティー“怒濤の山津波”とDランク冒険者シルィー・セルは、一番手の突入後1鐘のあいだ扉前で待機、ボス部屋への再入場が可能になれば突入を実施し、その後の行動は一番手と同じとする。
待機時間内に再入場が可能にならなかった場合、別の場所へ仮拠点を作成したのち丸一日待機しつつ、引き続き再入場の可否を確認する。
翌日の待機時間が終了してもボス部屋への再入場が叶わなかった場合、あるいは扉前が先ほどまでのように魔獣が屯す状況になった場合にも、二番手は地上へ帰還し、冒険者ギルドへ報告を入れる。
最後に、六層経由で上がってきた第二班もしくは一番手が合流した場合、二番手はその指示に従う。
以上。
みんないい?!」
「はい」「「「「 応! 」」」」「は、い」
†
シルィーに荷物を渡した俺と、ルーシーさんは、いま外扉が閉じられるのを見ていた。
「さて、準備はいい?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ行きましょう」
俺とルーシーさんは内扉、引き手の付いた両開きの石製に見える扉にそれぞれ手を掛け、引き開けた。
ボスが出た────。




