8 ボス部屋調査 7
「本当にここなの?」
「それらしい形跡がまったく見えんのだが……」
岩壁に到着して最初の、ルーシーさんとスレインの台詞だ。
ルーシーさんはともかく、斥候職のスレインにも分からないらしい。
じっさい肉眼で見る限り、俺にもただの岩壁にしか見えない。
先日の、もう一つの径路で第六層へ出る扉を見ていなければ、俺もここに扉があるなんて思わないだろう。
精霊眼で扉の輪郭が見えている俺でさえそうなのだ。
「どう?」
ルーシーさんが問いかけてくる。
「場所はここです。地図作成スキルによる地図は、ここに先日迷い込んだボス部屋へ繋がる、通路のようなものがあると示しています」
「そう。それじゃあスレイン、開け方を探ってもらえる?」
「はい。やってみます」
そうは言ったものの、スレインも自信はなさそうだ。
それはそうだろう。
扉の鍵を開けるんじゃない。扉があることを認識するところから始めなきゃいけないんだから、難度がやたらと高い。
さて精霊眼で視ると、輪郭からして扉は二メートル半ほどの方形いものが二枚。
この状況で引き違い扉ということはないだろうから、ありそうなのは観音開きか。
すると怪しいのは扉の継ぎ目付近のどこか……。
とりあえずは。
「おい、何をしてるんだ?」
ルクスが、前後に移動しては岩壁を見直している俺に向かって言ってきた。
「前回、第六層から脱出したときに見た扉も岩壁に偽装されていたんですが、その時は距離が偶然ぴたりと合ったときに、閉まっている扉の輪郭がうっすらと見えたんですよ。だから今回も、それで分からないかなと思いまして」
「そうだったの? それで、どう?」
「もうちょっと……」
ルーシーさんが結果を求めてくる。
精霊眼で見えている扉の輪郭が、肉眼で一番それらしく見えるところを探して……と。
「ここ、見える気がしますけど、どうですか?」
「どれ?」
足元に目印になるものを置いて、ルーシーさんと入れ替わる。
「もう少し下で……そう。それで」
扉のところまで行き、剣先で輪郭を指し示してみると。
「ああ! 見えるわね。ちょっとスレイン、見てみて!」
スレインに代わったところで、もう一度輪郭を指し示してみる。
「……なるほど、これは…」
「ちなみに裏口は両開きで、掛け金はありましたが、錠はありませんでした」
「そうか」
頷いて扉へと戻っていくスレイン。
これでうまく見つけられるといいな。
しばらく経つと、
「これか」
スレインの呟きが聞こえて、さらに少しして。
「見つけました。これで開けられるはずです」
という声が聞こえた。
見ると、二枚の扉板の合わせ目を挟んで、五十センチほど間をあけた所に二箇所、チョークのようなもので長方形の囲みが付けられていた。
「この二箇所を同時に押せば開くはずです」
二箇所? 同時に? つまりこう言うことか?
何かあるとは知られていない場所で。
魔獣が屯しやすく近づきにくい、遠目には何もない場所。
目の前に立っていてさえ、扉があるようには見えない。
しかも、偶然一箇所に触れただけでは扉の固定は解除されない!
知られていないのも無理ないのか──。
それにしてもスレインだ。
さすがの斥候職だね。
ここに扉がありそうだという、ある程度の確信を持ってからは早かった。
まさか何の追加情報もなしに、開け方に辿り着くとは思っていなかったよ。
「開けましょう。無事に開いたら記録を取って、その後は予定通りに進めます。
タツヤさん、さっきの“見えない壁”でスレインを保護できる?」
「できると思いますよ。形はわりと自由になりますから」
「じゃあお願いするわ」
そんな流れで、いよいよ扉を開けることになった。
スレインが扉の前に立つ。
中央だ。
俺がその斜め後ろ。ルーシーさんが反対側。
その後ろ、少し距離を置いてシルィーとルクス。
最後尾にリカルドとノルドが並んだ。
扉の周囲に固定した“防壁”を展開する。“一方通行”状態で。
“壁”から先へ出たスレインの手が保護できていないけど、本人は護れているし、何かあったらなるべく速やかに“壁”を変形させて対応することにしよう。
このあたりは、今後の検討課題だな。
スレインが扉の中央に付けたふたつの印の両方に手を置く。そして押すと扉は開いた。いともあっさりと。
ボス部屋の表口にも裏口同様、人の手で操作できる“錠”は掛かっていなかった。
扉の中は奥行き五メートルほどの短い通路、というかほぼ正方形な小部屋で、高さは扉とほぼ同じの二メートル半。突き当たりにはもう一つの、引き手のついた石扉のようなものが見えていた。
二重扉の前室だな、ここは。
「錠もないのね、ここは。
タツヤさん、シルィーさん、二人で扉を開けたまま押さえておいてもらえる? 他のみんなは記録を取ってちょうだい」
“怒濤の山津波”が、周辺の岩からの長さを測り始めた。
この場所の精密地図を作るようだ。
ダンジョン内では、先ほど付けたチョークのような印は一日もせずダンジョンに吸収されて消えるらしい。なのでもともとダンジョンの中にある物からの相対位置で場所を特定するしかないという。
いちど印が消えるまでダンジョンの中に留まってみたい気がするのは俺だけだろうか?
地図にすることを考えなければ、先日俺たちがやったように、ダンジョン内の石で置き石することもできるが、誰かが石を移動してしまえばそれまでだ。
丁度いいので、こちらも懸念していた事を処置をしてしまおう。
先ほどから張りっぱなしになっているスキルの“壁”を変形させ、通路の中の空気を掃気する。
“壁”を変形させてポンプのような働きをさせ、排気は俺のストレージ行きだ。吸気はダンジョンの空気をそのまま取り込んだ。
何度もダンジョンに潜ったあとで今更の感はあるが、ここは長いあいだ誰も開けたことがない場所らしい。パロの墓を開けた探検隊のように、千年物の細菌を吸い込んで変な病気にかかりたくない。
その作業が終わるころ、スレインがこちらへやって来た。
部屋自体と奥の扉の様子を見に来たそうだ。
地図の書き込みはルクスが指示を出している。
兄弟そろって頭脳派らしい。
「おいおい……これは…」
奥側の扉を見ていたスレインが呟くのが聞こえた。
「鍵でも掛かっていましたか?」
「ああ、おまけに錠前に手が出せる場所がまるでない」
「先日と同じですか」
先日この扉を内側から見た時、引き返そうとしたところで鍵が掛かった風だった。この扉に錠があるのは確定なんだよな。
そして鍵穴がない!
「俺の故郷だと、こういった二重の扉に挟まれた部屋というのは、二つの扉を同時に開けられないなどの制限がよくありました。開閉の条件を探してみた方が良いかもいれませんね」
そう言いながら、俺が押さえている入り口扉を動かしてみせる。
気閘室などがそうだけど、ここの場合は人数制限の意味合いが強そうだよな。あくまでゲームと関連させて考えた場合の話だが。
「そうか。検討してみるよ」
そう言ってスレインは、隊長さんの方へ歩いて行った。
そうしているうちに地図の書き込みが終わったのか、全員が集まってくる。
「開かないんですってね」
「そうらしいですね」
「開閉の条件があるんですって?」
「そういう場合があるという話です。あくまで可能性の問題ですよ」
「そう。ともかくやってみましょうか」
全員が入ったところで、押さえていた外扉を閉めようとしたところ。
「動きません。外扉が固定されています」
「なんですって!?」
「さっきはちゃんと動いていたじゃないか」
スレインが指摘してくる。
「そうなんですよね。そうなると……」
「そうなると、時間制限か重量制限か人数制限……とか?」
「さっきは動いていたのだから、一人ずつ外へ出てみよう。それで重量制限も人数制限もわかるだろう。さっきの状態まで戻しても動かなければ時間制限の可能性が高くなるから、いったん離れて最初からやり直した方がいい。
まあ時間制限はないと思うんだが…」
おお!
言い淀んだ俺の言葉を引き取って、ルーシーさんが選択肢を挙げ、スレインが行動予定を提示する。
さすがBランク冒険者とCランクパーティーの斥候職だ。現実のこういう状況に対処出来るんだな!
ちょっと感動した。
最初は一番外側にいたノルドが外へ出る。
「動きました」
ノルドが外へ出た瞬間、扉が動くようになった。やはり人数制限か。
六名制限なんだな、このボス部屋は。
重量制限の可能性もまだ否定されていないが、ゲームで一パーティーが六名までだったからね。それを知っていると人数制限が腑に落ちる。
その後外へ出る者を変えてみても、同じように扉が動いたり動かなかったりしたので、この部屋の通過条件は、“人数制限六名以内”で決まりのようだ。
なんだかな。こんなところまでゲームっぽいっていうのは、どう言う現実なんだよ、ここは?
(^_^;)ゲンジョウカクニンシナイトネ・・・




