7 ボス部屋到達
ルーシーさんが担当していた通路の魔獣の首が飛び、群れのボスと思われる魔獣が地面に落ちたところを、シルィーの魔術剣とルクスの槍が止めを刺して、周囲の戦闘音が半減した。
俺とルーシーさんの担当場所は打ち止めだ。
シルィーとルクスがノルドとリカルドのところへ補助に向かったので、残りもじきに片が付くだろう。
「スレイン、あそこの二匹でおしまいかしら?」
「戦闘開始前そのままの状況ならそうです。周辺を確認してきましょうか」
精霊眼で周囲を見回してみると、たしかにその通りだ。
目の届く範囲の魔獣はきれいに片付いている。
「あの二箇所が終わったらそうしてちょうだい。そのあと一休みしてから目的地へ向かいましょう」
「わかりました」
そう答えて、スレインはリカルドとノルドの様子を見に行った。
そして残ったのは、ルーシーさんと俺のふたりだ。
まあ他の五人もすぐそこに見えているんだが。
「タツヤさんもお疲れさま。もう少ししたら休憩するから、それまで“壁”の維持をよろしくね」
「お疲れさまでした。俺の方は大丈夫ですよ」
「ほんと? 体力も魔力も大丈夫?」
「ええ、何かが減った感じはありませんから、問題ないと思います」
「そう、すごいのね。
それにしても、予定通りにボス部屋へ突入できそうなのは、タツヤさんのおかげね。先に二班と合流して、よけいな時間を使わずに済みそうよ」
「先に合流ですか?」
「ええ、どちらの班も今みたいな想定外の障害があったときには、もう一方と同じ径路で一旦合流して、そのあと共同で事に当たる手筈になっていたの。でもそれもタツヤさんのお陰でしなくて済んだから」
あー、そう言う手筈になっていたのか。
向こうの世界と違って、相互に連絡が取れないのが当り前なら、その条件で確実に任務をこなせるように計画していて当然じゃないか!
俺はまだまだ元の世界の常識に囚われているな。
「ほんとうに大丈夫? やっぱり疲れたような表情をしてるわよ」
「問題ありませんよ。惚けている顔に見えたなら、ルーシーさんの剣技に見惚れていたからですね。ルーシーさんこそあれ程の身体強化を使って、魔力は大丈夫なんですか? って大丈夫だからBランクなんですね」
「なっ! 相変わらず口がうまいのね」
上気した顔でちょっと怒った感じのルーシーさんは、やっぱり可愛い。
「ルーシーさんの武器って、双剣──双刀だったんですね。他に見たことがありませんけど、こちらで使い手は多いんですか?」
「そう…とう?」
「背側に刃のない剣のことです。俺の故郷ではそれを“刀”とか“刀”と呼んで、諸刃の“剣”とは区別していたんですよ。それが一対二本で双刀です」
「そうなのね。剣、いえ刀を二本使う人も多いのかしら」
「二本持つ人は多くいましたけど、打刀の本差しに、短い脇差しという刀を加えて寸法違いで持つ人が殆ど……」
「姉さん、こっちも終わりました!」
「姉さん言うんじゃないってば! じゃあ休憩。スレインは一度周囲の索敵をおねがい。“壁”を解除するわよ! じゃ、壁を解除してください」
このまま張っておいて問題ないとも思ったが、隊長さんの判断にいちいち異を唱えることもないだろう。
実際この周辺に魔獣の姿は見えない。
「“壁”を解除しました」
「“壁”解除!」
俺が“壁”を解除し、ルーシーさんの出した“壁”解除宣言を聞いて、スレインが索敵に出ていった。
「“刀”の話、後で続きを聞かせてね。それじゃ行きましょう、タツヤさん」
†
「この後の手順を確認します」
スレインが「周辺に異常なし」の報告を持ってきた後、休憩を兼ねて要旨確認を行った。
先ほど魔獣を迎撃した同じ空間の中央で車座になって話をしたのだが、その戦闘で消費したカロリーを補うためもあり、糧食を食べた。
冒険者ギルド謹製の糧食で、日に三食たべるガッツリとした型でなはく、間食に使うカロリーバー型のものだ。
ボス部屋突入後は、すぐにひと仕事するのが決まっているので、栄養補給をするならここしかない。
ここしかないのは間違いないんだが、これは何というか。
───美味しくない。
あちらの世界でも、米軍用糧食MRE( Meal, Ready-to-Eat すぐに食べられる)が、「マテリアル・リザンブリング・エディブルズ、食べ物に似た物体」と揶揄されていたが、こちらの冒険者ギルド版MREもご同様らしい。
俺が収納で運んできた、冒険者ギルドの荷物の中身だ。
「タツヤは糧食を食べるのははじめてか?」
俺がよほど微妙な顔をしていたのだろう、スレインがそう声をかけてきた。
あ、周囲の注意が俺に向いた隙に、シルィーがギルド糧食をこっそり収納にしまい、月那製の糧食とすり替えて囓っている!
「ええ、初めてです。正直これほどとは思いませんでした」
「まあ食っておけば体は動くんだ。命の糧と思えば文句も言えん。ギルド依頼なら無料だし、なおのことな」
俺の返答にスレインも同感なのだろう。だが不味くても食べておいた方が良いと忠告を返してきた。
「タツヤさんたちが前回ここへ来たとき、帰り道のあいだは飲まず食わずだったの?」
ルーシーさんから質問が来た。
「いえ、しっかり食べましたよ。前回は西の森の帰りでしたからね。向こうで獲れたものを調理した作り置きがたくさんありました。こういった間食系のものだと……」
と言って、シルィーが今つまみ食いをした、月那製の糧食を出して渡す。
「これですね。良ければどうぞ。味は良かったですよ」
「あの素材売却は、とんでもない量があったものね……」
ルーシーさんが少し遠い目をしながら、包み紙の端っこを開けて、先端をちょっと囓る。
売却した素材の中に、ラヌー鳥の羽や血や内臓があるのに、肉がないと知ったときの表情だな。
「あら美味しい。これでお腹は持ったの?」
「ギルド糧食との比較はできませんけど、街の道具屋で買ったものと比べても、遜色はなかったですよ」
ギルド糧食は本日初実食だからね。
「へえ。ねえタツヤさん、数に余裕があるなら少し譲ってもらえない?」
「構いませんよ。というか、提供しますよ。いつもお世話になっていますから」
「ありがとう。でもこういう場所で必需物資をただもらう訳にはいかないから…」
そうだな。職業柄、食糧の有無が生死を分けることがあるのを考えれば、安易な物資のやり取りは厄介のもとか。かといってこれをお金に替えるというのも違うし…。
「ではギルド糧食と同数交換でどうですか?」
「それでいいの? こちらは有り難いけど」
「味はともかく、他の点でも月那糧食が優れているとは限りませんよ。栄養バランスとか、保存性とか、生産費用とか。だから構いません」
「そう? それじゃお願いするわ」
そんな風に話がまとまり、二十本ずつ交換することになった。
交換方法だが、いったん両方を二十本ずつ収納から出し、その内の月那糧食十本は、ルーシーさんと怒濤の山津波が各二本ずつ直接持った。残りの十本は、改めて俺の収納の「ギルド預かり品」欄へ納めた。
依頼で収納を使って物資を運ぶ際に着ける監視器具に、分かりやすくはっきりと記録させるための操作だ。
そしてギルド糧食二十本は、「タツヤ個人」欄へ納める。
こんど他のみんなにも食べさせてみよう。
「うめえ」
体の大きなノルドは糧食一本では不足だったようで、さっそく月那糧食に手を付けていた。
味は気に入ったらしい。
混ぜて食べたら違いは分からなくなるけどね。
そんな風にして、突入前の短い要旨確認は終了した。
†
そしてボス部屋前だ。
怒濤の山津波が周辺を警戒し、ルーシーさんが見守る中、俺とシルィーはボス部屋の扉がある筈の場所に立つ。
地図作成スキルによる地図は、ここがボス部屋の入り口だと示していた。
精霊眼を詳細表示で発動させる。
あるな。
普通に見るとただの岩壁だが、精霊眼には扉が見えている。
これは、岩壁に偽装された扉だ。
ルーシーさんの刀を出したので、剣と刀の扱いを考えていました。
結論。
作中では、
剣 握りと同じかそれより長い刃もしくは剣身をもつ手持ち武器。
刀 剣の中で刀身の腹側に刃、背側に峰をもつもの。
つまり片刃。(“ナ”は“刃”を現わす古語)
と言うことにしました。
“刃もしくは剣身”という表現になったのは、突く専用で刃のない剣があるから。
“剣”も“刀”も英語では“ソード sword”ですしね。




